日本ではイカナゴが大不漁です。その一方で過去20年で最高にイカナゴ資源が増えて大漁になっている国があります。しかもその国が獲っている海域は、日本より北に位置し、もっと温暖化の影響が出ている可能性が高いのです。
大阪湾、三河湾、そして仙台湾と、次々に解禁後即禁漁、禁漁、解禁したものの漁獲無しで終了と、日本のイカナゴ漁は散々な窮状です。
海水温が高いだけではなく、低いために減っている、水がきれいすぎるためなど、それらの理由は、とても矛盾が多いことを別途実例と共に記述しました。
もし海水温の上昇が、資源激減の最大の要因だった場合、より水温が高い日本の南の方から影響を受けるのではないでしょうか?しかしながら、青森、伊勢・三河湾、大阪湾、仙台湾とイカナゴが消えていく順番は北と南で入り混じっています。そして、本州で最後に残ったのが宮城でしたが、ここも今年は実質水揚げなしで終了です。
福島のイカナゴが築地市場を潤すなどと、震災後の2016年に言われることがありましたが、その勢いは聞かれません。後者の宮城と福島は震災により漁獲圧力が下がり一時的に資源が増加していただけで、再び獲り過ぎて資源を潰してしまった可能性が高いと言わざるを得ないのです。
東日本大震災による一時的な資源の急増は、マダラ、ヒラメ、マサバなどに顕著にみられましたが、これらの魚種も、今の水産資源管理制度では、再び減少となり同じ結果となります。すでにマダラの資源量は、幼魚の漁獲が止まらずで、一時的に資源は高水準になりましたが、再び減少を始めています。
水温の変化やエサとなるプランクトンの増減が、資源量に与える影響は当然あります。しかし、もっと根本的な問題、つまり水産資源管理の不備により過剰漁獲が続き、資源が激減してしまったことが世の中に十分伝わっていません。
このため、過去最低の水揚げ量、歴史的不漁といった言葉が、サンマ、スルメイカ、サケなどですっかり定着しつつあり、それに慣れつつあるのではないでしょうか?
海水温の上昇は、北極圏が最も影響があると言われています。氷が減って、北極圏を通れる新たな航路が夏の間にできたり、北極の氷が解けてシロクマがエサとなるアザラシを捕まえられなくなって痩せてしまったりと、温暖化の影響が顕著です。それでは北欧に目を向けてみましょう。
ノルウェーのイカナゴ資源量は大幅増加
海水温の上昇を日本と同等、もしくはそれ以上に受けているはずのノルウェー海域でのイカナゴ資源量は、逆に大幅に増加しています。今年(2020年)は過去20年で最大の親魚の資源量であり、また2019年生まれの資源は歴史的高水準です。
日本とノルウェーでは、同じように歴史的な資源量ですが、その差は地獄と天国です。日本とノルウェーの漁獲量推移(2020年は推定)はグラフの通りで、対照的になっています。
今年のノルウェーでの漁期は4/15から。一方で、ほぼ同じくして始まった宮城県の漁獲シーズンは4/13~5/8で106㌔(㌧ではない)で打ち切りとなりました。漁獲枠は9,700㌧、昨年実績26㌧。漁期前の調査では僅か1尾!しか獲れていないのにです。結果は事前調査の通りで散々たるものでした。
一方で、資源量調査の結果が良好なノルウェーでの25万㌧の漁獲枠はザル枠ではないので、消化されて行きます。1隻当たり、一回の漁獲で500~1,000㌧前後漁獲しており、いかに魚の資源量が多いのかがわかります。ちなみに、例として上の表の通り5/15と5/16の2日間で10隻で約6,500㌧の漁獲。1隻の平均は650㌧でした。
ノルウェーのイカナゴはMSCの漁業認証
ノルウェーのイカナゴ漁業は、国際的な水産エコラベル認証であるMSC認証を取得しています。ノルウェーのイカナゴは、養殖の餌料向けがほとんどです。
世界の市場では、養殖魚に与えられるエサについても、水産資源がサステナブルなものであることが不可欠になってきています。アトランティックサーモンなどの養殖量を増やして行くに当り、そこで乱獲した魚を使っていては、元も子もないからです。
日本とノルウェーの資源管理は何が違うのか?
最後に、両国のイカナゴの資源管理の違いをまとめておきましょう。
日本では、漁獲枠はあっても形式的なもので、獲り切れない枠が設定されるので資源管理の効果はありません。一方で、ノルウェーの漁獲枠は科学的根拠に基づいた厳格なものです。実際漁獲できる数量より、大幅に抑えられた量です。このため枠の全量消化は容易で、漁獲枠と漁獲量は、ほぼイコールです。
日本では、価格が高い食用向けの幼魚狙いで漁が行われてきました。一方で、ノルウェーでの漁獲対象は、成魚のみです。ノルウェーの漁場は、かなり沖合の大陸棚なので、漁獲は主に大型の漁船が行っています。
日本のイカナゴ資源が枯渇すれば、かつてノルウェーサバが日本の市場を席巻してきたように、ノルウェーからイカナゴの幼魚が日本向けに高値で輸出されるようになるのかも知れません。仮にイカナゴの幼魚を獲るようになっても、科学的根拠を基づく漁獲枠と、その枠を漁船や漁業者に割り当てる個別割当方式(IQ,ITQ,IVQなど)を取るので、日本で起こり続ける資源崩壊を彼らは起こしません。
この記事を通して、資源の激減を海水温の上昇などの環境要因へ一方的に責任転嫁することが、いかに危険であるかを読取っていただければ幸いです。