魚が消えて行く本当の理由 ブログ4周年・第60回


北海道で水揚げされたイシダイとブリ 筆者提供

「ペンは剣よりも強し」ブログ4周年 第60回 

全国で社会問題になっている漁獲量の減少。水産資源に限らず、本当のことを書くと、それを書かれたくない方々などから理不尽な嫌がらせや中傷を受けることがあります。

それでも「魚が消えて行く本当の理由」について、誰かが「本当のことを伝えねば!」とブログを始めたのが2019年10月でした。数えてみると、今回で自分の年齢と同じ回数。累計で5万回のシェアを超えました。多くの方に読んでいただきありがとうございました。

一時期はマスコミからの執筆依頼は、自分の弱さもあり、いくつもお断わりせざるを得ませんでした。そんな中でも何度もご依頼いただいたことは、いつか何らかの形で再開しようとする励みにもなっていました。

そんな気が重い中で、ブログなら文句ないだろうと始めた次第です。これまでWeb記事や書籍なども加え、高校生から国会議員、行政、大学、金融機関、シンクタンク、漁業者、魚や食に関心がある方、釣り関連を始め実に多くの方々からお声がけいただきました。

魚が減っている理由は「海水温上昇」「外国漁船の乱獲」などといった責任転嫁ばかり目立ちます。このため魚のサステナビリティについて、水産資源に対する国民の意識が世界の常識とかけ離れてしまいました。下の図はフランスの調査会社による水産物のサステナビリティに関する調査データです。世界平均80%に対してダントツに低い40%。その上のロシアでも73%が関心があるという調査結果です。

おかしなことですが、拙稿は科学的な根拠とデータに基づいています。しかし一般に報道されている魚が獲れなくなった理由では「漁業」という、資源量に最も大きな影響を与える要因を避けるようにして「海水温上昇」「外国漁船の乱獲」といった責任転嫁ばかりが目につきます。

それらの要因はもちろん資源の変動に影響があります。しかしながら、世界全体では生産量(天然+養殖)が増え続けているのに、日本は長期にわたり減り続けていることの説明が付きません。

筆者は、世界の漁業者・水産関係者とのパイプが太いです。皮肉なことに日本の水産資源管理の大失敗は、他国にとっては「絶対に陥ってはならない」ケースに映っていることがよくわかります。このため海外での資源管理のプレゼンによく呼ばれます。

海外でデータを基に日本の危機的な資源状態を解説することは、日本のEEZ(排他的経済水域)の外側の公海の漁場への進出を避けてもらう狙いがあります。特に、サンマ、サバを始め、資源管理が機能していないため公海上の資源量が少なくなっているのに、埋蔵金があるような楽観的な資源データは非常に危険です。

NPFC(北太平洋漁業委員会)に加入してきたEUを始め、漁船が余っている国々にとっては、日本のEEZの外側は、魅力がある漁場に見えてしまいます。進出で起きることは、漁場に行けば実際には資源がとても少ないので、幼魚まで根こそぎ獲ってしまう一層の乱獲が起きてしまいます。その先には関係漁業各国への大不幸しか待ち構えていません。

社会問題になっている日本の資源管理

ご存知の通り、すでに全国各地の様々な魚種で不漁問題が深刻化しています。このままの漁業管理では、凸凹はあるものの、資源の大半は「確実」に枯渇してしまいます。イカナゴ、シシャモ、カタクチイワシといった他魚種のエサにもなる魚種も乱獲で大きく減っているので、小型魚から大型魚まで生態系への悪影響もはかり知れません。

たとえ極々例外的に資源を何とか維持できているケースがあったとしても、日本全体でみればそれは「点」に過ぎません。「木を見て森を見ず」は絶対に避けねばなりません。この「点」に焦点を当てて全体像を判らなくしてしまう報道は、さらなる誤解と将来への負の遺産しか生まないことに気づいて欲しいと思います。

時間の経過と共に、なぜ水産資源を「国民共有の財産」としなかったのか?なぜ「自主管理」といった世界と違うやり方で資源を減らしてしまったのか!と気づく時が来ます。しかし気づいた時は「後の祭り」ではどうしようもありません。しかも時計の針は元に戻りません。できるだけ早く気付いて欲しいと思い書いているのがこのブログです。

海水温上昇で魚が減る? 


世界の漁業・養殖推移 FAOのデータを編集) 

上表は、FAO(世界食糧農業機関)による、2021年時点での世界の生産量(天然+養殖)順位です。1970年前半から1980年代の後半の長期にかけて世界最大を誇った漁業大国・日本の姿はどこにもありません。2022年は386万㌧と遂に400万㌧まで下回ってしまいました。

漁獲量の減少理由として海水温上昇が上がります。海水温上昇は、世界中で少しずつ進んでおり、もちろん資源量の増減に影響を与えます。しかしそうであれば、北米や北欧などの海水温が低めの海域の生産量ばかりが増えるのではないでしょうか?

ところが、日本の生産量を追い越していったインドネシア、インド、ベトナム、バングラディシュ、フィリピンの海は言うまでもなく、海水温が低い海域ではありません。下のグラフをご参照ください。暖かい海なのですが、、、日本以外は伸びています。

日本を追い越していった暖かい海を持つ国々の生産量   Global noteを筆者編集

かつて日本では漁獲量が1980年代までは右肩上がりで伸び続けていました。しかしこれは資源が増えたからではなく、漁船数の増加・大型化・漁具の発達などによってたくさん獲れるようになったからに過ぎません。

印象に残ったオマーンの漁業会社との話

オマーンの生産量 推移 Global note より筆者編集

先日日本の水産資源管理の問題点のプレゼンをした際に、オマーンの漁業会社の方が声をかけてきました。オマーンも日本と同じで漁期は決まっているが、数量での管理がされていないと。このままだと日本と同じことになってしまうと危惧していました。

下のグラフの同国のデータを見たところ2010年代の半ばから4倍強に生産量が増えていました。これは資源量が増えて漁獲量が増えたのではありません。漁船数増加や漁具の発達によるもので、まさに「乱獲」が始まっていることが見て取れます。科学的根拠に基づく数量管理が実施されなければ、何年かすると我が国のように生産量が急激に減少し始めて大きな打撃になります。

生産量が減り出すと、それまで投資された漁船・漁具・加工場などが余剰となり、それらを稼働させるためにさらに「乱獲」が進む。まさに日本全国で起きている負の連鎖と同じことになります。

乱獲に気付くかどうか?科学的根拠に基づく資源管理ができるか?にそれぞれの国の運命はかかっています。

これからのこと

残念ながら我が国では、水産資源管理の問題点とその対策を勇気をもって書ける人はまだ片手ほどしかいません。これを教育して増やしていくことはとても大切だと考えています。今年は3つの大学から依頼があり特別講義をしました。終了後は何人もの学生さんから「これまで習ってきた内容と違いました!!!」と感謝されるのですが、それだけ学生への教育内容自体も大問題で人が育たない環境なのです。

これからも微力ながら水産資源管理に関心がある方々への、勇気と根拠となる発信を続けていきますのでよろしくお願いいたします。下記はWEBの連載記事です。

ウェッジオンライン

https://wedge.ismedia.jp/category/gyogyourevival

東洋経済オンラインhttps://toyokeizai.net/list/author/%E7%89%87%E9%87%8E+%E6%AD%A9

 

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