2022年7月20日更新
焼き魚の定番として、すっかりお馴染みになっているノルウェーサバ。多少の誤差や好みは別として、脂がのっていないノルウェーサバを食べたことがあるでしょうか?
焼いた後に冷めても美味しいのがノルウェーサバの特徴の一つです。一年中出回っているので、まるでいつでも旬のような感じがするかも知れません。
一方で、国産のサバの場合は、春から夏にかけて鮮魚で買って、脂がなくてパサパサしていたといった経験がないでしょうか?
ノルウェーサバは一年中脂がのっているわけではない
このグラフは、ノルウェーサバの脂肪分推移を表しています。赤の折れ線グラフをご覧ください。春(3〜4月ごろ)が産卵期で、この時期の脂肪分は5〜10%程度と低くなっています。そして夏になると産卵で痩せた体力を取り戻すべく、どんどんエサを食べて脂肪を蓄えて行きます。
脂肪分のピークは8月頃で、30%前後になるのですが、この時期は、まだ身に脂が十分回っていません。その後の9月中頃から皮と身の間に溜まっていた脂肪が身に回り、霜降り状態になって最も美味しい時期に入ります。
日本に輸入されるノルウェーサバは全て冷凍の状態です。脂がのった秋から冬にかけて冷凍されたサバが、周年加工により市場に供給されているのです。それで常に脂がのったサバが食べられるのです。
ところで、ノルウェーでは、秋から冬にかけてしかサバが獲れないのでしょうか?日本では、一年中どこかしらからで水揚げされ、生のサバが途切れないので不思議ですね。
ノルウェーサバの約7割(2021年)を漁獲する大型巻き網船は、千キロ離れた漁場でも魚を獲りに行くことが可能です。また一度に千㌧以上のサバを冷やした良い状態で2~3日かけて運んでくることも可能です。従って、やろうと思えば、日本のように一年中、サバを漁獲することは物理的にできるのです。
しかしながら、ノルウェーの漁船は、物理的には問題なくても、脂がのった美味しい時期以外はサバを漁獲しません。
その理由は、水産資源管理システムにあります。ノルウェーの巻き網船には、漁船ごとに漁獲枠(Quota)が科学的な根拠に基づいて毎年割り振られています。
2018年のサバの漁獲枠は1隻当たり約1,400トンでした。大型巻き網船は、その数量をたった1回で獲ってしまうことが可能です。一方で、物理的にはその数倍獲ることが可能ですが、それは規則でできません。
枠を1回で使用するよりも、3~4回くらいに分散させて、少しでも魚価が高くなるように漁をしています。求めているのは水揚数量ではなく、水揚金額の増です。
また、脂がのっていない時期より、脂がのって身に回っている時期の方が、価格が高くなります。主要マーケットである日本市場は特に脂ののり具合に敏感です。
そこで漁業者としては、漁獲枠が実際に漁獲できる数量より大幅に少ないので、たくさん獲ることではなく、如何に品質を向上させて魚価を上げることに力を入れています。
かつ、大量貧乏にならないように、できるだけ水揚げを分散して魚価を維持・高めることにを重視しています。このため水揚げされたサバの状態はとてもよくなります。
一方で、日本のマサバの場合はどうでしょうか?
ノルウェーサバとは対照的な赤い身で、6月のマサバの脂はほとんどありません。実際に食べてみると、身が固くてパサパサ。
この時期の脂肪分データをみると下のグラフのように5~10%前後しかなく、ノルウェーサバの25~30%前後の脂肪分に比べて非常に低くなっています。
一方で、日本のマサバも秋になるとノルウェーサバ同様に脂を蓄えます。脂肪分もノルウェーサバには及ばないものの、上のグラフを見てわかる通り20~25%前後にも達します。
なぜ、日本ではノルウェーのように脂ののった時期以外でも、獲って流通させてしまうのでしょうか?消費者としては、お店に並んでいる以上、そのサバが脂が無いと思って購入することはないでしょう。
一方で、家で調理して食べて美味しくないと、産地にかかわらず、もしくは焼き魚や煮魚に対して食べたくないというトラウマになってしまうかも知れません。
筆者は、日本だけが魚の漁獲量が減少を続けているだけでなく、魚離れまで起きてしまっている理由は、この美味しくない魚が店に並んでしまうことで、消費者が離れてしまうからだと考えています。
それでは、日本で獲るサバも、ノルウェー同様に常に脂がのった美味しいサバにするにはどうしたらよいのでしょうか?
その答えは、ノルウェー同様に船ごとに漁獲枠を設定することにあります。ただし、そこで重要なポイントがあります。それは獲り切れない大きな枠を設定しないこと、魚が獲れたら枠を増やすことはしないことです。
日本でも、漁船ごとにサバの枠を設定しているケースがあります。しかし、漁獲枠が大きすぎるために、漁船は小さなサバでも、見つけたら獲ってしまいます。これはノルウェーとは似て非なる制度です。
また、枠が大きいために、分散して水揚げをしようという意識が働きにくく、いっせいに獲って処理し切れないほど水揚げしてしまうケースがよく見られます。
大量水揚げでは鮮度が落ちてしまうので、魚価は下がり、食用に向かない比率が増えます。このため養殖のエサや輸出に回ってしまうケースもあり、もったいないことが起きているのです。ノルウェーサバは99%が食用ですが、日本では7割程度が食用になっているに過ぎません。
ノルウェーサバも日本のマサバも同じように春頃産卵し、秋から冬にかけて脂がのって美味しくなります。ノルウェーのような水産資源管理を行い、資源をサステナブルにし、同じように脂がのった時期に冷凍してそれを周年加工して流通させれば、日本のマサバで脂がのったサバを年中供給することができるようになります。
ただし、本来脂がのる秋~冬の時期であっても、ローソクやジャミと呼ばれるマサバの幼魚には、グラフにようにほとんど脂はのらず食用に向かないので、価値は低くなります。小さいうちには獲らず、最低でも300g以上、成魚になるまで待っことが重要です。そして大きくなってから脂がのった時期に獲ることが大切なのではないでしょうか?
ノルウェーサバは年中脂がのっているのは、脂がのっている時期しか漁船が獲らない制度だからなのです。漁業法の改正に伴い、国際的に遜色のない資源管理を行えば日本でもできることです。
この記事を読ませてもらって、なるほどな、知らなかったな…
と、色々面白かったです。
ですが、そもそも漁獲の仕方の違いもあるので一概には言えないと思います。
僕は北海道で漁師をしていますが、昔はサバなんて獲れませんでしたが、近年サバが網にかかるようになってきました…
その網が刺し網という網なのですが、前の日に仕掛けた網をあげた時には基本的にサバは死んでしまっているんですよね…
何百キロもあるサバを捨てるのか?
市場に出せば脂は乗ってないけど、籠か釣りの餌でもなんでも使えるから多少の金にはなるだろ…
美味しいから食べてほしい…それが全てではないのです。
それをどう使うかは買った側の自由だし、そもそもカレイを獲る為に入れる網にサバがかかってしまうので、サバを狙って漁獲しているノルウェーとは根本的に違うのです…
日本の漁師が将来を考えている人が少ない、それは確かだと思います。
でもそれは、皆さんが思っている以上に漁師は裕福ではない、その日暮らしのような漁獲で収入に影響が出る…
将来を考える余裕すらない…
そんな理由だと思います。
長々とコメント申し訳ありませんでした。
コメントありがとうございます。重要なポイントがいくつもありますので解説させていただきます。
1)漁獲の仕方の違い:ノルウェーを始めとする北欧諸国でも、釣りもあれば、刺し網もあります。
カレイも獲ります。それぞれの魚種に、漁法や漁業者・漁船などに、科学的根拠に基づいた漁獲枠
が厳格に設定されています。このため、カレイを獲っていたらサバが獲れてしまった(混獲)は、
基本的に理由になりません。
ただし、それぞれに混獲枠があり、その範囲であれば許されますが、
非常に少ないです。このため、漁業者は、自ら混獲しないように漁具を工夫し、漁場を変えて
混獲を避けます。このケースでは、サバを獲り過ぎれば、カレイの漁獲が禁止となってしまいます。
アラスカでは、キングサーモンを獲り過ぎるとスケトウダラが獲れなくなる、オヒョウを獲り
過ぎるとギンダラが獲れなくなるという例もあります。
2)魚を棄てる:ノルウェー、EU、米国を始め漁業先進国では洋上投棄は禁止です。全て
水揚げせねばなりませんし、その場合の漁獲物・混獲は厳しくチェックされます。
3)漁業者は裕福ではない:ノルウェー・アイスランドなどの漁師は(非常に)裕福です。
これは、上記の漁獲枠や洋上投棄禁止などのルールが徹底されているためです。将来も
魚の資源が豊かで獲れ続けることが分かっているので、設備投資がどんどん進み、関連する
産業、地方も発展が続いています。その日暮らしではなく、10年、20年先が明確に見えて
います。
一方で、日本の場合は、水産資源管理制度が機能していません。このため、漁業者の皆さんの
生活が、水産資源の減少により厳しくなっているのです。そして、その原因が水産資源制度の
ごく基本的な問題にあることを知りません。北欧の関係者からすると、あり得ないやり方で
非常に驚かれています。北海道のニシン資源の崩壊例を見て、北海(大西洋)のニシンは、
日本の北海道のようになってはいけないと、資源管理を厳格(1970年代半ば~)にして、
資源量はV字回復し、現在に至っています。日本では、北欧を始めとする外国の資源管理に
関する誤情報が多過ぎます。
その気付きのために、このサイトはあります。