水産資源管理の優等生 ホタテガイ

資源管理の成功例 北海道のホタテガイ

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資源量が激減し衰退が止まらない日本の水産業。そんな中で、世界に誇れる数少ない事例があります。それが北海道のホタテガイ漁業です。

資源管理の理屈がわかる 地まきで育てられるホタテガイ

ホタテガイの増養殖は大きく分けて2つあります。一つは、貝に穴を開けて吊るす垂下式。主に北海道の噴火湾や本州で行われている方法。もう一つは主に北海道のオホーツクなどで行われている海区を区切って稚貝をまく、地まきと呼ばれるやり方です。ここでは、後者に焦点を当てて説明します。地まきで育ったホタテガイは、主に貝柱を取る加工に向けられます。

ホタテガイが優等生となる仕組み

日本のホタテガイ水揚量の推移 

今から数十年前、ホタテガイもご多分にもれず乱獲で、枯渇に近い状態になってしまいました。ところが上のグラフを見てください。今では年間漁獲量は40~50万㌧前後で安定しています。

他の水産物と異なるのは、機能する資源管理が行われるようになったからでした。

上の図をご覧ください。ホタテガイの増養殖の仕組みをご説明します。まず使用する海を4つの海区(例)A,B,C,Dに分けます。それぞれの海区を4つの畑と捉えて下さい。

オホーツクでは、収獲までに4年かけます。図では右のD海区に、3年前稚貝がまかれていた前提になっています。2年前にC海区、1年前にB海区、そして今年A海区に稚貝がまかれるという前提です。

4年目になるとD海区にまかれていた稚貝は、立派なホタテガイに成長し、これを収獲します。翌年は同じく順番で4歳になっているC海区で収獲という順番です。もちろんD海区には、水揚げ後に再び稚貝をまいて3年後を待ちます。

ホタテガイを他の漁業に置き換えると分かること

もし、4歳の収獲サイズまで待たず、まいてすぐ獲ってしまったらどうなるでしょうか?4年後を待たず、A海区(1歳)〜C(3歳)海区のホタテを獲ってしまったらどうなるでしょうか?漁獲自体は容易にできてしまいますが、、、。

これこそ、日本の多くの魚種で起こっている成長乱獲なのです。例えば、サバは4歳まで待てば、立派な価値がある成魚に育ちます。

しかし、1歳のローソクサバ、ジャミサバと呼ばれる日本では食用に向かないサバの幼魚まで、容赦なく漁獲されてしまいます。このため、なかなか成長して産卵するチャンスが与えられません。サステナブルなノルウェーのサバ漁では絶対に行われないサバの幼魚の一網打尽。

日本で漁獲される魚は、サバ、マダラ、クロマグロなど、大西洋で漁獲される同じ仲間の魚より、概して小さいことがよくあります。これは偶然ではなく、残念ながら「大きくなる前に獲ってしまうから」という単純な理由がほとんどです。

ホタテガイは4歳まで成長を待てば価値が上がり、大きな貝柱が取れます。ホタテガイは主に春に産卵します。水揚げされる4歳貝は、すでに成貝です。オホーツクの水揚げ時期は、産卵後の主に夏から秋にかけて行われるので、水揚げ時には産卵は終わっており、卵は海の中です。

こうやって、まるで畑から作物を収穫するかのような漁業が行われており、オホーツクのホタテ増養殖業者は高収入を得ています。稚貝を海にまいてから3年、つまり価値があり、資源管理にもよい4歳貝を水揚げし続ける仕組みが出来上がっているからです。

畑の作物との違いは、水も肥料もあげる必要がないことです。ただ稚貝をまく際にはヒトデなどを除去する漁場造成が行われます。

実は、持続的な水産資源管理ができている国々では、それが魚であってもオホーツクのホタテガイのように、海を巨大な養殖場のように利用して、産卵させる親魚をサステナブルな量に保ちながら漁業を続けているケースがほとんどなのです。

北海道のホタテガイはMSC認証

取得が難しいMSC認証

北海道のホタテガイは、サステナブルな漁業の国際認証であるMSC(海洋管理協議会)認証を取得しています。

世界では、サステナビリティに対する関心が年々高まって来ています。そして認証が増えている一方で、その中身が本物かどうか問われてきています。

MSCのような水産エコラベルの目的は、認証数を増やすことではなく、資源を増やしてそれをサステナブルな量を維持しながら、漁業を続けることです。

失敗ばかりが目立つ日本の水産資源管理ですが、ホタテガイのような成功例もあるので、是非見習いたいものです。