70年ぶりに改正された漁業法の意味

可食部がほとんどない 高級魚キンキの幼魚 金魚とも呼ばれる TAC(漁獲可能量)はない。

2018年12月に、70年ぶりといわれる漁業法改正が行われました。そして2020年12月1日に施行されます。これまでの漁業法は、漁業者間の調整が主たるものでした。そしてその中には「水産資源管理」という、漁業に関して最も重要な概念が中心にあるといえるものではありませんでした。

世界と日本の漁獲量の傾向は著しく異なる。その根本的な原因は水産資源管理の違い。左の縦軸が世界で右側日本。FAO/農水省データより作成

さて最初に知っていただきたいことは、世界と日本の漁獲量推移を比較すると著しく異なることです。増加傾向が続く世界全体と、対照的に減少が止まらない日本の水揚げ量。世界銀行やFAO(国連世界農業機関)からも、将来が悲観された予測が出ており、それを前倒しにして悪化が続いています。

水産資源管理には、主に3つのコントロール(水産白書)方法があります。その中で日本が重視してきたのは、漁期の設定や、漁業機器の制限などといった、いわゆるインプットコントロール、テクニカルコントロールです。一方で北欧、北米、オセアニアといった漁業で成功している漁業先進国が最重視しているのは、科学的根拠に基づく、水産資源をサステナブルにする数量管理=アウトプットコントーロールです。

水産資源管理においては、最初の2つのコントロールだけでは、十分とはいえません。漁獲時期を決め、船の大きさや網目などを決めてあとはヨーイドン!では、魚が減ってもほとんどいなくなるまで漁が続けられてしまいます。そして必死に資源を回復させようと産まれてくる小さな魚まで容赦なく獲り続ければ、どうなるのか容易に想像できるかと思います。

アナゴの稚魚 ノレソレ アナゴの漁獲量も減少している。

こうして、すでにこのサイトでいくつもの例で取り上げているように、多くの魚種が激減してきました。そしてその責任は主に海水温の上昇や中国などの他国に責任が転嫁されていて、多くの国民がそう信じています。

いうまでもなく、それらの影響が無いわけではありません。ではなぜ、世界の海の中で日本の周りの魚ばかり減り続けると国際機関が予想して、かつその通りになってしまうのか?

そこで、社会に対して分かり易く「魚が消えていく本当の理由」を発信するのがこのサイトの目的です。誤った前提から正しい答えは出てきませんので。

漁業に関する法律はなぜ変わったのか?

世界の海で日本の魚ばかりが減り続けている。魚が消えていく本当の理由は、漁業者が悪いわけではなく水産資源管理制度の不備にあります。その事例が気付かれて動き出したのです。

改正された法律では「国際的に見て遜色がない資源管理」が取り入れられることになります。裏を返せば、これまでは遜色があったということです。

筆者は、ノルウェー、アイスランドを始め、漁業で成功している国々の関係者と話をする機会が少なくなく、例外なく日本の管理方法に驚かれてきました。一方で、彼らは日本のようにならないことが重要なこともわかっています。なぜなら現在漁業で成功している国々も、かつては過剰漁獲に陥ったことがあるからです。

しかし大きな違いは、その誤りに気付いて、アウトプットコントロールに基づく厳格な数量管理をしてきたかどうかです。数十年遅れとなりましたが、その第一歩が今回の漁業法改正なのです。

知っておきたい現実と矛盾

1980年代に約1,200万㌧もの水揚量があった日本は、世界最大の漁業国でした。その当時の世界全体の水揚量は約1億㌧。それが2018年では、何と日本は3分の1の約400万㌧に激減している一方で、世界全体では倍の2億㌧に増加しているのです(上のグラフ)。日本の漁獲量が減少したのは、マイワシの減少とも言われています。

しかしながら、2011年以降は、減少要因どころか減少を引き止める実質唯一の支えとなっています。2010年に7万㌧であった水揚量は、2019年には54万㌧となっており、マイワシに責任転嫁はできない状態です。

日本の魚は漁業法改正でどうなるのか?

今回の法改正で期待されるのが、MSY(Maximum Sustainable Yield=最大持続生産量)とTAC(Total Allowable Catch=漁獲可能量)魚種の増加、そして個別割当制度(IQ=Individual Quota)の導入です。

MSYとは「魚を減らすことなく獲り続けられる最大値」と説明することができます。魚は永遠に増え続けるわけではありません。そこで漁獲しても、もとに戻る数量の漁獲であれば、資源は持続的になります。

海の憲法と呼ばれる国連海洋法でもMSYでの資源管理が明記されています。我が国が国連海洋法を批准した1996年以前から、MSYでの資源管理は北米、北欧、オセアニアを始め漁業先進国では進められていました。

しかし日本は世界と違う方向に進み、魚は消えて行きました。ところが、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の中の14(海の豊かさを守ろう)の中で、MSYに基づく資源管理とその達成期限が明文化されました。しかも、その期限は2020年とゴール全体の最終期限の2030年より10年早くなっています。

マダラの稚魚 小さすぎて食用にできる大きさではない。

上の写真は、例としてノルウェー、アイスランド、米国などTAC(漁獲可能量)と個別割当制度(IQ,ITQ,IVQなど)が機能している国々では決して水揚げされないマダラの稚魚です。日本は、そもそもマダラのTACさえありません。漁業法の改正でマダラのTAC設定も望まれます。

これからどうすべきなのか?

まず、漁業法改正を期に日本の水産資源の惨状を知るべきです。そしてこのままだと、魚が食べられなくなってくるだけでなく、将来に禍根を残し、地方をさらに衰退させ、消費者にも悪影響を及ぼしてしまうことに気付かねばなりません。

そして、海外の成功例を取り入れることです。米国では2019年過剰漁獲の資源は7%といっています(NOAA)。一方で、日本の場合は約半分(2019年44%⇒2020年 53%)が低位(水産庁)という資源評価ですが、これは評価が寛容で、米国や北欧などの基準からすると、ほとんどが過剰漁獲になってしまうことでしょう。

水産資源は突然増えません。中長期的視点に立ち、日本独自路線ではなくSDGs(持続可能な開発目標)といった、国際的な視点での成功例を見習って取り入れるべき、ギリギリのタイミングです。