サバの資源は大丈夫でしょうか?次々にとれなくなる魚


珍しい900gの大きなマサバ 日本では大きくなる前に獲ってしまうので、北欧の海のサバに比べて小さなサバが多い。

かつて日本の海は、秋になるとたくさんの魚であふれかえっていました。ところが、サンマサケを始め、近年漁獲量が急速に減少する魚種が増えて来ています。そんな厳しい環境の中、同じく秋の魚の代表の1つであるサバについてです。

食用にならないサバの未成魚。消費者が知らないところで、養殖のエサや輸出向けに大量に向けられている。(写真:AOKI NOBUYUKI)

魚にはそれぞれ特徴があります。サンマのようにほぼ2歳で生涯を終えてしまう魚。寿命があるので、3歳になるまで待つことに意味はありませんし、0ー1歳のサンマを獲っていることが問題ではありません。また、サケについては、寿命が4年前後であり、日本に回遊して来るのは産卵してその生涯を終えるためです。サケの未成魚を獲ってしまうために資源が減っているわけではありません。

ところがサバは、寿命が10年程度の魚。後述する太平洋側で獲れるマサバは別にして、売り場に並ぶことがほとんどない、サバの未成魚をとり続けていることが、資源や我々の食卓にも大きな影響を与えてしまっているのです。寿命が長い魚は突然卵をたくさん産む大きさに成長しませんので。

日本ではマサバとゴマサバの2種類がいます。さらに主に釧路から銚子にかけて水揚げされる太平洋系群(マサバ・ゴマサバ)と、日本海の境港から九州の港にかけて水揚げされる対馬暖流系群(マサバ)・東シナ海系群(ゴマサバ)に資源が分かれています。

つまり、2(種類)X2(系統) =4 系統に分かれているのですが、これまでこれらがサバ類としてまとめて管理されてきています。さらに全体のTAC(漁獲可能量)が、実際の漁獲量より大きいので「親の仇(かたき)と魚は見たらとれ」となってしまい全体としてサバの資源は大きく減少してしまいました。2019年のTAC(漁期7月~翌6月)は81.2万㌧に対して僅か52万㌧(消化率64%)の実績です。消化率がほぼ100%が当たり前のノルウェーとは非常に対照的です。

写真の上にある「海からの贈りもの、大切に消費者へ」は実際には実行されず、次々に食用に向かないサバの幼魚が水揚げされている。

過大なTACであるため、日本ではローソク・ジャミなどと呼ばれるサバの幼魚が大量に漁獲されています。サバの幼魚は食用に向かないので、ほとんどがマグロなどの養殖のエサになっています。さらに言えば、世界的に安い食用の冷凍魚が不足し、これに「輸出」という形でニーズが合い、アフリカや東南アジアなどの市場を食用の安いサバとして席巻して行きました。

輸出される日本のサバの強みは品質ではなく「価格が安い」だけです。2019年の輸出価格は、キロ121円。一方で日本が輸入しているノルウェーサバの単価は約240円(日本までの船賃を約20円で計算)とほぼ半額。メイドインジャパンなどではなく、単なる資源の安売りです。

ノルウェーのサバは99%が食用です。一方で日本の場合、食用は僅か56%(2018年)。さらに言えば日本でほぼ食用にならないサバが16.9万㌧も大量に輸出(2019年漁獲量44.5万㌧の38%を占める)されているので、その分も非食用と考えれば日本で食用にできるサバの漁獲率はさらに下がります。

サバの資源は一時的に回復している

上記のサバ4系統の内、圧倒的な存在感があるのがマサバの太平洋系群です。八戸のシメサバや銚子の汐サバを一大ブランドにしてきたのもこのサバです。一時的に回復してきた理由は主に、2011年に起きた東日本大震災で、サバ漁が抑制されたことにあると考えられます。

特にマサバの産卵期である4~6月頃には、放射性物質の影響で事実上漁獲が一時的に止まりました。これが幸いして毎年産卵期に漁獲されていたマサバが産卵できたのです。この時産まれたマサバが2013年に約半数が成魚となって大量に産卵。卓越級群(特に個体数が多かった年齢群)となり、資源の増加に貢献しています。

関連して同じく東日本大震災の影響で漁獲が減って一時的に大きく資源量が回復した例にマダラがあります。しかし残念ながらTACの設定がなく、震災前のようにマダラの幼魚を含めて同じように自主管理での漁業となったため、資源量は必然的にもとに戻ってしまいました。対照的にノルウェーマダラではTACがよく機能しており資源は非常に潤沢。沿岸漁業の発展に貢献しています。

中国漁船は洋上で1尾100g前後のサバの幼魚を冷凍している 漁場は恐らく日本のEEZの外側の公海

マサバの場合は、ある意味逃げ場があり、マダラと異なり広範囲に回遊しています。その一部は日本のEEZを超えてはみ出して行きました。これをまたがり資源(自国のEEZと隣国のEEZや公海の双方に分布する資源)と言います。その資源を漁獲量のルール設定がない公海上で、中国船がサンマ同様にサバの洋上凍結を始めています。新造船の建造数が著しいロシア船もこのサバ資源を狙っていて、漁獲量を伸ばしています。

まさに、国内と外国船による挟み撃ちとなってしまっているのが、マサバの太平洋系群の資源なのです。ノルウェーなどの北欧サバとは別次元の、資源にとってハイリスクな漁業が続けられています。サバもサンマと同じような公海上の漁場で獲れるので、サンマの大不漁に伴い、公海上でマサバ狙いの外国船が増えるのは言うまでもありません。

東シナ海のサバ資源はなぜ回復しないのか?

東シナ海や日本海の漁場では、中國・韓国などとEEZが隣接していて、同じ資源を獲り合っている。一方で太平洋側は、サバはほぼ日本の資源となる。(水産研究・教育機構の資料を編集)

太平洋側でのマサバ資源が一時的に回復している一方で、東シナ海でのサバの漁獲は回復の兆しはありません。これは、ローソクと呼ばれるサバの幼魚が容赦なく獲られていることが主な原因です。さらに太平洋側と異なり、同じ魚群を中国、韓国と上図のように獲り合っているのでどうしようもない状態です。

日本のEEZの外側の公海に進出する中国漁船 (水産白書)

もっとも中国船の中には資源が減った東シナ海の漁場を諦め、サバの資源量が多い日本の太平洋側のEEZの外側に展開している漁船が少なくないはずです。ただしその結果、一時的に漁獲圧が下がって回復しても、日本船がローソクサバをその分獲ってしまえば、資源は回復しませんし、太平洋側の中国漁船も減らないのです。

解決策は、科学的根拠に基づいた全体と国別のTACを、東シナ海の回りと太平洋側のサバ資源にそれぞれ設定するしかないのです。

それを、他国への批判と海水温上昇のせいにしながら、自国ではサバの幼魚を獲れるだけ獲るでは国際的な合意は、サバがいなくなって禁漁になるまでできないでしょう。

青色の部分が公海上に発見されたスケトウダラの好漁場 (水産教育・研究機構)
上図の青い部分の漁場(ベーリング公海)での漁獲は乱獲を招き長続きせず。資源管理の不備が公海上の漁場を崩壊させた例。最も漁獲量が多かったのは日本漁船であった。(出典:水産研究・教育機構)

ちなみに禁漁の前例を挙げます。上図と表をご参照ください。1977年の200海里漁業専管水域の設定後に、スケトウダラ 漁で米国海域から追い出された日本船を主体とした韓国、ポーランド、ロシア、中国の各船団は、ベーリング海の公海上に、通称ドーナツホールと呼ばれる新漁場を発見しました。

しかし1986~1990年の間に、日本漁船主体に漁獲量が急増しましたが資源量は激減。1994年以降各国はその漁場を禁漁とし現在に至っています。同漁場の資源は米国のスケトウダラ資源と関連します。

美味しいサバを食べ続けるためには、どうすれば良いのか?

これは、ノルウェーサバの資源管理で明確な答えが出ています。科学的根拠に基づくTACと国別TACを設定。さらに漁船もしくは漁業者ごとに個別割当制度(IQ、ITQ、IVQ)を設定することです。これにより、漁業者は、たくさん獲るから、どうやったら限られた漁獲量の水揚げ金額を上げるかに関心が変わります。その結果、サバの幼魚や脂が乗らない産卵期前後の漁獲を自ら避けるようになります。

歴史や世界の成功例から学ばず、大本営発表のように日本の資源管理のやり方が素晴らしいという前提に立って魚を減らさせてしまい、漁業者や水産加工業者を窮地に立たせてしまっている現状は、大変に残念なことです。事実に基づいて国民が認識を変えて行くことが不可欠ではないでしょうか。

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