なぜ日本では不正水産物の流通ができるのか?

大間のクロマグロ これは横流しの不正なものかどうか?

不正な魚でも流通しやすい日本

大間のクロマグロ、焼津のカツオと「横流し」「脇売り」といった水揚げ量の誤魔化しや、一部が盗み取られていた問題が発覚して報道されています。

「サカナとヤクザ」の世界が現実に起こっている

中国に高値で輸出される乾燥された国産ナマコ 

2018年に出版されて注目を集めた「サカナとヤクザ」では、「築地で密漁アワビは売っているんですか?」「ああ、売られているよ」、「密漁物は横流しから転じて、ヨコモノと呼ばれる。正規のナマコがここまで高値になっているのは、ヨコモノの購入を前提に価格が決まるからという」。といった不正の場面がたびたび出て来ます。

ナマコ、アワビ、シラスウナギ(養殖用)といった高級商材に関しては2020年の漁業法改正により、罰金が3,000万円以下(下表)と強化されています。しかしながらクロマグロを始めまだまだ他の魚種では緩いのが現実です。罰金も罰則も甘ければ、不正は減りにくいでしょう。

水産庁

IUU(違法・無報告・無規制)漁業の魚は輸入品ばかりではない

違法な水産物はどこから来るのでしょうか?と問われれば多くの人は海外からの輸入品とまず考えるかも知れません。しかしながら、上記の大間のクロマグロのケースもまさに無報告のIUU漁業の1つなのです。IUUはSDGs14でなくすことが下記通り明記されています。期限は2020年でしたが、、、。全く実現していないどころか、魚が減少して違反が増えているのが現実でしょう。

『水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。』

なぜこのような闇の流通が可能だったのだろうか?

日本で闇流通がまかり通っているのは、それを排除する仕組みがないからです。その仕組みがトレーサビリティです。例えば、日本が輸入しているノルウェーサバやノルウェーサーモン。上の写真のようにバーコードで1ケースずつ管理されています。また、生産日を始め必要なデータも表記されていることが分かります。

バーコードも生産日も分からない

一方で、日本の水産物の多くは、写真のように生産日はおろか、ほとんど何も書かれていないものが多く見られます。万一放射性物質や汚染の問題が起きても、魚の名前が書いてある程度ではトレースできません。「大丈夫」と言われても、、、どうやって証明するのでしょうか?

「漁獲証明」不正が起きにくいEUの流通 

EUでは2010年から水産物の輸入に「漁獲証明」を求めています。どこで誰がいつ漁獲したのかといったことが証明されています。IUU漁業による水産物はEUに輸出できません。

EU向けにならない違法な水産物であったとしても、日本ではメロ、ミナミマグロなどの例外を除き「漁獲証明」要求していません。このためIUU漁業による水産物がすり抜けて入って来ている可能性が否定できないのです。

現状では国産でも輸入でもIUU漁業の水産物が流通してしまいます。漁業法の改正で罰則が強化されたとはいえ、残念ながらこれが日本の現実なのです。

解決方法はハッキリしている

デンマーク(EU)の市場 原料のトレーサビリティが行われている

国産、輸入品を問わず違法な水産物の流通を防ぐ方法があります。それはトレーサビリティを徹底されることです。バーコードによる生産管理が我が国で、できないはずはありません。

筆者は10年ほど前にノルウェー大使館からの依頼で、ノルウェーサバのトレーサビリティを実現するための委員として、研究を手伝ったことがあります。ノルウェーでの漁獲されたサバが日本に輸入される末端市場までのトレース。しかしその際にボトルネックになったのは、日本で加工された後のトレースでした。

ノルウェーから輸入された原料は完璧なトレースができる体制であっても、日本では水産加工品にバーコードを付けて管理する習慣はほとんどなしです。このため情報が途切れてしまうので、末端までの完璧なトレースは日本では無理でした。

なおスーパーなどで独自にトレースされていない原料に、バーコードを付けているケースは、原料からの一気通貫の管理ではないので除きます。

そもそも、日本で冷凍されたサバ、サンマなど国内販売される冷凍原料には、生産日すらケース毎に付ける習慣がありませんでした。これではトレースができるはずはありません。

やらなくてはならないこと トレーサビリティ

日本で不正な水産物を流通させないためには、国産品においては、バーコードなどによるトレーサビリティを徹底させること。輸入品においては「漁獲証明」を要求することの2点になります。

国産水産物は、漁業法改正(2020〜)により、今後TAC(漁獲可能量)、IQ(個別割当)の魚種が増えることで資源管理が強化されて行きます。その際の逃げ道を断つことが不可欠です。国内での密漁を含むIUU漁業は、資源量の悪影響を与えています。トレーサビリティによりそれらをブロックするのです。

輸入水産物についても、EUなどがIUU漁業の輸入排除を徹底しているので、そのおこぼれが管理が甘い日本に来てしまう傾向を遮断するのは、SDGsを採択している国として当然のことです。

ちなみに、IUU漁業による水産物の流通は日本に限ったことではありません。筆者は世界のあちらこちらで見て来ていますが、日本との大きな違いはトレーサビリティによって悪循環を止めて来ていることです。

日本の対応が急がれます。