知られていないカツオの漁業・一本釣りが主ではない
日本で鮮魚として出回るカツオ・近海の一本釣りで漁獲されるカツオの漁獲量が減少しています。上のグラフを見て下さい。日本がイメージするカツオ漁と言えば、土佐の一本釣りでは?しかし、残念ながらそれは過去のこととなりつつあるのかも知れません。
ところで、世界全体のカツオの水揚げも同じように減少しているのでしょうか?
カツオの主力漁場である中西部太平洋の水揚げ量推移が上のグラフです。減るどころか大幅に増えたことが分かります。しかしそれは、カツオが増えたからではなく、漁船の数や漁法の発達によるもの。グラフの下の青い部分が日本の漁獲量です。もともと、日本は世界最大のカツオの漁業国でした。
また、日本の漁獲量推移をよく見ていただくと、一本釣りの最初のグラフと傾向が異なることに気づかれると思います。2019年の日本の漁獲量は23万㌧。過去10年間を見ても20万㌧台で横ばいです。その理由は、日本の漁船も遠洋漁業という形で、他国に交じって南の漁場で漁を続けているからなのです。
魚が減りだすと、しわ寄せは沿岸漁業者など小規模な漁業者に行きます。その理由は、大型漁船は、魚が減っても最後まで広範囲に漁場を求められるからです。一方で零細漁業になると、近くの漁場に魚がいなくなると直接影響を受けてしまいます。特に資源量が減っている時は、ノルウェーのマダラ漁で実行されているように、漁獲枠の配分で小規模の漁業者を優遇して守る配慮が必要です。
上のグラフをご覧ください。世界のカツオ漁は、漁獲量の主体が、一本釣りから、大半は漁獲効率が高い巻き網へと変わっていることが分かります。巻き網は効率が良く、ノルウェーサバなどでも主要な漁法です。しかし、TAC(漁獲可能量)や個別割当制度(IQ、ITQ、IVQ)の設定がないと、獲った者勝ちとなり、漁獲圧力が増して資源に悪影響を与えてしまいます。中西部太平洋でのカツオ漁にはまだ適用されていません。
海水温が上昇したら、日本の近海のカツオが増えるはずでは???
カツオ漁場は(上図)の南太平洋が主体です。カツオの産卵場でもあります。日本では、サンマ、サケ、イカナゴなど海水温の上昇で魚が減ったという報道が度々されていますね。そうであれば、海水温の上昇で日本近海に回遊して来るカツオの量は増えそうなものですが、全然そうなっていないどころか逆に減っているのが現実です。それほど、漁獲が資源量に与える影響は大きいのです。
日本へのカツオの回遊が減った主な理由
それでは、なぜ日本へのカツオの回遊量が減っているのでしょうか?その理由として考えられるのが、南太平洋の主力漁場で最新の巻き網漁船が多数投入されていることが考えられます。探索のためヘリコプターを搭載した漁船が増えました。
日本に回遊する前に漁獲されてしまうことへの影響が懸念されています。このため、日本はカツオの漁獲圧を下げるように国際会議で要望しているのですが、他の国々にとっては南太平洋の漁場には十分カツオがいる(初期資源の50%以上)という理由で取り合ってもらえていません。それどころか、他魚種で日本の資源管理対しての批判がかえってくる始末です。
サンマも同じですが、国別のTAC(漁獲可能量)交渉では、各国は自国の水産資源管理で起きていることを棚に上げにはできません。
ツナ缶とカツオ
日本では、カツオといえばタタキやカツオ節というイメージですが、欧米市場となると圧倒的にツナ缶です(写真)。
その中で年々大きくなっている動きがあります。それはツナ缶に使うカツオの原料に、水産エコラベルの国際認証であるMSC認証を求めるというものです。欧米の流通業が扱ってくれなければカツオ自体の価値も無くなってしまうので、漁業者側は取得とその維持に必死です。特に巻き網の原料を避けて一本釣りのカツオを求める傾向が強くなっています。
しかしながら、すでに配備された大型の巻き網船が、一本釣りに転換するわけではありません。このため膨大な漁獲量の国別TAC設定と、その中での漁法別割当の実施が大きな課題となります。
日本のカツオ漁業の強みとFADs(集魚装置)
日本のカツオ漁では数百グラムしかないような小型のカツオは、一本釣りでは釣りませんし、売り場で見ることもないでしょう。日本の漁船は、素群れといって主にカツオの親魚の群れを追いかけて漁獲してます。
しかしながら、FADs(集魚装置・漂流物に集まる習性を利用)を浮かべ、その周りのカツオを一網打尽にしてしまう漁法が、資源に悪影響を与えていると言われています。FADsの周りには数百グラムにも満たないカツオの未成魚も集まり、一緒に巻かれてしまうからです。
そういったカツオの未成魚でも、ダシのような粒子にすれば大きさが分かりません。ペンシルガツオといった鉛筆の長さほどの小さなカツオまで漁獲され、それを日本がダシ用に輸入しているという漁業者団体からの指摘もあります。
欧米市場ではトレーサビリティやMSC認証の効果もあり、このような乱獲につながるカツオを使った商品は、流通業の調達方針などで排除されます。例えばドイツの流通大手メトロでは、カツオの資源と再生産を考慮し、1.8kg以下のカツオは扱わないという調達方針を出しています。
一方で日本の場合は、魚体の大きさに関わらず輸入されて流通していることが考えられ、遠くない将来、ESG投資などから指摘を受けるようになることでしょう。
カツオ漁については日本の漁業は比較的サステナブルです。一方で、消費者を含め我々日本人が、どのような原料を使っているのか気にしないようであれば、他国との国際交渉で同じテーブルに付くことも難しいのです。まずは、水産資源管理に関して国民が広く客観的な事実を知ることですね。