2021年10月22日更新
魚が減ると味が落ちて高くなるわけ
水揚げの減少が深刻なサンマ。今年、売り場に並ぶ生鮮のサンマは、細くてあまり脂がのっていません。全般的に痩せていることもあるのですが、それだけが理由ではありません。
鮮魚向けのサンマが不足しています。このため、最近まで食用になるのに、サンマが潤沢だったので選別して、餌料向けなどにしていた細くて小さいサンマも、足りないので食用に回さざるを得ないのです。
つい5年ほどまでは、年間で20〜30万トンと鮮魚では消化できない量が水揚げされていました。それが2017年は8万トンと半世紀ぶりの凶漁となり、2019年はそれを下回るペースでの水揚げとなっています。このため、供給不足でキロ当たりの価格が上がり、それが1尾価格の大幅上昇として跳ね返っているのです。
具体的な数字でいうと、2007年~2016年に非食用だった比率が、平均で20%だったのに対し、半世紀ぶりの凶漁と言われた2017年は約半分の12%となっています。2019年は2017年より少ないペースでの水揚げとなっています(10月中旬現在・2019年の結果はこちら)ので、出来るだけ食用に回されることになるでしょう。 (2019年5万トン、2020年3万トンで過去最低を更新)。
供給の減少により、価格が取れるため最優先となる鮮魚向けの比率は、同36%でしたが、2017年には57%に上昇しています。
全体の水揚げ量から非食用向けと鮮魚向けを引いた残りが、加工向けとなります。水揚げが少ないと開きや缶詰向けの原料も高騰し、製品価格に転嫁せざるを得なくなるのです。
今年は、冷凍サンマの方が美味しいと言われるのにも理由があります。冷凍に回るのは、主に旬で潤沢に水揚げがまとまり、価格が落ち着く時期です。
水揚げされるサンマは、概ね鮮魚向けが確保されてから、冷凍原料として確保されて行きます。
水揚げが少なく、価格が高いシーズンの始めの頃は、あまり冷凍には回りません。このため、冷凍品は水揚げが少ない期間でも、鮮魚より安く販売できるケースが多いのです。
ただし、あくまでも潤沢な水揚げが一定期間続いていることが前提です。なぜなら不漁が続けば冷凍に回る機会は減るからです。また冷凍されても、魚価の上昇で安く販売するのは難しくなります。
1990年以来、国産のマサバの水揚げが激減して、その分ノルウェーサバが大量に輸入されて不足分が補われてきました。しかしサバと違い、サンマは大西洋では獲れません。
また、もともと中国や台湾と同じ群れなのです。だから、日本が獲れない時は、他の国もサンマが減っているので同じように不漁となります。かつ日本のEEZ(排他的経済水域)内に回遊して来るサンマの方が、脂がのって品質も良くなるため、輸入による代用は容易ではないのです。
このため美味しいサンマを食べ続けるためには、科学的根拠に基づく、国際的な取り組みを伴う資源管理が、待ったなしの状況なのです。
サンマは誰のものなのか?
サンマが減った原因は「日本に回遊してくる前に台湾や中国が獲ってしまうから」、「海水温の上昇で回遊パターンが変わったから」ということが盛んに報道されています。
このため、日本人の多くは、「日本も含めて」各国が獲りすぎているという問題の本質が理解できていません。
ところで、サンマは「国際漁業資源」に分類されていることをご存知でしょうか?日本人からすれば、日本に回遊する前に沖合で獲ることは許せないとなります。
しかしながら、公海で操業している国々からすれば「日本がたくさん獲るから公海での漁獲が減ってしまう」という理屈になるのです。
漁業先進国である北欧や北米の国々では、アイスランドのカラフトシシャモや、アラスカに遡上するサケ類を始め、自国に産卵のために回遊してくる公海上の魚の資源まで厳しく管理しています。
日本は、それをしてこなかったために、他国の進出を許してしまったのです。
サンマはどこを泳いでいるのか?
そもそもサンマはどこを回遊しているのでしょうか?おそらく日本のEEZ(排他的経済水域)を超えて広く回遊していることは、あまり意識されていないことでしょう。
図によると薄緑(夏季)とオレンジ(冬季)と広く分布しているように見えます。しかし、実際に魚群がまとまって漁場が形成されるのは、ピンクと水色の海域です。色の境目は概ね日本のEEZと「公海」の境目を意味するのです。
ところで、オレンジ色に広く分布しているように見える海域については、そもそも資源調査をしている海域に大部分が入っていません。毎年公表している上の図と、具体的な調査データである下の図を比較すると、本当にそんなに広い範囲に分布していると言えるのでしょうか?少なくとも漁場が形成できるほどには、サンマはいないでしょう。
一方、北欧では、漁業をしている国々が協力して広範囲に資源調査をしています。
台湾や中国の漁船は、日本のEEZ内に入って操業が出来ません。一方で、外国漁船が操業している海域には「公海自由の原則」が適用されます。公海での国別の漁獲枠が決まっていないことで、サンマの資源量と水揚量に懸念が出ているのです。
世界各国は、自国のEEZの資源管理強化を進めてきました。その結果、自由に操業できる漁場が狭まっています。このため、日本のEEZの外側のように、管理が甘い漁場は、他の国々に狙われてしまいます。
それだけではありません、一旦、設備投資されて新造船が増えてしまうと、後には引かなくなります。残念ながら、それが今の中国、台湾などのサンマを漁獲する国々の立場なのです。
国別漁獲枠の決定は、通常過去の漁獲実績をベースにした交渉となります。このため、中国(2012年よりサンマ漁開始)のように後から参入してきた国は、漁獲実績をできるだけ増やしてから、国別の漁獲枠交渉のテーブルにつきたいと考えるのです。
しかし、このまま漁獲競争を続けて資源を潰してしまえば、元も子もないことは各国とも、だいぶ分かって来ているようです。一方で、国別の漁獲枠の配分は、国益が絡むので各国とも、安易な妥協はできません。
日本の漁獲比率が8割以上あった1990年代後半以前に、2007年以降に起こった北欧でのサバの漁獲枠交渉の経緯を見て、参考にしていれば良かったのですが、時計の針は戻せません。
2018年の国別漁獲量のシェアでは、日本は29%とついに3割を切ってしまい、さらに減り続けています。古くて小さい漁船、日本から漁場が遠いなど不利な要因が多く、時間の経過と共に交渉条件はどんどん不利になってしまいます。
サンマを食べ続けるために各国がしなければならないこと
2019年7月に第5回北太平洋漁業委員会(NPFC)が開かれ、その中で、サンマの漁獲量の上限が決められました。しかしながら、その数量は56万トンと、昨年の実績44万トンを上回っています。NPFCのメンバーは8カ国です。漁獲量順に台湾、日本、中国、韓国、ロシア、バヌアツ。これに漁獲実績がない米国とカナダが参加しています。
しかも今年度は、昨年度より資源状態が悪く、この数字は後で「ぶかぶかの帽子」と表現されています。大きく減らす必要がある量なので、残念ながらこれでは漁獲枠としての効果は見込めません。
かつ、今季(令和元年7月〜翌6月)日本のTAC(漁獲枠)は、前期同様の26万トンと、実績の13万トンの倍、今年の水揚げはさらに減る見込みであるため、これも全く資源管理に役に立ちません。
サンマを漁獲する各国がしなければならないことは、科学的根拠に基づく、漁獲枠の総枠と国別漁獲枠の決定です。2017年には日本の提案で国別漁獲枠を決めようとしましたが却下されました。
これを日本のマスコミは「中国その他が反対」と伝えています。しかし、実際に賛成したのは台湾のみでした。また、その内容自体は、漁獲枠が巨大(56万トン)で、同年の水揚げ実績の倍であり、かつ日本に取って著しく有利な内容(日本の漁獲枠は24万トンで前年実績11万トンの2倍以上)でした。
もちろん日本に取って有利な条件で合意できればいうことありません。しかしながら国益が絡む交渉です。獲り切れない大きな漁獲枠で、資源の持続性の担保もなく、自国にとって有利ではない条件で、安易に合意する可能性など最初からなかったのです。
サンマの漁獲競争 持久戦に勝者はいない
図は、サンマ(赤色)以外に、サバ類(青色)とマイワシ(黄色)の資源量の調査結果を合わせたものです。大まかに言って、2区と3区は日本のEEZ外です。
漁獲が減って供給が減りサンマの価格は上昇します。このため実質獲り放題になっているので、各国は資源に悪いと思っていても、ますますサンマを狙うことになります。
そこで、まだNPFCで話しも出ていない「マイワシの国別漁獲枠設定の宣言」をするのです。そうすると、各国は、実績確保のためにサンマの漁獲日数を減らしても、マイワシ狙いに行き、一時的に漁獲圧力が下がることになります。その間に、サンマの国別TACを決めるのです。
中国、台湾を始め、すでに漁船に投資して回収できていない漁業者に、効果があるように漁獲量を制限させることは容易ではありません。東日本大震災以降に増えているマイワシ資源。残された時間も選択肢も減ってきている中、手遅れになる前に、ここでマイワシのカードを切り、その間に国際合意に持っていく戦略が不可欠なのです。
(アップデート 2021年10月21日)
2020年の水揚げ量は、過去最低だった2019年のだった4.6万㌧をさらに下回る2.9万㌧に激減。各国との交渉も進展していない。