東日本大震災と水産業 震災から10年が経過

震災後の10年間に起こったこと

2011年3月11日に起きた東日本大震災。2021年の今年で10年が経過しました。残念ながら、この間に起きた事象を分析すると、どれだけ多くの水産業、そして漁業を復活させる機会を逸してしまったか分かります。

震災後に石巻に造られた巨大な市場

巨大な漁港や市場が出来ても、肝心の魚が少なければ無用の長物と化します。一方で、巨額が使われている設備に対して、漁業先進国と同様に資源管理ができて、魚が持続的に獲り続けられる仕組みがあれば、とても役に立つ設備となります。この違いはとても大きいです。

輸入水産物の日本離れ

すでに震災前から、国内で水揚げされる加工原料の減少は深刻でした。その分を三陸にカラスガレイ、マダラ、アカウオなどの底魚類資源などが北欧や北米などから輸入されて製品化、国内市場に供給されていました。

震災前には、たくさんのカラスガレイが三陸で加工されていた。

そんな時、震災で石巻、女川、気仙沼を始め多く加工場が被災。工場が再稼働を始まるまでの期間、生産は止まっても消費が止まるわけではありません。

そこで、すでに中国やタイなどで原料を北米や北欧から輸入して日本に加工品を輸出する仕組みが加速しました。もともと中国では、一旦輸入した水産物を国内で消費するわけではなく、保税加工して製品を輸出し「加工賃」を主な収入としていたのです。

しかしながら、この間に中国の国内消費が経済成長とともに急速に発展。水産加工場は民営化が進み、自国で輸入し、中国国内と日本を含めた海外市場を比較しながら販売する会社へと変わって行きました。

当初は日本の輸入業者が在庫の資金面も見ていました。しかしながら、中国側の資金が増えて行くことで、日本離れが増えて行きます。

もともと中国の水産加工は、日本人が多くの技術指導者を長期間派遣し、日本に輸出できるまでに品質レベルを上げて今日があります。しかし、時間の経過とともにその認識は薄れ、かつての協力関係は、水産原料を買い付ける際の競争相手と変わって行きます。

しかしこれは、水産物に限ったことではありません。それどころか、形式は異なるにせよ、米国の自動車産業を後発の日本が凌駕した際にも、同じようなことが起きています。

日本の水産業の技術が、中国を始めとするアジアの国々に流出していくのは時代の流れだったのです。

中国を始めとするアジア各国の水産業の変化

人件費が安いという理由で始まった、中国を主体とする海外での水産加工。このため、当初の加工場は、作業用のテーブルと包丁と冷凍機があれば始められるような設備でした。それが、人件費の上昇で機械化が進み出し、海外で加工して日本に輸入するビジネススタイル自体が変わりつつあります。

昔、日本の加工場で、魚の水揚げ量が多かったという理由で水産加工を始めた加工場は、使用する魚が輸入物に切り替わったことで、いつの間にか競争力を失っていたのです。

海外から冷凍魚が東京に輸入されて、三陸の加工場へ輸送。そこで加工して東京などの消費地で販売するのが、国内の水産資源枯渇により始まったビジネスモデルの1つでした。

しかし、海外から直接日本ではなく、一旦中国に向けて、そこで加工して東京、大阪、九州などの各地に製品を再輸出する新しいモデルが進んでいました。中国などで加工するこの形の方が、品質の違いは別としてコスト面では、物流面で有利になってしまいました。

これからさらに、中国に限らず、タイ、ベトナム、インドネシアといった国々も、海外から加工原料を買って自国と輸出市場を両睨みしてバランスを取って販売する業者が増えて行くことでしょう。そして、各国とも輸入原料の買付け競争が激化し、利幅が減少していきます。

そして自国の水産原料が1番競争力があることに気付くのです。歴史が繰り返すのは、日本だけではありません。

震災と水産資源

皮肉なことに震災は水産資源を強制的に、かつ一時的に回復させました。放射性物質の影響で漁獲できない、いわば強制的な海洋保護区ができました。そして対象となる漁業者に補償金が支払われたために、マダラヒラメマサバなどの資源が一時的に回復したのです。

ノルウェーでは資源保護の観点から決して漁獲されないサバの幼魚が、日本では普通に水揚げされてしまう。

しかし、天が与えてくれた復活の機会は、水産資源管理が震災以前と変わらない自主管理や、獲り切れない漁獲枠であったために元の木阿弥になりつつあります。なぜ日本各地からイカナゴが消えていく環境で、福島のイカナゴは震災後一時的に期待されていたのか?なぜ、震災の翌年に34年ぶりにマサバが北海道道東沖に現れたのに、わずか6年でほとんど獲れなくなってしまったのか?

水産資源管理の不備が復活の芽を潰し、それが環境の変化や外国のせいへと責任転嫁されてしまい、日本人の多くはそう信じています。

どうするべきであったのか?

もしも震災後に北欧の資源管理を導入していたらどうなっていたでしょうか?一時的な大漁!は抑制され資源管理で生き延びた親魚はたくさんの卵を産み、そして産まれた幼魚は漁獲されないので、親魚になる機会を与えられます。

震災後、4分の3、8分の7といった補助で水産加工場が再建されました。震災前には手が出なかったフィレーやパッキングの最新の機械が、ドイツなどから次々に輸入されました。

しかしながら、肝心なものが不足。それは「魚の資源管理」でした。三陸で漁獲される魚の資源管理の不足が、加工する魚の不足を招き厳しい状況に拍車をかけているのです。

資源管理において世界で起きている成功例に目を背けてしまったことは余りにも代償は大きかったのです。さらに公海での資源管理ができていないことがサンマ資源の減少を招き、追い討ちをかけています。

一方で、2020年12月に施行された改正漁業法のような変化も起きています。ただし、その法律も水産資源が「国民共有の財産」になっていませんでした。また、資源管理の達成確率が北欧や北米では90-95%に対して、日本では50%以上といったように低く、骨抜きになっている恐れがあります。

震災後10年が経過し、日本の水産業が復活できる機会がありました。しかしその機会の多くは、見逃されて潰してしまいました。崖っぷちの今、その原因と解決方法を国民が理解し、共有することができるのか?

魚が減ったのは、海水温上昇や外国の漁船が獲ってしまうからであり、日本の資源管理は素晴らしいということではないことに気付かなければ、日本の漁業も水産業も、このまま共に崩壊するのです。

迷走するサンマ国際会議  漁獲枠40%削減合意の意味?

細くて価格が高くなったサンマ 魚価が上昇して前年度より水揚金額は上昇。さらに漁獲が減り品質が劣るのに価格が上がれば、消費者離れが起きる恐れがある。

歴史的不漁が止まらないサンマ漁

2021年2/23〜25にかけてサンマを巡る国際会議NPFC( 北太平洋漁業委員会 )が開催されました。深刻なサンマ資源の減少に対し、科学的根拠に基づくTAC(漁獲可能量)と、それを国別に分配する国別TACが設定されるはずでしたが実現せず。

マスコミでは、サンマの漁獲枠を現行の40%削減で合意と報道。ところが、今年度そして来年度も、漁獲量の激減が続く2020年の倍以上(その分のサンマがいれば)獲っても問題ないのです。なので合意内容では資源管理への効果はありません。

激減が続くサンマの漁獲量。2020年は10万㌧を少し超えた程度でさらに減少した。「赤色」が日本の漁獲量。 NPFC

なぜそのようなことが起こるのか?まず初めに資源激減に関わらず、昨年(2020年)合意された全体の漁獲枠は、資源量減少が著しいというデータが出ているにもかかわらず55.6万㌧と獲り切れない巨大枠でした。次に今回(2021年)決まったという削減後の枠は、33.4万㌧。

2020年の実際の漁獲量は10万㌧を少し超えた程度。つまり枠は実際の漁獲量の4倍以上でした。

40%削減の計算根拠は、なぜか2020年でも2019年でもなく、激減前の2018年の44万㌧がベースになっています。これは2020年の水揚げ数量と比較すると3倍以上の数量です。

従って40%削減されても、昨年実績の倍以上の漁獲量を獲っても問題なし。それどころか日本のEEZ(ロシアも含む)に至っては、13.6万㌧!日本の漁獲量は2.9万㌧でしたので、5倍弱。また数字は出ているのに、2019年よりさらに減少した2020年の漁獲量をすぐに公表していないのも謎です。

各国とも、今回の合意内容であれば、実態はこれまで通りの獲り放題。そのサンマ資源が激減していることが共通している大問題なのですが、、、。

しかも有効期限は2年。今年さらに資源状態が悪くなっていたとしても、来年もそのままということになってしまいます。そして獲れなくなってから禁漁という最悪の自体に陥らねばよいのですが、、。(例)日本のイカナゴ、ハタハタなど。

サンマの資源量は危機的な水準を通り越している

サンマの資源は激減が続いている だから漁獲量が減少  NPFC

上のグラフは、資源調査に基づくサンマの資源量推移を表しています。これに、実際の漁獲量の推移を合わせると、傾向がほぼ一致していることが分かります。少なくても激減傾向は一目瞭然ですね。

SDGs(持続可能な開発目標)14.4で掲げられているMSY(最大持続可能量)が維持できる資源管理からは遠く離れており、水産資源管理が進んでいる北欧などでの水準からすれば、残念ながらすでに禁漁する水準ではないでしょうか?

北欧のシシャモのように禁漁しても復活する資源管理と異なり、公海を含めたTACに基づく管理が行われておらず、その間に中国、台湾と漁船を次々に建造されて、サンマ資源をあてにされてしまったことは、日本にとって最悪の結果です。

サンマ資源が10年ほど前までは持っていた理由

サバ、スケトウダラ を始め日本の資源が激減していく中で、サンマの減少速度は、中長期的に見ると比較的緩やかでした。これは、棒受けという光で集めてすくいとる漁法であったために、漁獲圧が低かったからです。日本は大中巻き網船によるサンマ漁を禁止しています。これはとても良い制度でした。

一網打尽となる大型巻き網(サバ)や、大型トロール船(スケトウダラ )で、サンマ漁を行なっていたら、2000年以前に資源量は激減していたことでしょう。

もっとも、大型巻き網や大型トロールが悪いのではありません。これらの漁法で大型船が操業しているノルウェー、米国、ロシアでの資源量は潤沢でサステナブルです。その違いは資源管理の違いなのです。

サンマ漁に新規参入した中国船、そして台湾船も漁法は同じ棒受け漁。日本をまねただけでしょうが、これらの国々、特に新しい中国船がサバ漁同様に、棒受け以外の漁法(巻き網、トロール)でサンマ漁を始めるとさらに枯渇に拍車がかかってしまう恐れがあります。

歴史は語る スケトウダラ の公海漁業の禁止

日本で漁獲されたスケトウダラ

乱獲に対し、公海の資源管理が断行された例があります。皮肉にもそれは、日本漁船が深く関係していたスケトウダラ漁でした。今日、米国とロシアの漁業は、スケトウダラの資源がサステナブルだから発展して来たといっても過言ではありません。

水産教育・研究機構

上図の緑の部分に、公海のスケトウダラの漁場が囲みで示されています。当時の日本漁船は、1977年の200海里漁業専管水域の設定で、アラスカ沖から排除され、新たな漁場が必要でした。そこで発見されたのがこの漁場(通称・ドーナッツホール)です。

新漁場には、200海里で締め出された日本漁船を主体に韓国、ポーランドなどの漁船が集結しました。しかし下の表で分かる通り、わずか5〜6年で資源は枯渇。

水産教育・研究機構

1994年以降は漁獲停止で合意しています。公海漁場は、米国やロシアのスケトウダラの漁場と近く、漁獲停止は公海漁場の近隣である、主に米国側の資源の持続性に良い影響を与えていると考えられます。

ちょうど、日本の海域からはみ出ているマサバマイワシの資源(またがり資源)を漁獲している中国船などの操業を止めさせたようなものです。

有利な取り決めが役に立つ機会は訪れるのか?

NPFC( 北太平洋漁業委員会 )で、日本に取って有利な取り決めがあります。それは、国連公海漁業協定上、EEZ内に漁場を持つことが幸いし、EEZ内の配分比率を全漁獲枠の4割とできていることです(若干漁獲しているロシア分含む)。

日本の漁獲比率は、2020年度の2割程度まで減少。最初の棒グラフで示された赤い部分は、かつて8割が日本の漁獲でした。これを考えれば遅すぎですが、それでも2割と4割の配分では大きな違いとも言えます。

しかしながら、この4割の配分維持には避けて通れない2つの関門があります。①このまま獲り続けて2年間も資源が持つのか?資源が無くなれば公海でのスケトウダラ漁の停止同様に配分に意味がなくなる。②真剣に枠を減らす配分の議論をする場合、もっとも実際の漁獲量と乖離している日本のザル枠と配分比率を各国が認めてくれるのか?

崖っぷちの魚種だらけの日本。その中でも日本人の理解と事実の乖離がもっとも大きい魚種の一つがサンマかも知れません。

復活! アイスランドシシャモの資源

復活したアイスランドのカラフトシシャモ資源 

95%の確率が求められる漁業

2019年から禁漁していたアイスランドシシャモ(カラフトシシャモ・以降シシャモ)の資源が予想通り復活し解禁となりました。これから2~3月が漁獲シーズン。資源調査の結果2/7時点でのTAC(漁獲可能量)は12.7万㌧ですが、今後の追加調査でまだ枠が増える可能性もあります。

2020年時点で算出された2021年の枠は17万㌧であったので、ほぼ近い数量となっています。アイスランド・ノルウェーといった国々では、その資源量が95%という高い確率で、取り決めた資源量になるというルールにしています。産卵親魚の資源量各15万㌧・20万㌧残すというものです。

つまり、前者のアイスランドで言えば、漁獲されたり、マダラなどの他の魚種に食べられたリする量を除いて15万㌧の親魚が産卵できるように計算されているのです。それができなければ解禁しないということです。しかも要求される達成の確率は95%。

日本で2020年12月に施行された改正漁業法は、ようやくSDGs14(海の豊かさを守ろう)でも採択されているMSY(最大持続生産量)に基づく設定を始めましたが、その確率は50%以上といった目標数字が見かけられます。資源管理の達成の目標を95%としている国々との差、および将来への影響がどうなるか考える必要があります。資源量が多い国が甘いなら別かも知れませんが、その逆ですので。

明るい北欧シシャモ漁の未来

アイスランドでは2021年の漁が2月に始まったばかりですが、すでに先のことが分かっています。2022年のTAC(漁獲可能量)は40万㌧と算出されており、大幅な増加が予想されています。

一方のノルウェーでも、資源は急回復。未成魚の資源量は2014年以来の100万㌧超えとなっており、2022年にはその一部が成魚となるため解禁される可能性があります。ノルウェーにしてもアイスランド同様に資源管理がしっかりしているため、一時的に禁漁となっても「確実」に資源量が回復して解禁され、たくさんの水揚げが復活し、それらが日本の食卓に上ります。

ノルウェーのシシャモ漁は2019年以降禁漁のままですが、アイスランドの解禁はノルウェーにも恩恵を与えます。なぜなら上記の12.7万㌧(今後増枠の可能性)の内、ノルウェーに4.2万㌧もお裾分けが行くからです。

これは、ノルウェーがアイスランドの資源を利用する一方で、アイスランドもノルウェーの資源を相互に利用するからです。水産資源管理の成功は、自国だけでなく、近隣国にも恩恵を与えるまさにウィンウィンの仕組みですね。

これは資源量が激減し、各国で逆のことが起きてしまっているサンマスルメイカなどの管理に参考になる例ではないでしょうか?

シシャモの漁場と距離

シシャモの漁場 青はシシャモ 赤はニシン (ノルウェー青物 漁業共同組合から編集)

上の図の赤い矢印で示した青色の点を見て下さい。アイスランド沖で、ノルウェー漁船がシシャモを漁獲したと報告している場所です。ここからノルウェーに戻って水揚げすると3日かかります。サンマの漁場が遠くなり日本に水揚げするまで3日かかったというのと、日数ではほぼ同じ。ちなみにノルウェーの面積は約38.5万㎡で日本(37.8万㎡)と同じです。

上図のノルウェー漁船は、基本的に魚を自国に持ち帰って鮮魚のまま水揚げします。しかしアイスランドは目の前で1日で水揚げできます。アイスランドでは、当然ノルウェーより多くの数量を自国漁船が漁獲して水揚げします。ノルウェー漁船をノルウェーに呼び込むためにはアイスランドでの水揚げ価格より高い価格を漁船に提示する必要があります。

シシャモの買い付けに最も高い価格を提示するのは日本。ノルウェーは2021年度も、シシャモ漁は禁漁です。しかしアイスランド沖で漁獲されたシシャモがノルウェー産として日本に輸出されるので、アイスランド産と共に2019年からの禁漁でほぼ残っていなかったところに供給されることになるのです。

シシャモの価格

おなじみ子持ちカラフトシシャモ 

あまり気付かないかも知れませんが、シシャモ(カラフトシシャモ・子持ちシシャモ)の末端価格は上昇しています。2010年~2019年の末端価格の平均が100gで159円なのに対し、2020年(7月まで)は同203円と約3割上昇しています。1パック100円均一での販売といった安価での売り出しは減ったはずです。

日本のシシャモ

国産のシシャモ 漁獲量は激減 価格高騰 

一方で日本のシシャモ漁。北海道での2020年の漁獲量は約300㌧と、記録が残る30年余りで最低。その原因はとなると「海水温の上昇などの海洋環境の変化が影響しているとみられる。」そうで、不漁の原因を詳しく分析するそうです。ところで、資源評価もTACもないままで良いのでしょうか?このスピード感で間に合うのか?

北欧のカラフトシシャモと種類は違うといっても、売り場ではシシャモとして並びます。しかし、供給があまりにも少ないために価格が高くなり、高級品となってきています。すでにシシャモといえば、供給量が圧倒的に多いカラフトシシャモが日本の市場を席巻。

ところで、その資源管理の方法は全然違います。日本の場合はシシャモにTAC(漁獲可能量)さえありません。毎年期待するのは大漁かもしれませんが、資源が減れば大漁どころか獲れなくなるのが現実です。いなくなってからの禁漁では遅いのです。

アイスランドでもノルウェーでも日本と同様に海水温が上昇する問題はあります。しかし、生物の多様性や環境の変化も加味した上で、厳格に管理しています。その違いで資源量と持続性(サステナビリティ)の差はどんどん開いてしまっているのです。

今年の漁はどうだろうか?大漁祈願!などという時代遅れの漁業は、アイスランドやノルウェーにはないのです。

ノルウェーのマダラはなぜ大きいのか?

大西洋マダラの幼魚 日本も大きくなるまで漁獲せず幼魚を見るのは水族館だけでよいのでは?

欧州でマダラは食材の王様

ノルウェーの市場で売られるマダラ 小さいのはいない 

サバ、サーモンなどと並びノルウェーの主要魚種であるマダラ(大西洋マダラ)。漁獲量は、2019年で33万トンとサバ16万トンの約2倍。水揚げ金額は約900億円でサバの約300億円の3倍です。

日本でマダラというと下の写真のような鍋の具材などが思い浮かびますね。

北海道で水揚げされたマダラ

一方でノルウェーのマダラは、英国でフィッシュアンドチップス(写真下)での原料として、バカラオという干した塩ダラにして、ブラジル、スペイン、イタリア、ポルトガルなどへも輸出されています。またフィレにして各種の料理用に。

英国の定番 フィッシュアンドチップス

欧州でのマダラは、食材として魚の王様といって良い存在なのです。

小さなマダラは獲らないから大きくなる

マダラは最長で40歳、体長2メートル、60kgにもなる大型魚です(NSC)。

ノルウェーでは、漁獲サイズに制限があります。最低でも体長40cm(北緯62度以北は44cm)以下の漁獲は禁止(漁業省)。

日本では水産資源管理制度の不備で容赦なく漁獲されてしまうマダラの幼魚 これではなかなか大きくなれない

日本では残念ながら10cm前後のマダラの幼魚まで底引き網などで漁獲されているのが現実です。このため、大きくなる前に獲られてしまい、なかなか成長できず、卵も産めないという悪循環が続いています。

三陸では、一時的に東日本大震災で漁が制限されて資源が急増しましたが、2020年には元の低位に逆戻り。その主因は、海水温の上昇でも、他国の影響でもなく、幼魚まで獲れてしまう資源管理制度の不備。同じ間違いの繰り返し。しかし、時計の針は元に戻せず。

一方ノルウェーではサイズ制限もさることながら、TAC(漁獲可能量)が漁船の大きさや、漁船ごとに厳格に決められています。

下の表はオークションに使う2021年1月の最低魚価です。丸のまま(round)のサイズは、9kg以上、3.7-9kg、1.5-3.7g、1.5kg以下という4分類。

サイズが大きいほど価格が高く、漁業者は漁獲できる数量が、実際に獲れる量より大きく制限されています。このため、限られた漁獲枠でできるだけ価値が高い大きな魚を獲ろうとするのです。

ですから、小さな魚は避けようとする強い意思が働きます。もし、自分がノルウェーの漁業者だったらと考えたら容易にイメージできると思います。

(ノルウェー底魚類 漁業協同組合) NOK=¥12.24(2021年1月24日)

生物多様性を重視するノルウェー漁業

大きなマダラが毎年たくさん漁獲される理由は他にもあります。それは、生物多様性を重視し、マダラのエサの資源管理も厳格に行っているからです。

マダラの代表的なエサの一つが、シシャモ(カラフトシシャモ)。ノルウェーのマダラよりもはるかになじみが深いシシャモは、2019年から禁漁が続いています。

すでにシシャモの資源状態はかなり回復してきており、2022年以降の解禁待ちです。ところが漁獲枠を決める際に、マダラなどが食べる量も考慮されるために、なかなか解禁されません。シシャモの禁漁中に、漁獲されたマダラの胃袋の中にシシャモが一杯な状態であってもダメ。

シシャモをエサとする魚などが食べる量が、人間が漁獲する量より優先されているのです。

シシャモ漁が解禁されても、漁獲する際にマダラが混獲されているとその海域は禁漁になることがあります。日本ではマダラにもシシャモにも漁獲枠がありません。対照的に狙っていない魚がたまたま獲れたらボーナスになるだけでしょう。混獲による個々の資源への影響が考慮される体制ではないのです。

しかしながら、ノルウェーのように資源管理がしっかりしている国では、混獲は厳しく管理されています。だからマダラを始め様々な魚が大きく育ち、サステナブルなのです。

水産資源管理の違いによる資源量の違い

上の表をご覧ください。同じ大西洋のノルウェーとEUでは資源状態に大きな差があります。両国ともTAC(漁獲可能量)と漁船や漁業者ごとに漁獲枠を分ける個別割当制度を適用しています。

ノルウェー北部のバレンツ海はマダラの最大の漁場 (NSC)

一見似たように見えますが、大きな違いがあります。ノルウェーは1987年からマダラの海上投棄を禁止。一方でEUではようやく2019年からの禁止となりました。それまではEUは小型のマダラを海上投棄。これが資源量に悪影響を与える一因となってしまっていたのです。

下の最初のグラフは、EUが主漁場としている北海での漁獲量推移で、水色のdiscardは投棄された量です。次のグラフは、1987年にマダラの小型魚の海上投棄を禁じたノルウェーが主漁場としているバレンツ海の漁獲量推移のグラフです。(上のグラフは1,000㌧単位、下は100万㌧単位です。)

EUを主体とする北海での漁獲量推移 単位1,000㌧(ICES)  
ノルウェーとロシアを主体とするバレンツ海での漁獲量推移。単位100万㌧。 (ICES)

海上投棄が認められていれば、漁獲枠が決まっているため、価値の低い小さな魚を海上投棄して大きな魚を持ち帰る。これでは「成長乱獲」を起こしてしまいます。

一方で日本の場合は、マダラに漁獲枠さえないので、小さくても何でもできるだけたくさん獲ろうとしてしまいます。海上投棄はもちろん悪いですが、資源の持続性を考えると、EUより漁獲枠がないためにさらによくないのです。日本のマダラの漁獲量は約5万(2019年)です。本当はもっと資源も漁獲量も増やして行けるのですが、、、。

ノルウェーのように、小さなマダラは獲らない仕組みを作り、本来であればマダラのエサとなる小魚の資源量なども考慮して、科学的根拠に基づく数量管理をしていくべきではないでしょうか?

マダラの幼魚は、サステナブルな漁業にするために、獲ってしまうのではなく水族館で見られる程度にしたいものです。

大不漁 サンマ漁はどうなったのか?

新物のサンマ 焼いても脂がほとんどにじみ出て来ない 

社会問題 サンマ大不漁は正しく認識はされているか?

2020年のサンマの漁獲量はわずか2万9千㌧と、歴史的「凶漁」と言われ過去最低だった昨年を27%も下回りました。

ところが、その原因を客観的に分析した情報はなかなか見当たりません。消費者に取っては高くて細いサンマ、一方で漁業者に取っては魚価が高くても漁獲量が極端に少ないために水揚げ金額が不足。つまり双方に取ってよくない最悪の事態に陥っています。

また、同じサンマ資源を獲り合っている台湾・中国などとの国別の漁獲枠の合意もされていません。残念ながらサンマ資源を巡る環境は悪化の一途です。

矛盾だらけ! サンマが減った理由

①海水温の上昇により日本の沿岸に群れが近づかない②台湾や中国の漁船が日本に来遊する前に獲ってしまうなどの理由がマスコミを通じて報道され、多くの日本人が原因の本質を誤解しています。

①については、日本から遠く離れた「公海」の漁場でも不漁となっています。近づく前の群れ自体が激減していることを理解する必要があります。そうしないと、来年こそは!といった可能性が低いことに期待することになってしまいます。短期的に一時的に回復したような錯覚を覚えることがあっても、最低でも10~20年単位で漁獲量推移を見てみると、何もよくなっていない現実がわかります。

②については、今年の漁業は「公海」が主体であり、台湾、中国などの漁船と入り混じって漁が行われていました。同じ漁場である以上、日本の漁船が獲れなければ他国の漁船も同様に獲れません。ただし、他国は日本と異なり、洋上で凍結しているために陸地まで数日かけて往復する時間が不要です。このため日本の漁獲量は相対的に減少してしまいます。これは漁獲実績をもとに話し合う漁獲枠配分の話し合いの際に、不利な要素となってしまいます。

マイワシが増えたのでサンマが回遊しにくくなった?

農水省データを編集 

「マイワシの分布が拡大して、サンマが北へ東へと追いやられている?」日本では魚が獲り過ぎでいなくなると、その結果をもとに無理やり理由を付ける傾向があり、問題の本質からズレて行きます。そして結局は「原因はよくわからない」にたどり着くのです。これなら誰にでもできます。

上のグラフは、サンマと太平洋側で漁獲されたマイワシの漁獲量推移をグラフにしたものです。1980~1990年代にかけてマイワシの漁獲量は、200万㌧前後と現在の5倍前後もありました。一方で、サンマの漁獲量も同時期に20~30万㌧もあり、昨年(2020年)の10倍もの水揚げでした。マイワシがサンマの来遊を妨げているのなら、当時のサンマの漁獲量は今より少ないという理屈にならないでしょうか?

また、同様におかしな例が、イカナゴが激減した理由です。水がきれいになり過ぎて栄養分が減ったからという理由ですが、それならば海の水がもっと綺麗だった奈良時代や室町時代などは今より少なかったのか?という理屈になります。「資源管理制度の不備による魚の獲り過ぎ」という魚が減った本当の理由を捻じ曲げてしまうとそれらの理由には様々な矛盾が出てきます。もう一方で、問題が先送りされて何の解決も見出せなくなります。現実と真摯に向き合うことが重要ではないでしょうか?

サンマの水揚げ減少と魚価(水揚げ単価)の高騰で起こること

農水省データを編集

水揚げ数量と魚価の推移を表した上のグラフをご覧ください。2000年~2009年の年間平均水揚げ量は約30万㌧、単価は約キロ¥100でした。それが水揚げの激減に伴い昨年は、水揚げ数量でその約10分の1、単価は5倍となっていることがわかります。

年間30万㌧前後の水揚げがあった時期には、供給量が消費量に対して多過ぎるため、食用に回らず養殖のエサなどの非食用向けに2割程度回ることが少なくありませんでした。また、干物や缶詰などの加工原料にも次々に冷凍されて行きました。

ところが、ここ数年のように水揚量が減少し、単価が高騰すると養殖のエサに回していたような小さなサンマでも、供給不足により食用に回され易くなります。また加工原料に向けられる原料も相対的に減少し、かつ原料価格は高騰し使いにくくなってしまいます。

さらに、全体的にサンマ以外のサバなども含めて、海の栄養分が減っているためか成長がよくない傾向があります。

それで「サヨリ?」と呼ばれるような細くて小さなサンマが売り場に出てくるのです。また供給不足により単価が高い。このために消費者の財布に優しかったサンマは消えてしまう傾向が強くなっています。

昨年一時期活躍した冷凍サンマも、2019年の水揚げ自体が過去最低であったために冷凍にはほとんど回っていません。加えて2020年はさらに減るか、もしくは非常にコストが高い冷凍品となります。

サンマの水揚げ数量と金額推移から分かること

農水省データを編集

次に水揚げ数量と金額推移を示した上のグラフを見てください。2018年以前は、水揚げ数量が減っても、意外と水揚げ金額が減少していないことがわかります。漁業者に取って肝心なのは、水揚げ数量ではなく、水揚げ金額の方です。冷静に見れば、水揚げ量が減ると単価が上がるので、大漁が必ずしも漁業者に取って良いことではないのです。これは他の魚種でも概して同じです。

ところが、水揚げ金額は「水揚げ数量x魚価」で決まります。水揚げ数量があまりにも少ないと、魚価のアップで水揚げ金額の減少を補えなくなってしまうのです。そして今、それが起き始めています。

また、水温の上昇と資源の減少により、漁場が遠くなっています。ノルウェーサバのように漁船ごとに漁獲枠の割当がされていないので、小型の漁船ほど遠い漁場に向かいにくく不利になってしまいます。また、無理して出ていけば事故の危険性も高まります。

予想通りの大不漁 有効な対策なし

水産研究教育機構 

昨年の大不漁は事前の調査結果と予想の通りでした。上図の2020年9〜10月の調査結果では、北海道近海では見つからず。

ところで、サンマのTAC(漁獲可能量)は、26.4万㌧と漁獲実績(2.9万㌧)のほぼ10倍。しかもノルウェーのように漁船別の枠ではありません。このため、資源量を考えての漁獲を行う体制になっていないのです。

国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)での採択14「海の豊かさを守ろう」は、日本以外のサンマを獲る国々も守らなければならない内容です。そのためには、手遅れに近づいているサンマの資源管理をまともにすることが喫緊の課題ではないでしょうか?

将来が明るい漁業とは?

2020年は新型コロナが世界に影響した年でした。ところで漁業との関係はどうでしょうか?漁船や水産加工場などへの感染の影響はどうなのか?ファクトベースで見ていきましょう。

絶好調が続くノルウェー漁業

ノルウェーの大型巻き網船 デンマークに停泊中

まずはノルウェーの漁業についてです。サバニシンイカナゴ等を漁獲している青魚関係の水揚げ金額は、コロナの悪影響どころか過去最高金額。初めて10億クローネ(1,200億円)を超えて絶好調。魚を減らすことなく獲りつづける最大漁獲量(MSY=Maximum Sustainable Yield)に基づく漁業を続けています。

強さの秘訣は、豊富な資源がサステナブルに漁獲されているからに他なりません。そこには「大漁祈願」などという概念はありません。実際に漁獲できる量より、はるかに少ない漁獲枠が漁船ごとに設定されています。このため漁に行く前からシーズンごとの漁獲量が決まっていて、上述の主要魚種はもちろんのこと、その通りになるのです。

また、大量にいるシシャモ(カラフトシシャモ)が2019年から禁漁になっています。大量にいても獲らずに我慢しているのは、親魚量を20万㌧以上残すというルールが適用されているからです。しかし、すでに資源は回復傾向にあり、数年後には再び解禁されることになります。シシャモが加われば、さらに水揚げ金額の記録が更新されることでしょう。

主要魚種のマダラやニシンなども含め、漁業者が最も多い沿岸漁業ももちろんのこと、水産資源管理の成功による明るい未来が見えています。

アイスランド漁業の未来も明るい

ノルウェーだけではありません。アイスランドでも明るい未来が見えています。シシャモ漁はノルウェー同様に2018年から禁漁になっています。しかし、2022年には40万㌧(!)もの漁獲枠が発給される見通しです。

2021年ではなく、なぜ2022年なのか?それは、年齢ごとに資源管理されており、2022年に産卵する資源量が多いことが予め分かっているからなのです。

2021年も最低2万㌧枠が出ることに決まっていますが、これには今月と来月(1月~2月)にかけて資源調査が行われて資源状態に応じての追加枠発給が期待されています。

アイスランド海域での徹底したシシャモ資源調査(ノルウェー青物漁業協同組合HPより編集)

アイスランドのシシャモの資源管理は95%の確率で15万㌧の産卵親魚を残すことです。資源調査は、上図のように調査船と漁船により縦横無尽にアイスランド周辺海域が徹底的に調査され、科学的な調査結果に基づいて漁獲量のアドバイスが出されます。

北米(アラスカ)の漁業も明るい

すり身で11万トンやタラコで2万トン(2019年)輸入しているアラスカのスケトウダラ。その漁業の未来もとても明るいのです。2020年の漁獲量は、TAC(漁獲可能量)が143万㌧で、漁獲量は137万㌧。枠の消化率は96%でした。

2021年のTACは138万㌧です。そして暫定的に2022年のTACは140万㌧となっています。ノルウェーのサバやニシンなどと同じで、TACが資源の持続性を考えてかなり低く設定されているために、TACの通りの漁獲量となります。

ノルウェー、アイスランド、米国(アラスカ)を始め、水産資源管理に成功している国々では、当年だけでなく、その先の主要魚種の漁獲量も分かりかつ正確です。

「今年の漁に期待!」とか、「大漁祈願」などはなく、漁期の前に科学的な調査が行われます。そして漁獲枠が設定され、その通りに水揚げされて行くのです。漁業者は価値が低い幼魚の漁獲を避け、魚価が少しでも高くなるよう、水揚げを分散する戦略を取って行きます。

日本の漁業に未来はあるのか?

昨年12/1に施行された改正漁業法に基づき「国際的に見て遜色がない資源管理」されていかねばなりません。

国産のイカナゴ 

ところで昨年壊滅的だった仙台湾のイカナゴ(コウナゴ)では、操業前に20か所で調査して見つかったのは僅か1尾(キロでもトン)でした。しかしながら設定された漁獲枠は9,700㌧。そして水揚げ量は106キロ(トンではない)。果たしてこれは科学的根拠に基づく資源管理だったのでしょうか?

皮肉にも、ノルウェーの2019年のイカナゴ漁は、漁獲枠25万㌧に対して24.4万㌧の漁獲量(消化率98%)と絶好調でした。海水温の上昇による影響は、ノルウェーでもあります。しかし、結果は極めて対照的です。

スケトウダラについても、TACの設定をかなり慎重に行うことです。アラスカのようにMSC認証を持つサステナブルな資源状態とは大きく異なり、日本の資源はかなり傷んでしまっています。

スケトウダラ 日本海北部系群の漁獲推移 漁獲量が減った原因とされた韓国漁船の漁獲量はオレンジの量に過ぎなかった。(出典:水産研究・教育機構)

例として上のグラフを見て下さい。日本海北部系群の資源減少の原因は、オレンジ部分の韓国漁船の漁獲量のせいとされていました。しかし1999年に韓国漁船の撤退後は、資源が回復するどころかさらに激減。結局主な減少要因は、日本の水産資源管理の不備にあったのでした。

ファクトをベースに客観的に見ていくと、魚が減った本当の理由は海水温の上昇や海外のせいではなく、自国の水産資源管理に問題があったケースがほとんどであることがわかります。

もちろん、それらに原因がないとは言いません。しかしそうであれば予防的アプローチを取るべきなのです。

改正漁業法の施行に伴い国連海洋法やSDGsでも明記しているMSY(最大持続生産量)を取り入れたのは国際的に見て遜色がない資源管理への第一歩と言えます。

ただし、その実現可能性50%以上という設定数値の低さが気になるところです。50%では半々の確率「当たるも八卦当たらぬも八卦」。一方で、北欧や北米などでは、上述のシシャモを始め95%の実現性がベースになっています。

50%以上には95%も含みます。資源管理は結局は厳しく管理して資源を回復させている国々が勝者となっています。一方で緩い管理は乱獲が行われ易く、幼魚にまで手を出してしまい産卵する魚がいなくなってしまうという悪循環を生みます。国際的に見て、現状ではその後者の典型が、残念ながら我が国と言わざるを得ません。果たして中身と効果を伴う95%の内容にできるのでしょうか?

世界には、絶好調な漁業が多く存在しています。そしてその一部は日本に輸入されています。世界で水産物の消費は増え続けており、国際価格が上がり、希望する通りに輸入できなくなってきています。そうした現実に対応するためにも日本の魚資源を回復させることは、漁業だけでなく消費の面からも待ったなしなのです。

ヒラメはなぜ釣れるのか? 

なぜヒラメが増えたのか?

千葉県以北の太平洋沿岸で安定して釣れているヒラメ。様々な魚が獲れない話題が尽きない中で、なぜ釣れ続けるのでしょうか? 

筆者が釣ったヒラメ。40cm以下は針をのんでいなければリリース

ヒラメが釣れるのは、ヒラメの資源が多いからに他なりません。それには理由があります。これからお話することは、欧米・オセアニアといった国々では常識。しかし日本ではそれが常識ではありません。このため世界の中で日本の海の周りだけが魚が減り続けるという怪現象が続いているのです。皮肉にもヒラメはその原因が分かる一例なのです。

震災後に増えたヒラメ資源

東日本大震災後に増えた魚がいました。三陸などで水揚げされるマダラ(太平洋北部系群)やマサバ(太平洋系群)を始め、放射性物質などの影響で漁業や漁獲海域が一時的に制限されたことで強制的に資源管理が行われたことが主因でした。

その中でも資源量が特に増えたのがヒラメ(太平洋北部系群)なのです。

ヒラメ 太平洋北部系群の資源量推移              (水産研究・教育機構)

上のグラフを見てください。2本の赤線は資源量の低中位(下)と中高位(上)の境界線を示しています。しかし、震災後以降は上の高位の4倍ほどに激増していることがわかります。魚の資源量の増減に、いかに漁業という人間の力が影響していいるのかが解ります。

ヒラメの親魚量 推定資源量推移    (水産研究・教育機構)

上のグラフは、ヒラメ(太平洋北部系群)の資源量の中で、親魚の資源量推移を表しています。先に述べました通り、東日本大震災を境に漁業が中断されて、親の資源が増えました。そして、その親魚が産卵して資源量が増えているのです。

資源管理に成功している国々では小さな魚は獲らない

北欧を始め、水産資源管理に成功している国々では、親魚(産卵親魚)を獲り過ぎないよう最大限の注意を払っています。そして、魚を減らすことなく獲り続けれられる最大値(MSY)が達成できるTAC(漁獲可能量)を設定して、資源管理に成功しているのです。

日本ではヒラメにTACさえありません。ただ、小型魚の保護を目的に30cm以上(一部35cm以上)といった全長制限が実施されています。福島県では試験操業の開始以降50cm以上に制限しています。手のひら大のヒラメが水揚げされないための制限はあるものの、30cmでもまだ未成魚なのです。

ヒラメはオスは2歳、メスは3歳で100%成熟。寿命10~⒓年 (出典:水産研究・教育機構)

100%成熟するには50cm(雌)以上に成長している必要があります。本来であれば30cmの制限でも十分とはいえないのです。

丸のままの状態で30cm前後しかない、小さなヒラメの刺身。

ヒラメの未成魚が自然と店に並んでしまう日本。消費者も安ければ購入します。一方で10~12年の寿命と言われるヒラメ。それを1歳になったばかりのヒラメの幼魚を獲り続ければ「成長乱獲」が起きて資源は減り始めてしまうのです。

釣りのレギュレーションがない問題

日本では、釣った魚を持って帰る際の法的なレギュレーションを聞きません。このため、小さな魚でも、釣り過ぎていても遠慮なく持って帰れます。釣り人が年間釣り上げる量は少なくなりません。一方で、どれだけ釣ったかというトータル数量の話さえ聞かないのが現実。肝心のデータがないと、資源管理はより難しくなってしまいます。

欧米を始めとする漁業先進国と異なり、日本では水産物は「国民共有の財産」ではなく、「無主物」という位置付けになっています。とても大事なことなので、2020年12月1日に施行された改正漁業法で法制化されなかったのは残念でした。「国民共有の財産」であれば、資源をサステナブルにするための様々な意見が国民から出てきたことでしょう。次回への大きな課題です。

本来であれば、釣りも含め、漁業ごとに科学的根拠に基づいてヒラメのTAC(漁獲可能量)を決めて分割することが不可欠なのです。漁業者ごとの枠を厳格に決めれば、漁業者は自然と単価が安いヒラメの幼魚は狙わなくなります。そうなれば成長して親となり産卵して資源を増やす機会に恵まれる好循環が始まります。

また、釣りに対しても遊漁船ごとに持ち帰る数量を決めることです。ただし、これも釣り切れないような大きな数量にならないことが非常に重要です。

釣った小さなヒラメを放流 元気に海底へ戻って行く。

科学的根拠に基づき、ヒラメの資源管理ができるようになれば2㌔、いや3~5㌔以上のヒラメが普通に釣れるようになります。そうなれば、釣り客は1~3尾程度持ち帰れば十分。今よりもっとお客さんが増えることでしょう。

小さなヒラメは逃がす、そして大きくなるのを待つ。「小さな魚は大きくなってから釣ろう」という考えと具体的な行動が重要ではないでしょうか?

70年ぶりに改正された漁業法の意味

可食部がほとんどない 高級魚キンキの幼魚 金魚とも呼ばれる TAC(漁獲可能量)はない。

2018年12月に、70年ぶりといわれる漁業法改正が行われました。そして2020年12月1日に施行されます。これまでの漁業法は、漁業者間の調整が主たるものでした。そしてその中には「水産資源管理」という、漁業に関して最も重要な概念が中心にあるといえるものではありませんでした。

世界と日本の漁獲量の傾向は著しく異なる。その根本的な原因は水産資源管理の違い。左の縦軸が世界で右側日本。FAO/農水省データより作成

さて最初に知っていただきたいことは、世界と日本の漁獲量推移を比較すると著しく異なることです。増加傾向が続く世界全体と、対照的に減少が止まらない日本の水揚げ量。世界銀行やFAO(国連世界農業機関)からも、将来が悲観された予測が出ており、それを前倒しにして悪化が続いています。

水産資源管理には、主に3つのコントロール(水産白書)方法があります。その中で日本が重視してきたのは、漁期の設定や、漁業機器の制限などといった、いわゆるインプットコントロール、テクニカルコントロールです。一方で北欧、北米、オセアニアといった漁業で成功している漁業先進国が最重視しているのは、科学的根拠に基づく、水産資源をサステナブルにする数量管理=アウトプットコントーロールです。

水産資源管理においては、最初の2つのコントロールだけでは、十分とはいえません。漁獲時期を決め、船の大きさや網目などを決めてあとはヨーイドン!では、魚が減ってもほとんどいなくなるまで漁が続けられてしまいます。そして必死に資源を回復させようと産まれてくる小さな魚まで容赦なく獲り続ければ、どうなるのか容易に想像できるかと思います。

アナゴの稚魚 ノレソレ アナゴの漁獲量も減少している。

こうして、すでにこのサイトでいくつもの例で取り上げているように、多くの魚種が激減してきました。そしてその責任は主に海水温の上昇や中国などの他国に責任が転嫁されていて、多くの国民がそう信じています。

いうまでもなく、それらの影響が無いわけではありません。ではなぜ、世界の海の中で日本の周りの魚ばかり減り続けると国際機関が予想して、かつその通りになってしまうのか?

そこで、社会に対して分かり易く「魚が消えていく本当の理由」を発信するのがこのサイトの目的です。誤った前提から正しい答えは出てきませんので。

漁業に関する法律はなぜ変わったのか?

世界の海で日本の魚ばかりが減り続けている。魚が消えていく本当の理由は、漁業者が悪いわけではなく水産資源管理制度の不備にあります。その事例が気付かれて動き出したのです。

改正された法律では「国際的に見て遜色がない資源管理」が取り入れられることになります。裏を返せば、これまでは遜色があったということです。

筆者は、ノルウェー、アイスランドを始め、漁業で成功している国々の関係者と話をする機会が少なくなく、例外なく日本の管理方法に驚かれてきました。一方で、彼らは日本のようにならないことが重要なこともわかっています。なぜなら現在漁業で成功している国々も、かつては過剰漁獲に陥ったことがあるからです。

しかし大きな違いは、その誤りに気付いて、アウトプットコントロールに基づく厳格な数量管理をしてきたかどうかです。数十年遅れとなりましたが、その第一歩が今回の漁業法改正なのです。

知っておきたい現実と矛盾

1980年代に約1,200万㌧もの水揚量があった日本は、世界最大の漁業国でした。その当時の世界全体の水揚量は約1億㌧。それが2018年では、何と日本は3分の1の約400万㌧に激減している一方で、世界全体では倍の2億㌧に増加しているのです(上のグラフ)。日本の漁獲量が減少したのは、マイワシの減少とも言われています。

しかしながら、2011年以降は、減少要因どころか減少を引き止める実質唯一の支えとなっています。2010年に7万㌧であった水揚量は、2019年には54万㌧となっており、マイワシに責任転嫁はできない状態です。

日本の魚は漁業法改正でどうなるのか?

今回の法改正で期待されるのが、MSY(Maximum Sustainable Yield=最大持続生産量)とTAC(Total Allowable Catch=漁獲可能量)魚種の増加、そして個別割当制度(IQ=Individual Quota)の導入です。

MSYとは「魚を減らすことなく獲り続けられる最大値」と説明することができます。魚は永遠に増え続けるわけではありません。そこで漁獲しても、もとに戻る数量の漁獲であれば、資源は持続的になります。

海の憲法と呼ばれる国連海洋法でもMSYでの資源管理が明記されています。我が国が国連海洋法を批准した1996年以前から、MSYでの資源管理は北米、北欧、オセアニアを始め漁業先進国では進められていました。

しかし日本は世界と違う方向に進み、魚は消えて行きました。ところが、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の中の14(海の豊かさを守ろう)の中で、MSYに基づく資源管理とその達成期限が明文化されました。しかも、その期限は2020年とゴール全体の最終期限の2030年より10年早くなっています。

マダラの稚魚 小さすぎて食用にできる大きさではない。

上の写真は、例としてノルウェー、アイスランド、米国などTAC(漁獲可能量)と個別割当制度(IQ,ITQ,IVQなど)が機能している国々では決して水揚げされないマダラの稚魚です。日本は、そもそもマダラのTACさえありません。漁業法の改正でマダラのTAC設定も望まれます。

これからどうすべきなのか?

まず、漁業法改正を期に日本の水産資源の惨状を知るべきです。そしてこのままだと、魚が食べられなくなってくるだけでなく、将来に禍根を残し、地方をさらに衰退させ、消費者にも悪影響を及ぼしてしまうことに気付かねばなりません。

そして、海外の成功例を取り入れることです。米国では2019年過剰漁獲の資源は7%といっています(NOAA)。一方で、日本の場合は約半分(2019年44%⇒2020年 53%)が低位(水産庁)という資源評価ですが、これは評価が寛容で、米国や北欧などの基準からすると、ほとんどが過剰漁獲になってしまうことでしょう。

水産資源は突然増えません。中長期的視点に立ち、日本独自路線ではなくSDGs(持続可能な開発目標)といった、国際的な視点での成功例を見習って取り入れるべき、ギリギリのタイミングです。

誰も書かないズワイガニが増えないわけ 日本海解禁

日本海でズワイガニ漁が解禁 ズワイガニの未来は?

11月になり、日本海でズワイガニ漁が解禁となりました。日本海では200~500メートルほどの海底に分布していて、越前ガニ、松葉ガニなどとブランド化されていることでも有名です。脱皮を繰り返しながらの成長はゆっくりで、孵化から親ガニになるまで7〜8年程度かかると言われています。

2018年に日本海西部で漁獲されるズワイガニが、稚ガニの減少により、3年後に半分程度に減る可能性があるという調査結果がだされました(日本海区水産研究所・新潟市)。原因は特定出来ておらず。成長が遅いので、稚ガニが減ればその先の見通しは暗くなります。

自然環境による資源の増減は起こります。一方で日本のズワイガニの資源管理は、その他のズワイガニを漁獲しているロシア、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどの国々とは「根本的に」異なります。その結果、日本とその他の国々とでは、ズワイガニ資源量が異なることを解説しましょう。

ズワイガニのオスとメスでは、大きさも価格も全然違う

ズワイガニ・左がオスで右がメス。価格も大きさも全然違う

上の写真を見てください。左がズワイガニのオスで右がメスです。大きさも価格も全然違うことが分かりますね。スーパーで並んでいるのは、ほとんどが、丸のままではなく、オスの肩肉と足の部分がボイルされた輸入もの(下の写真)です。

ロシア産のボイルされたズワイガニ 

2019年のズワイガニの輸入量は約2万㌧でロシアが1.1万㌧、カナダが5千㌧、米国が2千㌧、ノルウェーが1千㌧と続きます。日本の漁獲量は4千㌧。さらに、日本の水揚げ量はオスメス込みの数量なので、オスのズワイガニの比率は、輸入物のほぼ10分の1なのです。

日本だけがメスを水揚げしている

資源量が安定しているロシア・カナダ・米国・ノルウェーと日本のズワイガニの資源管理は、致命的に違います。

最大の違いはメスの水揚げの有無です。日本以外の国々では、メスの水揚げは認められません。深海にすむズワイガニですが、水揚げ後に海に戻しても元気に海底に戻ります。そしてメスは卵を産み子孫を残していきます。

11月の解禁時は、メスは体の中に卵を持っています。メスのズワイガニはセイコガニと呼ばれ、卵は珍重されます。水揚げ量は昨年までの日本海で水揚げデータをみると、半々どころかメスの水揚げ量が多いケースが少なくありません。メスは小さいので、尾数にしていたら相当の違いです。もし、これらのメスが産卵していたら資源量はどうなっていたのでしょうか?

日本のズワイガニの漁獲量推移を見てみる

日本のズワイガニ漁獲推移 農水省のデータより作成

日本の場合、中長期的に見ると水揚げ量が減少傾向している魚種がたくさんあります。そしてよく言われるのは、突然の減少です。しかしながら、そのほとんどは、突然などではなく、兆候が見られているのです。資源の増加量よりも、漁獲量の方が勝ってしまっていまい産卵できる親の量が減ってしまえばどうなるのか?

資源を減らすことなく獲り続けられる数量である最大持続生産量(MSY)での漁獲は、海の憲法と呼ばれる国連海洋法はもとより、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも含まれています。

ロシア(大西洋・バレンツ海)のズワイガニはなぜ急増しているのか?

もともとバレンツ海(大西洋)にはズワイガニはいなかったが、これを資源として大切に育てている。ロシアの数量はTAC。(農水省・ロシア連邦農業省令でデータより作成)

上のグラフは、日本とロシア(大西洋・バレンツ海)におけるズワイガニの漁獲量推移です。ロシアは太平洋側でも約3万㌧のTAC(2020年)がありますが、太平洋の資源に加えて大西洋での資源を急増させています。日本のズワイガニには、減り続けることはあっても、このような大きく増加する気配は「全く」ありません。何が違うのでしょうか?

バレンツ海のズワイガニは1996年に発見されました。しかしすぐには漁獲を開始せず資源を育てました。バレンツ海は、マダラやシシャモを始め、ロシアとノルウェーの両国が資源管理をしています。ロシアは2011年・ノルウェーは2012年からと15年以上待って、徐々に資源を増やしながら漁獲を開始しています。

1パイ 100円の半額にしても売れ残るズワイガニ。食べる部分がない。

その結果、あっさりと日本のズワイガニの漁獲量を超えています。ロシアもノルウェーもズワイガニのメスを水揚げしません。メスを水揚げしてしまうのかどうかが、その後の資源量に大きな影響を与えていることは明確なのです。

バレンツ海のズワイガニ資源が増えて、漁獲量が増加しているのは偶然ではありません。もし日本で同じことが起きていたら、1996年の時点でこれ幸いと獲り続けてしまい、資源量がグラフのように増加していたことは決してなかったことでしょう。その後は水温の変化や外国が悪いというお決まりのパターンが起きていたことでしょう。これは漁業者が悪いのではなく、資源管理制度の問題なのです。

資源管理制度に起因する大問題

漁獲量とTAC(漁獲可能量)は乖離している。 水産庁のデータより作成

メスの漁獲していることに加えて、もう一つ大きな問題があります。それはTAC(漁獲可能量)と実際の漁獲量が一致していないこと。および個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)が機能していないことにあります。

TACと漁獲量はイコールになることは、ノルウェーサバやアラスカのスケトウダラを始め資源管理が機能している魚種であれば当たり前です。そうでないと、過剰漁獲が起きてしまいます。上のグラフは、日本のズワイガニの漁獲量とTAC(漁獲可能量)の推移です。TACが大きいことが分かります。

ちなみにロシアでは2019年より2年続けて漁獲枠(個別割当)を70%以上消化しなかった場合は、枠が没収されるという規定があります。

一方で、日本の場合は個別割当制度ではありません。またTAC自体が大きい。これでは、必然的に漁業者は、オスメス関係なく漁獲しますし、メスも海に放流しません。

これが、もしロシアなどと同様に個別割当制度が設定されていれば、価格が安く水揚げしたら資源にも悪いメスは海に戻して、大きくて価値が高いオスだけを持ち帰るようになるのは自明です。

資源管理の成功という結果が出ているロシア、米国、カナダ、ノルウェーから学び、資源量を回復させてサステナブルにするために、メスの漁獲を制限すること。そして漁獲枠を漁船・もしくは漁業者ごとに配分して、オスの水揚げのみにさせる制度が賢明ではないでしょうか?

メスの漁獲については、ロシアのように資源量が潤沢になった時点でどうすれば考えればよく、まず必要なのは資源量の回復ですね。

カナダ産のボイルされたズワイガニ 

サバの資源は大丈夫でしょうか?次々にとれなくなる魚

珍しい900gの大きなマサバ 日本では大きくなる前に獲ってしまうので、北欧の海のサバに比べて小さなサバが多い。

かつて日本の海は、秋になるとたくさんの魚であふれかえっていました。ところが、サンマサケを始め、近年漁獲量が急速に減少する魚種が増えて来ています。そんな厳しい環境の中、同じく秋の魚の代表の1つであるサバについてです。

食用にならないサバの未成魚。消費者が知らないところで、養殖のエサや輸出向けに大量に向けられている。(写真:AOKI NOBUYUKI)

魚にはそれぞれ特徴があります。サンマのようにほぼ2歳で生涯を終えてしまう魚。寿命があるので、3歳になるまで待つことに意味はありませんし、0ー1歳のサンマを獲っていることが問題ではありません。また、サケについては、寿命が4年前後であり、日本に回遊して来るのは産卵してその生涯を終えるためです。サケの未成魚を獲ってしまうために資源が減っているわけではありません。

ところがサバは、寿命が10年程度の魚。後述する太平洋側で獲れるマサバは別にして、売り場に並ぶことがほとんどない、サバの未成魚をとり続けていることが、資源や我々の食卓にも大きな影響を与えてしまっているのです。寿命が長い魚は突然卵をたくさん産む大きさに成長しませんので。

日本ではマサバとゴマサバの2種類がいます。さらに主に釧路から銚子にかけて水揚げされる太平洋系群(マサバ・ゴマサバ)と、日本海の境港から九州の港にかけて水揚げされる対馬暖流系群(マサバ)・東シナ海系群(ゴマサバ)に資源が分かれています。

つまり、2(種類)X2(系統) =4 系統に分かれているのですが、これまでこれらがサバ類としてまとめて管理されてきています。さらに全体のTAC(漁獲可能量)が、実際の漁獲量より大きいので「親の仇(かたき)と魚は見たらとれ」となってしまい全体としてサバの資源は大きく減少してしまいました。2019年のTAC(漁期7月~翌6月)は81.2万㌧に対して僅か52万㌧(消化率64%)の実績です。消化率がほぼ100%が当たり前のノルウェーとは非常に対照的です。

写真の上にある「海からの贈りもの、大切に消費者へ」は実際には実行されず、次々に食用に向かないサバの幼魚が水揚げされている。

過大なTACであるため、日本ではローソク・ジャミなどと呼ばれるサバの幼魚が大量に漁獲されています。サバの幼魚は食用に向かないので、ほとんどがマグロなどの養殖のエサになっています。さらに言えば、世界的に安い食用の冷凍魚が不足し、これに「輸出」という形でニーズが合い、アフリカや東南アジアなどの市場を食用の安いサバとして席巻して行きました。

輸出される日本のサバの強みは品質ではなく「価格が安い」だけです。2019年の輸出価格は、キロ121円。一方で日本が輸入しているノルウェーサバの単価は約240円(日本までの船賃を約20円で計算)とほぼ半額。メイドインジャパンなどではなく、単なる資源の安売りです。

ノルウェーのサバは99%が食用です。一方で日本の場合、食用は僅か56%(2018年)。さらに言えば日本でほぼ食用にならないサバが16.9万㌧も大量に輸出(2019年漁獲量44.5万㌧の38%を占める)されているので、その分も非食用と考えれば日本で食用にできるサバの漁獲率はさらに下がります。

サバの資源は一時的に回復している

上記のサバ4系統の内、圧倒的な存在感があるのがマサバの太平洋系群です。八戸のシメサバや銚子の汐サバを一大ブランドにしてきたのもこのサバです。一時的に回復してきた理由は主に、2011年に起きた東日本大震災で、サバ漁が抑制されたことにあると考えられます。

特にマサバの産卵期である4~6月頃には、放射性物質の影響で事実上漁獲が一時的に止まりました。これが幸いして毎年産卵期に漁獲されていたマサバが産卵できたのです。この時産まれたマサバが2013年に約半数が成魚となって大量に産卵。卓越級群(特に個体数が多かった年齢群)となり、資源の増加に貢献しています。

関連して同じく東日本大震災の影響で漁獲が減って一時的に大きく資源量が回復した例にマダラがあります。しかし残念ながらTACの設定がなく、震災前のようにマダラの幼魚を含めて同じように自主管理での漁業となったため、資源量は必然的にもとに戻ってしまいました。対照的にノルウェーマダラではTACがよく機能しており資源は非常に潤沢。沿岸漁業の発展に貢献しています。

中国漁船は洋上で1尾100g前後のサバの幼魚を冷凍している 漁場は恐らく日本のEEZの外側の公海

マサバの場合は、ある意味逃げ場があり、マダラと異なり広範囲に回遊しています。その一部は日本のEEZを超えてはみ出して行きました。これをまたがり資源(自国のEEZと隣国のEEZや公海の双方に分布する資源)と言います。その資源を漁獲量のルール設定がない公海上で、中国船がサンマ同様にサバの洋上凍結を始めています。新造船の建造数が著しいロシア船もこのサバ資源を狙っていて、漁獲量を伸ばしています。

まさに、国内と外国船による挟み撃ちとなってしまっているのが、マサバの太平洋系群の資源なのです。ノルウェーなどの北欧サバとは別次元の、資源にとってハイリスクな漁業が続けられています。サバもサンマと同じような公海上の漁場で獲れるので、サンマの大不漁に伴い、公海上でマサバ狙いの外国船が増えるのは言うまでもありません。

東シナ海のサバ資源はなぜ回復しないのか?

東シナ海や日本海の漁場では、中國・韓国などとEEZが隣接していて、同じ資源を獲り合っている。一方で太平洋側は、サバはほぼ日本の資源となる。(水産研究・教育機構の資料を編集)

太平洋側でのマサバ資源が一時的に回復している一方で、東シナ海でのサバの漁獲は回復の兆しはありません。これは、ローソクと呼ばれるサバの幼魚が容赦なく獲られていることが主な原因です。さらに太平洋側と異なり、同じ魚群を中国、韓国と上図のように獲り合っているのでどうしようもない状態です。

日本のEEZの外側の公海に進出する中国漁船 (水産白書)

もっとも中国船の中には資源が減った東シナ海の漁場を諦め、サバの資源量が多い日本の太平洋側のEEZの外側に展開している漁船が少なくないはずです。ただしその結果、一時的に漁獲圧が下がって回復しても、日本船がローソクサバをその分獲ってしまえば、資源は回復しませんし、太平洋側の中国漁船も減らないのです。

解決策は、科学的根拠に基づいた全体と国別のTACを、東シナ海の回りと太平洋側のサバ資源にそれぞれ設定するしかないのです。

それを、他国への批判と海水温上昇のせいにしながら、自国ではサバの幼魚を獲れるだけ獲るでは国際的な合意は、サバがいなくなって禁漁になるまでできないでしょう。

青色の部分が公海上に発見されたスケトウダラの好漁場 (水産教育・研究機構)
上図の青い部分の漁場(ベーリング公海)での漁獲は乱獲を招き長続きせず。資源管理の不備が公海上の漁場を崩壊させた例。最も漁獲量が多かったのは日本漁船であった。(出典:水産研究・教育機構)

ちなみに禁漁の前例を挙げます。上図と表をご参照ください。1977年の200海里漁業専管水域の設定後に、スケトウダラ 漁で米国海域から追い出された日本船を主体とした韓国、ポーランド、ロシア、中国の各船団は、ベーリング海の公海上に、通称ドーナツホールと呼ばれる新漁場を発見しました。

しかし1986~1990年の間に、日本漁船主体に漁獲量が急増しましたが資源量は激減。1994年以降各国はその漁場を禁漁とし現在に至っています。同漁場の資源は米国のスケトウダラ資源と関連します。

美味しいサバを食べ続けるためには、どうすれば良いのか?

これは、ノルウェーサバの資源管理で明確な答えが出ています。科学的根拠に基づくTACと国別TACを設定。さらに漁船もしくは漁業者ごとに個別割当制度(IQ、ITQ、IVQ)を設定することです。これにより、漁業者は、たくさん獲るから、どうやったら限られた漁獲量の水揚げ金額を上げるかに関心が変わります。その結果、サバの幼魚や脂が乗らない産卵期前後の漁獲を自ら避けるようになります。

歴史や世界の成功例から学ばず、大本営発表のように日本の資源管理のやり方が素晴らしいという前提に立って魚を減らさせてしまい、漁業者や水産加工業者を窮地に立たせてしまっている現状は、大変に残念なことです。事実に基づいて国民が認識を変えて行くことが不可欠ではないでしょうか。