水産資源管理・誤情報が止まらなくて良いのか?

デンマークの漁港 ノルウェー同様に数が多いのは小型船

誤った情報の先にあるもの

ロシアの侵攻が始まってから、心が痛む戦争に関する情報を目にしない日はありません。そんな中で、国営放送中に勇気を持って正しい情報を示した女性の行動に、世界中の人が感動し、勇気づけられたのではないでしょうか?

ロシア軍の撤退と平和、そして亡くなられた多くの方のご冥福をお祈りします。また攻撃や非難で苦労されている方々の生活が、これ以上悪化せず、再び平和が訪れるよう心から願っております。

プロパガンダによる悲劇

世界が制裁強化を進める中で、ロシア人の捉え方が侵攻に対して違う場合があります。ウクライナに住む子供が、ロシアに住む親にロシア軍による惨状を説明しても、信じてもらえないという報道を見ました。これは西側からの情報が遮断され、政府に情報をコントロールされてしまうことによる影響が大です。

これだけ情報社会になっても、情報源が限られて、誤った情報が繰り返し続けられると、それを信じてしまう恐ろしさがあります。キエフから避難して行く人のほとんどは西側に向かうものの、一部はロシアに避難する人もいるそうです。ロシア側がその一部の人を利用して、国内のプロパガンダに利用する恐れがあると海外のラジオで放送していました。

第二次世界大戦で、我が国は大本営発表により情報統制され、国民は負けていることを知らされていませんでした。その結果、戦争による被害は甚大となりました。

決して遠い異国のことではない

(IPSOS)

そのロシアと同じような事が、水産資源管理において我が国でも起きています。水産資源とそのサステナビリティにおいて、我が国は世界と比べると異常なほど意識がズレているのです。後述しますがなぜでしょうか?上の表はフランスの調査会社による、水産食材を選ぶ際に「資源の持続性(サステナビリティ)は重要ですか?」というアンケートです。世界平均では80%の人が重要と答えています。しかしながら、日本人で重要と答えたのは、僅か40%と断トツに低くなっています。その上のロシアでさえ73%です。

SDGs14(海の豊かさを守ろう)には程遠く、水産資源に対するサステナビリティへの意識が非常に低い日本では、水産資源と漁獲量の減少が止まりません。一方で、世界では漁業も水産業も立派な成長産業です。魚の資源を巡って世界と日本で起こっていることはまるで違います。それをこれまで様々な形で、ファクトをベースに発信しているのが微力ながら拙ブログです。おかげさまで、すでに累計のいいね!シェアは累計約5万回となりました。多くの人に正しい理解が広がることを願っています。

水産資源管理の情報は合っているのか?

さて本題に入ります。日本の水産系の大学関係者から発信されている情報には、基本的な誤りが非常に多く、このため国民にひどい誤解が生じています。それを誰かが指摘しないといけないと思い、山ほどある誤情報の中から、その内の一部を挙げてみます。

①「漁業生産量が減ったのは、資源が減ったのではなくて漁業就業者が減ったからである」

水産資源が多くの魚種で減少しているのは、国の資源量評価や実際の漁獲量が激減していることで明らかです。資源が減ったから漁業者も減ったのです。一方でノルウェーでも漁業者は減っていますが、資源はサステナブルで潤沢です。

②「現在の漁獲量は90年ごろに比べて貝類の激減を除けば遜色ない」「魚は減っていない!日本型管理の維持を」

実際には、90年ころに比べ貝類を除いても漁獲量は激減しています。農水省の統計データを始め、いくらでもエビデンスはあります。また数量管理に重点を置かない日本型の資源管理のみで漁業が成長している国は世界にありません。

③「日本のTAC(漁獲可能量)が課題だったのは過去の話」

日本のサバ枠の消化率は6割しかなく資源管理に役立っていません。ノルウェーサバ枠が、毎年消化率ほぼ100%なのと根本的に異なります。資源管理に役立っていないので、サバの幼魚も見つければ一網打尽。これは漁業者ではなく水産資源管理制度の問題です。ノルウェーでは絶対に起こらない幼魚の乱獲「成長乱獲」が日本各地で続いています。

④ノルウェー漁業に関する誤った情報

・「ノルウェーは大型船主体で、大規模な漁業だけをさせている」

(Fiskeridirektoratet)

上の政府の資料を見ると、ノルウェーの漁船5,857隻の内、10メートル以下の小型船漁船が3,036隻も占めています。28メートル以上の大型船はたった255隻。圧倒的に漁船、漁業者数が多いのは、大型ではなく、中小型漁船です。(2020年)

⑤「ノルウェーは数量管理を進めることで効率化を実現。しかし、小さい魚を捨ててしまうとかブラックマーケットに流通されるなどの課題がある」

1980年代に海上投棄を一早く禁止したのがノルウェーで、マダラを始め資源が潤沢です。また、バーコード管理によるトレーサビリティが実施されていますし、ブラックマーケットなど存在しません。海上投棄やブラックマーケットは、罰則が緩くクロマグロを始めトレーサビリティがほとんど実施されていない日本の話です。根拠のない情報は国の信用と品位を下げてしまいます。

⑥「2019年にノルウェーサバはMSCから外されている」

ノルウェーサバの缶詰

ノルウェーサバの資源状態は良好(ICES)です。MSCが停止しているのは、各国が自国の枠を増やしたいという政治的な問題で、国別TACの合計が科学者のアドバイスを超えているからです。しかし、各国の個別割当制度が機能しており、幼魚狙いはありません。また、それに伴って資源が悪化しているわけではありません。日本のサバの場合は、そもそもMSC認証を取ろうとしても、現状のジャミやローソクといったサバの幼魚乱獲や過剰漁獲枠では、箸にも棒にもかからないことを知らねばなりません。他国批判をできるどころではないのです。

⑦「ノルウェーでは30人乗りの漁船に監査役が1人付くというが数人乗りの日本では不可能だ」

ノルウェー漁船は、大型巻き網船でも乗船しているのは10名程度。30人乗っている漁船など、ノルウェーの現場を20年以上見てきた者として言いますが、そんな漁船はそもそも存在しません。また、監査役(オブザーバー)は乗っていません。水揚げの際に自動計量器で厳格に水揚量を測定しています。

⑧「ノルウェーと比べても意味がない」

いいえ非常に意味があります。現実から目をそらしてはいけません。サバだけではありません。40cm以下のマダラの漁獲を禁止しているノルウェー。漁獲枠がなく、10cm前後のマダラまで容赦なく漁獲する日本。両国の違いは、科学的根拠に基づく枠が設定されて管理されているどうかの違いに他なりません。日本では枯渇しつつあるイカナゴシシャモ(カラフトシシャモ)の資源も潤沢です。もちろん、我が国と異なり、枠が設定されていて漁業者はそれを守ります。

最後に

水産資源に関し、自国の問題を棚上げし、事実を曲げて伝えて水産資源を減らしてしまう余裕はありません。大学などで事実と異なる発言をされている方は、教育上よくありませんので、胸に手を当てて自分がやっていることが正しいか真摯に考えて下さい。すでに学生や国家にどう影響してしまったのか?

ロシア、ベラルーシ、ミャンマー、中国など、本当のことを言えなくなってしまっている国々が、どうなるかを我々は知っています。

日本には、石油も天然ガスも国内を賄う資源はありません。しかしながら、水産資源に関しては、本来その資源は十分あるはずでした。

我が国では、いつの間にか水産資源管理で本当のことを言わない傾向になってしまいました。このために、世界と比べると大きくズレてしまいました。しかしながら、エビデンスを示し続けることで、おかしなことに気づく方が様々な分野で増え、少しずつまた確実に理解は進んでいます。

学生や研究者の方を始め、勇気を持って本当の事を言う人が増えることを願っています。その根拠としてお役に立てれば、それに勝る喜びはありません。