サバなぜ不漁?データは合っているのか?

引退したノルウェー青物漁業協同組合のディレクターとの会話

ノルウェー青物漁業協同組合 筆者提供

2023年3月ノルウェで開催されたNorth Atlantic Seafood Forumに、スピーカーとして招待される機会を得ました。その際、同月に引退した前ノルウェー青物漁協協同組合のKnut Torgnes氏に会う機会がありました。

もう10年以上前のことですが、ノルウェーの資源管理システムについて彼に、何度も詳しく聞いたことがあります。「そんなに教えたら資源が回復して、日本がサバを買ってくれなくなるのでは?」と本気で心配されました。

「そんなことはないので頼みます。」と言いながら学びましたが「結局日本のサバ資源は回復しなかったね。」と当時のことを回想して言われました。もっとも習い始めてから数年で、回復はないと思ったのか、質問には必ず答えてくれるようになっていました。

写真は同組合が入っているビル。事務所内は非常に立派で、わずか40人ほどで年間約130万㌧(2022年)もの青物を管理しています。日本ではこの種の管理に一体何人が関与しているのか?見習いたいものです。

青物ではノルウェーサバを始め漁獲数量・漁場・サイズなどは24時間、リアルタイムで更新されています。TAC(漁獲可能量)の消化状況も同様です。日本の場合、全国のサバの水揚げ量がリアルタイムで紹介される仕組みはありませんし、TACの消化状況も、発表されるのは漁獲の数か月後。全然リアルタイムではありません。

誰もしないサバの不漁を分析してみた

防波堤で釣られていたマサバ 筆者提供

2023年・日本ではサバの不漁に起因する缶詰の一部休売や、加工原料不足といった問題が起きて話題になりました。日本でサバが不漁になるとノルウェーを主体する北欧のサバへの需要が高まります。そして相場商材なので価格は上昇。

日本のサバ類(マサバ・ゴマサバ)の内、太平洋で漁獲されるマサバが約6割(下表参照)を占めています。

塩サバ・缶詰といった加工品に向けられるのは、サバ類の内のマサバ(太平洋系群)となります。最も影響が大きい、その資源についてフォーカスしましょう。

水産研究教育機構

次にサバが不漁になった理由で、以下①~③についてデータを基に検証しましょう。

①「サバはいるが獲れない。」

②「マイワシがたくさんいてサバが近寄れない」「マイワシにサバが底へ追いやられる。」

③「巻き網漁は100メートル強の深さまでしか届かないので生息エリアに届かない」「イワシの巨大な群れが近付くとサバは下の方に逃げてしまう」などといった理由がマスコミにでていますが、本当でしょうか?

①サバの資源評価は合っているのか?「サバはいるがとれない?」

マサバ(太平洋系群)の資源量推移 水産研究教育機構

上のグラフはマサバ(太平洋系群)の資源量推移を示しています。下の漁獲グラフを見てわかる通り、漁獲量が100万㌧を越えていた1980年前後よりも資源量が多いというデータ(予測)になっています???

ここで最大の問題は、資源通りに漁獲量が増えずで、それどころか不漁になって社会が困っていることにあります。ちなみにデータ上はサバがたくさんいるはずなのに、サバがその通りに獲れないといった珍現象はノルウェーサバでは起きません。データの正確性が問われます。

 マサバ(太平洋系群)の漁獲量推移 水産研究教育機構

さらにデータを細かくみると矛盾が出てくる

マサバ(太平洋系群)の親魚資源量の推移  水産研究教育機構

上のグラフはマサバ(太平洋系群)の親魚資源量の推移を示しています。親魚量は大量に獲れていた1980年前後より多いというデータです。さらに4歳以上で、成熟割合100%の大きなサバが多いというデータになっています。ところが不漁です。サバはいるのに獲れないのでしょうか?さらに検証していきましょう。

②「マイワシがたくさんいてサバが近寄れない」?

北部太平洋でのマイワシとサバの漁獲量推移   農水省データを編集

マイワシの資源が多くてマサバが来遊しないという説があるようです???ところが、上のグラフをご覧下さい。マイワシの漁獲量が、現在よりもはるかに多かった1980年代の中ごろは、マサバの漁獲量は現在よりもはるかに多かったことがわかります。

もし、マイワシが原因であれば1980年代の中ごろのマサバ漁は、現在よりもかなり少なかったはずですが、そうなっていません。サンマの不漁もマイワシが多いから同様に来遊が少ないといった説もありますが、これも同様で、科学的に分析すると矛盾が露呈します。

さらに、北欧の漁業関係者と話した際には「マイワシはマサバのエサだよね」と言われました。「何でエサからマサバが逃げるの?」とますますマイワシのせいにはできなくなってしまいます(笑)。

③巻き網ではマイワシの追われて底にいるマサバに届かない?

日本のEEZ内で操業するロシア漁船 (筆者提供)

サバが獲れないのは、マイワシが底に追いやっているから???という説があるようです。魚探には、深く潜っていてもサバが映ります。しかし単に見当たらないので映らないのです。巻き網漁船は100~150メートル前後の水深でサバを漁獲することが多いのですが、深海魚ではありません。

サバは、カレイやタラなどのように常に海底に住む底魚ではなく「浮き魚」です。だから巻き網で漁獲されます。「巻き網が届かないところにいるから獲れない」が「非現実的」なことはデータを基に明確に後述します。

しかしながら、このような視点を変えた説明には、事情を知らないマスコミなどが取り上げてしまうために誤解がさらに進んでいます。

太平洋でのマサバ漁獲量は、日本もロシアも同じ43%の減少 (NPFCデータを編集)

「深く潜っているからサバが獲れない」が理由にならないことを、データで説明しましょう。上の表は北部太平洋における日本とロシアのサバの漁獲量を比較したものです。

日本の漁船だけでなく、日本のEEZ内も含むロシア漁船の漁獲量は、2022年は前年(2021年)比で偶然にも共に57%の不漁となっています。

ロシア漁船は、巻き網主体の日本漁船と異なり98%が中層引きのトロール漁船です。トロール漁船は巻き網漁船と異なり、数100メートルもの深さでも漁獲可能です。

つまり、「サバが深いところに居るので漁獲量が減ったは誤り」なのです。

NPFC 青に海域が対象

上の地図はNPFCでの対象海域を示しています。青い海域が対象です。ところで、中国漁船のサバの漁獲量は同様の比較では2022年は11万㌧と前年比102%となっています(NPFC)。どうやらこれがサバがいる根拠のようです。しかしながら、日本やロシア漁船がEEZ(排他的経済水域内)内が漁場であるのに対して、中国船の漁場は、はるかかなたの公海です。

仮にサバが日本やロシア近海に来遊してこないのが原因ならば、中国漁船の漁獲量は前年並みではなく、大漁のはずですがそうなっていません。

サバだけであなく、サンマも同様ですが、資源はある筈なのに獲れない状態が続いています。そもそもあると言われている資源は、実は「埋蔵金」に期待してTAC(漁獲可能量)が設定されている可能性が高いと言えます。そのために設定される獲り切れない漁獲枠の為、乱獲が止まらない状態になっていることに国民は気付く必要があります。

もし、資源評価がよくわからないのであれば、「甘くする」のではなく、「予防的アプローチ」を適用して、漁獲枠を小さくするのが世界の常識です。「減った原因はよくわかりません」で問題を先送りにするのは、いい加減に止めるべきなのです。

Norway Bergenでの落書き

サバが獲れなくなっている主な原因は、資源評価が甘く、ジャミ、ローソクといった小サバの乱獲で「成長乱獲」が起きているからです。これは、漁業に起因する問題ではなく、資源管理の仕組みに問題があるのです。

本当のことを言えばご自分たちの得にならないからでしょうが、科学的根拠に基づき、乱獲を止める仕組みを作りましょう。多くの関係者はその事実がお分かりのはずです。