過去最低の水揚量と海水温上昇を比較すると驚くかも知れません

小さな魚を避けて漁獲するという制度がないので、幼魚まで乱獲し成長乱獲を起こしてしまう

2020年の年間水揚量は過去最低を更新

FAOと農水省データより作成

農水省から2020年度の年間水揚量が発表されました。418万㌧と過去最低を更新しています。増加しているのは、これまで水揚げ量の原因とされてきたマイワシの14万㌧と資源管理の優等生であるホタテガイ位で、あとは、サンマを始め、軒並みと言って良いほど減少もしくは低位横ばいが鮮明となっています。

一方で、世界全体の水揚げ数量は増加傾向にあります。上のグラフは、世界全体と日本の水揚げ量を比較したものですが、両者の傾向が対照的であることが明確に分かります。

水産物の水揚げが減少した理由としてよく上がるのが、海水温の上昇によるというものです。確かに海水温の上昇は、エサになる動物性プランクトンの減少など資源状態に影響を与えます。これは農作物の出来高が、天候に左右されるのに似ています。環境要因が自然に与える影響は否定できません。

日本の海の周りだけ海水温が上昇しているのだろうか?

気象庁

海水温がゆっくり上昇していることは事実です。ところで上のグラフは、左が日本やアラスカ(米国)を含む北太平洋。右がノルウェーやEUを含む北大西洋の海水温の変化を表しています。

実は海水温の上昇は魚が減って大きな社会問題となりつつある日本も、魚の資源管理が成功し、水産業も漁業も発展を続けるノルウェーやアラスカ(米国)でも、傾向は同じなのです。

世界全体の海水温の傾向は?

気象庁

上の図は、南太平洋、南大西洋そしてインド洋も含めた海水温の傾向です。世界の海で比較すると、日本を含む北太平洋の海水温の上昇は、大差はないものの、ノルウェーを含む北大西洋や、南大西洋、そしてインド洋よりも、比較した場合上昇傾向は鈍いことがわかります。

日本が魚が減った理由に上げる海水温の上昇は、日本の周りの海だけに当てはまる特殊な現象ではないのです。

それなのに、なぜ日本の周りの魚は減ってしまうという特殊なことが起きているのでしょうか?同じく魚が減る原因として出てくるレジームシフトも、世界の海で日本の周りにだけ起きる現象ではありません。

さらに詳しく海水温の上昇と水産資源の関係を比較してみる

上の表は、北太平洋を日本と米国(アラスカ)側とに分けたもので、筆者が客観的な事実をもとにコメントしたものです。

サバでは、日本はジャミ・ローソクと呼ばれる幼魚まで全部獲ってしまうため、同じく海水温の上昇の影響を受けている大西洋に比べ資源の状態はよくありません。ノルウェーなど北大西洋では、漁業者や漁船ごとに漁獲枠が割り振られているので、価値が低い幼魚は漁獲しません。

東日本大震災で一時的に漁獲圧力が減った名残で、太平洋側だけは現時点では何とか資源が持っているという状態です。

マダラでは、よりはっきり傾向がわかります。同じく東日本大震災の影響で資源は一時的回復しましたが、すでにTAC(漁獲可能量)もなく、幼魚も獲ってしまうので資源は低位に戻ってしまいました。

・ニシンも、アラスカと北太平洋では資源状態も漁獲量も日本とはアラスカでは数倍(2020年・4万㌧程度)。北大西洋ではノルウェーだけで桁違い(同・50万㌧程度)と、日本(同・1万㌧程度)と漁獲量も資源量も大きく異なります。日本の場合はかつて50万㌧漁獲していた数量が1万㌧程度しかないにも拘わらず、これを資源量で「高位」と呼んでいます。

ズワイガニイカナゴに至っても日本の海の周りだけが海水温の上昇で資源量が増えない、もしくは減少というのはおかしくありませんか?

海水温の上昇に対する矛盾

水産資源管理が機能していないことを海水温の上昇に置き換えてしまうと辻褄が合わない現象が起きます。

イカナゴの資源が激減した理由が海水温だとすると、なぜ青森(陸奥湾)という水温が低い北の漁場で資源が崩壊した後に、伊勢湾、播磨灘、大阪湾、仙台湾、福島といった北と南が入り混じりながらイカナゴがいなくなってしまったのか?

なぜマイワシは寒冷な気候の方が増えやすいといわれている一方で、同じ北海道の道東沖で獲れていたサンマは海水温の上昇っで激減しているのか?

サンマは、道東沖の暖水塊が来遊を阻害していると言われています。しかしその沖合の公海上でもサンマ資源が激減している理由は何か?

海水温の上昇は水産資源に影響を与えてしまいます。だからこそ予防的アプローチを行って水産資源をサステナブルにする努力が不可欠です。

ノルウェーを始めその恩恵を享受して漁業や水産業が発展を続ける国もあれば、残念ながら日本のように資源管理が機能していないことを海水温の上昇に責任転嫁してして衰退してしまう国もあります。

6/4に水産庁の「不漁問題に関する検討会」の提言が出されました。サンマ・スルメイカ・サケの不漁の原因として温暖化が不漁の原因と明記されています。

どちらが、現在、そして将来にとってよいかはいうまでもありません。

崩壊寸前のイカナゴ漁が、ノルウェーでは絶好調なわけ

(ノルウェー青物漁業協同組合)

日本では崩壊寸前のイカナゴ漁

昨年(2020年)の同時期、イカナゴ(小女子)の水産資源管理に関する問題を発信したところ、1,000を超える「いいね!」と「シェア」がありました。日本では、残念ながら国際的な視点で解説されることがありません。そこで、何らかの参考になるように再度発信しておきます。

播磨灘大阪湾伊勢湾、福島沖、仙台湾陸奥湾とかつてのイカナゴ漁場は次々に獲れなくなり崩壊して来ています。供給量の減少で価格が高騰、残った漁場では一生懸命獲ろうとする強い力が働き、やがてその漁業の魚もいなくなってしまいます。

何年禁漁しても資源が戻らない海域も少なくありません。それだけ資源量が激減しているのです。根絶やしに近い状態まで獲ってしまった資源を回復させるのは至極困難であり、長い年月と厳しい漁獲制限が不可欠となります。

海がきれいになり過ぎた、海水温の上昇、砂利の採取など漁獲量激減に対して、様々な理由が付けられネットで拡散されて変に納得(誤解)されています。しかし、国際的な視点から分析すると本質的な原因がわかります。

イカナゴ 

ところで、海がきれいになり過ぎたからなら、江戸時代や室町時代にイカナゴはいなかったのか?海水温の上昇が原因なら、なぜ北の陸奥湾の資源が、播磨灘・大阪湾などの西の漁場より先に消えてしまったのか?砂利の採取は、激減したここ数年のことなのか?震災で漁獲ができなくなっていた福島では、なぜ再開後にイカナゴが獲れたのか?そしてなぜ今は獲れないのか?

魚が消えていく本当の理由が理解されずに水産資源が減少を続けていることは、実に痛ましいことです。それらの理由が関係ないとは言いませんが、最も大きな力である、漁業という人間の力をあまりにも過少評価していないでしょうか?

その本当の理由とその対策は海外との比較で明確に分かってきます。

今年も絶好調ノルウェーのイカナゴ漁

(hi.no)

日本とノルウェーのイカナゴ漁を比較してみましょう。まず似ているところは、砂に潜る性質から漁場が砂場であること。ノルウェーの場合は、地形上砂場が少なく、イカナゴ漁が行われるのは、上図の紫色の箇所に点在している程度です。漁場という面では、日本の方が恵まれていると言えるでしょう。また、春に漁獲時期を迎えるのも似ています。

さて、次は異なる点です。①昨年(2020年)の漁獲量は日本は1万㌧程度に対し、ノルウェーは25万㌧と大きな差があること。しかし、15年ほど前までは日本の方が多い年もありました②漁獲枠の有無。日本では自主管理です。宮城県がある仙台湾では、昨年・今年と9,700㌧もの漁獲枠が設定されましたが、2年連続で実質ゼロ。事前の調査でもいないことが分かっていても枠はそのままで、機能としてもゼロです。

一方で、ノルウェーでは科学的根拠に基づきTAC(漁獲可能量)が設定され、毎年TAC通りの漁獲になります。かつ上図の漁場で実際に操業できるのは1/4であり、手つかずの漁場が残されて行きます。③日本では食用となる稚魚狙いですが、ノルウェーは成魚狙いで非食用(フィッシュミール向け)です。

(ノルウェー青物漁業協同組合)

上の表は今年(4/29)の水揚げ状況です。8隻で10,180㌧と日本の年間水揚げ量を1日で漁獲しています。2,050㌧、2,400㌧と一回の漁獲で2,000㌧を超えている漁船もいますね。これらの漁船は、サバやニシンも獲る大型船で一網打尽です。しかしながら、資源管理ができているので、このように大量に漁獲しても資源に問題ありません。日本と異なり、資源の持続性に効果がある漁獲枠が設定されているからです。

ノルウェーで海水温は上昇している

ノルウェーバレンツ海の海水温推移(ノルウェー青物漁業協同組合)

上のグラフは、ノルウェー北部バレンツ海の海水温の推移です。ノルウェーでも海水温の上昇は問題になっています。しかしながら、水温の上昇により資源量に悪影響が出ている環境では、その分も考慮されることになるでしょう。実際の資源量は、サバ・ニシン等の青魚、そしてマダラ・カレイ類などの底魚共に、短期的な資源量の増減は別にして、中長期的には横ばい・もしくは増加傾向にあります。

生物多様性とイカナゴ

イカナゴはシシャモなどの小魚と同様に、他魚種の重要なエサにもなっています。資源が減れば、人間が獲り尽くして困るのと同様に、それを捕食していた魚種にとっても深刻な問題となります。

例えば、ノルウェーでのシシャモの漁獲枠設定に際しては、マダラなどの他魚種が食べる分も考慮して漁獲枠が設定されています。また、シシャモやイカナゴ漁に関して、マダラなどの混獲が厳しく管理されています。

日本のように漁獲枠も科学的根拠もほぼなく、資源崩壊が近づくと様々な理由を付けて責任転嫁に走るのとは大きな違いです。言うまでもなく、現状の後者の漁業には未来はありません。

資源調査結果通りのイカナゴ漁

9,700㌧もの漁獲枠が設定されていた仙台湾での事前調査はゼロ(牡鹿半島で2尾)で結果は漁獲ゼロ。

兵庫県での親魚密度調査では昨年(2019年)の5.3尾に対して7.8尾。ただし平年(2009年~2018年の10年間)の132.3尾より大幅に減少しています。漁獲量は147㌧(2020年)⇒1,467㌧(2021年)と調査結果以上に前年10倍のようにも見えますが、実際のところ昭和の時代には2~3万㌧は漁獲されていたので、大したことはなく、資源が回復しているわけではないのです。

資源調査結果は、イカナゴに限らずその傾向をとらえるのに役立っています。しかしながら、実際の漁業管理ができていないことが致命的に問題なのです。

経済面で考える日本の漁業の問題

ノルウェー漁業省のデータを編集 ノルウェークローネ=¥13.3(2021年5月)

資源が減り、資源が減少することでイカナゴの価格は高騰しています。兵庫県を例に取ると今年(2021年)はキロ¥844(1,467㌧)、昨年(2020年)は¥2,578!(147㌧)でした。一方でノルウェーは昨年(2020年)¥48(25万㌧・約120億円)と単価は食用でないこともあり、大幅に安いのですが数量が、桁違いに数量が多いために水揚げ金額は大きく、漁業者は潤っています。

どんなに単価が上がっても資源が無くなってしまい、水揚げ数量がゼロになれば金額もゼロになります。伊勢湾、仙台湾、陸奥湾では今年もイカナゴの水揚げはゼロなので水揚げ金額もゼロでした。

水産資源管理がサステナブルに行われると、単価は下がり消費者にメリットがある一方で、漁業者に取っては単価も数量も安定してするメリットがあります。一方で、その逆は資源も地方も崩壊してしまう恐ろしい現象が起きてしまうのです。果たして我々は、どちらを選択するべきなのでしょうか?

水産資源管理の優等生 ホタテガイ

資源管理の成功例 北海道のホタテガイ

ブログ投稿はこの記事で42回目。おかげさまで「いいね!」「シェア」は累計で4万回を超えました。客観的な事実に基づき、国際的な視点から水産資源管理に関する発信を続けるメディアとして、社会そして世界に役立つことを願っています。

資源量が激減し衰退が止まらない日本の水産業。そんな中で、世界に誇れる数少ない事例があります。それが北海道のホタテガイ漁業です。

資源管理の理屈がわかる 地まきで育てられるホタテガイ

ホタテガイの増養殖は大きく分けて2つあります。一つは、貝に穴を開けて吊るす垂下式。主に北海道の噴火湾や本州で行われている方法。もう一つは主に北海道のオホーツクなどで行われている海区を区切って稚貝をまく、地まきと呼ばれるやり方です。ここでは、後者に焦点を当てて説明します。地まきで育ったホタテガイは、主に貝柱を取る加工に向けられます。

ホタテガイが優等生となる仕組み

日本のホタテガイ水揚量の推移 

今から数十年前、ホタテガイもご多分にもれず乱獲で、枯渇に近い状態になってしまいました。ところが上のグラフを見てください。今では年間漁獲量は40~50万㌧前後で安定しています。

他の水産物と異なるのは、機能する資源管理が行われるようになったからでした。

上の図をご覧ください。ホタテガイの増養殖の仕組みをご説明します。まず使用する海を4つの海区(例)A,B,C,Dに分けます。それぞれの海区を4つの畑と捉えて下さい。

オホーツクでは、収獲までに4年かけます。図では右のD海区に、3年前稚貝がまかれていた前提になっています。2年前にC海区、1年前にB海区、そして今年A海区に稚貝がまかれるという前提です。

4年目になるとD海区にまかれていた稚貝は、立派なホタテガイに成長し、これを収獲します。翌年は同じく順番で4歳になっているC海区で収獲という順番です。もちろんD海区には、水揚げ後に再び稚貝をまいて3年後を待ちます。

ホタテガイを他の漁業に置き換えると分かること

もし、4歳の収獲サイズまで待たず、まいてすぐ獲ってしまったらどうなるでしょうか?4年後を待たず、A海区(1歳)〜C(3歳)海区のホタテを獲ってしまったらどうなるでしょうか?漁獲自体は容易にできてしまいますが、、、。

これこそ、日本の多くの魚種で起こっている成長乱獲なのです。例えば、サバは4歳まで待てば、立派な価値がある成魚に育ちます。

しかし、1歳のローソクサバ、ジャミサバと呼ばれる日本では食用に向かないサバの幼魚まで、容赦なく漁獲されてしまいます。このため、なかなか成長して産卵するチャンスが与えられません。サステナブルなノルウェーのサバ漁では絶対に行われないサバの幼魚の一網打尽。

日本で漁獲される魚は、サバ、マダラ、クロマグロなど、大西洋で漁獲される同じ仲間の魚より、概して小さいことがよくあります。これは偶然ではなく、残念ながら「大きくなる前に獲ってしまうから」という単純な理由がほとんどです。

ホタテガイは4歳まで成長を待てば価値が上がり、大きな貝柱が取れます。ホタテガイは主に春に産卵します。水揚げされる4歳貝は、すでに成貝です。オホーツクの水揚げ時期は、産卵後の主に夏から秋にかけて行われるので、水揚げ時には産卵は終わっており、卵は海の中です。

こうやって、まるで畑から作物を収穫するかのような漁業が行われており、オホーツクのホタテ増養殖業者は高収入を得ています。稚貝を海にまいてから3年、つまり価値があり、資源管理にもよい4歳貝を水揚げし続ける仕組みが出来上がっているからです。

畑の作物との違いは、水も肥料もあげる必要がないことです。ただ稚貝をまく際にはヒトデなどを除去する漁場造成が行われます。

実は、持続的な水産資源管理ができている国々では、それが魚であってもオホーツクのホタテガイのように、海を巨大な養殖場のように利用して、産卵させる親魚をサステナブルな量に保ちながら漁業を続けているケースがほとんどなのです。

北海道のホタテガイはMSC認証

取得が難しいMSC認証

北海道のホタテガイは、サステナブルな漁業の国際認証であるMSC(海洋管理協議会)認証を取得しています。

世界では、サステナビリティに対する関心が年々高まって来ています。そして認証が増えている一方で、その中身が本物かどうか問われてきています。

MSCのような水産エコラベルの目的は、認証数を増やすことではなく、資源を増やしてそれをサステナブルな量を維持しながら、漁業を続けることです。

失敗ばかりが目立つ日本の水産資源管理ですが、ホタテガイのような成功例もあるので、是非見習いたいものです。

東日本大震災と水産業 震災から10年が経過

震災後の10年間に起こったこと

2011年3月11日に起きた東日本大震災。2021年の今年で10年が経過しました。残念ながら、この間に起きた事象を分析すると、どれだけ多くの水産業、そして漁業を復活させる機会を逸してしまったか分かります。

震災後に石巻に造られた巨大な市場

巨大な漁港や市場が出来ても、肝心の魚が少なければ無用の長物と化します。一方で、巨額が使われている設備に対して、漁業先進国と同様に資源管理ができて、魚が持続的に獲り続けられる仕組みがあれば、とても役に立つ設備となります。この違いはとても大きいです。

輸入水産物の日本離れ

すでに震災前から、国内で水揚げされる加工原料の減少は深刻でした。その分を三陸にカラスガレイ、マダラ、アカウオなどの底魚類資源などが北欧や北米などから輸入されて製品化、国内市場に供給されていました。

震災前には、たくさんのカラスガレイが三陸で加工されていた。

そんな時、震災で石巻、女川、気仙沼を始め多く加工場が被災。工場が再稼働を始まるまでの期間、生産は止まっても消費が止まるわけではありません。

そこで、すでに中国やタイなどで原料を北米や北欧から輸入して日本に加工品を輸出する仕組みが加速しました。もともと中国では、一旦輸入した水産物を国内で消費するわけではなく、保税加工して製品を輸出し「加工賃」を主な収入としていたのです。

しかしながら、この間に中国の国内消費が経済成長とともに急速に発展。水産加工場は民営化が進み、自国で輸入し、中国国内と日本を含めた海外市場を比較しながら販売する会社へと変わって行きました。

当初は日本の輸入業者が在庫の資金面も見ていました。しかしながら、中国側の資金が増えて行くことで、日本離れが増えて行きます。

もともと中国の水産加工は、日本人が多くの技術指導者を長期間派遣し、日本に輸出できるまでに品質レベルを上げて今日があります。しかし、時間の経過とともにその認識は薄れ、かつての協力関係は、水産原料を買い付ける際の競争相手と変わって行きます。

しかしこれは、水産物に限ったことではありません。それどころか、形式は異なるにせよ、米国の自動車産業を後発の日本が凌駕した際にも、同じようなことが起きています。

日本の水産業の技術が、中国を始めとするアジアの国々に流出していくのは時代の流れだったのです。

中国を始めとするアジア各国の水産業の変化

人件費が安いという理由で始まった、中国を主体とする海外での水産加工。このため、当初の加工場は、作業用のテーブルと包丁と冷凍機があれば始められるような設備でした。それが、人件費の上昇で機械化が進み出し、海外で加工して日本に輸入するビジネススタイル自体が変わりつつあります。

昔、日本の加工場で、魚の水揚げ量が多かったという理由で水産加工を始めた加工場は、使用する魚が輸入物に切り替わったことで、いつの間にか競争力を失っていたのです。

海外から冷凍魚が東京に輸入されて、三陸の加工場へ輸送。そこで加工して東京などの消費地で販売するのが、国内の水産資源枯渇により始まったビジネスモデルの1つでした。

しかし、海外から直接日本ではなく、一旦中国に向けて、そこで加工して東京、大阪、九州などの各地に製品を再輸出する新しいモデルが進んでいました。中国などで加工するこの形の方が、品質の違いは別としてコスト面では、物流面で有利になってしまいました。

これからさらに、中国に限らず、タイ、ベトナム、インドネシアといった国々も、海外から加工原料を買って自国と輸出市場を両睨みしてバランスを取って販売する業者が増えて行くことでしょう。そして、各国とも輸入原料の買付け競争が激化し、利幅が減少していきます。

そして自国の水産原料が1番競争力があることに気付くのです。歴史が繰り返すのは、日本だけではありません。

震災と水産資源

皮肉なことに震災は水産資源を強制的に、かつ一時的に回復させました。放射性物質の影響で漁獲できない、いわば強制的な海洋保護区ができました。そして対象となる漁業者に補償金が支払われたために、マダラヒラメマサバなどの資源が一時的に回復したのです。

ノルウェーでは資源保護の観点から決して漁獲されないサバの幼魚が、日本では普通に水揚げされてしまう。

しかし、天が与えてくれた復活の機会は、水産資源管理が震災以前と変わらない自主管理や、獲り切れない漁獲枠であったために元の木阿弥になりつつあります。なぜ日本各地からイカナゴが消えていく環境で、福島のイカナゴは震災後一時的に期待されていたのか?なぜ、震災の翌年に34年ぶりにマサバが北海道道東沖に現れたのに、わずか6年でほとんど獲れなくなってしまったのか?

水産資源管理の不備が復活の芽を潰し、それが環境の変化や外国のせいへと責任転嫁されてしまい、日本人の多くはそう信じています。

どうするべきであったのか?

もしも震災後に北欧の資源管理を導入していたらどうなっていたでしょうか?一時的な大漁!は抑制され資源管理で生き延びた親魚はたくさんの卵を産み、そして産まれた幼魚は漁獲されないので、親魚になる機会を与えられます。

震災後、4分の3、8分の7といった補助で水産加工場が再建されました。震災前には手が出なかったフィレーやパッキングの最新の機械が、ドイツなどから次々に輸入されました。

しかしながら、肝心なものが不足。それは「魚の資源管理」でした。三陸で漁獲される魚の資源管理の不足が、加工する魚の不足を招き厳しい状況に拍車をかけているのです。

資源管理において世界で起きている成功例に目を背けてしまったことは余りにも代償は大きかったのです。さらに公海での資源管理ができていないことがサンマ資源の減少を招き、追い討ちをかけています。

一方で、2020年12月に施行された改正漁業法のような変化も起きています。ただし、その法律も水産資源が「国民共有の財産」になっていませんでした。また、資源管理の達成確率が北欧や北米では90-95%に対して、日本では50%以上といったように低く、骨抜きになっている恐れがあります。

震災後10年が経過し、日本の水産業が復活できる機会がありました。しかしその機会の多くは、見逃されて潰してしまいました。崖っぷちの今、その原因と解決方法を国民が理解し、共有することができるのか?

魚が減ったのは、海水温上昇や外国の漁船が獲ってしまうからであり、日本の資源管理は素晴らしいということではないことに気付かなければ、日本の漁業も水産業も、このまま共に崩壊するのです。

迷走するサンマ国際会議  漁獲枠40%削減合意の意味?

細くて価格が高くなったサンマ 魚価が上昇して前年度より水揚金額は上昇。さらに漁獲が減り品質が劣るのに価格が上がれば、消費者離れが起きる恐れがある。

歴史的不漁が止まらないサンマ漁

2021年2/23〜25にかけてサンマを巡る国際会議NPFC( 北太平洋漁業委員会 )が開催されました。深刻なサンマ資源の減少に対し、科学的根拠に基づくTAC(漁獲可能量)と、それを国別に分配する国別TACが設定されるはずでしたが実現せず。

マスコミでは、サンマの漁獲枠を現行の40%削減で合意と報道。ところが、今年度そして来年度も、漁獲量の激減が続く2020年の倍以上(その分のサンマがいれば)獲っても問題ないのです。なので合意内容では資源管理への効果はありません。

激減が続くサンマの漁獲量。2020年は10万㌧を少し超えた程度でさらに減少した。「赤色」が日本の漁獲量。 NPFC

なぜそのようなことが起こるのか?まず初めに資源激減に関わらず、昨年(2020年)合意された全体の漁獲枠は、資源量減少が著しいというデータが出ているにもかかわらず55.6万㌧と獲り切れない巨大枠でした。次に今回(2021年)決まったという削減後の枠は、33.4万㌧。

2020年の実際の漁獲量は10万㌧を少し超えた程度。つまり枠は実際の漁獲量の4倍以上でした。

40%削減の計算根拠は、なぜか2020年でも2019年でもなく、激減前の2018年の44万㌧がベースになっています。これは2020年の水揚げ数量と比較すると3倍以上の数量です。

従って40%削減されても、昨年実績の倍以上の漁獲量を獲っても問題なし。それどころか日本のEEZ(ロシアも含む)に至っては、13.6万㌧!日本の漁獲量は2.9万㌧でしたので、5倍弱。また数字は出ているのに、2019年よりさらに減少した2020年の漁獲量をすぐに公表していないのも謎です。

各国とも、今回の合意内容であれば、実態はこれまで通りの獲り放題。そのサンマ資源が激減していることが共通している大問題なのですが、、、。

しかも有効期限は2年。今年さらに資源状態が悪くなっていたとしても、来年もそのままということになってしまいます。そして獲れなくなってから禁漁という最悪の自体に陥らねばよいのですが、、。(例)日本のイカナゴ、ハタハタなど。

サンマの資源量は危機的な水準を通り越している

サンマの資源は激減が続いている だから漁獲量が減少  NPFC

上のグラフは、資源調査に基づくサンマの資源量推移を表しています。これに、実際の漁獲量の推移を合わせると、傾向がほぼ一致していることが分かります。少なくても激減傾向は一目瞭然ですね。

SDGs(持続可能な開発目標)14.4で掲げられているMSY(最大持続可能量)が維持できる資源管理からは遠く離れており、水産資源管理が進んでいる北欧などでの水準からすれば、残念ながらすでに禁漁する水準ではないでしょうか?

北欧のシシャモのように禁漁しても復活する資源管理と異なり、公海を含めたTACに基づく管理が行われておらず、その間に中国、台湾と漁船を次々に建造されて、サンマ資源をあてにされてしまったことは、日本にとって最悪の結果です。

サンマ資源が10年ほど前までは持っていた理由

サバ、スケトウダラ を始め日本の資源が激減していく中で、サンマの減少速度は、中長期的に見ると比較的緩やかでした。これは、棒受けという光で集めてすくいとる漁法であったために、漁獲圧が低かったからです。日本は大中巻き網船によるサンマ漁を禁止しています。これはとても良い制度でした。

一網打尽となる大型巻き網(サバ)や、大型トロール船(スケトウダラ )で、サンマ漁を行なっていたら、2000年以前に資源量は激減していたことでしょう。

もっとも、大型巻き網や大型トロールが悪いのではありません。これらの漁法で大型船が操業しているノルウェー、米国、ロシアでの資源量は潤沢でサステナブルです。その違いは資源管理の違いなのです。

サンマ漁に新規参入した中国船、そして台湾船も漁法は同じ棒受け漁。日本をまねただけでしょうが、これらの国々、特に新しい中国船がサバ漁同様に、棒受け以外の漁法(巻き網、トロール)でサンマ漁を始めるとさらに枯渇に拍車がかかってしまう恐れがあります。

歴史は語る スケトウダラ の公海漁業の禁止

日本で漁獲されたスケトウダラ

乱獲に対し、公海の資源管理が断行された例があります。皮肉にもそれは、日本漁船が深く関係していたスケトウダラ漁でした。今日、米国とロシアの漁業は、スケトウダラの資源がサステナブルだから発展して来たといっても過言ではありません。

水産教育・研究機構

上図の緑の部分に、公海のスケトウダラの漁場が囲みで示されています。当時の日本漁船は、1977年の200海里漁業専管水域の設定で、アラスカ沖から排除され、新たな漁場が必要でした。そこで発見されたのがこの漁場(通称・ドーナッツホール)です。

新漁場には、200海里で締め出された日本漁船を主体に韓国、ポーランドなどの漁船が集結しました。しかし下の表で分かる通り、わずか5〜6年で資源は枯渇。

水産教育・研究機構

1994年以降は漁獲停止で合意しています。公海漁場は、米国やロシアのスケトウダラの漁場と近く、漁獲停止は公海漁場の近隣である、主に米国側の資源の持続性に良い影響を与えていると考えられます。

ちょうど、日本の海域からはみ出ているマサバマイワシの資源(またがり資源)を漁獲している中国船などの操業を止めさせたようなものです。

有利な取り決めが役に立つ機会は訪れるのか?

NPFC( 北太平洋漁業委員会 )で、日本に取って有利な取り決めがあります。それは、国連公海漁業協定上、EEZ内に漁場を持つことが幸いし、EEZ内の配分比率を全漁獲枠の4割とできていることです(若干漁獲しているロシア分含む)。

日本の漁獲比率は、2020年度の2割程度まで減少。最初の棒グラフで示された赤い部分は、かつて8割が日本の漁獲でした。これを考えれば遅すぎですが、それでも2割と4割の配分では大きな違いとも言えます。

しかしながら、この4割の配分維持には避けて通れない2つの関門があります。①このまま獲り続けて2年間も資源が持つのか?資源が無くなれば公海でのスケトウダラ漁の停止同様に配分に意味がなくなる。②真剣に枠を減らす配分の議論をする場合、もっとも実際の漁獲量と乖離している日本のザル枠と配分比率を各国が認めてくれるのか?

崖っぷちの魚種だらけの日本。その中でも日本人の理解と事実の乖離がもっとも大きい魚種の一つがサンマかも知れません。

復活! アイスランドシシャモの資源

復活したアイスランドのカラフトシシャモ資源 

95%の確率が求められる漁業

2019年から禁漁していたアイスランドシシャモ(カラフトシシャモ・以降シシャモ)の資源が予想通り復活し解禁となりました。これから2~3月が漁獲シーズン。資源調査の結果2/7時点でのTAC(漁獲可能量)は12.7万㌧ですが、今後の追加調査でまだ枠が増える可能性もあります。

2020年時点で算出された2021年の枠は17万㌧であったので、ほぼ近い数量となっています。アイスランド・ノルウェーといった国々では、その資源量が95%という高い確率で、取り決めた資源量になるというルールにしています。産卵親魚の資源量各15万㌧・20万㌧残すというものです。

つまり、前者のアイスランドで言えば、漁獲されたり、マダラなどの他の魚種に食べられたリする量を除いて15万㌧の親魚が産卵できるように計算されているのです。それができなければ解禁しないということです。しかも要求される達成の確率は95%。

日本で2020年12月に施行された改正漁業法は、ようやくSDGs14(海の豊かさを守ろう)でも採択されているMSY(最大持続生産量)に基づく設定を始めましたが、その確率は50%以上といった目標数字が見かけられます。資源管理の達成の目標を95%としている国々との差、および将来への影響がどうなるか考える必要があります。資源量が多い国が甘いなら別かも知れませんが、その逆ですので。

明るい北欧シシャモ漁の未来

アイスランドでは2021年の漁が2月に始まったばかりですが、すでに先のことが分かっています。2022年のTAC(漁獲可能量)は40万㌧と算出されており、大幅な増加が予想されています。

一方のノルウェーでも、資源は急回復。未成魚の資源量は2014年以来の100万㌧超えとなっており、2022年にはその一部が成魚となるため解禁される可能性があります。ノルウェーにしてもアイスランド同様に資源管理がしっかりしているため、一時的に禁漁となっても「確実」に資源量が回復して解禁され、たくさんの水揚げが復活し、それらが日本の食卓に上ります。

ノルウェーのシシャモ漁は2019年以降禁漁のままですが、アイスランドの解禁はノルウェーにも恩恵を与えます。なぜなら上記の12.7万㌧(今後増枠の可能性)の内、ノルウェーに4.2万㌧もお裾分けが行くからです。

これは、ノルウェーがアイスランドの資源を利用する一方で、アイスランドもノルウェーの資源を相互に利用するからです。水産資源管理の成功は、自国だけでなく、近隣国にも恩恵を与えるまさにウィンウィンの仕組みですね。

これは資源量が激減し、各国で逆のことが起きてしまっているサンマスルメイカなどの管理に参考になる例ではないでしょうか?

シシャモの漁場と距離

シシャモの漁場 青はシシャモ 赤はニシン (ノルウェー青物 漁業共同組合から編集)

上の図の赤い矢印で示した青色の点を見て下さい。アイスランド沖で、ノルウェー漁船がシシャモを漁獲したと報告している場所です。ここからノルウェーに戻って水揚げすると3日かかります。サンマの漁場が遠くなり日本に水揚げするまで3日かかったというのと、日数ではほぼ同じ。ちなみにノルウェーの面積は約38.5万㎡で日本(37.8万㎡)と同じです。

上図のノルウェー漁船は、基本的に魚を自国に持ち帰って鮮魚のまま水揚げします。しかしアイスランドは目の前で1日で水揚げできます。アイスランドでは、当然ノルウェーより多くの数量を自国漁船が漁獲して水揚げします。ノルウェー漁船をノルウェーに呼び込むためにはアイスランドでの水揚げ価格より高い価格を漁船に提示する必要があります。

シシャモの買い付けに最も高い価格を提示するのは日本。ノルウェーは2021年度も、シシャモ漁は禁漁です。しかしアイスランド沖で漁獲されたシシャモがノルウェー産として日本に輸出されるので、アイスランド産と共に2019年からの禁漁でほぼ残っていなかったところに供給されることになるのです。

シシャモの価格

おなじみ子持ちカラフトシシャモ 

あまり気付かないかも知れませんが、シシャモ(カラフトシシャモ・子持ちシシャモ)の末端価格は上昇しています。2010年~2019年の末端価格の平均が100gで159円なのに対し、2020年(7月まで)は同203円と約3割上昇しています。1パック100円均一での販売といった安価での売り出しは減ったはずです。

日本のシシャモ

国産のシシャモ 漁獲量は激減 価格高騰 

一方で日本のシシャモ漁。北海道での2020年の漁獲量は約300㌧と、記録が残る30年余りで最低。その原因はとなると「海水温の上昇などの海洋環境の変化が影響しているとみられる。」そうで、不漁の原因を詳しく分析するそうです。ところで、資源評価もTACもないままで良いのでしょうか?このスピード感で間に合うのか?

北欧のカラフトシシャモと種類は違うといっても、売り場ではシシャモとして並びます。しかし、供給があまりにも少ないために価格が高くなり、高級品となってきています。すでにシシャモといえば、供給量が圧倒的に多いカラフトシシャモが日本の市場を席巻。

ところで、その資源管理の方法は全然違います。日本の場合はシシャモにTAC(漁獲可能量)さえありません。毎年期待するのは大漁かもしれませんが、資源が減れば大漁どころか獲れなくなるのが現実です。いなくなってからの禁漁では遅いのです。

アイスランドでもノルウェーでも日本と同様に海水温が上昇する問題はあります。しかし、生物の多様性や環境の変化も加味した上で、厳格に管理しています。その違いで資源量と持続性(サステナビリティ)の差はどんどん開いてしまっているのです。

今年の漁はどうだろうか?大漁祈願!などという時代遅れの漁業は、アイスランドやノルウェーにはないのです。

ノルウェーのマダラはなぜ大きいのか?

大西洋マダラの幼魚 日本も大きくなるまで漁獲せず幼魚を見るのは水族館だけでよいのでは?

欧州でマダラは食材の王様

ノルウェーの市場で売られるマダラ 小さいのはいない 

サバ、サーモンなどと並びノルウェーの主要魚種であるマダラ(大西洋マダラ)。漁獲量は、2019年で33万トンとサバ16万トンの約2倍。水揚げ金額は約900億円でサバの約300億円の3倍です。

日本でマダラというと下の写真のような鍋の具材などが思い浮かびますね。

北海道で水揚げされたマダラ

一方でノルウェーのマダラは、英国でフィッシュアンドチップス(写真下)での原料として、バカラオという干した塩ダラにして、ブラジル、スペイン、イタリア、ポルトガルなどへも輸出されています。またフィレにして各種の料理用に。

英国の定番 フィッシュアンドチップス

欧州でのマダラは、食材として魚の王様といって良い存在なのです。

小さなマダラは獲らないから大きくなる

マダラは最長で40歳、体長2メートル、60kgにもなる大型魚です(NSC)。

ノルウェーでは、漁獲サイズに制限があります。最低でも体長40cm(北緯62度以北は44cm)以下の漁獲は禁止(漁業省)。

日本では水産資源管理制度の不備で容赦なく漁獲されてしまうマダラの幼魚 これではなかなか大きくなれない

日本では残念ながら10cm前後のマダラの幼魚まで底引き網などで漁獲されているのが現実です。このため、大きくなる前に獲られてしまい、なかなか成長できず、卵も産めないという悪循環が続いています。

三陸では、一時的に東日本大震災で漁が制限されて資源が急増しましたが、2020年には元の低位に逆戻り。その主因は、海水温の上昇でも、他国の影響でもなく、幼魚まで獲れてしまう資源管理制度の不備。同じ間違いの繰り返し。しかし、時計の針は元に戻せず。

一方ノルウェーではサイズ制限もさることながら、TAC(漁獲可能量)が漁船の大きさや、漁船ごとに厳格に決められています。

下の表はオークションに使う2021年1月の最低魚価です。丸のまま(round)のサイズは、9kg以上、3.7-9kg、1.5-3.7g、1.5kg以下という4分類。

サイズが大きいほど価格が高く、漁業者は漁獲できる数量が、実際に獲れる量より大きく制限されています。このため、限られた漁獲枠でできるだけ価値が高い大きな魚を獲ろうとするのです。

ですから、小さな魚は避けようとする強い意思が働きます。もし、自分がノルウェーの漁業者だったらと考えたら容易にイメージできると思います。

(ノルウェー底魚類 漁業協同組合) NOK=¥12.24(2021年1月24日)

生物多様性を重視するノルウェー漁業

大きなマダラが毎年たくさん漁獲される理由は他にもあります。それは、生物多様性を重視し、マダラのエサの資源管理も厳格に行っているからです。

マダラの代表的なエサの一つが、シシャモ(カラフトシシャモ)。ノルウェーのマダラよりもはるかになじみが深いシシャモは、2019年から禁漁が続いています。

すでにシシャモの資源状態はかなり回復してきており、2022年以降の解禁待ちです。ところが漁獲枠を決める際に、マダラなどが食べる量も考慮されるために、なかなか解禁されません。シシャモの禁漁中に、漁獲されたマダラの胃袋の中にシシャモが一杯な状態であってもダメ。

シシャモをエサとする魚などが食べる量が、人間が漁獲する量より優先されているのです。

シシャモ漁が解禁されても、漁獲する際にマダラが混獲されているとその海域は禁漁になることがあります。日本ではマダラにもシシャモにも漁獲枠がありません。対照的に狙っていない魚がたまたま獲れたらボーナスになるだけでしょう。混獲による個々の資源への影響が考慮される体制ではないのです。

しかしながら、ノルウェーのように資源管理がしっかりしている国では、混獲は厳しく管理されています。だからマダラを始め様々な魚が大きく育ち、サステナブルなのです。

水産資源管理の違いによる資源量の違い

上の表をご覧ください。同じ大西洋のノルウェーとEUでは資源状態に大きな差があります。両国ともTAC(漁獲可能量)と漁船や漁業者ごとに漁獲枠を分ける個別割当制度を適用しています。

ノルウェー北部のバレンツ海はマダラの最大の漁場 (NSC)

一見似たように見えますが、大きな違いがあります。ノルウェーは1987年からマダラの海上投棄を禁止。一方でEUではようやく2019年からの禁止となりました。それまではEUは小型のマダラを海上投棄。これが資源量に悪影響を与える一因となってしまっていたのです。

下の最初のグラフは、EUが主漁場としている北海での漁獲量推移で、水色のdiscardは投棄された量です。次のグラフは、1987年にマダラの小型魚の海上投棄を禁じたノルウェーが主漁場としているバレンツ海の漁獲量推移のグラフです。(上のグラフは1,000㌧単位、下は100万㌧単位です。)

EUを主体とする北海での漁獲量推移 単位1,000㌧(ICES)  
ノルウェーとロシアを主体とするバレンツ海での漁獲量推移。単位100万㌧。 (ICES)

海上投棄が認められていれば、漁獲枠が決まっているため、価値の低い小さな魚を海上投棄して大きな魚を持ち帰る。これでは「成長乱獲」を起こしてしまいます。

一方で日本の場合は、マダラに漁獲枠さえないので、小さくても何でもできるだけたくさん獲ろうとしてしまいます。海上投棄はもちろん悪いですが、資源の持続性を考えると、EUより漁獲枠がないためにさらによくないのです。日本のマダラの漁獲量は約5万(2019年)です。本当はもっと資源も漁獲量も増やして行けるのですが、、、。

ノルウェーのように、小さなマダラは獲らない仕組みを作り、本来であればマダラのエサとなる小魚の資源量なども考慮して、科学的根拠に基づく数量管理をしていくべきではないでしょうか?

マダラの幼魚は、サステナブルな漁業にするために、獲ってしまうのではなく水族館で見られる程度にしたいものです。

大不漁 サンマ漁はどうなったのか?

新物のサンマ 焼いても脂がほとんどにじみ出て来ない 

社会問題 サンマ大不漁は正しく認識はされているか?

2020年のサンマの漁獲量はわずか2万9千㌧と、歴史的「凶漁」と言われ過去最低だった昨年を27%も下回りました。

ところが、その原因を客観的に分析した情報はなかなか見当たりません。消費者に取っては高くて細いサンマ、一方で漁業者に取っては魚価が高くても漁獲量が極端に少ないために水揚げ金額が不足。つまり双方に取ってよくない最悪の事態に陥っています。

また、同じサンマ資源を獲り合っている台湾・中国などとの国別の漁獲枠の合意もされていません。残念ながらサンマ資源を巡る環境は悪化の一途です。

矛盾だらけ! サンマが減った理由

①海水温の上昇により日本の沿岸に群れが近づかない②台湾や中国の漁船が日本に来遊する前に獲ってしまうなどの理由がマスコミを通じて報道され、多くの日本人が原因の本質を誤解しています。

①については、日本から遠く離れた「公海」の漁場でも不漁となっています。近づく前の群れ自体が激減していることを理解する必要があります。そうしないと、来年こそは!といった可能性が低いことに期待することになってしまいます。短期的に一時的に回復したような錯覚を覚えることがあっても、最低でも10~20年単位で漁獲量推移を見てみると、何もよくなっていない現実がわかります。

②については、今年の漁業は「公海」が主体であり、台湾、中国などの漁船と入り混じって漁が行われていました。同じ漁場である以上、日本の漁船が獲れなければ他国の漁船も同様に獲れません。ただし、他国は日本と異なり、洋上で凍結しているために陸地まで数日かけて往復する時間が不要です。このため日本の漁獲量は相対的に減少してしまいます。これは漁獲実績をもとに話し合う漁獲枠配分の話し合いの際に、不利な要素となってしまいます。

マイワシが増えたのでサンマが回遊しにくくなった?

農水省データを編集 

「マイワシの分布が拡大して、サンマが北へ東へと追いやられている?」日本では魚が獲り過ぎでいなくなると、その結果をもとに無理やり理由を付ける傾向があり、問題の本質からズレて行きます。そして結局は「原因はよくわからない」にたどり着くのです。これなら誰にでもできます。

上のグラフは、サンマと太平洋側で漁獲されたマイワシの漁獲量推移をグラフにしたものです。1980~1990年代にかけてマイワシの漁獲量は、200万㌧前後と現在の5倍前後もありました。一方で、サンマの漁獲量も同時期に20~30万㌧もあり、昨年(2020年)の10倍もの水揚げでした。マイワシがサンマの来遊を妨げているのなら、当時のサンマの漁獲量は今より少ないという理屈にならないでしょうか?

また、同様におかしな例が、イカナゴが激減した理由です。水がきれいになり過ぎて栄養分が減ったからという理由ですが、それならば海の水がもっと綺麗だった奈良時代や室町時代などは今より少なかったのか?という理屈になります。「資源管理制度の不備による魚の獲り過ぎ」という魚が減った本当の理由を捻じ曲げてしまうとそれらの理由には様々な矛盾が出てきます。もう一方で、問題が先送りされて何の解決も見出せなくなります。現実と真摯に向き合うことが重要ではないでしょうか?

サンマの水揚げ減少と魚価(水揚げ単価)の高騰で起こること

農水省データを編集

水揚げ数量と魚価の推移を表した上のグラフをご覧ください。2000年~2009年の年間平均水揚げ量は約30万㌧、単価は約キロ¥100でした。それが水揚げの激減に伴い昨年は、水揚げ数量でその約10分の1、単価は5倍となっていることがわかります。

年間30万㌧前後の水揚げがあった時期には、供給量が消費量に対して多過ぎるため、食用に回らず養殖のエサなどの非食用向けに2割程度回ることが少なくありませんでした。また、干物や缶詰などの加工原料にも次々に冷凍されて行きました。

ところが、ここ数年のように水揚量が減少し、単価が高騰すると養殖のエサに回していたような小さなサンマでも、供給不足により食用に回され易くなります。また加工原料に向けられる原料も相対的に減少し、かつ原料価格は高騰し使いにくくなってしまいます。

さらに、全体的にサンマ以外のサバなども含めて、海の栄養分が減っているためか成長がよくない傾向があります。

それで「サヨリ?」と呼ばれるような細くて小さなサンマが売り場に出てくるのです。また供給不足により単価が高い。このために消費者の財布に優しかったサンマは消えてしまう傾向が強くなっています。

昨年一時期活躍した冷凍サンマも、2019年の水揚げ自体が過去最低であったために冷凍にはほとんど回っていません。加えて2020年はさらに減るか、もしくは非常にコストが高い冷凍品となります。

サンマの水揚げ数量と金額推移から分かること

農水省データを編集

次に水揚げ数量と金額推移を示した上のグラフを見てください。2018年以前は、水揚げ数量が減っても、意外と水揚げ金額が減少していないことがわかります。漁業者に取って肝心なのは、水揚げ数量ではなく、水揚げ金額の方です。冷静に見れば、水揚げ量が減ると単価が上がるので、大漁が必ずしも漁業者に取って良いことではないのです。これは他の魚種でも概して同じです。

ところが、水揚げ金額は「水揚げ数量x魚価」で決まります。水揚げ数量があまりにも少ないと、魚価のアップで水揚げ金額の減少を補えなくなってしまうのです。そして今、それが起き始めています。

また、水温の上昇と資源の減少により、漁場が遠くなっています。ノルウェーサバのように漁船ごとに漁獲枠の割当がされていないので、小型の漁船ほど遠い漁場に向かいにくく不利になってしまいます。また、無理して出ていけば事故の危険性も高まります。

予想通りの大不漁 有効な対策なし

水産研究教育機構 

昨年の大不漁は事前の調査結果と予想の通りでした。上図の2020年9〜10月の調査結果では、北海道近海では見つからず。

ところで、サンマのTAC(漁獲可能量)は、26.4万㌧と漁獲実績(2.9万㌧)のほぼ10倍。しかもノルウェーのように漁船別の枠ではありません。このため、資源量を考えての漁獲を行う体制になっていないのです。

国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)での採択14「海の豊かさを守ろう」は、日本以外のサンマを獲る国々も守らなければならない内容です。そのためには、手遅れに近づいているサンマの資源管理をまともにすることが喫緊の課題ではないでしょうか?

将来が明るい漁業とは?

2020年は新型コロナが世界に影響した年でした。ところで漁業との関係はどうでしょうか?漁船や水産加工場などへの感染の影響はどうなのか?ファクトベースで見ていきましょう。

絶好調が続くノルウェー漁業

ノルウェーの大型巻き網船 デンマークに停泊中

まずはノルウェーの漁業についてです。サバニシンイカナゴ等を漁獲している青魚関係の水揚げ金額は、コロナの悪影響どころか過去最高金額。初めて10億クローネ(1,200億円)を超えて絶好調。魚を減らすことなく獲りつづける最大漁獲量(MSY=Maximum Sustainable Yield)に基づく漁業を続けています。

強さの秘訣は、豊富な資源がサステナブルに漁獲されているからに他なりません。そこには「大漁祈願」などという概念はありません。実際に漁獲できる量より、はるかに少ない漁獲枠が漁船ごとに設定されています。このため漁に行く前からシーズンごとの漁獲量が決まっていて、上述の主要魚種はもちろんのこと、その通りになるのです。

また、大量にいるシシャモ(カラフトシシャモ)が2019年から禁漁になっています。大量にいても獲らずに我慢しているのは、親魚量を20万㌧以上残すというルールが適用されているからです。しかし、すでに資源は回復傾向にあり、数年後には再び解禁されることになります。シシャモが加われば、さらに水揚げ金額の記録が更新されることでしょう。

主要魚種のマダラやニシンなども含め、漁業者が最も多い沿岸漁業ももちろんのこと、水産資源管理の成功による明るい未来が見えています。

アイスランド漁業の未来も明るい

ノルウェーだけではありません。アイスランドでも明るい未来が見えています。シシャモ漁はノルウェー同様に2018年から禁漁になっています。しかし、2022年には40万㌧(!)もの漁獲枠が発給される見通しです。

2021年ではなく、なぜ2022年なのか?それは、年齢ごとに資源管理されており、2022年に産卵する資源量が多いことが予め分かっているからなのです。

2021年も最低2万㌧枠が出ることに決まっていますが、これには今月と来月(1月~2月)にかけて資源調査が行われて資源状態に応じての追加枠発給が期待されています。

アイスランド海域での徹底したシシャモ資源調査(ノルウェー青物漁業協同組合HPより編集)

アイスランドのシシャモの資源管理は95%の確率で15万㌧の産卵親魚を残すことです。資源調査は、上図のように調査船と漁船により縦横無尽にアイスランド周辺海域が徹底的に調査され、科学的な調査結果に基づいて漁獲量のアドバイスが出されます。

北米(アラスカ)の漁業も明るい

すり身で11万トンやタラコで2万トン(2019年)輸入しているアラスカのスケトウダラ。その漁業の未来もとても明るいのです。2020年の漁獲量は、TAC(漁獲可能量)が143万㌧で、漁獲量は137万㌧。枠の消化率は96%でした。

2021年のTACは138万㌧です。そして暫定的に2022年のTACは140万㌧となっています。ノルウェーのサバやニシンなどと同じで、TACが資源の持続性を考えてかなり低く設定されているために、TACの通りの漁獲量となります。

ノルウェー、アイスランド、米国(アラスカ)を始め、水産資源管理に成功している国々では、当年だけでなく、その先の主要魚種の漁獲量も分かりかつ正確です。

「今年の漁に期待!」とか、「大漁祈願」などはなく、漁期の前に科学的な調査が行われます。そして漁獲枠が設定され、その通りに水揚げされて行くのです。漁業者は価値が低い幼魚の漁獲を避け、魚価が少しでも高くなるよう、水揚げを分散する戦略を取って行きます。

日本の漁業に未来はあるのか?

昨年12/1に施行された改正漁業法に基づき「国際的に見て遜色がない資源管理」されていかねばなりません。

国産のイカナゴ 

ところで昨年壊滅的だった仙台湾のイカナゴ(コウナゴ)では、操業前に20か所で調査して見つかったのは僅か1尾(キロでもトン)でした。しかしながら設定された漁獲枠は9,700㌧。そして水揚げ量は106キロ(トンではない)。果たしてこれは科学的根拠に基づく資源管理だったのでしょうか?

皮肉にも、ノルウェーの2019年のイカナゴ漁は、漁獲枠25万㌧に対して24.4万㌧の漁獲量(消化率98%)と絶好調でした。海水温の上昇による影響は、ノルウェーでもあります。しかし、結果は極めて対照的です。

スケトウダラについても、TACの設定をかなり慎重に行うことです。アラスカのようにMSC認証を持つサステナブルな資源状態とは大きく異なり、日本の資源はかなり傷んでしまっています。

スケトウダラ 日本海北部系群の漁獲推移 漁獲量が減った原因とされた韓国漁船の漁獲量はオレンジの量に過ぎなかった。(出典:水産研究・教育機構)

例として上のグラフを見て下さい。日本海北部系群の資源減少の原因は、オレンジ部分の韓国漁船の漁獲量のせいとされていました。しかし1999年に韓国漁船の撤退後は、資源が回復するどころかさらに激減。結局主な減少要因は、日本の水産資源管理の不備にあったのでした。

ファクトをベースに客観的に見ていくと、魚が減った本当の理由は海水温の上昇や海外のせいではなく、自国の水産資源管理に問題があったケースがほとんどであることがわかります。

もちろん、それらに原因がないとは言いません。しかしそうであれば予防的アプローチを取るべきなのです。

改正漁業法の施行に伴い国連海洋法やSDGsでも明記しているMSY(最大持続生産量)を取り入れたのは国際的に見て遜色がない資源管理への第一歩と言えます。

ただし、その実現可能性50%以上という設定数値の低さが気になるところです。50%では半々の確率「当たるも八卦当たらぬも八卦」。一方で、北欧や北米などでは、上述のシシャモを始め95%の実現性がベースになっています。

50%以上には95%も含みます。資源管理は結局は厳しく管理して資源を回復させている国々が勝者となっています。一方で緩い管理は乱獲が行われ易く、幼魚にまで手を出してしまい産卵する魚がいなくなってしまうという悪循環を生みます。国際的に見て、現状ではその後者の典型が、残念ながら我が国と言わざるを得ません。果たして中身と効果を伴う95%の内容にできるのでしょうか?

世界には、絶好調な漁業が多く存在しています。そしてその一部は日本に輸入されています。世界で水産物の消費は増え続けており、国際価格が上がり、希望する通りに輸入できなくなってきています。そうした現実に対応するためにも日本の魚資源を回復させることは、漁業だけでなく消費の面からも待ったなしなのです。

ヒラメはなぜ釣れるのか? 

なぜヒラメが増えたのか?

千葉県以北の太平洋沿岸で安定して釣れているヒラメ。様々な魚が獲れない話題が尽きない中で、なぜ釣れ続けるのでしょうか? 

筆者が釣ったヒラメ。40cm以下は針をのんでいなければリリース

ヒラメが釣れるのは、ヒラメの資源が多いからに他なりません。それには理由があります。これからお話することは、欧米・オセアニアといった国々では常識。しかし日本ではそれが常識ではありません。このため世界の中で日本の海の周りだけが魚が減り続けるという怪現象が続いているのです。皮肉にもヒラメはその原因が分かる一例なのです。

震災後に増えたヒラメ資源

東日本大震災後に増えた魚がいました。三陸などで水揚げされるマダラ(太平洋北部系群)やマサバ(太平洋系群)を始め、放射性物質などの影響で漁業や漁獲海域が一時的に制限されたことで強制的に資源管理が行われたことが主因でした。

その中でも資源量が特に増えたのがヒラメ(太平洋北部系群)なのです。

ヒラメ 太平洋北部系群の資源量推移              (水産研究・教育機構)

上のグラフを見てください。2本の赤線は資源量の低中位(下)と中高位(上)の境界線を示しています。しかし、震災後以降は上の高位の4倍ほどに激増していることがわかります。魚の資源量の増減に、いかに漁業という人間の力が影響していいるのかが解ります。

ヒラメの親魚量 推定資源量推移    (水産研究・教育機構)

上のグラフは、ヒラメ(太平洋北部系群)の資源量の中で、親魚の資源量推移を表しています。先に述べました通り、東日本大震災を境に漁業が中断されて、親の資源が増えました。そして、その親魚が産卵して資源量が増えているのです。

資源管理に成功している国々では小さな魚は獲らない

北欧を始め、水産資源管理に成功している国々では、親魚(産卵親魚)を獲り過ぎないよう最大限の注意を払っています。そして、魚を減らすことなく獲り続けれられる最大値(MSY)が達成できるTAC(漁獲可能量)を設定して、資源管理に成功しているのです。

日本ではヒラメにTACさえありません。ただ、小型魚の保護を目的に30cm以上(一部35cm以上)といった全長制限が実施されています。福島県では試験操業の開始以降50cm以上に制限しています。手のひら大のヒラメが水揚げされないための制限はあるものの、30cmでもまだ未成魚なのです。

ヒラメはオスは2歳、メスは3歳で100%成熟。寿命10~⒓年 (出典:水産研究・教育機構)

100%成熟するには50cm(雌)以上に成長している必要があります。本来であれば30cmの制限でも十分とはいえないのです。

丸のままの状態で30cm前後しかない、小さなヒラメの刺身。

ヒラメの未成魚が自然と店に並んでしまう日本。消費者も安ければ購入します。一方で10~12年の寿命と言われるヒラメ。それを1歳になったばかりのヒラメの幼魚を獲り続ければ「成長乱獲」が起きて資源は減り始めてしまうのです。

釣りのレギュレーションがない問題

日本では、釣った魚を持って帰る際の法的なレギュレーションを聞きません。このため、小さな魚でも、釣り過ぎていても遠慮なく持って帰れます。釣り人が年間釣り上げる量は少なくなりません。一方で、どれだけ釣ったかというトータル数量の話さえ聞かないのが現実。肝心のデータがないと、資源管理はより難しくなってしまいます。

欧米を始めとする漁業先進国と異なり、日本では水産物は「国民共有の財産」ではなく、「無主物」という位置付けになっています。とても大事なことなので、2020年12月1日に施行された改正漁業法で法制化されなかったのは残念でした。「国民共有の財産」であれば、資源をサステナブルにするための様々な意見が国民から出てきたことでしょう。次回への大きな課題です。

本来であれば、釣りも含め、漁業ごとに科学的根拠に基づいてヒラメのTAC(漁獲可能量)を決めて分割することが不可欠なのです。漁業者ごとの枠を厳格に決めれば、漁業者は自然と単価が安いヒラメの幼魚は狙わなくなります。そうなれば成長して親となり産卵して資源を増やす機会に恵まれる好循環が始まります。

また、釣りに対しても遊漁船ごとに持ち帰る数量を決めることです。ただし、これも釣り切れないような大きな数量にならないことが非常に重要です。

釣った小さなヒラメを放流 元気に海底へ戻って行く。

科学的根拠に基づき、ヒラメの資源管理ができるようになれば2㌔、いや3~5㌔以上のヒラメが普通に釣れるようになります。そうなれば、釣り客は1~3尾程度持ち帰れば十分。今よりもっとお客さんが増えることでしょう。

小さなヒラメは逃がす、そして大きくなるのを待つ。「小さな魚は大きくなってから釣ろう」という考えと具体的な行動が重要ではないでしょうか?