シラスは獲っても良いのでしょうか?

カタクチイワシの稚魚 シラス

シラスとは?

小魚の問題投稿したところ、それではシラスの漁獲はどうなのか?と、とらえられる方が多かったようです。みなさんが食べられているシラスの大半はカタクチイワシの子供です。今回はそのシラスについての投稿です。

養殖に使うシラスウナギ 

普段食べられているシラスにはいくつか種類があります。カタクチイワシのシラスほどメジャーではありませんが、マイワシやウルメイワシの稚魚もシラスです。また、シラスとは呼びませんが、後述するイカナゴ(コウナゴ)の稚魚も、ちょっと細長いシラスのように見えます。

ところで、養殖に使うウナギの稚魚もシラス(ウナギ)と呼びます。その昔、スペインなどでシラスウナギを食べる習慣がありました。今では資源が激減し日本同様に絶滅危惧種となり、代わりにスリミを使ったイミテーションのシラス(ウナギ)の製品が売られているのです。

日本人は小魚が大好き

釜揚げシラス カタクチイワシの稚魚

スーパーの魚売り場に行けば、必ずと言ってよいほど目にすることができるシラス。その主な親であるカタクチイワシは、春から秋までの長い期間に渡って産卵します。冷凍して解凍したシラスも広く出回っていますので、周年供給されているのです。シラス丼、パスタ、おにぎリと様々な料理に相性抜群ですね。

そんなシラスは沿岸で、細かい網目の網で漁獲されています。稚魚を獲っても資源は大丈夫なのでしょうか?現状では、禁漁期間を設けていることがあるそうですが、カタクチイワシには肝心の数量を管理する漁獲枠さえありません。

漁獲量の推移を見てみる

農水省データを編集

全体で見ると、青の折れ線グラフが親のカタクチイワシの漁獲推移で、赤がシラスです。カタクチイワシの漁獲量は、 1956年~2018年の平均で297,495㌧、2018年の漁獲量は109,800㌧と大きく減少しています。一方で、シラス(注)の同平均で54,868㌧、2018年は50,000㌧と親のカタクチイワシの漁獲量の推移と違いほとんど変化がありません。

これは、シラスの漁獲は小規模な沿岸漁業による漁獲主体であるため、仮にシラスの資源量が多かった時期でも、増えていても物理的に獲れなかったものと推定されます。

ただしこれも、イカナゴですでにそうなってしまっているよう、資源量が大きく減ってしまい禁漁を強いられたり、ほとんど獲れなくなってしまう事態になる懸念もあります。

(注:シラス=カタクチイワシの稚魚という前提)

こうすれば問題はない

シラスを獲ってもよいのか?に対しては、まず産卵できる親の資源量が持続可能(サステナブル)なレベルであれば、問題ないと言えます。つまり、シラスのような稚魚を獲ってしまうこと自体が本質的な問題ではないのです。魚を減らすことなく獲り続けられる最大の親の資源量を維持しながらの漁獲となっているかどうかが問題なのです。

魚を減らすことなく獲り続けられる最大量をMSY(最大持続生産量)と呼びます。漁業先進国より数十年遅れて、漁業法改正で、その考え方がようやく取られることになりました。

困ったことに日本はMSYをほとんど無視してきましたが、この考え方は、1996年に日本が批准した国連海洋法や2015年に国連で採択されたSDGs14(海の豊かさを守ろう)の中でも明記されています。

SDGs 持続可能な開発目標 14 「海に豊かさを守ろう」

シラスのような稚魚であっても、卵を持っている魚であってもMSY(最大持続生産量)を維持できる漁獲量であることが不可欠です。そしてそれが漁獲枠(TAC)と個別割当制度(IQ、ITQ、IVQなど)でセットになれば、あとは漁業者が経済的なことを考えて、どの時期の魚を獲れば単価(水揚げ金額)が上がるか考えて漁をするだけになります。

単価が高い魚は、それだけ食用として消費者にとって価値がある魚ということです。消費者にも、漁業者に取っても価値がある魚を獲るべきであって、現在のように多くの親の魚が減ってしまい、価値がない小型の魚まで獲ってしまう構図は、言うまでもなく、最悪のケースなのです。

海外のケース

カタクチイワシやイカナゴは海外でも多く漁獲されています。カタクチイワシ(アンチョビー)の漁獲で有名なのがペルーです。ペルーでは資源量の増減により大きく変化しますが、年間100万㌧以上も漁獲されています。ただし、彼らはシラスのような幼魚は漁獲しません。幼魚の比率が増えてくると、その漁場での漁獲を禁止して資源を維持します。

ノルウェーのイカナゴ 幼魚は漁獲せず フィッシュミール向け

またイカナゴはノルウェーやデンマークなどの北欧諸国でも獲られています(写真)。ノルウェーでの年間漁獲量は、2019年の漁獲枠125,000㌧に対して124,786㌧でした。消化率は99.8%。ちなみに日本のイカナゴ漁獲量は、漁獲量の減少が止まらず14,600㌧(2018年)でした。そしてこれらの国々でも、ペルー同様に稚魚は漁獲しません。なぜなら食べる習慣がなく、幼魚に価値がないからです。

細長いのが特徴のイカナゴの稚魚

カタクチイワシや、イカナゴの水産資源管理には、ペルーやノルウェー・デンマークと日本には決定的な違いがあります。それは、科学的根拠に基づいた漁獲枠(TAC)の有無です。さらにこれらの国々は漁獲枠が漁船や漁業者に配分される個別割当制度(ITQ/IVQ)が設定されて、資源管理が行われています。

これらの国々でも、もし稚魚に価値を見出せば獲りに行くことでしょう。しかしながら、稚魚を獲れば親の資源量に悪影響を与える「成長乱獲」が起きる懸念があります。そこで間違いなく将来の資源を持続的にするための「親の資源量」を残すことを考えた上で、実施することでしょう。

つまり、シラスを獲ってよいかについては、科学的根拠に基づき、カタクチイワシのMSY(最大持続生産量)を維持できる量であるかどうかなのです。それができる範囲の漁獲であれば問題ありません。

逆にいうと、現在のように漁獲枠を設けず、カタクチイワシの資源をどれだけ残すかも決まっていない状態で、シラスを獲り続けることは、将来に禍根を残すリスクが高いということです。

シラスの資源量は、もちろん環境要因によっても影響を受けます。しかしながら、魚が減っているのを、自国の水産資源管理制度の不備にあることを棚に上げて、環境や外国のせいにばかりに責任転嫁をしてしまうのはよくありません。

結局は、すでに様々な魚種で起こっているように、魚が減って、漁業者のみならず、魚で生計を立てていた皆さんや、我々消費者含めて、多くの人を巻き込んでしまいます。

イカナゴの漁獲推移 温暖化の問題が起こる以前から減少が続く

イカナゴを例に取ると、4年連続の禁漁になった伊勢湾・三河湾や、不漁が全国で続くなか、せめて宮城だけでもと言われた宮城も、昨年のわずか3%、24㌧の水揚げとなり、壊滅的になってしまいました。

一方で、資源管理を科学的根拠に基づいて、漁獲枠を設定し、それを漁船ごとに個別割当制度で運営しているノルウェーでは上記のように、資源が豊富で豊漁でした。

グラフを見ると、全体では日本のイカナゴの漁獲量が減り始めたのは、1980年代以降で、それが現在に至っていることが分かります。

激減した理由として近年の温暖化が挙げられています。短期的には、それも影響していることでしょう。しかしながら、イカナゴが減っていると言われる現在より、30年ほど前から明らかに減少が始まっていたことが分かります。

イカナゴが激減した理由は、日本の水産資源管理制度に根本的な原因があり、それに近年の温暖化が追い討ちをかけているのではないでしょうか?

また、ノルウェーの方が、必ずしもイカナゴがたくさんいるから漁獲量が多いというわけではありません。日本では1970年台に20〜30万㌧も年間で漁獲されており、この数量はノルウェー昨年の漁獲量よりも多かったのです。

海域により多少の凸凹はあっても日本全体での上記の結果は、決して偶然ではなく、水産資源管制度による違いに起因する必然です。シラスは、親のカタクチイワシを含めて、ノルウェー同様に科学的根拠に基づき、早急に枠を決めて管理すべきなのです。

こんなに小さな魚を獲っても大丈夫でしょうか?

鉛筆と同じような長さの小さな小さなマダラ

小さいうちに獲ると魚は大きくなれない

魚によって寿命は違うのですが、小さいうちに漁獲してしまうと、成魚になって卵を産んで子孫を残す機会を奪ってしまいます。これを「成長乱獲」と言います。

また魚を減らすことなく獲り続けられる数量をMSY(最大持続生産量)と言います 。産卵する親をサステナブル(持続可能)な量に維持して魚を獲り続けることが世界の漁業の常識であり課題です。

海の憲法と呼ばれる国連海洋法や2015年に採択されたSDGsの14(海の豊かさを守ろう)にも、MSYによる管理が明記されています。

小さな魚まで獲られてしまう国は?

可食部がほぼない、小さな小さなノドクロ(アカムツ)

小さな魚を獲ってはいけないことは誰にでもわかるはずです。しかし、それは大概の場合、どこか他の国のことで、自分たちには関係がないことと思われることでしょう。しかしながら、水揚げの現場や売場の魚に解説を加えると、問題が身近にあることがはっきりわかります。

食用にできずエサにしてしまうケースは別にして、日本人は、ほぼ魚を捨てることなく、とても器用に使います。このため、とても小さな魚でも、「ひらき」にしたり、ほとんど食べるところがなくても、魚肉の部分をとって、練り製品やカマボコなどに混ぜたりします。

もっとも、小さな魚でも、資源が潤沢にあり、獲っても持続性に影響がなければ問題はありません。しかしながら、資源が少ないのに、小さな魚を獲ってしまうとなると話は別です。

日本の場合は漁獲枠がなかったり、あっても漁獲量より漁獲枠が大きすぎて機能してないケースがほとんどです。このため、漁獲圧力が高くなって、水産資源に非常に悪い影響を与えているケースが随所に見られます。その結果、日本の漁獲量に対しては、世界銀行やFAOが非常に悲観的な見通しを出しています。

皮肉なことに、売り場などで見る幼魚、小さな甲殻類などは国産ばかりです。科学的根拠にもとづく水産資源管理が機能している漁業先進国である北米、北欧、オセアニアなどでは、日本と違い、まだ価値が低い小さな魚はもったいないので漁獲しません。日本が輸入しているのは、価値も価格も高い輸入水産物です。このためあれっ「⁉️」と思う小さいのは国産の魚介類ばかりなのです。

可食部は?小さな毛ガニ

小さな毛ガニやズワイガニも見かけます。カニはエビのように丸ごと唐揚げにできません。小さなカニはそもそも可食部がほとんどないのです。もっと大きくなってから獲れば良いのにと思います。

しかし、そもそも漁獲枠がなかったり、漁獲枠があっても大き過ぎたり、または個別割当方式になって配分されていなかったりでは、自分が獲らなければ他の人に獲られてしまうという発想になってしまいます。これを「共有地の悲劇」と言います。

その結果、将来にとって悪いと分かっていても、小さな魚を獲ってしまいます。そして獲れなくなるとさらに頑張って小さな魚でも獲り、さらに減って行きます。これが多くの魚種や地域で起こっているのです。これがまさに悪循環が全国各地で起こっていることです。

小さな小さなスルメイカ

4年連続で水揚げ量がダウンし、過去最低の水揚げ量になろうとしているスルメイカ。他国のせいや、水温が低くて???など、減った理由の責任転嫁が多い反面、写真のように、自国で生まれたばかりの小さなスルメイカまで、容赦なく獲っている現実を知る必要があるのではないでしょうか?

何尾いるのか?シシャモの幼魚 

写真のシシャモは幼魚。1パックの中に一体何尾いるのか分かりません。どれだけ小さな網目ならこんなに小さな魚を獲ることができるのでしょうか?資源保護のために、今年シシャモ(カラフトシシャモ)を禁漁したノルウェーやアイスランドでは、幼魚がたくさんいる居場所を知っています。しかし資源の持続性を考えて、幼魚は決して獲らずに成熟して大きくなるまで待って獲ります。

これだけ小さいと、もちろん卵はありませんし、とても干しシシャモにできる大きさではありません。

漁業法改正により、これから国際的にみて遜色がない資源管理を行うことになりました。逆にいえば、これまではそうではなかったので、水産資源が減り、魚で生計を立てていたコミュニティの衰退が止まらないのです。これまで国内外の数多くの現場を見てきたので実感します。

魚の資源が潤沢であり続ければ、小さな魚を獲りたければ獲って構いません。ただ、漁業先進国のように漁船や漁業者ごとに漁獲枠が厳格に配分されていれば、経済性を考え、漁業者自ら価値が低い小さな魚を獲るのを避けるようになります。

小さな魚まで獲ってしまう日本の問題。その問題の根源は、漁業者にではなく、水産資源管理制度の違いにあるのです。

魚を獲り尽くしてしまう前にやるべきこと、TAC(漁獲可能量)国内編

2023年11月6日更新

スモークされた大西洋マダラとニシンの製品 漁獲枠が設定されている

魚が獲れないニュースに慣れてきていませんか?

「記録を取りだしてから最低」「半世紀ぶりの凶漁」「かつて経験したことがない不漁」など、サンマサケスルメイカイカナゴ、サクラエビなど、漁獲量の減少が年々深刻なケースが後を絶ちません。そしてその原因については、海水温の上昇や外国のせいにした後に「原因はよくわかっていない」で終わっていることがよくあります。

ところで、魚が獲れなくなって困るのは漁業者だけではないのです。その魚を加工していた加工業者、資材を納めていた業者、販売していた関係者を含めて、地域社会にも深刻な影響を与えてしまいます。

これを世界に視野を広げて漁業に成功している国々と比較すると、その減った原因がはっきりわかってきます。その一つが「漁獲可能量(TAC:注)」の設定の有無と運用の違いなのです。

今年(2019年)のサンマ漁は4万トン前後の過去にない大不漁で終わる見通しです。しかしその漁獲枠は、漁獲前から、前年(13万トン)より獲れない調査結果が出ていたのに26万トンもありました?そして来年も厳しい漁が予想されているのに、また26万トンで決まってしまいました。獲り切れない漁獲枠?(※注釈:2021年の漁獲量は約2万㌧ TAC約16万㌧と形骸化が続く)

同じく不漁で困っているスルメイカなども同じですが、日本の漁獲枠設定は、漁業先進国と、その運用が大きく異なり、形骸化して機能していないものがほとんどなのです。

漁業に従事する人が、水産資源が減っていても、生活のために出来るだけ獲ろうとするのは、ある意味当たり前です。そのため、漁獲枠の設定が獲り切れないほど大きかったり、漁獲枠自体がなかったりすれば、さらに将来悪くなるのが分かっていても、幼魚でも、卵を持った魚にでも手を出してしまうのも自然の成り行きかも知れません。

この結果、漁業先進国に比べ、様々な魚種で水産資源が危機的な状況になっているのが、日本の海の中の状態なのです。

70年ぶりの漁業法改正により、TACの設定魚種が増え、漁獲量ベースで早急に8割を対象にすることになりました。これは、漁業先進国に追いつくためには必要不可欠なのですが、問題はその中身です。輸入しているサバ、スケトウダラ、ズワイガニなどの天然魚種のほとんどは、TACが科学的根拠に基づいて設定され、漁獲量はTACとほぼイコールです。

水産資源をサステナブルにしていくためには、科学的根拠に基づくTACは決定的に重要です。日本は2022年時点でTAC魚種は8種(サンマ、スケトウダラ 、マアジ、マイワシ、マサバ及びゴマサバ、スルメイカ、ズワイガニ、クロマグロ)です。

しかし、この国内枠とは別にWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)で国際合意があるため変更できないクロマグロを除いて、漁獲枠が実際の漁獲量より大きすぎたり、漁獲が増えてきたら枠を増やしたりで、水産資源管理に役立ってきていません。

日本の漁獲枠の問題

漁獲枠の運用が効果を発し、水産資源管理に成功している国々では、実質的に漁獲枠=漁獲量となっています。これは、実際に獲れる数量より大幅に枠が少なく、簡単に枠をクリアできる漁獲量だからです。このため、獲り残された魚は成魚となり卵を産み続けます。漁業者は価値が低く、サステナブルではない幼魚は避けて漁をしているのです。

魚を減らすことなく獲り続けられる最大値をMSY(最大持続生産量)と言います。MSYでの水産資源管理は、1996年に批准した国連海洋法でも明記されています。しかしながら「沿岸漁業社会の経済上にニーズを勘案」という一文がその言い訳になってしまったのか、無視に近いことをしてしまいました。

このため、水産資源管理に関する方向付けが、北欧、北米、オセアニアなどの漁業先進国に比べて、決定的に遅れてしまいました。

SDGsロゴ 特に日本はしっかりせねばなりませんね。 

しかしながら、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の「14 海の豊かさを守ろう」にはMSYでの資源管理が明記され言い訳の文言はすでになく、かつその 期限は2020年となっています(※注釈:目標に遠く及ばず)。遅れに遅れてしまった「国際的にみて遜色のない資源管理」が、漁業法改正によって漁業先進国に比べ数十年遅れでようやく始まろうとしています。

TAC は目標ではない

運用方法が間違っているため、日本の漁獲枠は目標のような数字になってしまっています。このため、漁業者からは制限が事実上ないようなものです。これでは制限に対する不満が出にくいものの、肝心の魚が減少して大きな損失を被っています。そしてその影響は、魚が高くなるという形で消費者にも跳ね返っているのです。

ノルウェーサバのTAC(漁獲可能量)と漁獲量はほぼイコール(ノルウェー青物漁業協同組合データ編集)

それでは、具体的な数字をもとに、日本と海外を比べてみましょう。まずは、サバです。日本のTACと実際の漁獲量を比較すると、過去10年(2010〜2019年)で平均61%の消化率です。一方で、ノルウェーサバの場合(2010〜2022年)は、グラフの通り、ほぼ100%に近い数字です。

さらにいうと、日本のサバのTACはサバ類として1本で管理されています。詳しくは、マサバとゴマサバ、そしてそれぞれ太平洋系群(マサバとゴマサバ)と対馬暖流系群(マサバ)・東シナ海系群(ゴマサバ)と学名も系統も異なり、資源管理上4つに分けるべきサバの分類を、サバ類としてまとめてしまっており、これでは管理になりません。

漁獲枠が大きすぎるため、漁業者は見つけたら、大きさなどにかかわらずたくさん獲ろうとします。このため、ローソク、ジャミと呼ばれる値段が安く、食用に向かないサバの幼魚も、我慢できずに獲ってしまうのです。

一方ノルウェーでは、漁獲枠が、実際に漁獲できる量よりも大幅に少なく、かつ漁船ごとに枠が配分されています(IVQ 漁船別・個別割当制度)。このため各漁船は小さなサバを避けて大きなサバだけを獲るようにしています。その結果サバ以外も含め、海には成魚(産卵親魚)の数が多くなっているのです。

日本とノルウェーのTACの違いは、食用比率にも表れます。食用にならない幼魚まで獲ってしまう日本のサバの食用比率は、約6割(2019年)で、後者は、ほぼ99%(毎年)です。また日本の場合は、国内で食用に向かないサバが大量に(2021年 約18万㌧・水揚げの4割)輸出されています。それらを日本国内での食用に向かないサバとカウントすると、実質的な食用比率は6割より、かなり下がることになります。

皮肉にもその分、食用にならない小さなサバを獲らないノルウェーなどから高い価格で輸入しているのです。本来であれば、成魚になった大きなサバを国際価格で輸出することが、資源の持続性と経済性の両面でプラスになるはずです。

TACがない魚はどうなってしまうのか?

マダラ(太平洋系群)の資源量推移 震災後一時的に激増したが再び激減。マダラにはTACが設定されていない   (水産研究・教育機構)

日本ではTACがなくて、米国、北欧、ロシアといった漁業国で設定されている代表的な例がマダラです。日本のマダラ資源(太平洋系群)は、2011年に起きた東日本大震災以降、漁獲圧力が減少し、資源量が急回復しました(グラフ参照)。しかしながらそれもつかの間で再び悪化し、元の木阿弥です。(注釈:その後、必然的に2020年時点で震災前より悪化)

マダラの幼魚 TACをきちんと設定している国では、日本のように幼魚まで獲らない

再び減った主な理由は、漁獲枠がなく、写真のような食用にならないマダラの幼魚まで獲ってしまうからです。TACと個別割当制度(ITQ)で、日本と対照的な管理をしているアイスランドでは、漁業者自ら決められた網目15cmより大きくして23cmとし、小さなマダラが獲れないようにして魚価と水揚げ金額の増加を狙っている漁業者もいます。

マダラの漁獲量は、日本が約6万トン(2021年)であるのに対し、米国が11万トン(2021年)、ノルウェー38万トン(2021年)、アイスランド27万トン(2021年)と、日本に比べて非常に大きな漁獲量になっています。その違いはTACがない日本と、TACで管理している国の違いが、資源管理の違いにより、数十年という年月をかけて資源量の大きな差となり、漁獲量の違いを生んでいるのです。

次の機会に譲りますが、ニシンなども加えて比較すると、TACや個別割当制度(IQ,ITQ,IVQなど)の有無により、巨大な資源量の差ができていることがわかります。

TACの設定と漁業毎の争い 

日本近海では、沖合VS沿岸漁業といった対立関係が見られます。本来、漁獲枠が巻網、定置、釣りなどに厳格に分かれていて、その範囲内での漁獲量であるべきなのです。しかし、それが決まっていなかったり、オーバーしても罰則がなければ、あるのは非難合戦と不信感ばかりになってしまいます。

逆に漁獲枠の配分と罰則が決まっていれば、いがみ合う必要はなくなります。配分が最も難しいのですが、ノルウェーで行われているような資源量が少ない時の、沿岸漁業への配慮が重要です。

なお、おさらいになりますが、ただTACを設定すればよいのではありません。科学的根拠に基づき、TACと漁獲量がほぼイコールとなるような設定と運用が不可欠です。日本のようにTACが実際の漁獲量より大きかったり、北海道沖(道東沖)のマイワシ漁のように、魚が獲れたら増やすでは、TACをどれだけ設定しても役には立ちません。

TACは、本来利用している全ての魚種に、科学的根拠を基に入れるべき制度です。漁獲量を自主管理によりサステナブルにできている例は、あったとしても極まれです。かつ少しでも多く獲りたいという本能には勝てず、結局は続かないのです。

また、TACが決まっても、それが漁船や漁業者ごとなどに個別割当制度(IQ,ITQ,IVQなど)が適用されていないと、いわゆるオリンピック方式となって、これまた見つけたら何でも獲ることに繋がってしまいます。

漁業法改正にも個別割当制度(IQ)方式の適用が入っていますが、これ以上手遅れになる前に早急な対応が求められます。

(注) TACは漁獲可能量と言いますが、ここでは分かり易いように漁獲枠と同じ意味で記述します。

法律が変わって、証明書がない魚は流通できなくなる?

どこから来たのか?小さなアワビ

証明書がない魚は流通できなくなる?

水産資源保護への新規制が行われる見通しとなりました。農水省は、早ければ2020年の通常国会に関連法案を提出する予定です。内容は、国内の水産物に産地証明書を付け、輸入品においても漁獲証明書を義務付けていくというものです。

そもそも、どこで誰がどのように獲ったのか分からない水産物が、輸入品・国産品にかかわらず、他の水産物に混じって出回っているのはおかしいですよね?

アワビ、ウナギ、ウニ、カニ、サケ、ナマコと知らないうちに密漁品を食べ、反社に協力しているかも知れない内情を追った「サカナとヤクザ(鈴木智彦著)」は、大きな反響を呼びました。

証明書がないものが、輸入も流通もできなくなれば価値がなくなります。そうやって国際的に大きな問題になっているIUU(違法、無報告、無規制)漁業を排除し、水産資源管理に貢献していこうとする大きな動きがあります。

EUでは、2010年から漁獲証明がない水産物は輸入できなくなっています。一方で、日本の輸入規制は弱く、漁獲証明は、メロ、ミナミマグロなど、極限られた魚種で必要になっているに過ぎません。違法に漁獲された水産物でも輸入されやすいのです。

生産日などのトレーサビリティに必要な情報はほとんど無い

日本ではトレーサビリティが十分でないことが少なくないため、流通している国産の鮮魚などの水産物は、誰がいつどこで獲ったものかが、すぐに分からないケースが少なくありません。特に鮮魚などが入った国産の水産物は、流通に使用されている発泡スチロールの外側には、写真のようにこれらの情報が記載されていないものがほとんどです。

輸入品の場合は、北欧などバーコードなどで厳格に管理されているものが多くあります。しかし、IUU漁業の原料が、人件費が安い国々で加工されてしまうケースがもしあれば、その製品が日本に輸入されやすいという面は否めません。

トレーサビリティの不備によって起こるのは、IUU漁業の魚の問題だけではありません。不幸にして放射性物質などの問題が発生した場合、これまでのやり方では、その安全性を客観的証明するのは難しい環境にあります。また、鮮魚だけではありません。冷凍原料のイカ、サバ、サンマなど、生産日が入っていない原料も問題は同様に起こってしまいます。

対照的に冷凍ノルウェーサバの場合、生産日はもちろんのこと、規格、保管温度などの情報が表示されて、詳細な情報がバーコードで管理されています。

鮮魚で空輸されるノルウェー サーモン。生産日の表示を始め詳細なデータが、バーコードで管理されている

空輸で輸入される生鮮のノルウェー サーモンについても、生産日、消費期限といった情報が表示されています。日本の場合は、生産日などを表示しない傾向があります。しかしながら、ノルウェーなどの輸出国は情報を表示して管理することで、品質などで問題が発生した場合でも、素早くトレースして原因を特定する仕組みができています。こうして輸出する側が、自分たちを守るためにとトレーサビリティを行っているのです。

日本では密漁品でも流通してしまう

高級商材として中国や香港などで人気が高いナマコ

政府は、証明を義務化する対象として、密漁リスクが高いナマコとアワビから始める見通しです。密漁品など無関係と思われるかも知れませんが、日本で流通している水産物が、そうではないとどうやって証明できるのでしょうか? そもそも、訳あり品、特別価格といった水産物に対する警戒心が、日本人には薄いのかも知れません。

絶滅危惧種ニホンウナギ。稚魚密漁や無報告が問題になっている

国内の密漁検挙数は、増えているそうです。密漁は他人事でも、外国で起きた預かり知らぬことでもなく、身近な問題なのです。

ウナギが絶滅危惧種となり供給が大幅に減少しています。このため養殖に使うシラスウナギと呼ばれるウナギの稚魚の取引き価格は、キロ200万円(2019年)と非常に高いです。資源が激減したために魚価が高騰、そのため密漁が増えやすくなる悪循環に陥っているのです。

2018年の漁業法改正に当たっては密漁に対する罰金は大幅に引き上げられることになります。密漁品の取得に対しては3年以下の懲役、3,000万円以下の罰金を始め罰則が強化されます。罰則強化による減少も期待されています。

輸入を規制する必要がある水産物

水産資源管理を自国で厳格に行っていても、IUU漁業で漁獲されてしまっては困ります。 世界ではIUU漁業を規制しようとする動きが年々強まっています。一例として、Googleは全世界の海洋漁業活動を可視化するGlobal Fishing Watchを2016年に開設しています。人工衛星などから取得した漁船の位置情報を解析し活動状況を表示。船名や国名もわかる時代です。

最新IT機器で世界の漁船の動きをウォッチし、漁獲証明がない水産物を輸入できないようにして市場からIUU漁業を排斥する動きが加速してきました。一方で、その排斥された魚が、漁獲証明をあまり必要としない日本に輸入されやすいで良いわけがありません。

IUU漁業の意味

養殖に使うシラスウナギと呼ばれるウナギの稚魚

IUU ( Illegal Unreported Unregulated) 漁業の3つの要素を見てみます。まず「Illegal=違法」は、誰でも悪いことが分かるので簡単です。一方で、Unreported=無報告とUnregulated=無規制の2点は、何が問題なのか分かりにくいかも知れません。

「無報告」について分かり易い例が、絶滅危惧種に指定されている養殖に使うウナギの稚魚漁です。日本で池入れされているウナギの稚魚は少なくも半分以上が、密漁や無報告によるものと言われています。実際の池入れ数量と報告されている漁獲量に大きな差があるのです(例)2015年シーズンは約6割が出所不明。

ウナギの場合、違法に漁獲された分もあるかも知れませんが、それ以上に、報告されていない数量が問題です。またそれ以外の多くの魚種に、資源評価のための漁獲量や資源量のデータが十分にないことが問題になっています。

ほとんどの魚種において、国際的にみて遜色がない資源管理が実行されてきていたのならば、漁業法の改正でTAC(漁獲可能量)を増やす際に、データがなくて困っているといった現在直面している問題は起きなかったはずです。

「無規制」については、漁期、漁法、漁具などの規制があるものの、食用にならないような様々な魚の幼魚まで、底曳きや巻き網などでまとめて獲ってしまっています。 これは肝心の「数量」で管理していないため起こってしまいます。まさに多くの漁業は、水産資源管理制度の不備により、肝心の数量面での資源管理において「無規制」に近いのです。

気付くことの重要性

小さいうちに獲られてしまったメバル 一山500円

2018年に、70年ぶりに改正された漁業法の背景には、政治家を含む多くの関係者が、日本の水産資源管理の問題点の気づきがありました。世界と比較してみると次々に分かる日本の資源管理制度の異常性。このため「国際的にみて遜色がない資源管理」の実績がクローズアップされています。また問題の根源にあるのは、食を通じて大きくかかわっているのに、その問題を国民の多くが知らないことにあります。

おわりに

前述の「サカナとヤクザ」のおわりには「処方箋が分かっているのに手が付けられない。日本の漁業を知れば知るほど、密漁など大した問題ではないと思えてくる。」と書いてあります。

密漁はもちろん大きな問題なのですが、それよりもっと大きな問題があることに、著者が取材を通じて気が付かれたのです。

主要参考文献を見ると拙著が3冊「日本の水産業は復活できる!」「魚はどこに消えた?」「日本の漁業が崩壊する本当の理由」挙げられていました(笑)。

水産資源管理の問題は、非常に重要で身近な問題なのです。