サカナと養殖 エサはどうするのか? 

養殖アトランティックサーモンの餌 ペレット

魚は水や空気で育たない

養殖物の水産物を増やせば、魚が減少している問題を解決できるのでしょうか?確かに、養殖物は水産物の安定供給には不可欠な存在です。

養殖物の定番であるハマチやマダイといった魚から、ギンザケ、クロマグロ、シマアジ、フグ類、ヒラメ、ウナギなど日本では様々な魚が養殖されています。最近のブームとしてサバの養殖も生食できるという点で、人気が出て来ていますね。

また、ホタテ・カキといった貝類、ノリ類、ワカメ、コンブといった海藻類の養殖もあります。他にホヤやクルマエビなどの養殖もやっています。

魚と貝類や海藻類の養殖では、大きく違う点があります。それは「エサ」を人が与えるかどうかです。

ところで貝類や海藻類は、エサを与える必要がないので、どんどん増やせばよいのでは?と思うかもしれません。しかし、バランスよく増やして行かないと過密養殖や水質の問題が起きてしまいます。

さて、肝心の魚の養殖についてです。まず、稚魚や小さな魚を獲って(一部大型魚も)育てる蓄養と、卵から育てる完全養殖とに分かることができます。採卵して川に戻して回帰を待つサケのケースは、統計上、養殖物ではなく漁業に分類されているので、ここでは扱いません。

魚を養殖することは、たいていの場合「エサ」を必要とします。決して空気や海水で魚は大きくなりません。この点を理解して魚の養殖を考えていくことが不可欠です。

養殖物の位置づけ

世界全体の水揚げ量は、天然物が横ばいなのに対して、養殖物が増加していく傾向にあります。実際には天然物の漁獲量は意図的に伸ばすことは、北欧、北米などでは可能(容易)です。しかしながら、資源の持続性(サステナビリティ)を考えて行いません。

そこで、世界の魚の需要を賄うためは、養殖物の増加が不可欠になります。天然物と養殖物で年間約2億トン(2018年)の水揚げで2億1千万㌧ですが、その内天然(1億㌧)と養殖(1億1千㌧)は、約半々です。さらに養殖物の内、約3千万㌧が海藻類となります。

エサをどうやって手配するのか?

増肉係数 サーモンは僅か1.2kgのエサで1kg大きくなり養殖効率がよい。(出典 NSC)

さて本題に入ります。まずは、魚を養殖するためには、どれだけのエサが必要になるかです。上図を見てください。1kg太らせるのに牛で8kg豚で3kgです。

一方で、魚に関してはサーモンで1.2kg、ハマチで2.8kg、クロマグロに関しては15kg必要です。養殖の漁労収入に占めるエサのコストは6割前後と言われています。このためエサに対する戦略は最も重要な要素のひとつとなります。

養殖アトランティックサーモン (NSC)

今回は、養殖魚として最重要魚種のひとつであり、日本でもすっかり市場に定着しているアトランティックサーモンに焦点を当てます。

ノルウェーの養殖場 (NSC)

アトランティックサーモンの世界最大の養殖国は、ノルウェーです。ノルウェーでは、2018年現在130万㌧の養殖量を2050年までに500万㌧にする方針があります。現場を訪れるとすぐ分かるのですが、これでもかというくらいのきれいで澄んでいるフィヨルドで養殖されています。ところが、国の方針でこれ以上のフィヨルド内での養殖ライセンスを増やさないことになりました。現在では、外洋に出て養殖を各社技術を競って養殖のライセンスを獲得するという流れになっています。

ところで、養殖量を何倍にも伸ばすためには、一体どれだけのエサが必要で、それは何処から手配するのでしょう?この質問に対して、まだ納得のいく答えをもらったことがありません。

アトランティックサーモンのエサの中身 3割は魚由来で7割が植物由来 (NSC)

これまでは、エサに使う魚粉や魚油の高騰で、植物由来の原料の比率を増やすことで、エサの増加に対応してきました。今では、魚由来のエサが約3割に対して植物由来が約7割です。

魚粉や魚油といった魚由来のエサの比率をゼロにもできるようですが、その場合、養殖されるサーモンは、本来自然界では食べることがなかったエサのみで育てられることになります。これはこれで、病気のリスクや身質の変化などの課題が出てくるのではないでしょうか?

エサの話

足りなくなって行く養殖のエサに関する対応策は、どうしていけばよいのでしょうか?

現在、候補として研究が進んでいるのは①昆虫(動物性タンパク)②木くず(エサの一部として使用)といったものがで出て来ています。また魚由来としては③深海にすむ未利用魚のハダカイワシを利用する可能性も上がっています。

魚の養殖には、必ずエサをどうするか考えねばならないのです。販売に際し重要度が増しているASC(養殖の水産エコラベル)認証で、MSC認証(天然の水産エコラベル)のエサが必要になる傾向についてはここでは割愛します。

簡単にいうと、乱獲された小魚などを使ったエサを使用することは、国際的な市場で認められなくなるのは時間の問題であり、それを考慮してエサの手配を考えていかねばならないということです。

日本の魚の養殖でのエサ

さて、話を日本の魚の養殖のエサに戻して行きましょう。最初に言えることは、日本は資源量が持続的ではない魚種を、未成魚を丸のままエサにすることは極力止めていくことです。養殖魚を増やすために天然魚を減らすとしたら、それは本末転倒ではないでしょうか?

ノルウェーでフィレーにされたニシンの頭・骨・内臓などはフィッシュミールに活用される。

アラスカでは、スケトウダラの身や卵を取った残渣(ざんさ・残り)を、養殖用のフィッシュミール(魚粉)にします。ノルウェーでは、ニシンをフィレーの残渣を同様にフィッシュミールにします。

また、北欧でのカラフトシシャモでは、オスメスに選別して、メスの卵を取りだした残り(干しシシャモ用の原料除く)をフィッシュミールにしていますオスメスをそのままフィッシュミールにするケースもありますが、これはあくまでも、資源状態が極めてよく、かつフィッシュミールの国際相場が高い時に限ります。

丸のままフィッシュミールにする魚として、イカナゴやブルーホワイティング(タラの一種)などがありますが、これらの魚は食用価値がほぼない魚です。

日本の養殖魚のエサのあるべき姿とは

まず第一に、北米や北欧のようにエサの生産には、丸のままの未成魚ではなく、成魚の残渣を使うことです。大きな魚は価値がありますが、全てが可食部ではありません。頭、内臓、骨を除去し、残りを食用とするのです。写真はニシンのフィレーですが、可食部は約45%、つまり半分以上がフィッシュミールになっているのです。

日本で水揚げが増えているマイワシを例に挙げれば、小さなうちの獲るのは止めて、同じように可食部を除いた残りをフィッシュミール(エサ)にすれば、どれだけ付加価値が高まるのでしょうか?

この点、現状では漁獲枠が多過ぎて、一度に大量水揚げされてしまい、処理も食用向けに間に合わないといことが起きています。例として、主要水揚げ港の釧路ではマイワシの実に約9割がフィッシュミールになっています。1990年代に釧路には20を超えるフィッシュミール工場があったものの、資源の激減でほとんどが潰れてしまいました。また工場が増えて同じことが繰り返されるのでしょうか?

マイワシは、環境要因にによっても資源は大きく増減しますが、減少し始めたら早めに手を打って回復を待つことが水産資源管理の基礎です。(例)米国西海岸では、資源の減少を懸念し2015年から禁漁とし、資源回復を待っているところです。

天然魚とのバランス

結局のところ、もととなる魚の資源をサステナブル(持続可能)にして行くことが何よりも大切で、全てはそこから始まります。資源が潤沢で水産資源管理制度が機能していれば、フィッシュミール向けでも食用向けでも漁業者の自由です。

しかし、漁業者・漁船ごとに漁獲枠が科学的根拠に基づいて決まっていれば、漁業者自ら考えて、水揚げ金額を上げようとします。

前述の釧路港の例でも、漁船や漁業者ごとに漁獲枠が厳格に決まっていれば、漁業者の方から水揚げを分割して水揚げが分散され食用になる比率が増えます。ただし、枠が後で増えるやり方ではそうなりません。

結果として、資源の無駄遣いもなくなって行きます。これこそ、なぜ、日本ではサバの3~4割が非食用になってしまっているのに対し、99%が食用となっているノルウェーとの大きな違いなのです。

日本でも、エサになる魚の持続性を最優先に考えて、養殖を拡大していく戦略を検討していく必要があるのではないでしょうか?

サカナとアブラ(脂) サバ

うまい魚を食べたい

「うまい魚」とは、どういう魚でしょうか?もちろん好みは色々ありますが、一番大きな要因は脂ののり具合ではないでしょうか?うまい魚=脂がのった魚と言っても過言ではないでしょう!

上が国産マサバ・下がノルウェーサバ。下のノルウェーサバの左下には脂がにじみ出ている。上の国産からは焼いても脂が出てこない。
マサバ 4月下旬物 卵が少し残っていた。卵に栄養分を取られているので細い。

脂がのった魚といえば、どんな魚が思い浮かぶでしょうか?まずはその代表格・サバについてです。脂ののり具合の差から、今やすっかり国産のサバと価値が逆転しているノルウェーサバと比較してみましょう。

ノルウェーサバと、国産の生の春サバ(4/29購入)を焼いて比較してみました。ノルウェーサバは秋に漁獲・冷凍されたサバです。

しみ出している液体はサバの脂です。共に天然のサバですが、これだけ脂の量に違いがあります。これがうまいサバかどうかの分かれ目です。マイワシサンマなどでも脂がのった時期の魚は同じように脂がしみ出てきます。

脂がないサバは、身がパサパサしています。特に、卵や白子が大きくなる4~6月にかけては身の色が赤くなります。また産卵後の夏の時期もやせていて脂がありません。しかしその間にたくさんエサを食べて脂を蓄えるようになるので、日本のマサバは秋から冬にかけて脂がのって最も美味しい旬の時期に入ります。

ノルウェーサバ 脂肪分推移 秋には25ー30%も脂がのる一方で、産卵期前後の春には5%前後しか脂がない。脂がない時期は漁獲しない仕組みがある。(出典:NSC)

産卵期は、国産もノルウェー産も、ほぼ同じ春から夏にかけての時期なのです、脂がのる時期ものらない時期もパターンが似ています。

ところが、一年中サバを漁獲する日本と異なり、ノルウェーでは脂がのった美味しい時期しか漁獲されない仕組み(個別割当制度)があります。

小さなサバには脂がのらない

小さなサバ、特にジャミとかローソクと呼ばれる200gにも満たない未成魚のサバには脂がのりません。このため、食用にされることは少なく、安い魚価で未成魚が養殖魚のエサなどの非食用向けにされてしまいます。

小さなサバにはほとんど脂はのらない. (写真 AOKI NOBUYUKI)

ちなみにノルウェーでは99%が食用で、小さなサバを獲らない制度(個別割当方式)ができています。一方日本では、食用は6~7割程度しかなく、実にもったいない漁業をしています。

サカナ離れの本当の理由?

日本では、世界で魚の需要が増え続ける一方で、逆に減少。著しく傾向が異なっています。ただ、寿司や刺身などが嫌いになったわけではありません。サカナ離れの要因は、不味い魚を食べたことによるトラウマから来ているのではないか?と筆者は考えています。

水産物の国際相場は中長期的に上昇が続く  データ FAO

もちろん、魚の価格が高くなってきたこともサカナ離れに影響はあるでしょう。しかしながら、魚の価格が上昇傾向なのは世界的な傾向であり、日本だけではありません。ところが、世界全体の魚の需要は年々増えているのです。

高級魚は日々食べられる魚ではありません。消費量に影響があるのはもっと身近な魚です。つまりもっとも需要が大きいサバ、イワシ、イナダ(ブリ)などの大衆魚が影響していると考えられます。それらの美味しくない時期の魚の提供を大幅に減らし、うまい魚の供給を増やすことが、消費、資源、漁業者の収入面を含めて大きな効果を生み出します。

まずい時期の魚を出さない国家戦略

「まずい時期の魚を出さない」ことは、当たり前のように見えて、実際はそうなってはいません。脂が無い時期の魚は普通に店に並んでいます。

消費者は、おいしくない時期の魚が売られているとは知らずに買ってしまいます。これを止めるための制度と効果は、日本の魚そして未来にとって大きくプラスに働きます。

必要な制度については、科学的な根拠に基づく、漁獲枠の設定と、それを漁業者や漁船に割り振って厳格に運用することです。獲る量が厳格に決まれば、漁業者はたくさん獲るから、どうやって水揚げ金額を上げるかに関心が変わります。

うまい時期の魚の方が価格が高いので、産卵前後の脂がのっていない時期の漁獲は、漁業者自ら避けるようになります。そうすることで、脂がのった美味しい時期の魚だけが自然と店に並ぶようになるのです。

供給の手段は、鮮魚ばかりではありません。脂がのった時期に冷凍して、それを加工して周年供給することで、不味い魚の供給が市場から消えていくことでしょう。

SDGs 14. 海の豊かさを守ろう 

脂がのった時期だけの漁獲になれば、産卵する機会を与えられ、資源を持続的にする役割も果たすようになります。

もちろん、産卵する親魚の量が持続的(サステナブル)になるよう、MSY(最大持続生産量・魚の量を減らさずに獲り続けられる最大量)を考慮しながら漁獲量を決めていくことが重要です。それが、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも明記されているのです。

水産資源がこのまま減り続けると、消費者はまずい日本の魚を高く買わされることになってしまいます。輸入する魚は不味いと売れないので買付されませんが、一方でうまい魚は世界で奪い合いが加速していくので、価格は上がってしまいます。

うまい魚を手ごろな価格で食べ続けるためには、脂のない時期の魚は獲らないことです。それが国産の魚の資源を回復させることになるのです 。

ニシンが増えているって何のこと?

2022年7月20日更新

これってニシンが増えているの?

 ニシンという魚をご存知でしょうか?その卵は「数の子」として正月には欠かせません。身の部分は、主に東北から北海道にかけて食べられています。もっとも、それらの大半は、卵は米国やカナダ、焼き物などで丸ごと食べる場合は、ノルウェーなどからの輸入物がほとんどです。

数の子 輸入品

 近年、ニシンの漁獲量が増えてきたとか、ニシンが産卵して精子で海が白くなる「群来」という現象がみられるようになってきたとか報道されています。

しかしながら、現在の漁獲量の増加をもって資源量が「高位・増加」といった評価は、大きな誤解を生んでしまいます。実際には、ほんの少しだけ回復の芽が出てきたかも知れない程度なのです。本来は、その芽を再び潰さないようにせねばなりません。

「資源復活」などとも言われていますが、4/22(2020年)現在獲れているニシンは産卵後で、オスメスこみの価格はキロで僅か¥25程度。食用向けは一部でミールやエサ向けの用途が多いそうです。

非食用向けにニシンを獲っている国は、日本くらいでしょう。日本が米国、カナダ、ロシア、ノルウェーなどから輸入しているニシンは、2021年は約2万㌧で平均キロ約¥180/kgでした。キロ¥25という魚価は、ニシンとしてはあり得ない安さなのです。まさに水産資源の無駄遣い。なんてもったいないことでしょうか。

水産資源管理に大きな問題がある日本のニシンについて、下記のグラフで実態を明らかにしていきましょう。

水産研究・教育機構

上のグラフは、北海道周辺におけるニシンの漁獲量の推移を表しています。今から100年程前は、年間で50万㌧もの漁獲量があったことがわかります。それに対して、それに比べれば、現在はほぼ無いに等しい漁獲量です。2021年で約1万㌧の漁獲量です。

話50倍(2018年 漁獲量約1万㌧)ww 100年前は50万㌧前後の水揚げがあった。

グラフの中のさらに右上にあるグラフは、過去50年程度の漁獲量の推移を示しています。1980年後半に1年だけ7万㌧程度に増えていましたが、すぐにまた獲れなくなっています。近年は気持ち増加傾向のように見えますが、元の100年以上前からのグラフと比較すると、その増加量は微々たるものであることがわかります。

水産研究・教育機構

上の図は、北海道周辺のニシンの分布域と産卵場を示しています。ニシンは沿岸で産卵します。このため、大きくて広範囲に探し回れる漁船でなくても、沿岸で刺し網などを使って産卵に来る魚を狙って獲れば、漁獲はさほど難しくありません。

これは、秋田のハタハタなども同様で、産卵に来る魚を待ち構える漁業は、群れを探し回る漁業と比較して容易です。しかし、資源の持続性を考えずに漁を続けると、いつの間にか獲り過ぎで魚がいなくなってしまいます。

資源を持続的にしていくために、卵を産む魚をどれだけ残しながら漁業を続けていくかという考え方が、漁業先進国(北欧・北米・オセアニアなど)では基本中の基本です。

ニシンは、多獲性魚種。日本が増えたという漁獲量は、ノルウェーでのシーズン中の漁獲量としたら、僅か1~2日分程度しかありません。

水産資源管理に成功している、ノルウェー(約60万㌧・2021年)、アイスランド(約10万㌧2021年)そしてロシア(約50万㌧・2021年)などの漁獲量は、日本より桁違いに大きいのです。

これで資源量が高位・増加って? 小学生に聞いたらどう答えるだろうか!

水産研究・教育機構

2021年度のニシンの資源評価は高位・増加ということになっています。しかし、一番先にお見せした水揚げ量の推移をグラフで見て、小学生にこれが増えているのか?減っているのか?聞いて見たら何と答えるでしょうか? 

過去20年以上前の獲れていたころの数量を対象外として、減った後のハードルが下がった水揚げ量に対して多いとか少ないとか評価しているようですが、これで正しい評価はできるのでしょうか?

漁業法の改正により「国際的に遜色がない資源管理」を行うことになりました。例え酷い結果でも、将来のために実態が分かる資源評価を行い危機的な状況を共有することが大切なはずです。

大西洋 北海ニシンの漁獲推移 1970年代に、数年間実質禁漁にして資源を回復させた (ICES)

上のグラフを見てください。大西洋・北海のニシンの漁獲推移です。1970年代を堺にV字回復で資源も漁獲量も回復させて現在に至ります。日本で漁獲量が激減してしまった例は、1970年代に資源量が激減してしまった英国やオランダ(現EU)の資源管理に大きく影響を与えました。

ニシン資源量が激減してしまった際に、日本の北海道のニシンのようになっては大変だということになったそうです。そこで数年間実質的に禁漁を実施し、資源量を回復したという話を当時対応していた科学者に直接聞いたことがあります。

皮肉にも、EUが主に漁獲しているニシンはグラフの通り回復し、水産業に貢献し、重要な食糧となっています。

なぜ産卵期前後に獲ってしまうの?

4月中旬に購入した北海道のニシン。産卵後で脂が無く、身が赤い。
ノルウェーの脂がのったニシン 身の色が白っぽい

上の写真は、春・産卵後のやせた日本のニシンは身が赤っぽく腹はペラペラで薄くなっています。下の写真は、脂がのった秋の時期に漁獲されたノルウェーニシンです。脂があり身は白っぽく、腹も厚くなっています。産卵期は共に春です。

ノルウェーでは春に産卵したニシンは、エサを食べて再び脂がのる秋まで漁獲しません。産卵後の魚は脂がなくなるのは、同じです。ところが漁船ごとに厳格な漁獲枠が決まっているので、価値が低い時期の魚は狙わないのです。

ニシンの卵は数の子・別名は黄色いダイヤ

日本人が好きな数の子は、黄色いダイヤとも呼ばれるニシンの卵です。そのほとんどは、米国・カナダ・ロシアといった国々からの輸入品です。これらの国々の資源量は、年度差はありますが潤沢です。

数の子だけでなく、タラコ(スケトウダラの卵)もそうですが、水産資源管理ができている国々は、卵を産む親をどれだけ残せばよいかを、科学的根拠に基づいて計算して漁獲枠を決定しています。

日本も批准している国連海洋法でも言及されていますが、各国は魚を減らさずにとり続ける最大量(MSY)をベースにした管理をしていかねばなりません。

MSYをベースにした水産資源管理は、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも明記されています。ちなみにその期限は2020年ですが、日本のほとんどの魚は残念ながらMSYに程遠い状態です。

一方で、日本の場合は「不漁だ」「豊漁だ」などと前年の漁獲量などに対して、マスコミが騒いでいるだけで、MSYなど関係もなく、科学的ではありません。一方で、肝心の漁獲枠(TAC)さえないという、漁業先進国ではおよそ考えられない管理となっています。

大西洋では、ノルウェーを始め乱獲を反省し、漁獲枠を設定して水産資源管理に成功しています。ノルウェーがニシンに漁獲枠を設定したのは1971年です。そして豊かな資源と未来を漁業と水産業に残しています。

日本は約50年遅れとなりますが、科学的根拠に基づく漁獲枠を、2018年12月に改正された漁業法に基づいて設定するタイミングなのです。国民が正しい水産資源管理に対する情報を持ち、それに基づいて世論が形成されて行くことを望みます。

イカナゴもいなくなるわけ

2024年6月9日 更新 現状のまとめとグラフを更新しました。 

2016年6月9日加筆 イカナゴは2024年にさらに悪化。大阪湾・宮城県が休漁、事故が起きてからブレーキを踏むでは遅い。科学的根拠に基づく資源管理が行われておらず、成長乱獲が続き改善する見込みはない。海水温上昇や水が綺麗になったなど環境に責任転嫁を続けている事態ではない。(加筆終わり)

イカナゴ(コウナゴ)の幼魚

イカナゴもいなくなるわけ

2020年4月13日に仙台湾のイカナゴ(コウナゴ)漁が解禁となりました。しかし、20数隻が出漁したものの漁獲ゼロで寄港。いったいどうなってしまっているのでしょうか?

播磨灘・大阪湾、伊勢・三河湾、仙台湾と次々に消えて行くイカナゴ。解禁しても、魚がいなくて一週間も経たない内に禁漁という播磨灘・大阪湾のようなケースもあれば、伊勢・三河湾のように2月上旬から中旬まで調査をしても採取量ゼロという例もあります。資源が戻らず、今年で5年連続禁漁しても解禁ができない漁場もあります。

神戸では、春になるとイカナゴのクギ煮は風物詩のようです。しかし残念ながら、その継続も難しくなってきているようです。イカナゴは、幼魚。このまま成魚になる前に獲り続ければ、「成長乱獲」で、資源は崩壊に向かってしまいます。

イカナゴ(コウナゴ) 成魚

イカナゴのように、幼魚の方が成魚より価格が高い魚種は、資源が減るとより獲り過ぎが起きやすくなります。供給が減れば魚価が上がります。漁獲量が少なければ、余計にたくさん獲ろうとする力が働いてしまうのは必然です。

減った理由を客観的に分析すると矛盾だらけ

激減が続くイカナゴ漁 農水省データより作成

日本では、魚の資源が激減すると、無理に理由を付ける傾向があります。このため、向かう方向を誤らないよう、冷静に分析して矛盾を指摘する必要があります。

ただその機会はほぼありません。そして誤った情報がさらに誤解を生み続けてしまいます。このため資源管理の対応自体を間違えているケースが、後を絶ちません。(例:スルメイカサンマサケ他多数)

こじつけている理由に原因がないとは言いません。しかしながら、前述した科学的根拠に基づく管理を怠っているため、そこを改善しないと、一喜一憂は別として、中長期的に悪化することはあっても良くなることは決してありません。

水が綺麗になってなり過ぎたから?

海が綺麗になり過ぎたために、イカナゴが減ったという説があります。確かに栄養分が多い海の方が、魚は育ち易いです。ならば、イカナゴという魚は、人が海に様々な汚れを含む物質を流出させたことで増えてきた魚なのでしょうか? 

化学物質も何もなかった鎌倉時代や室町時代はもっとイカナゴは少なかったのでしょうか?ww。

砂の掘り過ぎで住む場所が減ったから?

イカナゴは、英語でsandeel(砂のウナギ)と言います。定着性が高く砂に潜る性質があり、夏は砂に潜って寝ているとも言われています。

生活環境がとても大切なのは言うまでもありません。ところで、前述のイカナゴがいなくなって禁漁しているのは、ここ数年です。砂の取り過ぎが減った原因という説もあるそうですが、砂の採取は、ここ数年で急激に始まったのでしょうか?ww。

福島県のイカナゴ漁は、他の海域での不漁が深刻化する中、築地市場(当時)を潤していました。特に2016年は、1日としての水揚げ量は史上最高ではないかという声も上がったほどです。

しかし2019年になると、ほぼいなくなってしまいました。わずか数年で砂を掘り過ぎたのではなく、震災の影響で一時的に漁獲圧力が下がっていて資源が回復していたイカナゴを他地域同様に獲り過ぎてしまったのではないでしょうか?

漁獲推移のグラフの通り、1970年代が漁獲量のピークでした。その後、日本の他の魚種同様に右肩下がりに漁獲量、つまりは同じパターンで資源量が減っている典型的な魚種の一つに過ぎないのです。

海水温が上昇したから?

水温は魚の資源量に影響を与えます。農作物も気温の影響により出来高が変わって来ます。ところで全国の漁場から高水温に弱いとされるイカナゴが消えて来ていますが、それなら南の漁場から消えて行くのでしょうか? 最近の例を見るとそうでもありません。

陸奥湾のイカナゴがほとんどいなくなって禁漁になったのが2013年でした。大阪湾や伊勢・三河湾よりも北に位置している漁場が先にダメになっています。

さらに、とどめを指すように減った理由が矛盾していることがあります。2013年当時、イカナゴがいなくなった理由は、何と「水温の上昇」ではなく、「水温の低下」だったという記事がありましたww。

次に、資源管理で成功しているノルウェーと比較してみます。ノルウェーの海にもイカナゴがいます。海水温の上昇が原因なら、氷が溶けて大きな影響が出ている北極海が有名ですね。

日本よりずっと北極海に近い、北欧の海域はきっとイカナゴが激減しているに違いないですね。実際は全く逆ですが、、、ww。

最後にノルウェーのイカナゴとの比較

農水省とノルウェー漁業省のデータより作成

このサイトでは、日本と世界、特にノルウェーと比較することで問題を明確化して、解決策を提示しています。イカナゴでもその傾向ははっきりしています。

ちなみに、水温が上昇していても、漁獲量と水産資源の動向は、日本と逆で上昇傾向にあります。日本と異なり、実際に漁獲できる数量より、大幅にセーブして漁獲を続けていることが、資源量の持続性にプラスに働いているのです。

イカナゴは、食物連鎖では他の魚のエサになる魚です。そのエサになる魚が減れば、単にイカナゴが減っただけではなく、他の魚の資源量にも悪影響を与えてしまいます。

例えば、今年禁漁になっているノルウェーやアイスランドのシシャモ(カラフトシシャモ)は、日本よりはるかに多い資源量です。しかし、シシャモの漁獲量を決めるのに際し、それをエサとしているマダラなどが食べて減る分も計算するのです。

ルウェーのサバでもシシャモの漁獲量や資源量の傾向でも同じパターンなのですが、同国では科学的根拠に基づいた漁獲枠を設定して、それを厳格に管理して水産資源管理を行なっています。

仙台湾のイカナゴの漁獲枠は異常では?

ノルウェーを始め、漁業先進国における実際の漁獲量は、漁獲枠とほぼイコールというのが当然です。ところで、日本ではイカナゴがこれだけ危機的なのに、これでは全く枠の意味がないというのが次の仙台湾のケースです。

昨年の漁獲量は、激減してわずか26トン。資源量が減っていることも明確です。しかしながら、漁獲枠は何と9,700トン。と昨年実績の373倍ですww。

しかも、仙台湾の20地点での調査船による調査で獲れたのはわずか1尾、、、。絶対に獲り切れない漁獲枠。そして、その被害を受けるのは、他ならぬ漁業者です。そして、地元の加工業者、ひいては消費者にも悪い影響を与えてしまいます。

資源が潤沢で持続的な水準であれば別ですが、幼魚を科学的根拠に基づかず獲り尽くしてしまうことが、いかに問題であることかをイカナゴの例は語っているのです。

2018年に12月に70年ぶりに改正された漁業法は「国際的に見て遜色がない資源管理」をすることになっています。骨抜きにされないためには、広く国民が関心を持つことが重要なのではないでしょうか?


北欧のシシャモ資源が必ず戻るわけ

国産シシャモの幼魚 小さくても容赦なく漁獲されてしまう

食卓や居酒屋などでおなじみ、脂がのった北欧産のカラフトシシャモ(以下シシャモ)。しかしその供給が、資源量の一時的な減少で禁漁となり細る見通しです。日本に供給しているのは、アイスランドとノルウェーです。アイスランドの禁漁は、2019年に続き2年目、別の水産資源ですが、ノルウェーのバレンツ海も同じく2019年から禁漁しています。

この他、東カナダでもシシャモが獲れますが、卵の量が多いものの、脂があまりないのが特徴です。

北欧(アイスランド、ノルウェー)産 シシャモ

ところで、シシャモなどをエサにするマダラなどの腹の中にはシシャモが一杯。でも禁漁なのはなぜでしょうか?

シシャモは3年〜4年で成熟して、ノルウェーやアイスランドの沿岸で産卵をして一生を終えます。それぞれ別の資源ですが、ノルウェーではロシアと共同で管理していて、卵を産む資源量(産卵親魚量)を95%‼︎の確率で20万トン残すルールとしています。

資源量が例えば30万トンと推測されると(30➖20=10) 10万トンが漁獲枠となります。一方で、20万トンを下回ると禁漁となります。アイスランドについても、同様に産卵親魚量を15万トン残す資源管理です(2015年に方式変更)。同じくこの水準を下回ると禁漁となります。

共に2〜3月が漁獲シーズンで、ノルウェーは、早くも禁漁を決めています。アイスランドは3月現在も調査を続けていますが、解禁は厳しい見通しです。

7隻の調査船と漁船がアイスランド近海をくまなく調査 (MRI)

資源調査においては、図のように、官民の漁船が手分けをしてアイスランドの周りをくまなく調査しています。

色が付いている箇所がシシャモの未成魚資源 3~4歳で産卵のためにアイスランド沖に回遊して来る

ところで、来期、2021年のアイスランドでのシシャモは約17万トンの漁獲枠が早くも現時点で科学者から算出されています。これは、資源調査の結果1~2歳の未成魚の加入量が、平均値を大きく上回っているデータが出ているからです。

上の図はシシャモの資源分布を示しているのですが、まだ成熟しない未成魚の資源です。2021年には、一部が親になってアイスランド沖に産卵のために回遊してくるのがわかっているので、解禁見込みとなっているのです。

ところで、もし生活のためだといって、この未成魚の漁場まで行き、食用にならないシシャモを大量に獲ってしまったらどうなるでしょうか?

漁獲枠もなく、もしあっても獲り切れない枠だったり、個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)もなかったらどうなるでしょうか?

それが様々な魚種で、日本で魚を減らしてしまう漁業の問題なのです 。

シシャモの赤ちゃん 国産 北欧では絶対獲らないサイズ
シシャモの成魚 国産

写真は、日本のシシャモの写真です。日本では、シシャモに漁獲枠さえありません。年間の漁獲量は千㌧弱です。もちろん、単純比較はできませんが、日本の場合は、漁獲枠が機能していないので、小さな魚の漁獲成長乱獲」が様々な魚種で、日常茶飯事に起きています。

上の写真のようなシシャモの未成魚は、将来のことを考え、「絶対」に獲りません。

冷静に考えれば、日本では、様々な魚種で小さな魚を獲ってしまう「成長乱獲」、産卵する親の数が少ないのに獲ってしまう「加入乱獲」を同時に引き起こしています。それを魚が減っているのに、海水温の上昇や外国にばかり責任転嫁するのは、いい加減にやめるべきなのです。

話を元に戻します。シシャモを見かけなくなっても、一時的に高くなったような気がしても、それは短期的なことで、数年で回復してくるのです。

はっきりそう言い切れるのは、水産資源管理がしっかりしているからに他なりません。また、漁獲する量だけでなく、マダラを始め、他の魚のエサとして減少する量も考慮されて、漁獲枠のアドバイスが出されます。

言うまでもなく漁業者にとっても、大事な収入源であるシシャモが禁漁であって良いわけがありません。しかしながら、水産資源管理がしっかりしていると、サバ、ニシンなど他の魚種が十分補ってくれるので、禁漁に対する強い不満や補助金の話は聞きません。

日本も、北欧を始めとする海外の資源管理の本当の姿をすれば、将来の明るいビジョンが見えてきます。漁業は本来、水産資源管理ができていれば成長産業です。

そしてその為の第一歩が、水産資源が国民共有の財産という内容が欠けていますが、国際的に見て遜色がない資源管理にするという漁業法の改正であったのです。

シシャモだけではありません。世界と日本の水産資源管理を比較するとハッキリとその問題点と解決策が分かります。悪化している状況を美化して問題を先送りする段階ではありません。

国会で水産資源管理のことを話してみました

参議院 国際経済・外交に関する調査会 2020年2月12日

2/12に参議院で国際経済・外交に関する調査会が開催されました。そこに参考人として水産資源管理のことを話して欲しいと依頼があり、話をして来ました。3人の参考人が呼ばれ、その1人がさかなクンだったので、マスコミの注目は凄く、帽子を取るとかとらないとか、あちらこちらのTVにも映っていたそうです。

参議院からの招待状

ちなみに、会議ではさかなクン参考人ではなく、さかなクンと呼ばれ、ご自分のことは、さかなクンといってました。本当にさかななんだ(笑)。

テレビは「さかなクン」一色でしたが、参考人が3人が各20分話し、それに対して2時間弱が質疑というまじめな組み立てでした。さて、その中で、いつも出てくる重要な質問がありました。

世界と日本のグラフ

筆者のプレゼンは、世界と日本の水揚げ量の推移の違い、世界の中で、日本の海の周りだけが、世界銀行に水揚げ量が減ると予測されており、すでに予想を上回るスピードで悪化していること。減少要因とされる海水温の上昇などの要因は、日本だけに起こっている問題ではないこと。水産資源管理の成功により、成長を続けているノルウェーでは、漁船の大小に関わらず99%の漁業者が満足していると説明しました

さらには、データを元に同国では魚の資源が増え、補助金が減るという現象が起きており、その根本にある政策が、科学的根拠に基づく「漁獲枠=TAC」の設定とそれを漁業者や漁船などに、個別に割り当てていく「個別割当方式=IQ、ITQ、IVQ」にあるという説明などをしました。アイスランド、デンマークといった漁業で成長している国々と制度が共通していることも解説しました。

日本は、皮肉にも東日本大震災で、マダラなどが漁獲圧力の減少で、一時的に魚が増えたものの、従来通りのやり方で、小さな魚まで獲ってしまい、数年で元に戻ってしまったこともデータで明示しました。

太平洋側のマダラ資源は、震災後一時的に資源が激増。しかし漁獲枠もなく獲り過ぎて元の木阿弥に。 左上図・右上写真(水産研究・教育機構)、左下(ASMI)

マダラの資源推移を例とした具体的な説明

さてその質問内容を要約です。「なぜこれほどやるべきことは明快なのに、日本は水産資源管理ができないのか?」 同じ質問を、これまで様々な分野の方から一体何回受けたことでしょうか‼

水産資源管理については、漁業先進国と異なり、日本では事実がほとんど知られていないため、魚が減るとそれが海水温の上昇や外国が悪いという責任転嫁ばかりになってしまうことにあります。

政治家の皆さんに事実が伝わっていないので「間違った前提に対する正しい答え」という最も悪い政策がこれまで繰り返し行われて来ました。

漁業で成功している国々でも、水産資源管理に対しては、最初は反対でした。しかし、最後には政治的な判断が行われています。親しいデンマークの漁業会社(当時)でも、反対が強くもめたものの、最終的には自分がまとめて個別割当制度(ITQ)を実施したと直接聞いたことがあります。

ノルウェーのマダラ資源は、漁業大臣の判断で高水準が維持され続けている。その地方や産業に対する好影響は計り知れない。(オレンジ色の棒グラフが、マダラの水揚げ金額推移)

ノルウェーで当時の漁業大臣が1987年にバレンツ海(ノルウェー)でのマダラの海上投棄を禁止したことが、2019年まで禁止しなかったEU(北海)での資源量の決定的な違いとなっていることもグラフ(オレンジ色の折れ線グラフ)で説明しました。

ノルウェーでは、小さなマダラを投棄すれば将来の資源に悪影響するという正しい情報に対して、現実的には難しいという反対を押し切って、大臣がマダラの海上投棄禁止の判断し、将来に豊かな資源を残したのです。

法律になることで、漁業者は漁場の変更や、網目を大きくするなどの早急な対応が必要になったはずです。

日本は、マダラの漁獲枠さえないので、赤ちゃんマダラも容赦なく水揚げしています。

三陸沖で漁獲されるマダラの幼魚 資源管理が進む北欧や北米では決して水揚げされない

ノルウェーの水産資源管理は沿岸漁業者を優遇という事実

「沿岸漁業者はどうなるのか?」 北欧型の水産資源管理制度の是非を巡って大きな誤解があるのは、沿岸漁業への配慮についてです。

漁村崩壊とか、漁獲枠によって社会問題が起きているなどというのは、大きな誤りであり、その逆です。 ノルウェーなどでそんな話をすると、どこの国にこと?と苦笑いされてしまいます。

ノルウェーでは、地方への配慮から、小型の漁船枠が大型漁船に売られない制度になっています。このため日本のように沖合と沿岸漁業間で起こる不満は過去の話です。マダラなどで資源量が少ないときには、沿岸漁業への配分を増やして配慮しています。

漁業者の数で言えば、多いのは沿岸漁業者の方です。そのような環境下で、99%の漁業者が満足しているのに、それがなぜ社会問題になっていると言われるとしたら理解に苦しみます。

外国人の船員が多いなども間違いです。一般的なサラリーマンより収入が高く、個別割当制度により、計画的に休みも取れる仕事をなぜ外国人に譲るのでしょうか?

時代の流れと水産業改革(日本経済調査会)による提言

ご紹介したノルウェーを始めとする水産資源管理について初めて広く世に伝えたのは、3人の内のもう1人である小松正之さんでした。それは、2007年に日本経済調査会で発表されました。

当時は、北欧型を含む先進的な水産資源管理の紹介は「見てきたような嘘」「素人談義の底の浅さを暴露」「日本型の管理手法に対する評価が高まりつつある」などと何名もの学者の方などに批判されました(そのWebは削除されています。)。しかしながら、時代が変わり、政治家の方々にも正しい情報が伝わり始めました。そして同氏が中心となり、2019年に第二次水産業改革委員会の最終報告が発表されています(2017年開始)。

2018年12月に70年ぶりの漁業法改正と言われている法律に改正には、その一部が熱意のある政治家の方々によって最初の一歩が踏み出されているのです。何が本当だったのか、はっきりとわかってきたのです。

最後に、水産資源管理に関係する人が多い中、なぜ学者もない筆者が参考人として代表して国会に呼ばれたのか?

実は、本当のことをいうと自分のためになりません。 そのことが、日本だけが魚が減り続けている異常な状態につながっているのです。この辺は、「サカナとヤクザ」の続編などで、事実に基づいた報道が行われれば、多くの地方と人が救われるきっかけになることでしょう。

日本の水産資源管理は、それ自体大きな社会問題でもあります。消費者、仕事、そしてSDGsを達成する国として、ほとんどの日本人が関わっている大問題なのです。そのためには、国民、そして政治家の皆さんが、日常生活に大きくかかわっている重大な問題を、客観的な事実に基づき、正しく理解して世論を変えて行くことなのです。

魚が減ったのは本当に外国のせいだけなのか?

2022年7月20日更新

国産スケトウダラ 日本とは対照的に米国とロシアの資源量は豊富でサステナブル

魚が消えて行く話題が絶えません。昨年(2021年)も、サケ、サンマ、スルメイカ、シシャモ、イカナゴを始め、様々な魚種の不漁・禁漁が話題になりました。このため、漁業者、地域経済、そして消費者にも悪影響を及ぼしています。

原因は、海水温の上昇、外国の乱獲などの理由がほとんどでした。そして、魚種交代や、レジームシフトといったもっともらしく聞こえる解説も散見されました。しかしながら、その本質的な原因をひも解いて行くと、様々な矛盾が露呈して来ます。

昨年(2021年)も、サケスルメイカサンマイカナゴ、シシャモをはじめ、消費者にとってだけでなく、地域経済に深刻な影響を与える不漁や禁漁が様々な魚種で起きてしまいました。

外国漁船が獲ってしまうから魚が減るというのは確かにそうです。1977年に設定された200海里漁業専管水域は、当時世界中の海に展開していた世界最大の漁獲量を誇る日本漁船の排斥が背景にありました。日本の漁船は、各国の水産資源にとって脅威でした。

ただし問題の本質は、特定の国が悪いということではなく、国際的な資源管理の仕組みが無かったことにありました。戦後の食糧不足から始まり、日本には動物性タンパクを魚で国民に供給する必要性が生じていたのです。国別の漁獲枠でもなければできるだけ獲ろうという力が働いてしまいます。そしてそれが乱獲の一因にもなります。

サンマのように資源が減って、同じ資源を各国が獲り合えば、それぞれが漁獲できる配分量が取り合いにより減り、ひいては全体の資源量も減ってしまうという最悪のケースに陥ってしまいます。

取り合いによって深刻な資源崩壊が起こったことで、世界的に有名なのが、東カナダ・グランドバンク漁場でのマダラ資源です。1992年に禁漁となり、未だに回復待ちです。東カナダ沖の漁場は、1977 年に設定された200海里漁業専管水域が設定される以前には、カナダ船以外の漁船も、東カナダの漁場に入り乱れていました。

FAOデータより作成

グラフのように急激に伸びた漁獲量は、200海里の設定後、外国船の排除により大きく減少しました。その後、漁獲量は安定するはずだったのでしょうが、結果はその15年後に、禁漁に至る悲惨な事態となりました。マダラは主要魚種でしたので、漁業、加工業を始め300万人以上が仕事を失いました。カナダ史上最大のレイオフ(一時解雇)と言われています。

なぜ、200海里の設定後に悲劇が起きたのか?それは、自国の乱獲を棚に上げて外国を非難しただけであったことに他なりません。そのマダラ資源の激減の反省からできたのが、国際的な水産エコラベルとして受け入れられているMSCマークです。

これによく似た日本のケースを挙げるので、何が悪かったのか考えてみてください。

激減したスケトウダラの原因は何か?

スケトウダラ 日本海北部系群水揚げ推移 オレンジ色が韓国船の漁獲量で他は日本漁船の漁獲量 (出典:水産研究・教育機構)

グラフは、北海道の日本海側のスケトウダラの漁獲量推移です。他の魚種でも多く見られる典型的な右肩下がりです。ところで、当時このスケトウダラ資源が減少しているのは「韓国漁船」による漁獲が原因といわれてました。韓国漁船の漁獲量は「オレンジ色」の部分です。200海里の制定後も、韓国漁船は同漁場での漁獲が可能であったため、割合は低いながらも、日本の漁獲量に影響してはいました。

韓国漁船の排斥が求められ、ようやく1999年に出て行くことになりました。漁獲量の減少は、韓国漁船が原因とされていたので、当然1999年以降は、漁獲量が回復するはずでした。ところが、1999年以降の漁獲量推移は、回復どころか激減してしまいました。

この例は、東カナダのマダラ資源崩壊と同じで、自国の乱獲を棚に上げて獲り続けた結果ではないでしょうか?早い段階で有効な資源管理のための手を打たないと、そのツケを払うためには数十年の年月がかかることになってしまいます。

イカを乱獲して他国に脅威を与えたこの国はどこだろうか?

スルメイカ クイズもともとイカ漁で脅威だった国はどこか?

ある国のイカ漁が記事になっていました。「地元に脅威〇〇イカ船団」「略奪に渦巻く非難」「根こそぎ包囲網に不安」「反感抑え紳士的警告」「ナイター並みの照明」「乱獲の反省と節度」「進出2年でもう不漁」「獲り過ぎかなと漁労長」

この記事の◯◯は、どこの国のことでしょうか?たぶん近隣の国々のことだと思う人が多いことでしょう。

しかしながら、その〇〇に当てはまるのは「日本」なのです。記事はニュージーランド沖での日本のイカ漁に関する1974年の朝日新聞でした。当時はまだ200海里漁業専管海域(1977年に設定)の設定前でした。このため、日本漁船は12マイルもしくはそれ以内の好漁場に入って漁ができたのです。

今回の投稿は、どこの国が悪いというのが趣旨ではありません。国際的な視点で漁業を見ると、国が変わるだけで、まさに「歴史は繰り返す」なのです。漁業の歴史に関する基本的なことを知らないで他の国を批判ばかりしてしまうと、事実を知ると唖然としてしまうことになるでしょう。

サクラエビやイカナゴの減少は、近隣諸国の漁業と関係はない

ここで大事なことは、日本の200海里を出て回遊するサンマ、カツオ、サバなどの魚と、国内で完結するイカナゴ、サクラエビといった魚は分けて考えることです。

前者は科学的な根拠に基づく国別漁獲枠(TAC)を手遅れになる前に設定すること、後者は外国の漁業は影響していません。温暖化などに対するリスクを予防的アプローチとして十分考慮して、より慎重な漁獲枠を設定することが必要不可欠です。

そしてそれらを早獲り方式で資源を潰させないために、個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)などを適用して防いでいくのです。その成功例は、北米、北欧、オセアニアなどにたくさん存在しています。

安易な他国非難は止め、他国で資源崩壊したケースも参考にした上で、国際的な枠組みを早急につくることが重要なのではないでしょうか?

サンマ・本当はどうなっているのか?

更新 2024年6月9日 現状のまとめとグラフのデータを更新しました。

この記事を発信したのが2020年1月でした。国際的な資源管理の話し合いは毎年されています。しかしながら2024年に設定された漁獲枠は前年比10%減・22.5万㌧と前年実績の12万㌧のほぼ倍で全く資源管理には効果がありません。一方で科学者が適切と考えている漁獲枠は約7万㌧でした。

国益が絡む漁獲枠の設定は非常に難しいのですが、我が国の場合は、マスコミが10%の枠削減の方を、適切な解説不足で報道してしまうので、社会がまるで資源管理が進んでいるような誤解をしています。

さらに海水温上昇・外国が悪いといった責任転嫁が枕詞のようになってしまっています。これらに原因がないとは言いませんが、問題の本質は他にあります。

どんなに神頼みしても、次回に期待してもこのままではよくなる可能性はありません。その問題の本質と対策を発信しています。(加筆終わり)

2019年のサンマは細かった 

歴史的な「凶漁」とは?

様々な魚が減って日本人の秋の味覚にも異変が起きています。その一つがサンマです。毎年、秋になると脂がのった生のサンマが、1匹100円前後で大量に店に並んでいました。凶漁といわれる昨年(2019年)でも、何日かは1,000㌧以上に水揚げがまとまり、手ごろな価格で売られる日もありました。しかし、売価の上昇を実感した方は多かったことでしょう。

2019年のサンマの価格は例年の末端価格に比べ2〜3倍が多かった

2019年のサンマ水揚量は、約4万㌧と記録に残る1969年の約5万㌧を下回りました。この水揚量は、サンマ漁の創成期と戦時中を除き歴史上最低の数字でした。20万㌧以上が当たり前だった2014年以前の漁獲量が、2015年以降は下降線をたどっています。それまでの数字がまるでウソのようです。

しかも価格が上昇しただけではありません。海水温の上昇でエサとなるプランクトンが減少したからでしょうか?細めで脂が少ないサンマの比率が高くなってしまいました。漁場が遠く、片道2~3日もかかる漁場からでは、鮮度も日帰りで水揚げされるサンマと比較すると落ちてしまいます。

価格が高くて、脂ののりが薄いと、自然と消費者も離れてしまいます。また、それだけではありません。水揚げされて冷凍されたサンマを周年かけて利用していた加工業にも、原料不足による悪影響を与えてしまいます。

冷凍サンマがまた助けてくれるのか?

お手頃価格の脂がのった解凍サンマ

昨年(2019年)の秋になっても中々サンマの水揚げがなかったときに、手ごろな価格で店に並んだのが「冷凍サンマ」を利用した「解凍サンマ」でした。

しかも、脂も前年のものなので、まあまあでした。解凍サンマは、前年の秋に冷凍されたものです。まだ先ですが、次の秋になれば、鮮魚が少なくても、再び脂がのった冷凍サンマが手ごろな価格で提供されるのでしょうか?

残念ながら、冷凍サンマの供給は厳しくなります。サバでも同じなのですが、水揚げされたサンマは、価格が高い用途向けから市場で引き取られて行きます。

価格が最も高いのは鮮魚向けです。昨年のように一回の水揚量が少ないと、ほとんどが鮮魚向けに回ってしまいます。このため冷凍向けにされる分は減少し、かつ魚価高によりコストは高くなってしまいます。

細くて脂のりが薄く、鮮魚向けに向かないサンマは冷凍に回り易いのですが、それは脂がのったおいしいサンマではありません。

海水温の上昇を理由にすると起きる矛盾

水温の影響は、サンマの資源量の増減に影響します。これは、農作物の収穫量が、その年の気温や雨量などに影響を受けるのと同じです。

ところで、昨秋のサンマの凶漁に対する不漁は、海水温の上昇によりサンマが日本の近海に回遊してこないので獲れないとか、日本に回遊する前に、公海で台湾や中国などの大型漁船が獲ってしまうことが不漁の原因だという報道がほとんどでした。

それでは、その日本から遠い公海に行けばサンマが例年通り獲れたのでしょうか?その答えは「No!」です。まだ数字は出て来ていませんが、公海での他国のサンマ漁も日本と同様に不漁もしくは大不漁だったのです。つまり、サンマの回遊量そのものが非常に少なかったのです。

赤がサンマ 東から西へ移動して行く 青がサバ類で黄色がマイワシ 水産研究・教育機構

サンマ(赤色)は上の図で言うと、東から西へと回遊してきます。マサバとマイワシは、サンマほど大回遊しませんが、漁場は同じように北海道から三陸の沖合にかけてが、秋~冬に主漁場になります。

ところで上の図に出ているマイワシは、 資源量が増えて来ています。その理由として、寒冷レジームが挙げられています。海水温が低くなってきている??? 一方で同じような漁場なのに、サンマは海水温の上昇で漁獲量が少ない?と言われています。

また同じく凶漁が続くスルメイカ漁では、 海水温が低かったので減っているとも言われています。実際には海水温上昇で資源量が増え易いはずが、逆に減少しているなど、海水温をもとに資源の増減の話をすると辻褄が合わなくなります。

海水温上昇が問題になっているのは、日本の近海だけではありません。世界中の話です。最も温暖化の影響を受けているといわれている北極では、氷が減りシロクマが氷の上からアザラシの猟ができない報道も見かけます。

しかしながら、水産資源管理ができている海域では、魚種により資源量は凸凹がありますが、概して青物類(サバ・ニシンなど)、底魚類(マダラなど)ともにサステナブル(持続的)な状態です。海水温の上昇で同じく影響受けているのに、日本の海のように様々な魚種で水揚量減少が記録的になっているようなことはないのです。

水揚量の推移を見てみよう

水産研究教育機関の資料を編集 

サンマの水揚げ推移を見てみましょう。赤色の日本の漁獲量の推移を見ると、明らかに減少傾向です。今のままでは、サンマ漁が日本の漁獲量で年間20万トン前後に戻る状況とはほど遠くなってしまっています。

赤色以外の他国の漁獲量は、同じ資源を獲り合っているので、日本の一方的な立場からすれば脅威です。しかしながら、すでに多数の漁船を投資している国々は、漁業者が早く投資分を回収したいなど、別の事情と考えができてしまっています。

日本の漁船が漁獲している比率は、2018年漁期で約3割と、2000年以前に8割前後だった比率に比べて大幅に減少しています。公海での国別漁獲割り当てを決めてこなかったために、台湾・中国といった国々の進出を許してしまいました。

すでにたくさんのサンマ漁船を建造されてしまったので、後には引かない状態です。これらの国々は、自国の漁獲実績を主張して漁を止めることはありません。

このため全体の資源量が大幅に回復しない限り、2014年以前のように日本が20万トン以上漁獲できるようにはならないのです。

2018年の実績である3割のシェアで計算すると、20万トン獲るためには、全体での漁獲量が60万トン必要になります。ところが、1995年~2018年までの平均漁獲量は全体で39万トンでかつ減少傾向です(NPFCデータ)

米国でのケースでは、1977年の200海里漁業専管海域設定後の数年間で、同国沖の公海でスケトウダラを操業する日本漁船を排斥してゼロとしています。そして自国の水産資源管理を科学的根拠に基づきサステナブルにして現在に至って漁業を成功させています。

これまでの調査で十分だろうか?

日本では、魚がいなくなると安易に環境や他国に責任転嫁する傾向にあります。マスコミもそのように報道してしまうことで、多くの誤解と、実際に魚が激減するケースが後を絶ちません。昨年だけでも、イカナゴ、サクラエビを始め、減少傾向が続く水産物が話題になり、このままではさらに増えることになるでしょう。

北欧の資源量調査を見てみよう

サバとニシンの資源調査 ノルウェー、アイスランド、EU漁船が協力 調査は広範囲にわたる

サンマに話を戻しましょう。北欧の資源量調査の例を見てみましょう。上記の図は、ノルウェー、EU、アイスランドなどの漁業をしている国々が、手分けをして広範囲にわたって資源調査状況を示しています。そしてそのデータを共有して、科学的根拠に基づき漁獲枠を決めて行きます。

サンマの資源調査については、範囲が広いので日本の調査だけでは範囲が不十分です。日本の調査範囲は、主に水平展開しての調査になっています。これを中国や台湾、ロシアなどと連携して広範囲を調査して、北欧同様にデータを共有して、その数字に基づいて漁獲枠の話し合いをするべきです。

北欧の場合でも、各国の主張が食い違う場合があります。このため、必ずしもすべての魚種で、国別に漁獲してよい量(国別TAC)が科学的根拠に基づいて決まっているわけではありません。

しかしながら、乱獲に陥ると自分で自分の首を絞めてしまうことは良く理解しているので、獲れるだけ獲るようなことはしません。ここで日本も含む各国の水産資源管理と大きな違いがあります。

一方で、サンマの場合は、2019年に55万トンという獲り切れない漁獲枠を決めたものの、何の資源管理効果もありません。これを一刻も早く北欧並みの管理にしないと大変なことになる一歩手前の状態まで来ているのです。

現時点では、2020年の漁期もサンマ資源が激減しているのに、各国は獲り放題です。漁獲量制限どころか、配分交渉に備えて実績を増やそうという力が働いてしまいます。

日本も例年12月は小型が多くなるので漁を控えているのですが、そういう配慮はしませんでした。厳格な国別漁獲枠(国別TAC)が決まっていないので、できるだけたくさん獲るという点でどこも同じです。

サンマがいなくなってしまう前の対策のためには、批判だけでなく、事実の理解と現実の対処法を国民が理解していく必要があります。

なぜ軒並み「記録的不漁」?スルメイカ漁も!

2024年6月9日 更新 現状を加筆し及びグラフのデータを更新しました。

6月9日加筆

この記事を出したのが2020年の1月でした。スルメイカも漁獲枠が科学的根拠に基づいておらず、それに起因する獲り過ぎで漁獲量の減少が止まりません。また、有効な対策は打たれていないので、よくなるはずはありません。スルメイカは海水温が高い方がよい??とされていましたが、資源は減る一方です。黒潮大蛇行が収まっても、神頼みしてもこのままでは昔のようにイカが獲れるようになることは決してありません。正しい資源管理の情報が不可欠です。

また、同じ資源を獲り合っている韓国漁船も漁獲量の減少で撤退する漁業会社が出てきています。スルメイカの大不漁を環境や外国に責任転嫁ばかりしては未来はありません。必要なのは科学的根拠に基づいた数量管理です。筆者には、余りの惨状に漁業者の方から禁漁にすべきという声も聞こえてきています。資源減少による社会問題が、イカでも深刻化しています。社会がなぜ魚が減っていくのか、真の原因とその対策に気付かねばなりません。(加筆終わり)

水揚量が激減しているスルメイカ

サンマ秋サケ(シロサケ)が過去最低の漁獲量を記録してしまいました。そしてスルメイカも遂に記録的不漁が4年目に突入です。皮肉にも世界銀行やFAO(国連食糧農業機関)が公表している悲観的な見通しのままです。漁獲量の減少が様々な魚種で起きていて止まりません。「イカの活き造り」で知られるケンサキイカも記録的な不漁に見舞われています。

スルメイカは、鮮魚出荷だけでなく、塩辛などの珍味、フライ、刺身、スルメを始め、様々な加工がされて行く基幹的な水産原料です。 函館や八戸を始め、スルメイカに依存している地域にとって大きな痛手です。まずは、漁獲量推移の現状をグラフで見てみましょう。

イカ類の漁獲量推移 農水省のデータを編集

青の折れ線グラフがスルメイカ、赤がアカイカ(1983年から分類)、緑がその他イカ類となっています。2000年以前には40~60万㌧もあった漁獲量は、2018年には10万㌧を割り込んでしまっています。昨年(2019年)はさらに落ち込んでいる見通しです。

グラフをよく見てみると、スルメイカの漁獲量だけが激減しているだけでなく、アカイカ・その他イカ類と、イカ類がまとめて激減していることが分かります。

スルメイカ激減要因は何か?

スルメイカの分布と産卵場 水産研究・教育機構

魚が減る原因としてしばしば環境要因、特に海水温の上昇が挙げられます。 たしかに環境要因は水産資源の増減に影響します。しかし日本では獲り過ぎが、環境要因に置き換えられてしまうことがよくあります。

資源管理の遅れが海水温や外国に責任転嫁されてしまう報道が後を絶たないため、日本人の多くは「獲り過ぎ」という魚が減って行く本当の理由を知りません。

スルメイカでは、資源量と環境の関係で矛盾点が露出します。

まず海水温が高くなっているのは、否定しえない事実です。ところでスルメイカの場合、資源が減少している原因として考えられるのが寒冷レジーム、つまり水温の低下となっています。

さらに産卵期に海水温が低下したことが原因?ともいわれています?ところで、水温が高いのではなく低い?というのがそもそも??です。しかも、一方でこれだけ温暖化が問題になっているのに、それが生態に影響するほど低かったとは考えにくいです。

ちなみにこんな報告もあります。2019年9月24日、盛岡で、水産庁と「するめいか資源に係る意見交換会」が行われた。研究者の話もまじえ、昨年暮れから今年初めにかけて、東シナ海の水温分布は、するめいかの産卵に良い環境であった、と報告されている。」』

また、もしもそれだけ水温が低かったのであれば、スルメイカは産卵のための適水温を求めて移動するはずですね。スルメイカの産卵海域は図の通り広範囲にわたっています。高温ならともかく、海水温の低下が資源減少の主因になるとは、にわかには信じがたいです。

仮説になりますが、こういう矛盾が起こってしまう理由は、魚が減った結果を、無理やり環境要因に転嫁してしまうためと考えます。例えていうなら、周りの企業はみな業績が良いのに(世界全体では水揚量は増加中)、悪かった(日本だけが減少傾向)ことを、景気悪化(海水温の上昇など)に転嫁してしまいマネジメントを反省しないのに似ています。

そこで日本と世界の漁獲量の推移を見れば、明確にそれがおかしなことが分かります。世界中で日本の海水温だけが上がるはずはありませんので(汗)。

水産庁資料では「 我が国周辺水域では、水温が温かい時代である温暖レジームにはカタクチイワシやスルメイカ等の漁獲量が増え、逆に冷たい時代である寒冷レジームにはマイワシやスケトウダラ等の漁獲量が増える傾向にあります。 」とあります。

寒冷レジーム(??)でマイワシが増えるという一方で、海水温が高いためにサンマが日本近海に近寄らずに獲れない??秋から冬にかけて同じような北部海域で漁獲されるのに??一方で海水温が低いといってみたり、他方で高いといってみたりでは理解は困難です。

岩手の漁業者の方が、スルメイカ資源の環境要因に関する矛盾を新聞社に指摘しているブログがこちらです。良く調べないで、責任転嫁された内容がそのまま報道されていることがわかります。これでは誤解が誤解を生んでいくだけです。

機能していない漁獲枠(TAC)

漁業法改定に伴い、漁獲枠(TAC)が機能することを期待しますが、現時点(2020年1月)でのスルメイカのTACは資源管理に機能していません

2018年から過去10年でのTACに対する漁獲率はわずか46%。これでは漁獲枠が実際の漁獲量より大幅に大きく、水産資源管理が機能しません。

TACは、目標値ではありません。 ノルウェーのサバ 、アラスカのスケトウダラを始め、漁業で成長を続けている北欧や北米での漁獲量は、TACに対してほぼ100%です。実際に漁獲できる量より大幅に少ない数量が、漁業者や漁船ごとに割り振られています。このため例外を除き、毎年漁獲枠通りの漁獲実績になっています。

小さなイカを獲っても大丈夫か?

小さな小さなスルメイカも逃がさず漁獲されてしまう 

漁獲枠(TAC)が機能していないと写真のような生まれたばかりのスルメイカまで根こそぎ獲ってしまいます。悲しいことに、これが日本の漁業の現実です。

スルメイカ秋季発生系群の成長 (水産研究・教育機構)

スルメイカの寿命はわずか1年です。写真のスルメイカは1パイわずか10g程度。8ヶ月も経てば200g以上になるのに、実にもったいなく、資源に悪い漁業が我が国で行われているのです。

科学的根拠に基づく漁獲枠が、漁業者や漁船ごとに厳格に決まっていれば、スルメイカに限らず漁業者は、資源に悪くて、価値が低い小さな魚は獲らなくなります。

さらにたくさん獲るのではなく、単価が高い魚を獲って水揚げ金額を上げようとします。すると、幼魚は成長して産卵する機会を得て、資源が持続的になって行きます。そして漁業者だけでなく、消費者にも大きな魚の供給が増えてそのメリットが及んで行くのです。

他国の漁獲のせいではないのか?

スルメイカについては、環境要因が主因ではないことは恐らく理解されたと思います。そして、最後に残るのが、近隣諸国のこと。つまり、韓国、中国、北朝鮮の漁獲への疑問でしょう。日本近海のスルメイカの漁獲量は、2017年で約14万㌧。日本:韓国=比率で約45:55でした。これに数量が分からない北朝鮮や中国の数字が加わります。

特に日本海側の漁場では、各国が入り乱れて漁をしているのは報道の通りです。また、2019年は北朝鮮がロシア海域で違法操業が行い3,000人以上が捕まったと言われています。

日本、韓国がそれぞれ実際の漁獲量より大きな漁獲枠を設定し、それとは別に中国、北朝鮮も漁を行っているので、環境要因が改善されれば(そもそもこれも?)漁獲が回復するなどという生易しい状態ではありません。

しかしながら、このまま漁を続ければ、さらに獲れなくなって窮地に陥ることになるでしょう。

合意は容易ではありませんが、スルメイカに加えて、サンマ、サバ、マイワシなども含めて、手遅れになる前に科学的根拠に基づく総合的な国別漁獲枠の設定が不可欠なのです。

漁獲量という人間の力を軽視して、環境要因を主体に資源の問題を語ってしまうと大きな誤解と矛盾が生じます。そして誤った前提に対する正しい答えを政治が主導してしまった結果が、直面している魚が消えて行くという現実です。世界と日本を比較して、国際的な視点を持って行動することが待ったなしになっています。

アップデート 2019年1月18日 

アップデート 2024年6月9日

なぜ日本のサケだけが歴史的不漁なのか?

大不漁が続く日本のシロザケ

人気があって、日本人がもっともよく食べる魚の一つであるサケ。ところがそのサケの漁獲量に異変が起きています。2019年の秋から年末にかけての報道では、「北海道・三陸とも記録的不漁」「近年最悪漁5万㌧割れ」「秋サケは幻の魚」などといわれ、漁獲量の激減が大きな社会問題になっているのです。

ところで、天然のサケが10万㌧以上漁獲される国は、米国(アラスカ)、ロシア、日本だけなのです。正確にいえば日本が脱落しましたが、、、。天然のサケがまとまって獲れるのは、ともに北半球の太平洋側です。天然のサケは、世界のあちらこちらでたくさん獲れている魚でないことをご存知でしたでしょうか?

他の国々のサケの水揚げ状況は?

日本では、10~20年前(2000年~2009年)の平均漁獲量は23万㌧もありました。それが、2016年から10万㌧を割り込み始め、2019年は5万㌧と激減しています。ちなみにノルウェーやチリなどから輸入されているサケ(ギンザケ・アトランテックサーモン・サーモントラウト)は全て養殖物です。

ところで日本のサケの話だけしていると大不漁の話ばかりなので、さぞや他の国も大不漁だろうと想像されるかも知れません。しかしそれは全然違うのです。ちなみに昨年(2019年)アラスカは40万㌧で近年8位、ロシアは50万㌧で史上4位と共に「豊漁」で、まるで別世界です。こういう事実が一般には知られる機会がほとんど無く、異変に気付くきっかけがつかめないのも問題ですね。

アラスカのベニザケ アラスカのサケ類は日本と対照的に豊漁

サケの市場価格はどうなっているのか?

サケが大不漁であれば値段が上昇するはずです。しかしながら、焼き物として定番のギンザケなどのサケの価格は、短期的には下がっています。その理由は、日本での水揚げが減っていても、ロシア、米国(天然物)、チリ(養殖物)など、それを上回る供給体制が出来上がっているからなのです。

この状態は、もともと上昇が続いていた相場が少し行き過ぎて、需給のバランスが短期的に崩れているととらえるのが妥当です。しかし5年~10年単位でみれば、魚の需要の増加に対して供給が追い付かない構造になっているので、再び価格は上昇して行くことでしょう。

塩ザケの定番となっているチリのギンザケ(養殖) 2019年は相場下落

例えば、10年前にキロ400円だったあるサケの相場が800円まで高騰。それが前年比で600円に一時的に下がった場合、相場的には大幅な値下がりです。しかし、10年前に比べれば大幅高であり、価格帯を前年比、もしくは5~10年前後のスパンでとらえるかで、高いか安いかの価格のとらえ方は変わってくるのです。

さて本題に戻りましょう。なぜ日本のサケだけが激減しているのか?よく温暖化の問題が上がります。温暖化により魚が減る懸念は、サケが漁獲されているアラスカなどでも問題になっています。またFAOは気候変動・温暖化により2050年までに漁獲量が2.8%~12.1%減少する可能性があると予測しています。そうであれば、なおさら予防的アプローチを行い、水産資源管理を科学的根拠に基づき厳格に行っていかなければなりません。決して日本だけが温暖化の影響を受けているわけではないのですから。

自然に産卵するサケが少ない問題が指摘されていたが、、、

温暖化の影響は米国でもロシアでも同様に懸念されています。しかしこれらのサケ漁の見通しが明るい国々と日本では決定的に違うことがあります。

その一つが、川で産卵するサケの比率が日本では非常に低くなってしまっていると考えられることです。出来るだけ採卵して放流する考え方です。このため恐らく放流で回帰してくる比率が、アラスカでは3割程度(34% : 2018年 ADF&G)であるのと、ほぼ逆になってしまっているようです。

サケの来遊数は激減している。グラフは2017年まで。2019年はさらに減少している。(出典:水産研究教育機構)

また、サケは産まれた川に戻ってくる母川回帰の性質が有名です。しかし、サケの回帰不足で孵化させるために採卵するサケの数が減っています。一方で放流数はほとんど減少していない(グラフ参考)ので、川で自然に産卵するサケの数が少ない計算になります。採取状況などの違いにより、河川によって異なりますが、約7割のサケが放流された魚であったというデータもあります。

また、孵化させる卵の量を確保するために、足りない分を他の川に回帰予定だったサケの卵が使われているケースがあるようです。

サケの回帰率が大幅に減少中。放流数が横ばいであることから、回帰数は激減し、水揚げ量も同様になってしまう。(出典:水産研究・教育機構)

サケの回帰数が少ない表れとして、回帰率が3〜4%から2%弱までに大幅に減少していることが挙げられます。放流数がほぼ同じで回帰率が減れば必然的に、回帰数は減少してしまいますね。

断言まではできないのですが、自然産卵のサケの稚魚より、採卵された稚魚の方が生命力が弱いと仮定します。そこで自然産卵するサケの量が減ってしまった。つまり採卵用も含めて、サケの獲り過ぎで、自然産卵のサケの回帰数が減り、全体でサケの水揚げ量が激減していることが、減った主因ではないかと推測できないでしょうか?

日本のサケはMSC認証を断念。そしてその結果は?

水産エコラベルのMSC認証 北海道のサケ定置網漁業は、2014年にMSC認証取得を断念 そして5年後の水揚げ量は激減した。孵化放流の依存を減らせなかったのが原因ではなかろうか?

実は、北海道のサケ定置網漁業は、水産エコラベルとして国際的に認識されているMSC認証を2011年~2014年にかけて取得しようとしていました。しかし残念ながら「孵化放流に依存しすぎで持続的でない」と評価されて断念しています。

そこでは、自然産卵を増やすことが指摘されていたのです。一方で、サケ類の豊漁が続く米国(アラスカ)やロシアでは、対照的にMSC認証の取得が進んでおり、サケ類の資源量は持続的(サステナブル)です。

日本のサケが減っている理由については、その他に護岸工事や、温暖化によるエサ不足なども考えられるそうです。そうであればなおさら、自然に産卵させて川に戻らせる数を増やして行かねばならないのではないでしょうか?

サケ資源が回復して持続的(サステナブル)にできることが望まれます。そのためには、できるだけ河川で自然に産卵させる数を増やしたい状況ではないでしょうか?

本来、国の許可を採卵目的で獲っているはずのサケの卵がイクラになって流通されるようなことがないことも切に願いたいところです。