2022年11月8日から福井県以西の日本海でズワイガニ漁が解禁しました。今年は漁模様がよいと報道されています。初日の兵庫県の津居山港では、オス約400匹、多数のメス1,500匹が水揚げされたそうです。
国産のカニや魚には、どんどん手が届かなくなってきています。また、国産水産物の不足を補って来た輸入水産物の価格は上がり続け、さらに円安が大きな影を落として行きます。
カニが食べられなくなる
上のグラフをご覧下さい。カニの価格が上昇しています。国際市場では、ロシアのウクライナ侵攻により、米国がロシアからの水産物輸入を止めたことにより、需給関係に影響が出てくるかも知れません。しかしながら、それを考慮しても、円安と世界全体の需要増により、中長期的に価格が上昇していくことが予想されます。
国際市場の例を少し捕捉しましょう。2014年にロシアがクリミア半島を併合しました。欧米などのロシアへの制裁で、ロシアは欧米を主体に輸入水産物を禁止にしました。当時、隣国ノルウェーにとってロシアは、アトランティックサーモンの最大市場でした。輸入禁止により相場の下落が予想されました。
しかし、相場は下落どころか現在ではロシアに依存しなくても、輸出価格は過去最高値となっています。そしてノルウェーの水産業は、輸出価格で過去最高を更新し絶好調です。
世界規模での水産物の需要増加が続いています。このため、どこかの国の市場がクローズされても、他の市場でその分を十分吸収するのです。
カニを獲り続けられる仕組みになっているか?
今年のズワイガニ漁は、福井県で水揚げペースが早く、解禁後の10日間で漁獲可能量(TAC)の半分を消化したとの報道がありました。漁の期間はメス12/31まで、オス翌3/20までと期限が決まっています。しかしこのままだと観光客がカニを目あてに福井に来ても、すでに生のカニは漁獲枠がなくなり手配できないという状況に陥りかねません。
そこで、福井県機船底曳網漁業協会では、漁船ごとに漁獲枠の上限を決めることにしたと報道されました。新しい取り組みのように見えますが、この方法は、ズワイガニを漁獲している国々では「極々常識」なのです。現在の状態は漁獲枠があっても、それが漁船や漁業者ごとに割り振られていません。このため「早い者勝ち」のオリンピック方式(早獲り競争)となってきました。
自分ごととして考えれば分かることなのですが、資源状態を考えて自分が我慢しても、その分を他の漁業者が漁獲してしまえば資源保護の効果はありません。これを「共有地の悲劇」と言い、全国で起きている現象です。なお、欧米・オセアニアを始め、この方式から卒業して数10年経っています。そして、共有地の悲劇から卒業して資源を回復させ、サステナブルにしています。
我が国では、従来であれば枠が足りなくなってくれば「漁獲枠を増やせ!」でした。そして漁期中に漁獲枠が増やされ、ゴールポストが動かされてしまうことがありました。しかし、少しづつ問題の深刻さに気づいて変化し、科学的根拠に基づく資源管理が進んできているとしたら良いことです。筆者の発信は、その気づきのために続けているのですから。
メスを獲ってしまう致命的な違い
日本のズワイガニの資源が、今のやり方で中長期的に増えることは、残念ながらありません。その最大の理由は「メス」の漁獲です。セイコガニというように、我が国には卵をもったメスを食べる市場があります。
資源が大量にあればメスをとっても良いですが、現在は良い状態とは言えません。それは後述するノルウェー・ロシア(大西洋)と比較すると明確に分かります。
日本、米国、カナダも含め、ズワイガニには漁獲枠が設定されています。しかし日本以外は、厳格に漁獲枠が個別割当方式になっていて(IQ,ITQ,IVQなど)、漁業者や漁船ごとに割り振られています。また、日本以外ではメスを漁獲しません。ズワイガニは200~500メートルの深海に生息していますが、メスは水揚げ後に海に戻しても生きて産卵します。
上の写真をご覧下さい。ズワイガニのオスは、メスよりかなり大きくなります。皆さんがスーパーなどで目にするカニの足の製品はオス(下の写真)です。メスの足には、可食部がほとんどありません。
このため、オスよりメスの価格は大幅に安くなっています。漁業者からすれば、漁獲枠が個別割当方式になっていれば、経済性から考えてもメスよりオスを水揚げした方が得です。一方で、日本のようには早獲り競争になってしまえば、オスでもメスでも、とにかく漁獲することが最優先になってしまいます。このため資源量は一向に良くなりません。
ノルウェーやロシアではゼロからカニが激増
国産のズワイガニは供給が増えず手が届きにくくなっていますが、同じズワイガニで、大西洋のノルウェーとロシア(大西洋側)では、全く異なる展開となっており、ズワイガニの漁獲量が大幅に増えています。
ズワイガニは、もともと大西洋のノルウェーとロシアには生息していませんでした。しかしノルウェーとロシアの北部に位置するバレンツ海で、1996年に初めて資源が確認されました。ところがすぐに漁獲をせずに「15年以上」待って、ロシアでは2011年、ノルウェーでは2012年からようやく漁獲が開始したのです。
日本では遠い昔から生息していたズワイガニ。それが10年もしないうちに、日本の漁獲量を大幅に上回っている現実。資源管理の違いとその結果に気付いて欲しいです。
その違いとは、科学的根拠に基づく資源管理、メスは漁獲しない、漁獲枠が個別割当方式になっているの3点です。この3点がズワイガニ資源を回復される3点セットであり、どれが欠けてもダメです。
アラスカでのズワイガニの禁漁の意味と日本の資源量
2023年、アラスカでのズワイガニ漁が禁漁になったことが報道されました。しかし誰もその本質を解説しないので記述します。
上の表をご覧下さい。禁漁と言っても、アラスカのズワイガニの資源量は約10万㌧と日本の約2万㌧の5倍もあります。しかも、ABC(生物学的漁獲許容量)では7,700㌧、つまり科学的には7,700㌧(♂♀込み)漁獲しても良いと言われているのに、♂の資源量が過剰漁獲状態と判断されて禁漁となったと推定できます。
米国では、漁再開まで4年と言われています。十分資源の回復を待ってから再開する場合と、我が国のようにメスも含めて常に獲り続ければ、5年後、10年後といった将来像で明暗が分かれてしまうのは明らかです。
米国(NOAA・海洋気象庁)は、この度の資源量減少の原因は、気象条件の変化だと指摘しているそうです。しかし、これは米国のように科学的根拠に基づいて厳格に資源管理を進めている国が言えることです。我が国のように、そもそも漁獲枠が過剰で、メスのズワイガニまで漁獲してる国が言える内容ではないことを付け加えておきます。
日本の2021年の漁獲枠は4,573㌧に対して漁獲実績は僅か♂♀込みで2,090㌧(消化率46%)。米国は、♂のみで2,295㌧(消化率90%)の漁獲量。ほとんどの海域で、漁獲枠がまだ機能しておらず、しかも♀まで漁獲していることが問題なのです。
アラスカの基準で日本のズワイガニ漁を決めていたとしたらどうなっていたでしょうか?間違いなく、かなり前にメスの漁獲を禁止し、科学的根拠に基づき、漁獲量の大幅な削減か、禁漁を実行していたことでしょう。そして今頃は資源を回復させ、消費者に提供できる数量は確実に現在よりも増加していたことでしょう。実にもったいない話です。ズワイガニ資源の持続可能に向けた残された時間は多くありません。