価格高騰! そして次々に消えて行く魚たち

次々に消えて行く日本の魚

サンマサケスルメイカシシャモイカナゴなど様々な日本の水産物で「こんなことは過去にない」「記録的不漁」といった報道が毎年続いています。

一方で、局地的に漁獲量が増えたり、水揚げ量が多い日が報道されると、全体で激減していることは何も変わらないのに、まるで回復しているような錯覚をさせられてしまいます。例えば、2020年にサンマが2年ぶりに1日3,000㌧越えという報道がありました。2019年にはスルメイカが定置網で3日連続で1万箱越えという報道もありました。

これらの個々の報道内容は事実であっても、サンマもスルメイカも全体の水揚げ数量は激減したままで、2021年は過去最低を更新しています。

サンマ の価格はマグロ並みに

農水省のデータを編集

上のグラフをご覧ください。水揚げ量が激減して起こるのは、魚価の急上昇です。2021年のサンマの漁獲量は1万8千㌧で、2019年から3年連続で過去最低を更新しています。一方魚価は上昇を続け、2021年の魚価はキロ621円と、2020年のキロ480円の3割増でした。これは1992~1994年の平均魚価キロ61円と比較すると約10倍です。

マグロの価格と比較すると、さらに高騰している程度が分かるかと思います。日本でマグロの刺身として最も消化されているマグロは、メバチマグロです。2020年に輸入されたメバチマグロ(冷凍)の平均価格はキロ592円(約6万㌧)でした。

しかしながら、サンマの魚価は高騰しても、漁獲量が少ないために、漁業者に取っては肝心の水揚げ金額が上がらず。一方で消費者に取っては売り場での価格が上昇するという、双方に取って最悪の組み合わせとなっています。

また、漁場が遠いことによる鮮度面や、たくさんのサンマから大きめのサンマを選んで出荷するような水揚げ状態ではないため、消費者としては高くて品質も今一つといった印象だったかも知れません。

シシャモはマグロの価格を超える

国産のシシャモ
農水省他のデータを編集

北海道を漁場とするシシャモの価格も高騰しています。2021年の北海道での漁獲量は170トンで、過去最低を更新しています。魚価はキロ3,900円と前年度(キロ2,381円)の64%高でした。

この価格は、もはやメバチマグロどころか、高級マグロであるクロマグロ(冷凍)の2020年価格(東京都市場・冷凍)キロ3千円も超えています。

北海道のシシャモの価格も漁獲量が多かった時は今より大幅に安価でした。1979年・1980年と各1.4万、1.9万トン漁獲されていた年の魚価は、各キロ94円とキロ81円でした。当時に比べると2021年の価格は40~50倍に高騰しています。しかも、価格が高騰しても漁獲量が激減しているために、サンマ同様に漁業者の水揚げ金額は上がらず、消費者に取っては高嶺の花となっています。

兵庫県
兵庫県のデータを編集

クギ煮やチリメンなどで食用とされるイカナゴも、漁獲量の激減で高騰しています。神戸のイカナゴの魚価は、2021年はキロ844円でした。1982年以前で年間2~3万トン前後を漁獲していた当時は、キロ100円未満でした。

それが漁獲量が激減し、2017年~2020年の4年間の価格はキロ1,776円~2,578円へと高騰しました。イカナゴは大阪湾、伊勢湾、福島沖、仙台湾、陸奥湾など、各地で不漁や禁漁が続いています。イカナゴは、ただでさえ少ない資源量になのに、その成魚ではなく幼魚を狙って漁獲するために「成長乱獲」が起こってしまいます。このため余計に資源に対して悪い漁業を行ってしまうことで、さらに悪循環が続いてしまいます。

どうすればよいのか?

今回ご紹介しているサンマ、シシャモ、イカナゴは、資源面では、持続性を考慮すると、すでに漁獲を続けられる限界を超えていることが容易に推定されます。たとえばシシャモは、年間で170トンしか漁獲量がなくなっている日本の漁獲は、資源量を配慮した公的な漁獲枠もなくそのまま。一方で、親魚量が20万トンを切ると禁漁して回復を待つノルウェーシシャモ(カラフトシシャモ)の管理とでは、余りにもその未来も合わせ違い過ぎます。

イカナゴについては、対照的に科学的根拠に基づく厳格な資源管理を行っているノルウェーでは、24万トンの漁獲で魚価はキロ約50円でした。資源はサステナブルです。また取得が難しい国際的な水産エコラベルであるMSC漁業認証も取得しています。なお、ノルウェーのイカナゴは成魚狙いですので、さらに資源に優しい漁業になっています。

シシャモもイカナゴも、すでにあまりにも資源量が減り過ぎて、回復にはかなりの年月を要します。しかしながら、ノルウェーなどで実施している科学的根拠に基づく処置を行わないと、短期的な一喜一憂がある程度で本格的に回復することは、まずありません。

サンマについては、同じくまずは科学的根拠に基づく全体のTAC(漁獲可能量)を設定し、枠を国別に配分する必要があります。NPFC(北太平洋漁業委員会)で2021年に決められた枠は、実際の漁獲量を大幅に超える枠で、水産資源管理に対する効果はありません。

NPFCでは、2021年と2022年の2年間で33万㌧もの獲り切れない漁獲枠を設定しています。2021年の漁獲量は、その3分の1程度の10万㌧程度と推定されます。内、日本の枠は15万㌧で漁獲量は1.8万㌧でした。日本の場合、漁獲枠は実際の漁獲量の5倍以上でした。これでは、日本も含め各国とも資源状態がかなり悪化していることなど顧みずで、できるだけたくさん獲ろうとするのみとなります。

北欧・北米・オセアニアなど水産資源をサステナブルにしている国々では、漁獲枠と漁獲量がほぼイコールなのが当たり前です。これは実際に漁獲できる数量より、かなり控えめな枠が設定されているためです。

国連海洋法やSDGs14.4にあるMSY(最大持続生産量)といった考え方を取り入れずに、できるだけ漁獲量を増やそうとする漁業には未来はなく、あるのは共倒れのみです。

ある魚種が獲り尽くしたら、別の魚種を獲り尽くす。ある漁場の魚を獲り尽くしたら、別の漁場を獲り尽くす。別の魚種も、漁場も、もうありません。

その負の連鎖に気付いてもらうべく、これからも様々な実例を出しながらファクトベースでの発信を続けて行く次第です。