なぜ日本のサケだけが歴史的不漁なのか?


大不漁が続く日本のシロザケ

人気があって、日本人がもっともよく食べる魚の一つであるサケ。ところがそのサケの漁獲量に異変が起きています。2019年の秋から年末にかけての報道では、「北海道・三陸とも記録的不漁」「近年最悪漁5万㌧割れ」「秋サケは幻の魚」などといわれ、漁獲量の激減が大きな社会問題になっているのです。

ところで、天然のサケが10万㌧以上漁獲される国は、米国(アラスカ)、ロシア、日本だけなのです。正確にいえば日本が脱落しましたが、、、。天然のサケがまとまって獲れるのは、ともに北半球の太平洋側です。天然のサケは、世界のあちらこちらでたくさん獲れている魚でないことをご存知でしたでしょうか?

他の国々のサケの水揚げ状況は?

日本では、10~20年前(2000年~2009年)の平均漁獲量は23万㌧もありました。それが、2016年から10万㌧を割り込み始め、2019年は5万㌧と激減しています。ちなみにノルウェーやチリなどから輸入されているサケ(ギンザケ・アトランテックサーモン・サーモントラウト)は全て養殖物です。

ところで日本のサケの話だけしていると大不漁の話ばかりなので、さぞや他の国も大不漁だろうと想像されるかも知れません。しかしそれは全然違うのです。ちなみに昨年(2019年)アラスカは40万㌧で近年8位、ロシアは50万㌧で史上4位と共に「豊漁」で、まるで別世界です。こういう事実が一般には知られる機会がほとんど無く、異変に気付くきっかけがつかめないのも問題ですね。

アラスカのベニザケ アラスカのサケ類は日本と対照的に豊漁

サケの市場価格はどうなっているのか?

サケが大不漁であれば値段が上昇するはずです。しかしながら、焼き物として定番のギンザケなどのサケの価格は、短期的には下がっています。その理由は、日本での水揚げが減っていても、ロシア、米国(天然物)、チリ(養殖物)など、それを上回る供給体制が出来上がっているからなのです。

この状態は、もともと上昇が続いていた相場が少し行き過ぎて、需給のバランスが短期的に崩れているととらえるのが妥当です。しかし5年~10年単位でみれば、魚の需要の増加に対して供給が追い付かない構造になっているので、再び価格は上昇して行くことでしょう。

塩ザケの定番となっているチリのギンザケ(養殖) 2019年は相場下落

例えば、10年前にキロ400円だったあるサケの相場が800円まで高騰。それが前年比で600円に一時的に下がった場合、相場的には大幅な値下がりです。しかし、10年前に比べれば大幅高であり、価格帯を前年比、もしくは5~10年前後のスパンでとらえるかで、高いか安いかの価格のとらえ方は変わってくるのです。

さて本題に戻りましょう。なぜ日本のサケだけが激減しているのか?よく温暖化の問題が上がります。温暖化により魚が減る懸念は、サケが漁獲されているアラスカなどでも問題になっています。またFAOは気候変動・温暖化により2050年までに漁獲量が2.8%~12.1%減少する可能性があると予測しています。そうであれば、なおさら予防的アプローチを行い、水産資源管理を科学的根拠に基づき厳格に行っていかなければなりません。決して日本だけが温暖化の影響を受けているわけではないのですから。

自然に産卵するサケが少ない問題が指摘されていたが、、、

温暖化の影響は米国でもロシアでも同様に懸念されています。しかしこれらのサケ漁の見通しが明るい国々と日本では決定的に違うことがあります。

その一つが、川で産卵するサケの比率が日本では非常に低くなってしまっていると考えられることです。出来るだけ採卵して放流する考え方です。このため恐らく放流で回帰してくる比率が、アラスカでは3割程度(34% : 2018年 ADF&G)であるのと、ほぼ逆になってしまっているようです。

サケの来遊数は激減している。グラフは2017年まで。2019年はさらに減少している。(出典:水産研究教育機構)

また、サケは産まれた川に戻ってくる母川回帰の性質が有名です。しかし、サケの回帰不足で孵化させるために採卵するサケの数が減っています。一方で放流数はほとんど減少していない(グラフ参考)ので、川で自然に産卵するサケの数が少ない計算になります。採取状況などの違いにより、河川によって異なりますが、約7割のサケが放流された魚であったというデータもあります。

また、孵化させる卵の量を確保するために、足りない分を他の川に回帰予定だったサケの卵が使われているケースがあるようです。

サケの回帰率が大幅に減少中。放流数が横ばいであることから、回帰数は激減し、水揚げ量も同様になってしまう。(出典:水産研究・教育機構)

サケの回帰数が少ない表れとして、回帰率が3〜4%から2%弱までに大幅に減少していることが挙げられます。放流数がほぼ同じで回帰率が減れば必然的に、回帰数は減少してしまいますね。

断言まではできないのですが、自然産卵のサケの稚魚より、採卵された稚魚の方が生命力が弱いと仮定します。そこで自然産卵するサケの量が減ってしまった。つまり採卵用も含めて、サケの獲り過ぎで、自然産卵のサケの回帰数が減り、全体でサケの水揚げ量が激減していることが、減った主因ではないかと推測できないでしょうか?

日本のサケはMSC認証を断念。そしてその結果は?

水産エコラベルのMSC認証 北海道のサケ定置網漁業は、2014年にMSC認証取得を断念 そして5年後の水揚げ量は激減した。孵化放流の依存を減らせなかったのが原因ではなかろうか?

実は、北海道のサケ定置網漁業は、水産エコラベルとして国際的に認識されているMSC認証を2011年~2014年にかけて取得しようとしていました。しかし残念ながら「孵化放流に依存しすぎで持続的でない」と評価されて断念しています。

そこでは、自然産卵を増やすことが指摘されていたのです。一方で、サケ類の豊漁が続く米国(アラスカ)やロシアでは、対照的にMSC認証の取得が進んでおり、サケ類の資源量は持続的(サステナブル)です。

日本のサケが減っている理由については、その他に護岸工事や、温暖化によるエサ不足なども考えられるそうです。そうであればなおさら、自然に産卵させて川に戻らせる数を増やして行かねばならないのではないでしょうか?

サケ資源が回復して持続的(サステナブル)にできることが望まれます。そのためには、できるだけ河川で自然に産卵させる数を増やしたい状況ではないでしょうか?

本来、国の許可を採卵目的で獲っているはずのサケの卵がイクラになって流通されるようなことがないことも切に願いたいところです。


“なぜ日本のサケだけが歴史的不漁なのか?” への7件の返信

  1. MSC認証を断念した北海道サケ定置網漁業はその後MELV2認証を取得しました。
    先日、北海道シロサケの資源枯渇は水産庁の資料にも明らかにされていますので、MELに、ノルウェーサバの資源量が低下した時にMSCが認証を一時停止した事例を挙げて、対応を質問したところ、
    資源量の減少は定置網漁業のせいではないので認証停止はしない。との答えがありました。
    MELがFAOの行動規範及びMSCの措置事例をどのように理解されているのか、よくわかりません。

    1. コメントありがとうございます。自然産卵が少なく、採卵に回す量が多すぎることが、様々な要因があるにしても来遊量が激減している1番の要因と思います。MSCはそれを指摘したものの、北海道のサケはMSC認可が取れずにMEL認証取得。認証はあっても結果としてサケは激減。FAOの行動規範などについても、独自の拡大解釈となっているのではないでしょうか?また、水産エコラベルの目的は、認証を増やすことではなく、持続的な水産資源の数を増やすことだと思います。
      グリーンウオッシュが怖いですね。

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