国会で水産資源管理のことを話してみました


参議院 国際経済・外交に関する調査会 2020年2月12日

2/12に参議院で国際経済・外交に関する調査会が開催されました。そこに参考人として水産資源管理のことを話して欲しいと依頼があり、話をして来ました。3人の参考人が呼ばれ、その1人がさかなクンだったので、マスコミの注目は凄く、帽子を取るとかとらないとか、あちらこちらのTVにも映っていたそうです。

参議院からの招待状

ちなみに、会議ではさかなクン参考人ではなく、さかなクンと呼ばれ、ご自分のことは、さかなクンといってました。本当にさかななんだ(笑)。

テレビは「さかなクン」一色でしたが、参考人が3人が各20分話し、それに対して2時間弱が質疑というまじめな組み立てでした。さて、その中で、いつも出てくる重要な質問がありました。

世界と日本のグラフ

筆者のプレゼンは、世界と日本の水揚げ量の推移の違い、世界の中で、日本の海の周りだけが、世界銀行に水揚げ量が減ると予測されており、すでに予想を上回るスピードで悪化していること。減少要因とされる海水温の上昇などの要因は、日本だけに起こっている問題ではないこと。水産資源管理の成功により、成長を続けているノルウェーでは、漁船の大小に関わらず99%の漁業者が満足していると説明しました

さらには、データを元に同国では魚の資源が増え、補助金が減るという現象が起きており、その根本にある政策が、科学的根拠に基づく「漁獲枠=TAC」の設定とそれを漁業者や漁船などに、個別に割り当てていく「個別割当方式=IQ、ITQ、IVQ」にあるという説明などをしました。アイスランド、デンマークといった漁業で成長している国々と制度が共通していることも解説しました。

日本は、皮肉にも東日本大震災で、マダラなどが漁獲圧力の減少で、一時的に魚が増えたものの、従来通りのやり方で、小さな魚まで獲ってしまい、数年で元に戻ってしまったこともデータで明示しました。

太平洋側のマダラ資源は、震災後一時的に資源が激増。しかし漁獲枠もなく獲り過ぎて元の木阿弥に。 左上図・右上写真(水産研究・教育機構)、左下(ASMI)

マダラの資源推移を例とした具体的な説明

さてその質問内容を要約です。「なぜこれほどやるべきことは明快なのに、日本は水産資源管理ができないのか?」 同じ質問を、これまで様々な分野の方から一体何回受けたことでしょうか‼

水産資源管理については、漁業先進国と異なり、日本では事実がほとんど知られていないため、魚が減るとそれが海水温の上昇や外国が悪いという責任転嫁ばかりになってしまうことにあります。

政治家の皆さんに事実が伝わっていないので「間違った前提に対する正しい答え」という最も悪い政策がこれまで繰り返し行われて来ました。

漁業で成功している国々でも、水産資源管理に対しては、最初は反対でした。しかし、最後には政治的な判断が行われています。親しいデンマークの漁業会社(当時)でも、反対が強くもめたものの、最終的には自分がまとめて個別割当制度(ITQ)を実施したと直接聞いたことがあります。

ノルウェーのマダラ資源は、漁業大臣の判断で高水準が維持され続けている。その地方や産業に対する好影響は計り知れない。(オレンジ色の棒グラフが、マダラの水揚げ金額推移)

ノルウェーで当時の漁業大臣が1987年にバレンツ海(ノルウェー)でのマダラの海上投棄を禁止したことが、2019年まで禁止しなかったEU(北海)での資源量の決定的な違いとなっていることもグラフ(オレンジ色の折れ線グラフ)で説明しました。

ノルウェーでは、小さなマダラを投棄すれば将来の資源に悪影響するという正しい情報に対して、現実的には難しいという反対を押し切って、大臣がマダラの海上投棄禁止の判断し、将来に豊かな資源を残したのです。

法律になることで、漁業者は漁場の変更や、網目を大きくするなどの早急な対応が必要になったはずです。

日本は、マダラの漁獲枠さえないので、赤ちゃんマダラも容赦なく水揚げしています。

三陸沖で漁獲されるマダラの幼魚 資源管理が進む北欧や北米では決して水揚げされない

ノルウェーの水産資源管理は沿岸漁業者を優遇という事実

「沿岸漁業者はどうなるのか?」 北欧型の水産資源管理制度の是非を巡って大きな誤解があるのは、沿岸漁業への配慮についてです。

漁村崩壊とか、漁獲枠によって社会問題が起きているなどというのは、大きな誤りであり、その逆です。 ノルウェーなどでそんな話をすると、どこの国にこと?と苦笑いされてしまいます。

ノルウェーでは、地方への配慮から、小型の漁船枠が大型漁船に売られない制度になっています。このため日本のように沖合と沿岸漁業間で起こる不満は過去の話です。マダラなどで資源量が少ないときには、沿岸漁業への配分を増やして配慮しています。

漁業者の数で言えば、多いのは沿岸漁業者の方です。そのような環境下で、99%の漁業者が満足しているのに、それがなぜ社会問題になっていると言われるとしたら理解に苦しみます。

外国人の船員が多いなども間違いです。一般的なサラリーマンより収入が高く、個別割当制度により、計画的に休みも取れる仕事をなぜ外国人に譲るのでしょうか?

時代の流れと水産業改革(日本経済調査会)による提言

ご紹介したノルウェーを始めとする水産資源管理について初めて広く世に伝えたのは、3人の内のもう1人である小松正之さんでした。それは、2007年に日本経済調査会で発表されました。

当時は、北欧型を含む先進的な水産資源管理の紹介は「見てきたような嘘」「素人談義の底の浅さを暴露」「日本型の管理手法に対する評価が高まりつつある」などと何名もの学者の方などに批判されました(そのWebは削除されています。)。しかしながら、時代が変わり、政治家の方々にも正しい情報が伝わり始めました。そして同氏が中心となり、2019年に第二次水産業改革委員会の最終報告が発表されています(2017年開始)。

2018年12月に70年ぶりの漁業法改正と言われている法律に改正には、その一部が熱意のある政治家の方々によって最初の一歩が踏み出されているのです。何が本当だったのか、はっきりとわかってきたのです。

最後に、水産資源管理に関係する人が多い中、なぜ学者もない筆者が参考人として代表して国会に呼ばれたのか?

実は、本当のことをいうと自分のためになりません。 そのことが、日本だけが魚が減り続けている異常な状態につながっているのです。この辺は、「サカナとヤクザ」の続編などで、事実に基づいた報道が行われれば、多くの地方と人が救われるきっかけになることでしょう。

日本の水産資源管理は、それ自体大きな社会問題でもあります。消費者、仕事、そしてSDGsを達成する国として、ほとんどの日本人が関わっている大問題なのです。そのためには、国民、そして政治家の皆さんが、日常生活に大きくかかわっている重大な問題を、客観的な事実に基づき、正しく理解して世論を変えて行くことなのです。

コメントを残す