2022年7月20日更新
ノルウェー漁業は 船が大きいだけではない
世界第2位の輸出を誇り、持続的な成長を続けるノルウェー漁業。その理由は、水産資源管理の成功に他なりません。これまで様々な形で紹介してきましたが、ここでは、「安全面」も含めてご紹介します。
なぜノルウェー漁業は安全なのか?
いくつも理由があるのですが、まずは制度面から。サバやニシンなどの漁業を行う巻き網船は、科学的根拠に基づいた漁獲枠が、魚種と漁船ごとに割り振られています。これを漁船別個別割当(IVQ=Individual Vessel Quota)と言います。
ノルウェーサバを例にすると、漁獲枠と実際の漁獲量は、消化率でほぼ10割(2010〜2019年 平均101%)です。一方で、日本のサバ類(マサバ、ゴマサバ)は消化率が6割(2010年〜2019年 平均61%)にすぎません。サンマになるとわずか同43%です。消化率がほぼ100%とならない、大きすぎる枠の設定では、漁業者は質より量を求めてしまいます。このため漁獲枠が機能しません。
実はこの枠の大きさが、資源量だけでなく、「安全面」でも悪影響を与えているのです。漁獲枠が実際の漁獲量より大きく設定されていると、魚が獲り放題に近い状態になってしまいます。
このため、たとえ海が荒れていても、「出来るだけたくさん獲ろうとする強い意識」が働いてしまいます。かつ、小型の魚も容赦な く獲ってしまう力も働きます。この大きくなる前の小型の魚まで獲ってしまう「成長乱獲」は、水産資源にとっても良くありません。これは、漁業者に起因するのではなく、資源管理制度の不備により、日本で必然的に起きてきた問題です。
一方で、ノルウェーの場合は、実際に漁獲できる数量より、大幅に少ない数量が、漁獲枠となっています。このため、無理して荒れた海に、あえて出て行く必要がありません。
それどころか、他の漁船の動向を見ながら、水揚げが集中しないように、受け手側の処理能力を考え、品質と価格が保てるように、分散して水揚げをしてきます。
このため、日本でよく起きる大漁貧乏。つまり一度に獲りすぎで処理し切れず、鮮度が落ちてしまい、魚価も暴落というケースは起こしません。
また、食用に向く魚まで、処理し切れないほど漁獲してしまいエサ用にしてしまう、などということはしません。そのような、経済的に非常にもったいない漁はせず、かつ安全な操業にする仕組みが、漁船ごとの枠の割当制度(IVQ)なのです。
加えて、ノルウェーでは、中長期的に資源がサステナブルであることが誰の目にも明らかです。このため、安全で快適な新造船が、どんどん投入されて行くのです。
漁獲枠の管理がしっかりしているので、焦って慌てて荒れた海に出ていく必要などないというわけです。
魚が減ると漁場が遠くなり危険が増す
サンマ、カツオなど、回遊魚の漁獲量が減少すると、今まで獲っていた漁場に、魚が回遊してこなくなってきます。このため漁場が遠ざかって行くのです。
この場合、小型の漁船でも、遠い漁場にまで魚を獲りに行かなくてはならなくなることが、安全面でのリスクとなります。
資源が、サステナブルであれば、ノルウェーのように小型の漁船でも、沿岸にも魚が十分回遊して来るので、遠征しなくても漁業で生計が立られます。
漁船の大きさ制限も検討する必要がある
ノルウェーを始めとする北欧では、漁船に許可を出すコンセプトが異なります。漁船の大きさの制限は、日本のようにトン数ではなく、長さで制限されているのです。このため、転覆しにくく、横幅が広い、安定した漁船となっています。
またVMS(Vessel Monitoring System=衛星漁船管理システム)が搭載されていているので、万一遭難しても、位置が把握されています。
ただし、重要な注意点があります。改正漁業法で法律になっている通りに「国際的に見て遜色がない資源管理」が実施されずに漁船だけが新造されていけば、乱獲を助長するだけになりかねないということです。
ノルウェーでは漁業者の満足度も高い
ノルウェー(SINTEF=科学技術研究所) で、漁業者の約1割に当たる1,000人の漁業者を対象にした、満足度調査が2016年に行われました。その結果は、「漁船の大小」や仕事の役割にかかわらず、「99%の漁業者が仕事に満足」しているものでした。
日本で同様に満足度調査をしたらその割合は、どうなるのでしょうか?満足度の高い産業では、後継者問題は発生しにくいでしょう。その満足度を上げるための根本にあるのが、資源がサステナブルであるということなのです。
満足している主な理由の上位10は、①仲間意識と仕事の雰囲気②仕事における独立性③仕事の意味するもの④漁業への関心⑤仕事の多様性⑥エキサイティングな仕事であること⑦仕事における自由⑧高い収入⑨自然と海⑩計画的なレジャー(漁獲枠が決まっているため計画的に漁業が行える)。 というものでした。
北海油田が理由ではない デンマークの漁船も豪華
ノルウェー以外の北欧の国々の漁船も安全で快適です。枠の譲渡性の有無など、国により漁獲枠の配分方法は異なる場合があります(別の機会に解説)が、個別割当方式であることに変わりはありません。
写真は、ノルウェーに停泊中のデンマーク漁船です。たくさん獲ることが優先ではなく、乗組員の環境のことが、よく考えられて設計されています。というか、只々豪華です。
日本の漁船は、操業中も、水揚げ時もとても忙しいです。しかし、機械化が進み、水揚げもポンプで楽々の北欧漁船では、このように運動不足の解消なのか、ジムがある漁船が珍しくありません。日焼けサロンが付いている漁船まであります。
ノルウェー漁業の成功は、1970年代に北海油田が発見されたことで国の経済がよくなり、漁業者が油田関係の仕事にシフトできたことよるなどと言われることがあるようです。
しかしながら、産油国ではない、アイスランド、デンマークなども、同じように漁業で発展しています。肝心なのは、水産資源管理が科学的根拠に基づいて行われているかどうかなのです。
ノルウェーを始めとする北欧の漁業が安全なのは、漁獲枠が、科学的根拠に基づき、実際に漁獲可能な量より、大幅に少なく分配されているからです。
かつ、水産資源がサステナブルで、漁業がもうかっているので、快適で安全な新造船が次々と造られているからなのです。
今は多くの魚種で崖っぷちのタイミングです。しかし 日本でも手遅れになる前であれば、魚の資源をサステナブルにすることは可能です。そうなれば、水産資源に加え、漁業の安全度も同時に増すことになります。
イカ釣り漁業に従事する漁業者
です!
たしかにタックなどの漁獲わくは大事だと思います
ですが水産庁自体が漁業を把握できていないのが今の日本だと思います!
もしくわ把握してても大手漁業者のいいなりなのかどちらかだと思います。
現在のイカ漁は困窮しています
漁師になってかつてない窮地と思っています、
マグロ枠の規制により
イカ漁業者は増え
巻き網などにより資源は風前の灯です。
マグロが増えいるのは事実だと思います、今までこんなに沖でマグロを見る事もないし、こんなに針を取られたこともありません!
マグロだけでなく他の魚種の保護も早急にお願いしたいのが
現状です!
日本では、多くの海の資源が減ってしまい、魚が減っただけでなく、資源間のバランスも崩れてしまっています。来年のノルウェーでのシシャモ漁は、30万トンもの巨大な資源があるにもかかわらず禁漁です。それは、マダラを始めとする他魚が食べてしまうエサとしての量を考慮すると、取り決めている20万トンの親魚を残せることにならないためです。マグロ、イカ、その他魚種のトータルを考えて魚種別に漁獲枠を決め、かつ資源量が少ない時は、沿岸の零細漁業者の方々に優先的に枠を配分するというのが、ノルウェーのやり方であり、漁業先進国が行うべき政策だと思います。
こちらの記事に掲載されている画像を社内資料に利用したいのですが、可否の確認はどのように行えばよろしいでしょうか。