魚が減ったのは本当に外国のせいだけなのか?

2022年7月20日更新

国産スケトウダラ 日本とは対照的に米国とロシアの資源量は豊富でサステナブル

魚が消えて行く話題が絶えません。昨年(2021年)も、サケ、サンマ、スルメイカ、シシャモ、イカナゴを始め、様々な魚種の不漁・禁漁が話題になりました。このため、漁業者、地域経済、そして消費者にも悪影響を及ぼしています。

原因は、海水温の上昇、外国の乱獲などの理由がほとんどでした。そして、魚種交代や、レジームシフトといったもっともらしく聞こえる解説も散見されました。しかしながら、その本質的な原因をひも解いて行くと、様々な矛盾が露呈して来ます。

昨年(2021年)も、サケスルメイカサンマイカナゴ、シシャモをはじめ、消費者にとってだけでなく、地域経済に深刻な影響を与える不漁や禁漁が様々な魚種で起きてしまいました。

外国漁船が獲ってしまうから魚が減るというのは確かにそうです。1977年に設定された200海里漁業専管水域は、当時世界中の海に展開していた世界最大の漁獲量を誇る日本漁船の排斥が背景にありました。日本の漁船は、各国の水産資源にとって脅威でした。

ただし問題の本質は、特定の国が悪いということではなく、国際的な資源管理の仕組みが無かったことにありました。戦後の食糧不足から始まり、日本には動物性タンパクを魚で国民に供給する必要性が生じていたのです。国別の漁獲枠でもなければできるだけ獲ろうという力が働いてしまいます。そしてそれが乱獲の一因にもなります。

サンマのように資源が減って、同じ資源を各国が獲り合えば、それぞれが漁獲できる配分量が取り合いにより減り、ひいては全体の資源量も減ってしまうという最悪のケースに陥ってしまいます。

取り合いによって深刻な資源崩壊が起こったことで、世界的に有名なのが、東カナダ・グランドバンク漁場でのマダラ資源です。1992年に禁漁となり、未だに回復待ちです。東カナダ沖の漁場は、1977 年に設定された200海里漁業専管水域が設定される以前には、カナダ船以外の漁船も、東カナダの漁場に入り乱れていました。

FAOデータより作成

グラフのように急激に伸びた漁獲量は、200海里の設定後、外国船の排除により大きく減少しました。その後、漁獲量は安定するはずだったのでしょうが、結果はその15年後に、禁漁に至る悲惨な事態となりました。マダラは主要魚種でしたので、漁業、加工業を始め300万人以上が仕事を失いました。カナダ史上最大のレイオフ(一時解雇)と言われています。

なぜ、200海里の設定後に悲劇が起きたのか?それは、自国の乱獲を棚に上げて外国を非難しただけであったことに他なりません。そのマダラ資源の激減の反省からできたのが、国際的な水産エコラベルとして受け入れられているMSCマークです。

これによく似た日本のケースを挙げるので、何が悪かったのか考えてみてください。

激減したスケトウダラの原因は何か?

スケトウダラ 日本海北部系群水揚げ推移 オレンジ色が韓国船の漁獲量で他は日本漁船の漁獲量 (出典:水産研究・教育機構)

グラフは、北海道の日本海側のスケトウダラの漁獲量推移です。他の魚種でも多く見られる典型的な右肩下がりです。ところで、当時このスケトウダラ資源が減少しているのは「韓国漁船」による漁獲が原因といわれてました。韓国漁船の漁獲量は「オレンジ色」の部分です。200海里の制定後も、韓国漁船は同漁場での漁獲が可能であったため、割合は低いながらも、日本の漁獲量に影響してはいました。

韓国漁船の排斥が求められ、ようやく1999年に出て行くことになりました。漁獲量の減少は、韓国漁船が原因とされていたので、当然1999年以降は、漁獲量が回復するはずでした。ところが、1999年以降の漁獲量推移は、回復どころか激減してしまいました。

この例は、東カナダのマダラ資源崩壊と同じで、自国の乱獲を棚に上げて獲り続けた結果ではないでしょうか?早い段階で有効な資源管理のための手を打たないと、そのツケを払うためには数十年の年月がかかることになってしまいます。

イカを乱獲して他国に脅威を与えたこの国はどこだろうか?

スルメイカ クイズもともとイカ漁で脅威だった国はどこか?

ある国のイカ漁が記事になっていました。「地元に脅威〇〇イカ船団」「略奪に渦巻く非難」「根こそぎ包囲網に不安」「反感抑え紳士的警告」「ナイター並みの照明」「乱獲の反省と節度」「進出2年でもう不漁」「獲り過ぎかなと漁労長」

この記事の◯◯は、どこの国のことでしょうか?たぶん近隣の国々のことだと思う人が多いことでしょう。

しかしながら、その〇〇に当てはまるのは「日本」なのです。記事はニュージーランド沖での日本のイカ漁に関する1974年の朝日新聞でした。当時はまだ200海里漁業専管海域(1977年に設定)の設定前でした。このため、日本漁船は12マイルもしくはそれ以内の好漁場に入って漁ができたのです。

今回の投稿は、どこの国が悪いというのが趣旨ではありません。国際的な視点で漁業を見ると、国が変わるだけで、まさに「歴史は繰り返す」なのです。漁業の歴史に関する基本的なことを知らないで他の国を批判ばかりしてしまうと、事実を知ると唖然としてしまうことになるでしょう。

サクラエビやイカナゴの減少は、近隣諸国の漁業と関係はない

ここで大事なことは、日本の200海里を出て回遊するサンマ、カツオ、サバなどの魚と、国内で完結するイカナゴ、サクラエビといった魚は分けて考えることです。

前者は科学的な根拠に基づく国別漁獲枠(TAC)を手遅れになる前に設定すること、後者は外国の漁業は影響していません。温暖化などに対するリスクを予防的アプローチとして十分考慮して、より慎重な漁獲枠を設定することが必要不可欠です。

そしてそれらを早獲り方式で資源を潰させないために、個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)などを適用して防いでいくのです。その成功例は、北米、北欧、オセアニアなどにたくさん存在しています。

安易な他国非難は止め、他国で資源崩壊したケースも参考にした上で、国際的な枠組みを早急につくることが重要なのではないでしょうか?

サンマ・本当はどうなっているのか?

更新 2024年6月9日 現状のまとめとグラフのデータを更新しました。

この記事を発信したのが2020年1月でした。国際的な資源管理の話し合いは毎年されています。しかしながら2024年に設定された漁獲枠は前年比10%減・22.5万㌧と前年実績の12万㌧のほぼ倍で全く資源管理には効果がありません。一方で科学者が適切と考えている漁獲枠は約7万㌧でした。

国益が絡む漁獲枠の設定は非常に難しいのですが、我が国の場合は、マスコミが10%の枠削減の方を、適切な解説不足で報道してしまうので、社会がまるで資源管理が進んでいるような誤解をしています。

さらに海水温上昇・外国が悪いといった責任転嫁が枕詞のようになってしまっています。これらに原因がないとは言いませんが、問題の本質は他にあります。

どんなに神頼みしても、次回に期待してもこのままではよくなる可能性はありません。その問題の本質と対策を発信しています。(加筆終わり)

2019年のサンマは細かった 

歴史的な「凶漁」とは?

様々な魚が減って日本人の秋の味覚にも異変が起きています。その一つがサンマです。毎年、秋になると脂がのった生のサンマが、1匹100円前後で大量に店に並んでいました。凶漁といわれる昨年(2019年)でも、何日かは1,000㌧以上に水揚げがまとまり、手ごろな価格で売られる日もありました。しかし、売価の上昇を実感した方は多かったことでしょう。

2019年のサンマの価格は例年の末端価格に比べ2〜3倍が多かった

2019年のサンマ水揚量は、約4万㌧と記録に残る1969年の約5万㌧を下回りました。この水揚量は、サンマ漁の創成期と戦時中を除き歴史上最低の数字でした。20万㌧以上が当たり前だった2014年以前の漁獲量が、2015年以降は下降線をたどっています。それまでの数字がまるでウソのようです。

しかも価格が上昇しただけではありません。海水温の上昇でエサとなるプランクトンが減少したからでしょうか?細めで脂が少ないサンマの比率が高くなってしまいました。漁場が遠く、片道2~3日もかかる漁場からでは、鮮度も日帰りで水揚げされるサンマと比較すると落ちてしまいます。

価格が高くて、脂ののりが薄いと、自然と消費者も離れてしまいます。また、それだけではありません。水揚げされて冷凍されたサンマを周年かけて利用していた加工業にも、原料不足による悪影響を与えてしまいます。

冷凍サンマがまた助けてくれるのか?

お手頃価格の脂がのった解凍サンマ

昨年(2019年)の秋になっても中々サンマの水揚げがなかったときに、手ごろな価格で店に並んだのが「冷凍サンマ」を利用した「解凍サンマ」でした。

しかも、脂も前年のものなので、まあまあでした。解凍サンマは、前年の秋に冷凍されたものです。まだ先ですが、次の秋になれば、鮮魚が少なくても、再び脂がのった冷凍サンマが手ごろな価格で提供されるのでしょうか?

残念ながら、冷凍サンマの供給は厳しくなります。サバでも同じなのですが、水揚げされたサンマは、価格が高い用途向けから市場で引き取られて行きます。

価格が最も高いのは鮮魚向けです。昨年のように一回の水揚量が少ないと、ほとんどが鮮魚向けに回ってしまいます。このため冷凍向けにされる分は減少し、かつ魚価高によりコストは高くなってしまいます。

細くて脂のりが薄く、鮮魚向けに向かないサンマは冷凍に回り易いのですが、それは脂がのったおいしいサンマではありません。

海水温の上昇を理由にすると起きる矛盾

水温の影響は、サンマの資源量の増減に影響します。これは、農作物の収穫量が、その年の気温や雨量などに影響を受けるのと同じです。

ところで、昨秋のサンマの凶漁に対する不漁は、海水温の上昇によりサンマが日本の近海に回遊してこないので獲れないとか、日本に回遊する前に、公海で台湾や中国などの大型漁船が獲ってしまうことが不漁の原因だという報道がほとんどでした。

それでは、その日本から遠い公海に行けばサンマが例年通り獲れたのでしょうか?その答えは「No!」です。まだ数字は出て来ていませんが、公海での他国のサンマ漁も日本と同様に不漁もしくは大不漁だったのです。つまり、サンマの回遊量そのものが非常に少なかったのです。

赤がサンマ 東から西へ移動して行く 青がサバ類で黄色がマイワシ 水産研究・教育機構

サンマ(赤色)は上の図で言うと、東から西へと回遊してきます。マサバとマイワシは、サンマほど大回遊しませんが、漁場は同じように北海道から三陸の沖合にかけてが、秋~冬に主漁場になります。

ところで上の図に出ているマイワシは、 資源量が増えて来ています。その理由として、寒冷レジームが挙げられています。海水温が低くなってきている??? 一方で同じような漁場なのに、サンマは海水温の上昇で漁獲量が少ない?と言われています。

また同じく凶漁が続くスルメイカ漁では、 海水温が低かったので減っているとも言われています。実際には海水温上昇で資源量が増え易いはずが、逆に減少しているなど、海水温をもとに資源の増減の話をすると辻褄が合わなくなります。

海水温上昇が問題になっているのは、日本の近海だけではありません。世界中の話です。最も温暖化の影響を受けているといわれている北極では、氷が減りシロクマが氷の上からアザラシの猟ができない報道も見かけます。

しかしながら、水産資源管理ができている海域では、魚種により資源量は凸凹がありますが、概して青物類(サバ・ニシンなど)、底魚類(マダラなど)ともにサステナブル(持続的)な状態です。海水温の上昇で同じく影響受けているのに、日本の海のように様々な魚種で水揚量減少が記録的になっているようなことはないのです。

水揚量の推移を見てみよう

水産研究教育機関の資料を編集 

サンマの水揚げ推移を見てみましょう。赤色の日本の漁獲量の推移を見ると、明らかに減少傾向です。今のままでは、サンマ漁が日本の漁獲量で年間20万トン前後に戻る状況とはほど遠くなってしまっています。

赤色以外の他国の漁獲量は、同じ資源を獲り合っているので、日本の一方的な立場からすれば脅威です。しかしながら、すでに多数の漁船を投資している国々は、漁業者が早く投資分を回収したいなど、別の事情と考えができてしまっています。

日本の漁船が漁獲している比率は、2018年漁期で約3割と、2000年以前に8割前後だった比率に比べて大幅に減少しています。公海での国別漁獲割り当てを決めてこなかったために、台湾・中国といった国々の進出を許してしまいました。

すでにたくさんのサンマ漁船を建造されてしまったので、後には引かない状態です。これらの国々は、自国の漁獲実績を主張して漁を止めることはありません。

このため全体の資源量が大幅に回復しない限り、2014年以前のように日本が20万トン以上漁獲できるようにはならないのです。

2018年の実績である3割のシェアで計算すると、20万トン獲るためには、全体での漁獲量が60万トン必要になります。ところが、1995年~2018年までの平均漁獲量は全体で39万トンでかつ減少傾向です(NPFCデータ)

米国でのケースでは、1977年の200海里漁業専管海域設定後の数年間で、同国沖の公海でスケトウダラを操業する日本漁船を排斥してゼロとしています。そして自国の水産資源管理を科学的根拠に基づきサステナブルにして現在に至って漁業を成功させています。

これまでの調査で十分だろうか?

日本では、魚がいなくなると安易に環境や他国に責任転嫁する傾向にあります。マスコミもそのように報道してしまうことで、多くの誤解と、実際に魚が激減するケースが後を絶ちません。昨年だけでも、イカナゴ、サクラエビを始め、減少傾向が続く水産物が話題になり、このままではさらに増えることになるでしょう。

北欧の資源量調査を見てみよう

サバとニシンの資源調査 ノルウェー、アイスランド、EU漁船が協力 調査は広範囲にわたる

サンマに話を戻しましょう。北欧の資源量調査の例を見てみましょう。上記の図は、ノルウェー、EU、アイスランドなどの漁業をしている国々が、手分けをして広範囲にわたって資源調査状況を示しています。そしてそのデータを共有して、科学的根拠に基づき漁獲枠を決めて行きます。

サンマの資源調査については、範囲が広いので日本の調査だけでは範囲が不十分です。日本の調査範囲は、主に水平展開しての調査になっています。これを中国や台湾、ロシアなどと連携して広範囲を調査して、北欧同様にデータを共有して、その数字に基づいて漁獲枠の話し合いをするべきです。

北欧の場合でも、各国の主張が食い違う場合があります。このため、必ずしもすべての魚種で、国別に漁獲してよい量(国別TAC)が科学的根拠に基づいて決まっているわけではありません。

しかしながら、乱獲に陥ると自分で自分の首を絞めてしまうことは良く理解しているので、獲れるだけ獲るようなことはしません。ここで日本も含む各国の水産資源管理と大きな違いがあります。

一方で、サンマの場合は、2019年に55万トンという獲り切れない漁獲枠を決めたものの、何の資源管理効果もありません。これを一刻も早く北欧並みの管理にしないと大変なことになる一歩手前の状態まで来ているのです。

現時点では、2020年の漁期もサンマ資源が激減しているのに、各国は獲り放題です。漁獲量制限どころか、配分交渉に備えて実績を増やそうという力が働いてしまいます。

日本も例年12月は小型が多くなるので漁を控えているのですが、そういう配慮はしませんでした。厳格な国別漁獲枠(国別TAC)が決まっていないので、できるだけたくさん獲るという点でどこも同じです。

サンマがいなくなってしまう前の対策のためには、批判だけでなく、事実の理解と現実の対処法を国民が理解していく必要があります。

なぜ軒並み「記録的不漁」?スルメイカ漁も!

2024年6月9日 更新 現状を加筆し及びグラフのデータを更新しました。

6月9日加筆

この記事を出したのが2020年の1月でした。スルメイカも漁獲枠が科学的根拠に基づいておらず、それに起因する獲り過ぎで漁獲量の減少が止まりません。また、有効な対策は打たれていないので、よくなるはずはありません。スルメイカは海水温が高い方がよい??とされていましたが、資源は減る一方です。黒潮大蛇行が収まっても、神頼みしてもこのままでは昔のようにイカが獲れるようになることは決してありません。正しい資源管理の情報が不可欠です。

また、同じ資源を獲り合っている韓国漁船も漁獲量の減少で撤退する漁業会社が出てきています。スルメイカの大不漁を環境や外国に責任転嫁ばかりしては未来はありません。必要なのは科学的根拠に基づいた数量管理です。筆者には、余りの惨状に漁業者の方から禁漁にすべきという声も聞こえてきています。資源減少による社会問題が、イカでも深刻化しています。社会がなぜ魚が減っていくのか、真の原因とその対策に気付かねばなりません。(加筆終わり)

水揚量が激減しているスルメイカ

サンマ秋サケ(シロサケ)が過去最低の漁獲量を記録してしまいました。そしてスルメイカも遂に記録的不漁が4年目に突入です。皮肉にも世界銀行やFAO(国連食糧農業機関)が公表している悲観的な見通しのままです。漁獲量の減少が様々な魚種で起きていて止まりません。「イカの活き造り」で知られるケンサキイカも記録的な不漁に見舞われています。

スルメイカは、鮮魚出荷だけでなく、塩辛などの珍味、フライ、刺身、スルメを始め、様々な加工がされて行く基幹的な水産原料です。 函館や八戸を始め、スルメイカに依存している地域にとって大きな痛手です。まずは、漁獲量推移の現状をグラフで見てみましょう。

イカ類の漁獲量推移 農水省のデータを編集

青の折れ線グラフがスルメイカ、赤がアカイカ(1983年から分類)、緑がその他イカ類となっています。2000年以前には40~60万㌧もあった漁獲量は、2018年には10万㌧を割り込んでしまっています。昨年(2019年)はさらに落ち込んでいる見通しです。

グラフをよく見てみると、スルメイカの漁獲量だけが激減しているだけでなく、アカイカ・その他イカ類と、イカ類がまとめて激減していることが分かります。

スルメイカ激減要因は何か?

スルメイカの分布と産卵場 水産研究・教育機構

魚が減る原因としてしばしば環境要因、特に海水温の上昇が挙げられます。 たしかに環境要因は水産資源の増減に影響します。しかし日本では獲り過ぎが、環境要因に置き換えられてしまうことがよくあります。

資源管理の遅れが海水温や外国に責任転嫁されてしまう報道が後を絶たないため、日本人の多くは「獲り過ぎ」という魚が減って行く本当の理由を知りません。

スルメイカでは、資源量と環境の関係で矛盾点が露出します。

まず海水温が高くなっているのは、否定しえない事実です。ところでスルメイカの場合、資源が減少している原因として考えられるのが寒冷レジーム、つまり水温の低下となっています。

さらに産卵期に海水温が低下したことが原因?ともいわれています?ところで、水温が高いのではなく低い?というのがそもそも??です。しかも、一方でこれだけ温暖化が問題になっているのに、それが生態に影響するほど低かったとは考えにくいです。

ちなみにこんな報告もあります。2019年9月24日、盛岡で、水産庁と「するめいか資源に係る意見交換会」が行われた。研究者の話もまじえ、昨年暮れから今年初めにかけて、東シナ海の水温分布は、するめいかの産卵に良い環境であった、と報告されている。」』

また、もしもそれだけ水温が低かったのであれば、スルメイカは産卵のための適水温を求めて移動するはずですね。スルメイカの産卵海域は図の通り広範囲にわたっています。高温ならともかく、海水温の低下が資源減少の主因になるとは、にわかには信じがたいです。

仮説になりますが、こういう矛盾が起こってしまう理由は、魚が減った結果を、無理やり環境要因に転嫁してしまうためと考えます。例えていうなら、周りの企業はみな業績が良いのに(世界全体では水揚量は増加中)、悪かった(日本だけが減少傾向)ことを、景気悪化(海水温の上昇など)に転嫁してしまいマネジメントを反省しないのに似ています。

そこで日本と世界の漁獲量の推移を見れば、明確にそれがおかしなことが分かります。世界中で日本の海水温だけが上がるはずはありませんので(汗)。

水産庁資料では「 我が国周辺水域では、水温が温かい時代である温暖レジームにはカタクチイワシやスルメイカ等の漁獲量が増え、逆に冷たい時代である寒冷レジームにはマイワシやスケトウダラ等の漁獲量が増える傾向にあります。 」とあります。

寒冷レジーム(??)でマイワシが増えるという一方で、海水温が高いためにサンマが日本近海に近寄らずに獲れない??秋から冬にかけて同じような北部海域で漁獲されるのに??一方で海水温が低いといってみたり、他方で高いといってみたりでは理解は困難です。

岩手の漁業者の方が、スルメイカ資源の環境要因に関する矛盾を新聞社に指摘しているブログがこちらです。良く調べないで、責任転嫁された内容がそのまま報道されていることがわかります。これでは誤解が誤解を生んでいくだけです。

機能していない漁獲枠(TAC)

漁業法改定に伴い、漁獲枠(TAC)が機能することを期待しますが、現時点(2020年1月)でのスルメイカのTACは資源管理に機能していません

2018年から過去10年でのTACに対する漁獲率はわずか46%。これでは漁獲枠が実際の漁獲量より大幅に大きく、水産資源管理が機能しません。

TACは、目標値ではありません。 ノルウェーのサバ 、アラスカのスケトウダラを始め、漁業で成長を続けている北欧や北米での漁獲量は、TACに対してほぼ100%です。実際に漁獲できる量より大幅に少ない数量が、漁業者や漁船ごとに割り振られています。このため例外を除き、毎年漁獲枠通りの漁獲実績になっています。

小さなイカを獲っても大丈夫か?

小さな小さなスルメイカも逃がさず漁獲されてしまう 

漁獲枠(TAC)が機能していないと写真のような生まれたばかりのスルメイカまで根こそぎ獲ってしまいます。悲しいことに、これが日本の漁業の現実です。

スルメイカ秋季発生系群の成長 (水産研究・教育機構)

スルメイカの寿命はわずか1年です。写真のスルメイカは1パイわずか10g程度。8ヶ月も経てば200g以上になるのに、実にもったいなく、資源に悪い漁業が我が国で行われているのです。

科学的根拠に基づく漁獲枠が、漁業者や漁船ごとに厳格に決まっていれば、スルメイカに限らず漁業者は、資源に悪くて、価値が低い小さな魚は獲らなくなります。

さらにたくさん獲るのではなく、単価が高い魚を獲って水揚げ金額を上げようとします。すると、幼魚は成長して産卵する機会を得て、資源が持続的になって行きます。そして漁業者だけでなく、消費者にも大きな魚の供給が増えてそのメリットが及んで行くのです。

他国の漁獲のせいではないのか?

スルメイカについては、環境要因が主因ではないことは恐らく理解されたと思います。そして、最後に残るのが、近隣諸国のこと。つまり、韓国、中国、北朝鮮の漁獲への疑問でしょう。日本近海のスルメイカの漁獲量は、2017年で約14万㌧。日本:韓国=比率で約45:55でした。これに数量が分からない北朝鮮や中国の数字が加わります。

特に日本海側の漁場では、各国が入り乱れて漁をしているのは報道の通りです。また、2019年は北朝鮮がロシア海域で違法操業が行い3,000人以上が捕まったと言われています。

日本、韓国がそれぞれ実際の漁獲量より大きな漁獲枠を設定し、それとは別に中国、北朝鮮も漁を行っているので、環境要因が改善されれば(そもそもこれも?)漁獲が回復するなどという生易しい状態ではありません。

しかしながら、このまま漁を続ければ、さらに獲れなくなって窮地に陥ることになるでしょう。

合意は容易ではありませんが、スルメイカに加えて、サンマ、サバ、マイワシなども含めて、手遅れになる前に科学的根拠に基づく総合的な国別漁獲枠の設定が不可欠なのです。

漁獲量という人間の力を軽視して、環境要因を主体に資源の問題を語ってしまうと大きな誤解と矛盾が生じます。そして誤った前提に対する正しい答えを政治が主導してしまった結果が、直面している魚が消えて行くという現実です。世界と日本を比較して、国際的な視点を持って行動することが待ったなしになっています。

アップデート 2019年1月18日 

アップデート 2024年6月9日

なぜ日本のサケだけが歴史的不漁なのか?

大不漁が続く日本のシロザケ

人気があって、日本人がもっともよく食べる魚の一つであるサケ。ところがそのサケの漁獲量に異変が起きています。2019年の秋から年末にかけての報道では、「北海道・三陸とも記録的不漁」「近年最悪漁5万㌧割れ」「秋サケは幻の魚」などといわれ、漁獲量の激減が大きな社会問題になっているのです。

ところで、天然のサケが10万㌧以上漁獲される国は、米国(アラスカ)、ロシア、日本だけなのです。正確にいえば日本が脱落しましたが、、、。天然のサケがまとまって獲れるのは、ともに北半球の太平洋側です。天然のサケは、世界のあちらこちらでたくさん獲れている魚でないことをご存知でしたでしょうか?

他の国々のサケの水揚げ状況は?

日本では、10~20年前(2000年~2009年)の平均漁獲量は23万㌧もありました。それが、2016年から10万㌧を割り込み始め、2019年は5万㌧と激減しています。ちなみにノルウェーやチリなどから輸入されているサケ(ギンザケ・アトランテックサーモン・サーモントラウト)は全て養殖物です。

ところで日本のサケの話だけしていると大不漁の話ばかりなので、さぞや他の国も大不漁だろうと想像されるかも知れません。しかしそれは全然違うのです。ちなみに昨年(2019年)アラスカは40万㌧で近年8位、ロシアは50万㌧で史上4位と共に「豊漁」で、まるで別世界です。こういう事実が一般には知られる機会がほとんど無く、異変に気付くきっかけがつかめないのも問題ですね。

アラスカのベニザケ アラスカのサケ類は日本と対照的に豊漁

サケの市場価格はどうなっているのか?

サケが大不漁であれば値段が上昇するはずです。しかしながら、焼き物として定番のギンザケなどのサケの価格は、短期的には下がっています。その理由は、日本での水揚げが減っていても、ロシア、米国(天然物)、チリ(養殖物)など、それを上回る供給体制が出来上がっているからなのです。

この状態は、もともと上昇が続いていた相場が少し行き過ぎて、需給のバランスが短期的に崩れているととらえるのが妥当です。しかし5年~10年単位でみれば、魚の需要の増加に対して供給が追い付かない構造になっているので、再び価格は上昇して行くことでしょう。

塩ザケの定番となっているチリのギンザケ(養殖) 2019年は相場下落

例えば、10年前にキロ400円だったあるサケの相場が800円まで高騰。それが前年比で600円に一時的に下がった場合、相場的には大幅な値下がりです。しかし、10年前に比べれば大幅高であり、価格帯を前年比、もしくは5~10年前後のスパンでとらえるかで、高いか安いかの価格のとらえ方は変わってくるのです。

さて本題に戻りましょう。なぜ日本のサケだけが激減しているのか?よく温暖化の問題が上がります。温暖化により魚が減る懸念は、サケが漁獲されているアラスカなどでも問題になっています。またFAOは気候変動・温暖化により2050年までに漁獲量が2.8%~12.1%減少する可能性があると予測しています。そうであれば、なおさら予防的アプローチを行い、水産資源管理を科学的根拠に基づき厳格に行っていかなければなりません。決して日本だけが温暖化の影響を受けているわけではないのですから。

自然に産卵するサケが少ない問題が指摘されていたが、、、

温暖化の影響は米国でもロシアでも同様に懸念されています。しかしこれらのサケ漁の見通しが明るい国々と日本では決定的に違うことがあります。

その一つが、川で産卵するサケの比率が日本では非常に低くなってしまっていると考えられることです。出来るだけ採卵して放流する考え方です。このため恐らく放流で回帰してくる比率が、アラスカでは3割程度(34% : 2018年 ADF&G)であるのと、ほぼ逆になってしまっているようです。

サケの来遊数は激減している。グラフは2017年まで。2019年はさらに減少している。(出典:水産研究教育機構)

また、サケは産まれた川に戻ってくる母川回帰の性質が有名です。しかし、サケの回帰不足で孵化させるために採卵するサケの数が減っています。一方で放流数はほとんど減少していない(グラフ参考)ので、川で自然に産卵するサケの数が少ない計算になります。採取状況などの違いにより、河川によって異なりますが、約7割のサケが放流された魚であったというデータもあります。

また、孵化させる卵の量を確保するために、足りない分を他の川に回帰予定だったサケの卵が使われているケースがあるようです。

サケの回帰率が大幅に減少中。放流数が横ばいであることから、回帰数は激減し、水揚げ量も同様になってしまう。(出典:水産研究・教育機構)

サケの回帰数が少ない表れとして、回帰率が3〜4%から2%弱までに大幅に減少していることが挙げられます。放流数がほぼ同じで回帰率が減れば必然的に、回帰数は減少してしまいますね。

断言まではできないのですが、自然産卵のサケの稚魚より、採卵された稚魚の方が生命力が弱いと仮定します。そこで自然産卵するサケの量が減ってしまった。つまり採卵用も含めて、サケの獲り過ぎで、自然産卵のサケの回帰数が減り、全体でサケの水揚げ量が激減していることが、減った主因ではないかと推測できないでしょうか?

日本のサケはMSC認証を断念。そしてその結果は?

水産エコラベルのMSC認証 北海道のサケ定置網漁業は、2014年にMSC認証取得を断念 そして5年後の水揚げ量は激減した。孵化放流の依存を減らせなかったのが原因ではなかろうか?

実は、北海道のサケ定置網漁業は、水産エコラベルとして国際的に認識されているMSC認証を2011年~2014年にかけて取得しようとしていました。しかし残念ながら「孵化放流に依存しすぎで持続的でない」と評価されて断念しています。

そこでは、自然産卵を増やすことが指摘されていたのです。一方で、サケ類の豊漁が続く米国(アラスカ)やロシアでは、対照的にMSC認証の取得が進んでおり、サケ類の資源量は持続的(サステナブル)です。

日本のサケが減っている理由については、その他に護岸工事や、温暖化によるエサ不足なども考えられるそうです。そうであればなおさら、自然に産卵させて川に戻らせる数を増やして行かねばならないのではないでしょうか?

サケ資源が回復して持続的(サステナブル)にできることが望まれます。そのためには、できるだけ河川で自然に産卵させる数を増やしたい状況ではないでしょうか?

本来、国の許可を採卵目的で獲っているはずのサケの卵がイクラになって流通されるようなことがないことも切に願いたいところです。