ノルウェーのマダラはなぜ大きいのか?


大西洋マダラの幼魚 日本も大きくなるまで漁獲せず幼魚を見るのは水族館だけでよいのでは?

欧州でマダラは食材の王様

ノルウェーの市場で売られるマダラ 小さいのはいない 

サバ、サーモンなどと並びノルウェーの主要魚種であるマダラ(大西洋マダラ)。漁獲量は、2019年で33万トンとサバ16万トンの約2倍。水揚げ金額は約900億円でサバの約300億円の3倍です。

日本でマダラというと下の写真のような鍋の具材などが思い浮かびますね。

北海道で水揚げされたマダラ

一方でノルウェーのマダラは、英国でフィッシュアンドチップス(写真下)での原料として、バカラオという干した塩ダラにして、ブラジル、スペイン、イタリア、ポルトガルなどへも輸出されています。またフィレにして各種の料理用に。

英国の定番 フィッシュアンドチップス

欧州でのマダラは、食材として魚の王様といって良い存在なのです。

小さなマダラは獲らないから大きくなる

マダラは最長で40歳、体長2メートル、60kgにもなる大型魚です(NSC)。

ノルウェーでは、漁獲サイズに制限があります。最低でも体長40cm(北緯62度以北は44cm)以下の漁獲は禁止(漁業省)。

日本では水産資源管理制度の不備で容赦なく漁獲されてしまうマダラの幼魚 これではなかなか大きくなれない

日本では残念ながら10cm前後のマダラの幼魚まで底引き網などで漁獲されているのが現実です。このため、大きくなる前に獲られてしまい、なかなか成長できず、卵も産めないという悪循環が続いています。

三陸では、一時的に東日本大震災で漁が制限されて資源が急増しましたが、2020年には元の低位に逆戻り。その主因は、海水温の上昇でも、他国の影響でもなく、幼魚まで獲れてしまう資源管理制度の不備。同じ間違いの繰り返し。しかし、時計の針は元に戻せず。

一方ノルウェーではサイズ制限もさることながら、TAC(漁獲可能量)が漁船の大きさや、漁船ごとに厳格に決められています。

下の表はオークションに使う2021年1月の最低魚価です。丸のまま(round)のサイズは、9kg以上、3.7-9kg、1.5-3.7g、1.5kg以下という4分類。

サイズが大きいほど価格が高く、漁業者は漁獲できる数量が、実際に獲れる量より大きく制限されています。このため、限られた漁獲枠でできるだけ価値が高い大きな魚を獲ろうとするのです。

ですから、小さな魚は避けようとする強い意思が働きます。もし、自分がノルウェーの漁業者だったらと考えたら容易にイメージできると思います。

(ノルウェー底魚類 漁業協同組合) NOK=¥12.24(2021年1月24日)

生物多様性を重視するノルウェー漁業

大きなマダラが毎年たくさん漁獲される理由は他にもあります。それは、生物多様性を重視し、マダラのエサの資源管理も厳格に行っているからです。

マダラの代表的なエサの一つが、シシャモ(カラフトシシャモ)。ノルウェーのマダラよりもはるかになじみが深いシシャモは、2019年から禁漁が続いています。

すでにシシャモの資源状態はかなり回復してきており、2022年以降の解禁待ちです。ところが漁獲枠を決める際に、マダラなどが食べる量も考慮されるために、なかなか解禁されません。シシャモの禁漁中に、漁獲されたマダラの胃袋の中にシシャモが一杯な状態であってもダメ。

シシャモをエサとする魚などが食べる量が、人間が漁獲する量より優先されているのです。

シシャモ漁が解禁されても、漁獲する際にマダラが混獲されているとその海域は禁漁になることがあります。日本ではマダラにもシシャモにも漁獲枠がありません。対照的に狙っていない魚がたまたま獲れたらボーナスになるだけでしょう。混獲による個々の資源への影響が考慮される体制ではないのです。

しかしながら、ノルウェーのように資源管理がしっかりしている国では、混獲は厳しく管理されています。だからマダラを始め様々な魚が大きく育ち、サステナブルなのです。

水産資源管理の違いによる資源量の違い

上の表をご覧ください。同じ大西洋のノルウェーとEUでは資源状態に大きな差があります。両国ともTAC(漁獲可能量)と漁船や漁業者ごとに漁獲枠を分ける個別割当制度を適用しています。

ノルウェー北部のバレンツ海はマダラの最大の漁場 (NSC)

一見似たように見えますが、大きな違いがあります。ノルウェーは1987年からマダラの海上投棄を禁止。一方でEUではようやく2019年からの禁止となりました。それまではEUは小型のマダラを海上投棄。これが資源量に悪影響を与える一因となってしまっていたのです。

下の最初のグラフは、EUが主漁場としている北海での漁獲量推移で、水色のdiscardは投棄された量です。次のグラフは、1987年にマダラの小型魚の海上投棄を禁じたノルウェーが主漁場としているバレンツ海の漁獲量推移のグラフです。(上のグラフは1,000㌧単位、下は100万㌧単位です。)

EUを主体とする北海での漁獲量推移 単位1,000㌧(ICES)  
ノルウェーとロシアを主体とするバレンツ海での漁獲量推移。単位100万㌧。 (ICES)

海上投棄が認められていれば、漁獲枠が決まっているため、価値の低い小さな魚を海上投棄して大きな魚を持ち帰る。これでは「成長乱獲」を起こしてしまいます。

一方で日本の場合は、マダラに漁獲枠さえないので、小さくても何でもできるだけたくさん獲ろうとしてしまいます。海上投棄はもちろん悪いですが、資源の持続性を考えると、EUより漁獲枠がないためにさらによくないのです。日本のマダラの漁獲量は約5万(2019年)です。本当はもっと資源も漁獲量も増やして行けるのですが、、、。

ノルウェーのように、小さなマダラは獲らない仕組みを作り、本来であればマダラのエサとなる小魚の資源量なども考慮して、科学的根拠に基づく数量管理をしていくべきではないでしょうか?

マダラの幼魚は、サステナブルな漁業にするために、獲ってしまうのではなく水族館で見られる程度にしたいものです。

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