魚と災害 歴史を繰り返す日本の漁業 

小さなヒラメ 成長する前に獲られて売り場に並ぶ。

日本の水産資源が一時的に回復してきた歴史

人類が魚を獲る能力とその影響は、皆さんの想像よりはるかに大きいことをご存知でしょうか? ですから様々な魚種で起こっている獲り過ぎを管理しないと、さらに魚が獲れなくなり、社会に負の影響を与えてしまいます。

震災後に漁獲されたカレイのような小さなヒラメ 一枚300円で売られていた。

過去の漁業の歴史を見ると、かつては世界でも乱獲による資源崩壊が繰り返されてきました。一方で、ノルウェーを始め乱獲を反省して魚の資源を回復している国々も数多くあります。反省して漁業制度の改革を行うか、それとも「環境の変化」などに責任転嫁してしまうかで、かつて水揚げで潤っていた地方は繁栄と衰退という、全く対照的なことが起こっています。

皮肉にも、日本の水産資源が回復するのは、戦争や災害の時です。最初が第一次世界大戦後、次が第二次世界大戦後、そして東日本大震災後でした。

具体的には、英国から輸入されたトロール漁船による漁が軌道に乗り出したのが1908年。トロール漁船の急増で乱獲が進んで資源が悪化。このため1914年には131隻の内、3分の1が休漁。しかし第一次大戦が起きて軍事用に欧州から買船希望が殺到して過剰投資は救われ、終戦時に残ったのは僅か6隻。その後、皮肉にも漁船の減少で資源は一時的に回復しました。

しかし、再び漁獲競争が繰り返されて、魚がいなくなりました。 そして次に魚の資源が回復したのは、第二次世界大戦後です。 日中戦争前の1936年に433万㌧あった水揚げは戦争が終結した1945年には182万㌧に激減していました。

この間の水揚量の減少は、魚が減ったからではありません。逆に獲られないので魚は増えていたのです。

戦時中は、一時的に魚を獲る船も人も減少します。魚は産卵する機会を与えられ、小さな魚は大きくなるチャンスを得ます。そして、大きくなった親の魚が卵を産んで、増えていったのです。

第二次世界大戦後に、動物性タンパクを補うため、日本の漁船は近海だけでなく、世界中の海に展開して食糧供給で大きな貢献をしてきました。そして次々と漁船や運搬船などが建造され、北海道、東北、九州他から漁業従事者が急増しました。

1977年に200海里漁業専管水域という、漁業に関する新しい世界のルールができなければ、漁業は短期的に発展した後、世界中の海から魚が消えて行ったことでしょう。

その後、日本では2019年の水揚げ量が416万トンと、比較しうる1956年以降で最低になりました魚がいなくなった結果を基に、水温が高い低い、水がきれいになりすぎた、黒潮大蛇行、地震の前兆など全く影響がないとは言いませんが、矛盾した理由が挙げられています。しかしながら一番大きな影響力を与えたのは他ならぬ人間の力なのです。

東日本大震災で魚が増えたが再び資源を潰す

多少の凸凹を繰り返しながら右肩下がりに漁獲量が減る傾向が再び止まるきっかけが起こりました。2011年に起きた東日本大震災です。放射性物質の影響で、三陸沖に一時的な禁漁区が出来上がり、また漁業者に補助金が支払われ漁獲圧力が大きく減少しました。

皮肉にも、マサバ、マダラ、ヒラメ、イカナゴ他の魚種の資源が急回復。しかしながら、その多くは一時的に回復しただけで 再び 減少を始めています。その一例としてヒラメを挙げます。

ヒラメに見る震災の影響とその後

7kgのヒラメ   ヒラメはカレイと異なり大型になる

上のグラフは、震災前後のヒラメの資源量(太平洋北部系群)を表しています。古い2017年の右のグラフには赤い線が二本引いてあります。下の線が低位と中位、上が高位と中位の資源量の境目です。しかしながら、2011年を境に急激に資源量は増えました。2本の線は意味をなしていないことが分かります。それだけ、震災前はヒラメ資源に圧力をかけすぎてしまい、回復する機会を奪ってきたことが推測されます。

新しい2019年の右のグラフでは、二本の赤い日本の線は消されてしまっています。

資源が急回復したヒラメ資源ですが、このままでは再び減少傾向に向かうことは目に見えています。震災後、カレイのようなヒラメを目にするようになりました。ヒラメは成長すると8kgにも10kgにもなる大型魚です。それを1kgにも満たない未成魚を獲ってしまえば、減りだすのは必然です。

ヒラメには漁獲枠さえありません。獲れるからといって、小さすぎて最も美味しいエンガワの部分さえないヒラメを獲るべきではないのです。

同じ過ちを繰り返しても気づかず 

震災後 三陸で水揚げされていた マダラの稚魚 用途を聞くとエサにでもするとのこと

東日本大震災を機に、漁獲圧力が減り、資源量が回復。しかし再び元どおりに減った例にマダラがあります。写真は、三陸で撮ったものですが、マダラかどうかよく見なければわからない稚魚が水揚げされていました。マダラはヒラメと同じく、1メートルにもなる大型魚です。小さな内に獲ってしまえば育ちません。これを「成長乱獲」と呼びます。

太平洋マダラ 1メートル 体重は10kgにもなる   (ASMI)
マダラ 太平洋系群の資源量推移  水産研究・教育機構

マダラの資源量が、2011年の震災前と、震災後で資源量が大きく変動し、再び減少していることが上のグラフで分かります。

2011年に震災の影響で漁獲が減った2012年時2歳(水色)のマダラ資源が、成長して翌2013年3歳(黄緑)になり、翌々年の2014年に4歳(黄色)と急増していることが分かります。ヒラメの資源を表すグラフ同様に、中位、高位といった、2本の線は本来あるべき資源量を考えた場合、基準が低すぎて意味がなかったことが分かります。これは、ヒラメでも同じです。

ところで、科学的根拠に基づく漁獲枠がなく、稚魚も容赦なく獲ってしまう現在の制度においては、残念ながら資源がサステナブル(持続可能)になることはありません。

漁業先進国と異なり、戦争や天災が起こらないと、資源が回復せず、回復しても一時的で元の木阿弥になってしまう日本の水産資源管理制度。

2020年に施行される国際的に見て遜色がない資源管理を行うとする漁業法の改正を機に、真剣に資源をサステナブルにする制度を作る必要があるのではないでしょうか?

必要なことは、国民一人一人が、消費者としても大きく関わっている水産資源管理の大問題に気づくことです。新型コロナのマスク不足などで分かった方は多いと思いますが、各国は自国への供給を優先します。日本の食糧自給、特に魚のサステナビリティは非常に重要なのです。