崩壊寸前のイカナゴ漁が、ノルウェーでは絶好調なわけ

(ノルウェー青物漁業協同組合)

日本では崩壊寸前のイカナゴ漁

昨年(2020年)の同時期、イカナゴ(小女子)の水産資源管理に関する問題を発信したところ、1,000を超える「いいね!」と「シェア」がありました。日本では、残念ながら国際的な視点で解説されることがありません。そこで、何らかの参考になるように再度発信しておきます。

播磨灘大阪湾伊勢湾、福島沖、仙台湾陸奥湾とかつてのイカナゴ漁場は次々に獲れなくなり崩壊して来ています。供給量の減少で価格が高騰、残った漁場では一生懸命獲ろうとする強い力が働き、やがてその漁業の魚もいなくなってしまいます。

何年禁漁しても資源が戻らない海域も少なくありません。それだけ資源量が激減しているのです。根絶やしに近い状態まで獲ってしまった資源を回復させるのは至極困難であり、長い年月と厳しい漁獲制限が不可欠となります。

海がきれいになり過ぎた、海水温の上昇、砂利の採取など漁獲量激減に対して、様々な理由が付けられネットで拡散されて変に納得(誤解)されています。しかし、国際的な視点から分析すると本質的な原因がわかります。

イカナゴ 

ところで、海がきれいになり過ぎたからなら、江戸時代や室町時代にイカナゴはいなかったのか?海水温の上昇が原因なら、なぜ北の陸奥湾の資源が、播磨灘・大阪湾などの西の漁場より先に消えてしまったのか?砂利の採取は、激減したここ数年のことなのか?震災で漁獲ができなくなっていた福島では、なぜ再開後にイカナゴが獲れたのか?そしてなぜ今は獲れないのか?

魚が消えていく本当の理由が理解されずに水産資源が減少を続けていることは、実に痛ましいことです。それらの理由が関係ないとは言いませんが、最も大きな力である、漁業という人間の力をあまりにも過少評価していないでしょうか?

その本当の理由とその対策は海外との比較で明確に分かってきます。

今年も絶好調ノルウェーのイカナゴ漁

(hi.no)

日本とノルウェーのイカナゴ漁を比較してみましょう。まず似ているところは、砂に潜る性質から漁場が砂場であること。ノルウェーの場合は、地形上砂場が少なく、イカナゴ漁が行われるのは、上図の紫色の箇所に点在している程度です。漁場という面では、日本の方が恵まれていると言えるでしょう。また、春に漁獲時期を迎えるのも似ています。

さて、次は異なる点です。①昨年(2020年)の漁獲量は日本は1万㌧程度に対し、ノルウェーは25万㌧と大きな差があること。しかし、15年ほど前までは日本の方が多い年もありました②漁獲枠の有無。日本では自主管理です。宮城県がある仙台湾では、昨年・今年と9,700㌧もの漁獲枠が設定されましたが、2年連続で実質ゼロ。事前の調査でもいないことが分かっていても枠はそのままで、機能としてもゼロです。

一方で、ノルウェーでは科学的根拠に基づきTAC(漁獲可能量)が設定され、毎年TAC通りの漁獲になります。かつ上図の漁場で実際に操業できるのは1/4であり、手つかずの漁場が残されて行きます。③日本では食用となる稚魚狙いですが、ノルウェーは成魚狙いで非食用(フィッシュミール向け)です。

(ノルウェー青物漁業協同組合)

上の表は今年(4/29)の水揚げ状況です。8隻で10,180㌧と日本の年間水揚げ量を1日で漁獲しています。2,050㌧、2,400㌧と一回の漁獲で2,000㌧を超えている漁船もいますね。これらの漁船は、サバやニシンも獲る大型船で一網打尽です。しかしながら、資源管理ができているので、このように大量に漁獲しても資源に問題ありません。日本と異なり、資源の持続性に効果がある漁獲枠が設定されているからです。

ノルウェーで海水温は上昇している

ノルウェーバレンツ海の海水温推移(ノルウェー青物漁業協同組合)

上のグラフは、ノルウェー北部バレンツ海の海水温の推移です。ノルウェーでも海水温の上昇は問題になっています。しかしながら、水温の上昇により資源量に悪影響が出ている環境では、その分も考慮されることになるでしょう。実際の資源量は、サバ・ニシン等の青魚、そしてマダラ・カレイ類などの底魚共に、短期的な資源量の増減は別にして、中長期的には横ばい・もしくは増加傾向にあります。

生物多様性とイカナゴ

イカナゴはシシャモなどの小魚と同様に、他魚種の重要なエサにもなっています。資源が減れば、人間が獲り尽くして困るのと同様に、それを捕食していた魚種にとっても深刻な問題となります。

例えば、ノルウェーでのシシャモの漁獲枠設定に際しては、マダラなどの他魚種が食べる分も考慮して漁獲枠が設定されています。また、シシャモやイカナゴ漁に関して、マダラなどの混獲が厳しく管理されています。

日本のように漁獲枠も科学的根拠もほぼなく、資源崩壊が近づくと様々な理由を付けて責任転嫁に走るのとは大きな違いです。言うまでもなく、現状の後者の漁業には未来はありません。

資源調査結果通りのイカナゴ漁

9,700㌧もの漁獲枠が設定されていた仙台湾での事前調査はゼロ(牡鹿半島で2尾)で結果は漁獲ゼロ。

兵庫県での親魚密度調査では昨年(2019年)の5.3尾に対して7.8尾。ただし平年(2009年~2018年の10年間)の132.3尾より大幅に減少しています。漁獲量は147㌧(2020年)⇒1,467㌧(2021年)と調査結果以上に前年10倍のようにも見えますが、実際のところ昭和の時代には2~3万㌧は漁獲されていたので、大したことはなく、資源が回復しているわけではないのです。

資源調査結果は、イカナゴに限らずその傾向をとらえるのに役立っています。しかしながら、実際の漁業管理ができていないことが致命的に問題なのです。

経済面で考える日本の漁業の問題

ノルウェー漁業省のデータを編集 ノルウェークローネ=¥13.3(2021年5月)

資源が減り、資源が減少することでイカナゴの価格は高騰しています。兵庫県を例に取ると今年(2021年)はキロ¥844(1,467㌧)、昨年(2020年)は¥2,578!(147㌧)でした。一方でノルウェーは昨年(2020年)¥48(25万㌧・約120億円)と単価は食用でないこともあり、大幅に安いのですが数量が、桁違いに数量が多いために水揚げ金額は大きく、漁業者は潤っています。

どんなに単価が上がっても資源が無くなってしまい、水揚げ数量がゼロになれば金額もゼロになります。伊勢湾、仙台湾、陸奥湾では今年もイカナゴの水揚げはゼロなので水揚げ金額もゼロでした。

水産資源管理がサステナブルに行われると、単価は下がり消費者にメリットがある一方で、漁業者に取っては単価も数量も安定してするメリットがあります。一方で、その逆は資源も地方も崩壊してしまう恐ろしい現象が起きてしまうのです。果たして我々は、どちらを選択するべきなのでしょうか?