大漁?今のマイワシ漁はもったいなくないだろうか?

食用に向かない小さなマイワシ. 写真 AOKI NOBUYUKI

北海道(道東)沖のマイワシ漁が、20万トンに達する勢いで水揚げを伸ばしています。前年比4割増。3年連続で10万トンを超える豊漁が続いています。 震災前は、北海道沖の水揚げは、ほとんどありませんでした。

主要な水揚げ地である釧路を始め、八戸や三陸などに多い日には5千トン前後も大量に水揚げされています。しかしながら、それほど大漁による恩恵を、消費者が受けているような感じはしていないかも知れません。

120g以上ある脂がのったマイワシ

それは、盛漁期の9~10月は、50~60g台の小型が多かったためです。食用に向かない小さなマイワシをたくさん獲っても、そのほとんどは、養殖などのエサになる魚粉(フィッシュミール)向けに加工されて行きます。

昨年の釧路港では、水揚げの約9割が、非食用向けでした。今年もその傾向は変わらないでしょう。

鮮魚や冷凍加工に向ける場合は、魚価が高くなる一方で、受入れ側の手間や、冷凍加工能力の増強が必要になります。一方で、魚粉に処理する場合は、一度に大量に処理できるため、生産効率はよいのです。

また、魚粉に加工する際には、魚油(フィッシュオイル)も抽出することができます。魚粉も魚油も国内外に市場があります。

しかしながら、大きくしてから獲れば食用が増えて平均魚価が上がりますし、消費者にとっても供給量が増えて、手ごろな価格で買える機会が増えます。増え魚粉や魚油にするにしても、丸ごと魚を使うのではなく、頭、骨、内臓などの食用にならない部分を使った方が良いのではないでしょうか?

ニシンのフィレー 水産資源を有効に使い続けるノルウェー漁業

写真はノルウェーでニシンをフィレー加工したものです。可食部以外の頭、骨、内臓などがフィッシュミールに加工されています。アラスカのスケトウダラについても、フィレーやすり身にした残りが、フィッシュミールにされていきます。フィッシュミールは、養殖に不可欠なので必要です。違いは、やり方次第で価値を上げられる魚そのものを使うか、可食部を除いた後の残渣を使うかです。

マイワシの寿命を知っていますか?

水産教育・研究機構

マイワシの寿命は7年前後と考えれています。年齢と成熟率のグラフを見ると、1歳でも何割か成熟する魚もいますが、完全に成熟するのは2歳からです。

年齢と体重の比較を見ると、今年(2019年9~10月)に漁獲の主体であったという50~60gのマイワシは、1歳程度(ほぼ未成魚)が主体であったことが分かります。

水産研究・教育機構

マイワシは、突然大きくなりません。小羽・中羽・大羽などと大きさが表現されます。20cm超とも言われる大羽サイズは、グラフをみると最低でも3歳、重量は100gを超えているイワシであることがわかります。

水産研究 教育機構

また年齢ごとの漁獲尾数を表しているグラフを見ると、近年漁獲されている尾数は0~1歳ばかり。大きくなる前の魚を大量に獲ってしまうのはもったいないのです。これを「成長乱獲」とも言います。

マイワシ(太平洋)の資源は、増加傾向にあります。このためしばらくは、運よく獲られずに大きくなるマイワシも出てくるでしょう。

しかし、もったいないので、食用に向かない小さな魚はできるだけ獲らない仕組みにした方が良いのではないでしょうか?

食用に向かないマイワシの水揚げが続く理由

食用になるサイズに育ててから漁獲することは資源の無駄遣い

なぜ、2~3年待てば脂がのったマイワシに成長するのに、非食用向けにどんどん水揚げしてしまうのでしょうか?その答えは、ノルウェーを始めとする漁業先進国の水産資源管理と比較するとはっきりわかります。

まず第一に、漁獲枠(TAC)が機能していないことにあります。北海道(道東)沖の漁は、当初漁獲枠を18万トンでスタートしました。しかし、漁獲が増加してくると、10月になって6万トンも増やして24万トンにしました。漁獲量が増えたら枠を増やすパターンです。

2017年は、当初5万トンの枠でしたが、2回も増枠して最後は12万トンにまで枠が増やされていました。漁業者は、あとで枠を増やされてしまうのでは、まだ魚が小さいからと待っていたら正直者が馬鹿を見ることになってしまいます。

あとで増える漁獲枠であれば、枠の信用もなくなります。当事者としては、見つけ次第、大きさにかかわらず魚をたくさん獲ろうとする力が働くのが普通だと思います。これでは、残念ながら水産資源管理に効果はありません。

第二に、漁船ごとに漁獲枠が決まっていないこと。漁船ごとの枠でなければ、早獲り競争が加速するので効果がありません。処理し切れないほど一度に水揚げされるので、鮮度も落ちてしまい、必然的に食用に向く比率も減ります。

なおこの状態はずっと続きません。減りだしてからでは遅いので、資源が多いうちに手を打つべきなのです。

昨年末に漁業法が70年ぶりに改正され、国際的に見て遜色がない資源管理をすることになりました。でもその法律の肉付けはこれからです。

そこで皆さんの水産資源管理に関する正しい知識が必要になります。皆さんが知らないところで、実にもったいない漁業が、マイワシに限らず日本のあちらこちらで続いているのです。これを止めることが、サステナブルな社会を実現していくためにも、不可欠なのです。

少し待てば食用になるマイワシ 。やるべきことは、出来るだけたくさん獲って、たくさんフィッシュミールにすることではありません。科学的根拠に基づいて 漁船ごとに漁獲枠を設定することなのです。

そして、漁船に水揚げを分散してもらい、出来るだけ食用や、加工に向く水揚げの比率を増やし、地元の産業も支えていく仕組みを作っていくことです。

ノルウェー漁業 資源がサステナブルで 安全な理由

2022年7月20日更新

ノルウェー大型 巻き網船

ノルウェー漁業は 船が大きいだけではない

世界第2位の輸出を誇り、持続的な成長を続けるノルウェー漁業。その理由は、水産資源管理の成功に他なりません。これまで様々な形で紹介してきましたが、ここでは、「安全面」も含めてご紹介します。

ノルウェー大型巻網船内

なぜノルウェー漁業は安全なのか?

いくつも理由があるのですが、まずは制度面から。サバやニシンなどの漁業を行う巻き網船は、科学的根拠に基づいた漁獲枠が、魚種と漁船ごとに割り振られています。これを漁船別個別割当(IVQ=Individual Vessel Quota)と言います。

ノルウェーサバを例にすると、漁獲枠と実際の漁獲量は、消化率でほぼ10割(2010〜2019年 平均101%)です。一方で、日本のサバ類(マサバ、ゴマサバ)は消化率が6割(2010年〜2019年 平均61%)にすぎません。サンマになるとわずか同43%です。消化率がほぼ100%とならない、大きすぎる枠の設定では、漁業者は質より量を求めてしまいます。このため漁獲枠が機能しません。

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ノルウェーサバ

実はこの枠の大きさが、資源量だけでなく、「安全面」でも悪影響を与えているのです。漁獲枠が実際の漁獲量より大きく設定されていると、魚が獲り放題に近い状態になってしまいます。

このため、たとえ海が荒れていても、「出来るだけたくさん獲ろうとする強い意識」が働いてしまいます。かつ、小型の魚も容赦な く獲ってしまう力も働きます。この大きくなる前の小型の魚まで獲ってしまう「成長乱獲」は、水産資源にとっても良くありません。これは、漁業者に起因するのではなく、資源管理制度の不備により、日本で必然的に起きてきた問題です。

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ノルウェー大型巻き網船 船員は個室

一方で、ノルウェーの場合は、実際に漁獲できる数量より、大幅に少ない数量が、漁獲枠となっています。このため、無理して荒れた海に、あえて出て行く必要がありません。

それどころか、他の漁船の動向を見ながら、水揚げが集中しないように、受け手側の処理能力を考え、品質と価格が保てるように、分散して水揚げをしてきます。

このため、日本でよく起きる大漁貧乏。つまり一度に獲りすぎで処理し切れず、鮮度が落ちてしまい、魚価も暴落というケースは起こしません。

また、食用に向く魚まで、処理し切れないほど漁獲してしまいエサ用にしてしまう、などということはしません。そのような、経済的に非常にもったいない漁はせず、かつ安全な操業にする仕組みが、漁船ごとの枠の割当制度(IVQ)なのです。

加えて、ノルウェーでは、中長期的に資源がサステナブルであることが誰の目にも明らかです。このため、安全で快適な新造船が、どんどん投入されて行くのです。

漁獲枠の管理がしっかりしているので、焦って慌てて荒れた海に出ていく必要などないというわけです。

魚が減ると漁場が遠くなり危険が増す

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日本の漁船:魚を運んでくる運搬船 ノルウェーは単船操業なので、同じ船が漁獲して運んでくる。

サンマ、カツオなど、回遊魚の漁獲量が減少すると、今まで獲っていた漁場に、魚が回遊してこなくなってきます。このため漁場が遠ざかって行くのです。

この場合、小型の漁船でも、遠い漁場にまで魚を獲りに行かなくてはならなくなることが、安全面でのリスクとなります。

資源が、サステナブルであれば、ノルウェーのように小型の漁船でも、沿岸にも魚が十分回遊して来るので、遠征しなくても漁業で生計が立られます。

漁船の大きさ制限も検討する必要がある

ノルウェーを始めとする北欧では、漁船に許可を出すコンセプトが異なります。漁船の大きさの制限は、日本のようにトン数ではなく、長さで制限されているのです。このため、転覆しにくく、横幅が広い、安定した漁船となっています。

またVMS(Vessel Monitoring System=衛星漁船管理システム)が搭載されていているので、万一遭難しても、位置が把握されています。

ただし、重要な注意点があります。改正漁業法で法律になっている通りに「国際的に見て遜色がない資源管理」が実施されずに漁船だけが新造されていけば、乱獲を助長するだけになりかねないということです。

ノルウェーでは漁業者の満足度も高い

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ノルウェーは、マーケティングも進んでいる

ノルウェー(SINTEF=科学技術研究所) で、漁業者の約1割に当たる1,000人の漁業者を対象にした、満足度調査が2016年に行われました。その結果は、「漁船の大小」や仕事の役割にかかわらず、「99%の漁業者が仕事に満足」しているものでした。

日本で同様に満足度調査をしたらその割合は、どうなるのでしょうか?満足度の高い産業では、後継者問題は発生しにくいでしょう。その満足度を上げるための根本にあるのが、資源がサステナブルであるということなのです。

満足している主な理由の上位10は、①仲間意識と仕事の雰囲気②仕事における独立性③仕事の意味するもの④漁業への関心⑤仕事の多様性⑥エキサイティングな仕事であること⑦仕事における自由⑧高い収入⑨自然と海⑩計画的なレジャー(漁獲枠が決まっているため計画的に漁業が行える)。 というものでした。

北海油田が理由ではない デンマークの漁船も豪華

デンマーク漁船内

ノルウェー以外の北欧の国々の漁船も安全で快適です。枠の譲渡性の有無など、国により漁獲枠の配分方法は異なる場合があります(別の機会に解説)が、個別割当方式であることに変わりはありません。

写真は、ノルウェーに停泊中のデンマーク漁船です。たくさん獲ることが優先ではなく、乗組員の環境のことが、よく考えられて設計されています。というか、只々豪華です。

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ノルウェーに停泊中のデンマーク漁船

日本の漁船は、操業中も、水揚げ時もとても忙しいです。しかし、機械化が進み、水揚げもポンプで楽々の北欧漁船では、このように運動不足の解消なのか、ジムがある漁船が珍しくありません。日焼けサロンが付いている漁船まであります。

ノルウェー漁業の成功は、1970年代に北海油田が発見されたことで国の経済がよくなり、漁業者が油田関係の仕事にシフトできたことよるなどと言われることがあるようです。

しかしながら、産油国ではない、アイスランド、デンマークなども、同じように漁業で発展しています。肝心なのは、水産資源管理が科学的根拠に基づいて行われているかどうかなのです。

ノルウェーを始めとする北欧の漁業が安全なのは、漁獲枠が、科学的根拠に基づき、実際に漁獲可能な量より、大幅に少なく分配されているからです。

かつ、水産資源がサステナブルで、漁業がもうかっているので、快適で安全な新造船が次々と造られているからなのです。

今は多くの魚種で崖っぷちのタイミングです。しかし 日本でも手遅れになる前であれば、魚の資源をサステナブルにすることは可能です。そうなれば、水産資源に加え、漁業の安全度も同時に増すことになります。

サンマが消えて行く本当の理由 

2021年10月22日更新

今年のサンマは細い

魚が減ると味が落ちて高くなるわけ

 水揚げの減少が深刻なサンマ。今年、売り場に並ぶ生鮮のサンマは、細くてあまり脂がのっていません。全般的に痩せていることもあるのですが、それだけが理由ではありません。

鮮魚向けのサンマが不足しています。このため、最近まで食用になるのに、サンマが潤沢だったので選別して、餌料向けなどにしていた細くて小さいサンマも、足りないので食用に回さざるを得ないのです。

つい5年ほどまでは、年間で20〜30万トンと鮮魚では消化できない量が水揚げされていました。それが2017年は8万トンと半世紀ぶりの凶漁となり、2019年はそれを下回るペースでの水揚げとなっています。このため、供給不足でキロ当たりの価格が上がり、それが1尾価格の大幅上昇として跳ね返っているのです。

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 サンマ国別水揚げ量推移 水産研究 教育機構

具体的な数字でいうと、2007年~2016年に非食用だった比率が、平均で20%だったのに対し、半世紀ぶりの凶漁と言われた2017年は約半分の12%となっています。2019年は2017年より少ないペースでの水揚げとなっています(10月中旬現在・2019年の結果はこちら)ので、出来るだけ食用に回されることになるでしょう。 (2019年5万トン、2020年3万トンで過去最低を更新)。

供給の減少により、価格が取れるため最優先となる鮮魚向けの比率は、同36%でしたが、2017年には57%に上昇しています。

全体の水揚げ量から非食用向けと鮮魚向けを引いた残りが、加工向けとなります。水揚げが少ないと開きや缶詰向けの原料も高騰し、製品価格に転嫁せざるを得なくなるのです。

 今年は、冷凍サンマの方が美味しいと言われるのにも理由があります。冷凍に回るのは、主に旬で潤沢に水揚げがまとまり、価格が落ち着く時期です。

水揚げされるサンマは、概ね鮮魚向けが確保されてから、冷凍原料として確保されて行きます。

水揚げが少なく、価格が高いシーズンの始めの頃は、あまり冷凍には回りません。このため、冷凍品は水揚げが少ない期間でも、鮮魚より安く販売できるケースが多いのです。

ただし、あくまでも潤沢な水揚げが一定期間続いていることが前提です。なぜなら不漁が続けば冷凍に回る機会は減るからです。また冷凍されても、魚価の上昇で安く販売するのは難しくなります。

1990年以来、国産のマサバの水揚げが激減して、その分ノルウェーサバが大量に輸入されて不足分が補われてきました。しかしサバと違い、サンマは大西洋では獲れません。

また、もともと中国や台湾と同じ群れなのです。だから、日本が獲れない時は、他の国もサンマが減っているので同じように不漁となります。かつ日本のEEZ(排他的経済水域)内に回遊して来るサンマの方が、脂がのって品質も良くなるため、輸入による代用は容易ではないのです。

このため美味しいサンマを食べ続けるためには、科学的根拠に基づく、国際的な取り組みを伴う資源管理が、待ったなしの状況なのです。

サンマは誰のものなのか?

サンマが減った原因は「日本に回遊してくる前に台湾や中国が獲ってしまうから」、「海水温の上昇で回遊パターンが変わったから」ということが盛んに報道されています。

このため、日本人の多くは、「日本も含めて」各国が獲りすぎているという問題の本質が理解できていません。

ところで、サンマは「国際漁業資源」に分類されていることをご存知でしょうか?日本人からすれば、日本に回遊する前に沖合で獲ることは許せないとなります。

しかしながら、公海で操業している国々からすれば「日本がたくさん獲るから公海での漁獲が減ってしまう」という理屈になるのです。

漁業先進国である北欧や北米の国々では、アイスランドのカラフトシシャモや、アラスカに遡上するサケ類を始め、自国に産卵のために回遊してくる公海上の魚の資源まで厳しく管理しています。

日本は、それをしてこなかったために、他国の進出を許してしまったのです。

サンマはどこを泳いでいるのか?

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サンマの分布図  水産研究 教育機構

そもそもサンマはどこを回遊しているのでしょうか?おそらく日本のEEZ(排他的経済水域)を超えて広く回遊していることは、あまり意識されていないことでしょう。

図によると薄緑(夏季)とオレンジ(冬季)と広く分布しているように見えます。しかし、実際に魚群がまとまって漁場が形成されるのは、ピンクと水色の海域です。色の境目は概ね日本のEEZと「公海」の境目を意味するのです。

ところで、オレンジ色に広く分布しているように見える海域については、そもそも資源調査をしている海域に大部分が入っていません。毎年公表している上の図と、具体的な調査データである下の図を比較すると、本当にそんなに広い範囲に分布していると言えるのでしょうか?少なくとも漁場が形成できるほどには、サンマはいないでしょう。

一方、北欧では、漁業をしている国々が協力して広範囲に資源調査をしています。

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2019年サンマ資源量調査結果  水産研究 教育機構

台湾や中国の漁船は、日本のEEZ内に入って操業が出来ません。一方で、外国漁船が操業している海域には「公海自由の原則」が適用されます。公海での国別の漁獲枠が決まっていないことで、サンマの資源量と水揚量に懸念が出ているのです。

世界各国は、自国のEEZの資源管理強化を進めてきました。その結果、自由に操業できる漁場が狭まっています。このため、日本のEEZの外側のように、管理が甘い漁場は、他の国々に狙われてしまいます。

それだけではありません、一旦、設備投資されて新造船が増えてしまうと、後には引かなくなります。残念ながら、それが今の中国、台湾などのサンマを漁獲する国々の立場なのです。

国別漁獲枠の決定は、通常過去の漁獲実績をベースにした交渉となります。このため、中国(2012年よりサンマ漁開始)のように後から参入してきた国は、漁獲実績をできるだけ増やしてから、国別の漁獲枠交渉のテーブルにつきたいと考えるのです。

しかし、このまま漁獲競争を続けて資源を潰してしまえば、元も子もないことは各国とも、だいぶ分かって来ているようです。一方で、国別の漁獲枠の配分は、国益が絡むので各国とも、安易な妥協はできません。

日本の漁獲比率が8割以上あった1990年代後半以前に、2007年以降に起こった北欧でのサバの漁獲枠交渉の経緯を見て、参考にしていれば良かったのですが、時計の針は戻せません。

2018年の国別漁獲量のシェアでは、日本は29%とついに3割を切ってしまい、さらに減り続けています。古くて小さい漁船、日本から漁場が遠いなど不利な要因が多く、時間の経過と共に交渉条件はどんどん不利になってしまいます。

サンマを食べ続けるために各国がしなければならないこと

2019年7月に第5回北太平洋漁業委員会(NPFC)が開かれ、その中で、サンマの漁獲量の上限が決められました。しかしながら、その数量は56万トンと、昨年の実績44万トンを上回っています。NPFCのメンバーは8カ国です。漁獲量順に台湾、日本、中国、韓国、ロシア、バヌアツ。これに漁獲実績がない米国とカナダが参加しています。

しかも今年度は、昨年度より資源状態が悪く、この数字は後で「ぶかぶかの帽子」と表現されています。大きく減らす必要がある量なので、残念ながらこれでは漁獲枠としての効果は見込めません。

かつ、今季(令和元年7月〜翌6月)日本のTAC(漁獲枠)は、前期同様の26万トンと、実績の13万トンの倍、今年の水揚げはさらに減る見込みであるため、これも全く資源管理に役に立ちません。

サンマを漁獲する各国がしなければならないことは、科学的根拠に基づく、漁獲枠の総枠と国別漁獲枠の決定です。2017年には日本の提案で国別漁獲枠を決めようとしましたが却下されました。

これを日本のマスコミは「中国その他が反対」と伝えています。しかし、実際に賛成したのは台湾のみでした。また、その内容自体は、漁獲枠が巨大(56万トン)で、同年の水揚げ実績の倍であり、かつ日本に取って著しく有利な内容(日本の漁獲枠は24万トンで前年実績11万トンの2倍以上)でした。

もちろん日本に取って有利な条件で合意できればいうことありません。しかしながら国益が絡む交渉です。獲り切れない大きな漁獲枠で、資源の持続性の担保もなく、自国にとって有利ではない条件で、安易に合意する可能性など最初からなかったのです。

サンマの漁獲競争 持久戦に勝者はいない

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サンマ・サバ類・マイワシ 資源量調査結果/  水産研究 教育機構

図は、サンマ(赤色)以外に、サバ類(青色)とマイワシ(黄色)の資源量の調査結果を合わせたものです。大まかに言って、2区と3区は日本のEEZ外です。

漁獲が減って供給が減りサンマの価格は上昇します。このため実質獲り放題になっているので、各国は資源に悪いと思っていても、ますますサンマを狙うことになります。

そこで、まだNPFCで話しも出ていない「マイワシの国別漁獲枠設定の宣言」をするのです。そうすると、各国は、実績確保のためにサンマの漁獲日数を減らしても、マイワシ狙いに行き、一時的に漁獲圧力が下がることになります。その間に、サンマの国別TACを決めるのです。

中国、台湾を始め、すでに漁船に投資して回収できていない漁業者に、効果があるように漁獲量を制限させることは容易ではありません。東日本大震災以降に増えているマイワシ資源。残された時間も選択肢も減ってきている中、手遅れになる前に、ここでマイワシのカードを切り、その間に国際合意に持っていく戦略が不可欠なのです。

(アップデート 2021年10月21日)

2020年の水揚げ量は、過去最低だった2019年のだった4.6万㌧をさらに下回る2.9万㌧に激減。各国との交渉も進展していない。