なぜヒラメが増えたのか?
千葉県以北の太平洋沿岸で安定して釣れているヒラメ。様々な魚が獲れない話題が尽きない中で、なぜ釣れ続けるのでしょうか?
ヒラメが釣れるのは、ヒラメの資源が多いからに他なりません。それには理由があります。これからお話することは、欧米・オセアニアといった国々では常識。しかし日本ではそれが常識ではありません。このため世界の中で日本の海の周りだけが魚が減り続けるという怪現象が続いているのです。皮肉にもヒラメはその原因が分かる一例なのです。
震災後に増えたヒラメ資源
東日本大震災後に増えた魚がいました。三陸などで水揚げされるマダラ(太平洋北部系群)やマサバ(太平洋系群)を始め、放射性物質などの影響で漁業や漁獲海域が一時的に制限されたことで強制的に資源管理が行われたことが主因でした。
その中でも資源量が特に増えたのがヒラメ(太平洋北部系群)なのです。
上のグラフを見てください。2本の赤線は資源量の低中位(下)と中高位(上)の境界線を示しています。しかし、震災後以降は上の高位の4倍ほどに激増していることがわかります。魚の資源量の増減に、いかに漁業という人間の力が影響していいるのかが解ります。
上のグラフは、ヒラメ(太平洋北部系群)の資源量の中で、親魚の資源量推移を表しています。先に述べました通り、東日本大震災を境に漁業が中断されて、親の資源が増えました。そして、その親魚が産卵して資源量が増えているのです。
資源管理に成功している国々では小さな魚は獲らない
北欧を始め、水産資源管理に成功している国々では、親魚(産卵親魚)を獲り過ぎないよう最大限の注意を払っています。そして、魚を減らすことなく獲り続けれられる最大値(MSY)が達成できるTAC(漁獲可能量)を設定して、資源管理に成功しているのです。
日本ではヒラメにTACさえありません。ただ、小型魚の保護を目的に30cm以上(一部35cm以上)といった全長制限が実施されています。福島県では試験操業の開始以降50cm以上に制限しています。手のひら大のヒラメが水揚げされないための制限はあるものの、30cmでもまだ未成魚なのです。
100%成熟するには50cm(雌)以上に成長している必要があります。本来であれば30cmの制限でも十分とはいえないのです。
ヒラメの未成魚が自然と店に並んでしまう日本。消費者も安ければ購入します。一方で10~12年の寿命と言われるヒラメ。それを1歳になったばかりのヒラメの幼魚を獲り続ければ「成長乱獲」が起きて資源は減り始めてしまうのです。
釣りのレギュレーションがない問題
日本では、釣った魚を持って帰る際の法的なレギュレーションを聞きません。このため、小さな魚でも、釣り過ぎていても遠慮なく持って帰れます。釣り人が年間釣り上げる量は少なくなりません。一方で、どれだけ釣ったかというトータル数量の話さえ聞かないのが現実。肝心のデータがないと、資源管理はより難しくなってしまいます。
欧米を始めとする漁業先進国と異なり、日本では水産物は「国民共有の財産」ではなく、「無主物」という位置付けになっています。とても大事なことなので、2020年12月1日に施行された改正漁業法で法制化されなかったのは残念でした。「国民共有の財産」であれば、資源をサステナブルにするための様々な意見が国民から出てきたことでしょう。次回への大きな課題です。
本来であれば、釣りも含め、漁業ごとに科学的根拠に基づいてヒラメのTAC(漁獲可能量)を決めて分割することが不可欠なのです。漁業者ごとの枠を厳格に決めれば、漁業者は自然と単価が安いヒラメの幼魚は狙わなくなります。そうなれば成長して親となり産卵して資源を増やす機会に恵まれる好循環が始まります。
また、釣りに対しても遊漁船ごとに持ち帰る数量を決めることです。ただし、これも釣り切れないような大きな数量にならないことが非常に重要です。
科学的根拠に基づき、ヒラメの資源管理ができるようになれば2㌔、いや3~5㌔以上のヒラメが普通に釣れるようになります。そうなれば、釣り客は1~3尾程度持ち帰れば十分。今よりもっとお客さんが増えることでしょう。
小さなヒラメは逃がす、そして大きくなるのを待つ。「小さな魚は大きくなってから釣ろう」という考えと具体的な行動が重要ではないでしょうか?