2022年7月20日更新
魚が消えて行く話題が絶えません。昨年(2021年)も、サケ、サンマ、スルメイカ、シシャモ、イカナゴを始め、様々な魚種の不漁・禁漁が話題になりました。このため、漁業者、地域経済、そして消費者にも悪影響を及ぼしています。
原因は、海水温の上昇、外国の乱獲などの理由がほとんどでした。そして、魚種交代や、レジームシフトといったもっともらしく聞こえる解説も散見されました。しかしながら、その本質的な原因をひも解いて行くと、様々な矛盾が露呈して来ます。
昨年(2021年)も、サケ、スルメイカ、サンマ、イカナゴ、シシャモをはじめ、消費者にとってだけでなく、地域経済に深刻な影響を与える不漁や禁漁が様々な魚種で起きてしまいました。
外国漁船が獲ってしまうから魚が減るというのは確かにそうです。1977年に設定された200海里漁業専管水域は、当時世界中の海に展開していた世界最大の漁獲量を誇る日本漁船の排斥が背景にありました。日本の漁船は、各国の水産資源にとって脅威でした。
ただし問題の本質は、特定の国が悪いということではなく、国際的な資源管理の仕組みが無かったことにありました。戦後の食糧不足から始まり、日本には動物性タンパクを魚で国民に供給する必要性が生じていたのです。国別の漁獲枠でもなければできるだけ獲ろうという力が働いてしまいます。そしてそれが乱獲の一因にもなります。
サンマのように資源が減って、同じ資源を各国が獲り合えば、それぞれが漁獲できる配分量が取り合いにより減り、ひいては全体の資源量も減ってしまうという最悪のケースに陥ってしまいます。
取り合いによって深刻な資源崩壊が起こったことで、世界的に有名なのが、東カナダ・グランドバンク漁場でのマダラ資源です。1992年に禁漁となり、未だに回復待ちです。東カナダ沖の漁場は、1977 年に設定された200海里漁業専管水域が設定される以前には、カナダ船以外の漁船も、東カナダの漁場に入り乱れていました。
グラフのように急激に伸びた漁獲量は、200海里の設定後、外国船の排除により大きく減少しました。その後、漁獲量は安定するはずだったのでしょうが、結果はその15年後に、禁漁に至る悲惨な事態となりました。マダラは主要魚種でしたので、漁業、加工業を始め300万人以上が仕事を失いました。カナダ史上最大のレイオフ(一時解雇)と言われています。
なぜ、200海里の設定後に悲劇が起きたのか?それは、自国の乱獲を棚に上げて外国を非難しただけであったことに他なりません。そのマダラ資源の激減の反省からできたのが、国際的な水産エコラベルとして受け入れられているMSCマークです。
これによく似た日本のケースを挙げるので、何が悪かったのか考えてみてください。
激減したスケトウダラの原因は何か?
グラフは、北海道の日本海側のスケトウダラの漁獲量推移です。他の魚種でも多く見られる典型的な右肩下がりです。ところで、当時このスケトウダラ資源が減少しているのは「韓国漁船」による漁獲が原因といわれてました。韓国漁船の漁獲量は「オレンジ色」の部分です。200海里の制定後も、韓国漁船は同漁場での漁獲が可能であったため、割合は低いながらも、日本の漁獲量に影響してはいました。
韓国漁船の排斥が求められ、ようやく1999年に出て行くことになりました。漁獲量の減少は、韓国漁船が原因とされていたので、当然1999年以降は、漁獲量が回復するはずでした。ところが、1999年以降の漁獲量推移は、回復どころか激減してしまいました。
この例は、東カナダのマダラ資源崩壊と同じで、自国の乱獲を棚に上げて獲り続けた結果ではないでしょうか?早い段階で有効な資源管理のための手を打たないと、そのツケを払うためには数十年の年月がかかることになってしまいます。
イカを乱獲して他国に脅威を与えたこの国はどこだろうか?
ある国のイカ漁が記事になっていました。「地元に脅威〇〇イカ船団」「略奪に渦巻く非難」「根こそぎ包囲網に不安」「反感抑え紳士的警告」「ナイター並みの照明」「乱獲の反省と節度」「進出2年でもう不漁」「獲り過ぎかなと漁労長」
この記事の◯◯は、どこの国のことでしょうか?たぶん近隣の国々のことだと思う人が多いことでしょう。
しかしながら、その〇〇に当てはまるのは「日本」なのです。記事はニュージーランド沖での日本のイカ漁に関する1974年の朝日新聞でした。当時はまだ200海里漁業専管海域(1977年に設定)の設定前でした。このため、日本漁船は12マイルもしくはそれ以内の好漁場に入って漁ができたのです。
今回の投稿は、どこの国が悪いというのが趣旨ではありません。国際的な視点で漁業を見ると、国が変わるだけで、まさに「歴史は繰り返す」なのです。漁業の歴史に関する基本的なことを知らないで他の国を批判ばかりしてしまうと、事実を知ると唖然としてしまうことになるでしょう。
ここで大事なことは、日本の200海里を出て回遊するサンマ、カツオ、サバなどの魚と、国内で完結するイカナゴ、サクラエビといった魚は分けて考えることです。
前者は科学的な根拠に基づく国別漁獲枠(TAC)を手遅れになる前に設定すること、後者は外国の漁業は影響していません。温暖化などに対するリスクを予防的アプローチとして十分考慮して、より慎重な漁獲枠を設定することが必要不可欠です。
そしてそれらを早獲り方式で資源を潰させないために、個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)などを適用して防いでいくのです。その成功例は、北米、北欧、オセアニアなどにたくさん存在しています。
安易な他国非難は止め、他国で資源崩壊したケースも参考にした上で、国際的な枠組みを早急につくることが重要なのではないでしょうか?
はじめまして、昔、片野さんの「日本の水産業は復活できる!」を拝読し、最近また水産業に興味をもちブログを拝読しました。
記載されていることに納得することが多く、一方で疑問としては、
他国批判がそこまでされているのか、日本のどのような企業が乱獲をしているのかなど、疑問に感じました。
そして、フードロスのように捨てられる魚が多いだろうと思っており、そうした消費行動を変える枠組みからも魚のことを考えなければいけないなと感じるブログでした。
コメントありがとうございます。他国批判については、テレビ、新聞などで、魚が減った理由として中国がよく出てきますね。多方面の方と魚の話をすると、まず出てくるのが外国批判です。誘導されてマスコミが伝えるといったやり方です。どの企業が乱獲?については、そもそもこれは水産資源管理制度の問題で、漁業者の問題ではありません。サバでも、マダラでも、幼魚を容赦なく獲っていることは、北欧などでは考えられないことですが、それも制度を守ってであれば、結果としては乱獲ですが、漁業会社を批判してもルールを守っているで平行線になってしまいます。ただし、エシカルやSDGsといった観点からは許されなくなってきています。漁業法改正もあり、手遅れになる前に変わって欲しいと思います。