サカナとアブラ(脂) サバ

うまい魚を食べたい

「うまい魚」とは、どういう魚でしょうか?もちろん好みは色々ありますが、一番大きな要因は脂ののり具合ではないでしょうか?うまい魚=脂がのった魚と言っても過言ではないでしょう!

上が国産マサバ・下がノルウェーサバ。下のノルウェーサバの左下には脂がにじみ出ている。上の国産からは焼いても脂が出てこない。
マサバ 4月下旬物 卵が少し残っていた。卵に栄養分を取られているので細い。

脂がのった魚といえば、どんな魚が思い浮かぶでしょうか?まずはその代表格・サバについてです。脂ののり具合の差から、今やすっかり国産のサバと価値が逆転しているノルウェーサバと比較してみましょう。

ノルウェーサバと、国産の生の春サバ(4/29購入)を焼いて比較してみました。ノルウェーサバは秋に漁獲・冷凍されたサバです。

しみ出している液体はサバの脂です。共に天然のサバですが、これだけ脂の量に違いがあります。これがうまいサバかどうかの分かれ目です。マイワシサンマなどでも脂がのった時期の魚は同じように脂がしみ出てきます。

脂がないサバは、身がパサパサしています。特に、卵や白子が大きくなる4~6月にかけては身の色が赤くなります。また産卵後の夏の時期もやせていて脂がありません。しかしその間にたくさんエサを食べて脂を蓄えるようになるので、日本のマサバは秋から冬にかけて脂がのって最も美味しい旬の時期に入ります。

ノルウェーサバ 脂肪分推移 秋には25ー30%も脂がのる一方で、産卵期前後の春には5%前後しか脂がない。脂がない時期は漁獲しない仕組みがある。(出典:NSC)

産卵期は、国産もノルウェー産も、ほぼ同じ春から夏にかけての時期なのです、脂がのる時期ものらない時期もパターンが似ています。

ところが、一年中サバを漁獲する日本と異なり、ノルウェーでは脂がのった美味しい時期しか漁獲されない仕組み(個別割当制度)があります。

小さなサバには脂がのらない

小さなサバ、特にジャミとかローソクと呼ばれる200gにも満たない未成魚のサバには脂がのりません。このため、食用にされることは少なく、安い魚価で未成魚が養殖魚のエサなどの非食用向けにされてしまいます。

小さなサバにはほとんど脂はのらない. (写真 AOKI NOBUYUKI)

ちなみにノルウェーでは99%が食用で、小さなサバを獲らない制度(個別割当方式)ができています。一方日本では、食用は6~7割程度しかなく、実にもったいない漁業をしています。

サカナ離れの本当の理由?

日本では、世界で魚の需要が増え続ける一方で、逆に減少。著しく傾向が異なっています。ただ、寿司や刺身などが嫌いになったわけではありません。サカナ離れの要因は、不味い魚を食べたことによるトラウマから来ているのではないか?と筆者は考えています。

水産物の国際相場は中長期的に上昇が続く  データ FAO

もちろん、魚の価格が高くなってきたこともサカナ離れに影響はあるでしょう。しかしながら、魚の価格が上昇傾向なのは世界的な傾向であり、日本だけではありません。ところが、世界全体の魚の需要は年々増えているのです。

高級魚は日々食べられる魚ではありません。消費量に影響があるのはもっと身近な魚です。つまりもっとも需要が大きいサバ、イワシ、イナダ(ブリ)などの大衆魚が影響していると考えられます。それらの美味しくない時期の魚の提供を大幅に減らし、うまい魚の供給を増やすことが、消費、資源、漁業者の収入面を含めて大きな効果を生み出します。

まずい時期の魚を出さない国家戦略

「まずい時期の魚を出さない」ことは、当たり前のように見えて、実際はそうなってはいません。脂が無い時期の魚は普通に店に並んでいます。

消費者は、おいしくない時期の魚が売られているとは知らずに買ってしまいます。これを止めるための制度と効果は、日本の魚そして未来にとって大きくプラスに働きます。

必要な制度については、科学的な根拠に基づく、漁獲枠の設定と、それを漁業者や漁船に割り振って厳格に運用することです。獲る量が厳格に決まれば、漁業者はたくさん獲るから、どうやって水揚げ金額を上げるかに関心が変わります。

うまい時期の魚の方が価格が高いので、産卵前後の脂がのっていない時期の漁獲は、漁業者自ら避けるようになります。そうすることで、脂がのった美味しい時期の魚だけが自然と店に並ぶようになるのです。

供給の手段は、鮮魚ばかりではありません。脂がのった時期に冷凍して、それを加工して周年供給することで、不味い魚の供給が市場から消えていくことでしょう。

SDGs 14. 海の豊かさを守ろう 

脂がのった時期だけの漁獲になれば、産卵する機会を与えられ、資源を持続的にする役割も果たすようになります。

もちろん、産卵する親魚の量が持続的(サステナブル)になるよう、MSY(最大持続生産量・魚の量を減らさずに獲り続けられる最大量)を考慮しながら漁獲量を決めていくことが重要です。それが、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも明記されているのです。

水産資源がこのまま減り続けると、消費者はまずい日本の魚を高く買わされることになってしまいます。輸入する魚は不味いと売れないので買付されませんが、一方でうまい魚は世界で奪い合いが加速していくので、価格は上がってしまいます。

うまい魚を手ごろな価格で食べ続けるためには、脂のない時期の魚は獲らないことです。それが国産の魚の資源を回復させることになるのです 。