95%の確率が求められる漁業
2019年から禁漁していたアイスランドシシャモ(カラフトシシャモ・以降シシャモ)の資源が予想通り復活し解禁となりました。これから2~3月が漁獲シーズン。資源調査の結果2/7時点でのTAC(漁獲可能量)は12.7万㌧ですが、今後の追加調査でまだ枠が増える可能性もあります。
2020年時点で算出された2021年の枠は17万㌧であったので、ほぼ近い数量となっています。アイスランド・ノルウェーといった国々では、その資源量が95%という高い確率で、取り決めた資源量になるというルールにしています。産卵親魚の資源量各15万㌧・20万㌧残すというものです。
つまり、前者のアイスランドで言えば、漁獲されたり、マダラなどの他の魚種に食べられたリする量を除いて15万㌧の親魚が産卵できるように計算されているのです。それができなければ解禁しないということです。しかも要求される達成の確率は95%。
日本で2020年12月に施行された改正漁業法は、ようやくSDGs14(海の豊かさを守ろう)でも採択されているMSY(最大持続生産量)に基づく設定を始めましたが、その確率は50%以上といった目標数字が見かけられます。資源管理の達成の目標を95%としている国々との差、および将来への影響がどうなるか考える必要があります。資源量が多い国が甘いなら別かも知れませんが、その逆ですので。
明るい北欧シシャモ漁の未来
アイスランドでは2021年の漁が2月に始まったばかりですが、すでに先のことが分かっています。2022年のTAC(漁獲可能量)は40万㌧と算出されており、大幅な増加が予想されています。
一方のノルウェーでも、資源は急回復。未成魚の資源量は2014年以来の100万㌧超えとなっており、2022年にはその一部が成魚となるため解禁される可能性があります。ノルウェーにしてもアイスランド同様に資源管理がしっかりしているため、一時的に禁漁となっても「確実」に資源量が回復して解禁され、たくさんの水揚げが復活し、それらが日本の食卓に上ります。
ノルウェーのシシャモ漁は2019年以降禁漁のままですが、アイスランドの解禁はノルウェーにも恩恵を与えます。なぜなら上記の12.7万㌧(今後増枠の可能性)の内、ノルウェーに4.2万㌧もお裾分けが行くからです。
これは、ノルウェーがアイスランドの資源を利用する一方で、アイスランドもノルウェーの資源を相互に利用するからです。水産資源管理の成功は、自国だけでなく、近隣国にも恩恵を与えるまさにウィンウィンの仕組みですね。
これは資源量が激減し、各国で逆のことが起きてしまっているサンマ・スルメイカなどの管理に参考になる例ではないでしょうか?
シシャモの漁場と距離
上の図の赤い矢印で示した青色の点を見て下さい。アイスランド沖で、ノルウェー漁船がシシャモを漁獲したと報告している場所です。ここからノルウェーに戻って水揚げすると3日かかります。サンマの漁場が遠くなり日本に水揚げするまで3日かかったというのと、日数ではほぼ同じ。ちなみにノルウェーの面積は約38.5万㎡で日本(37.8万㎡)と同じです。
上図のノルウェー漁船は、基本的に魚を自国に持ち帰って鮮魚のまま水揚げします。しかしアイスランドは目の前で1日で水揚げできます。アイスランドでは、当然ノルウェーより多くの数量を自国漁船が漁獲して水揚げします。ノルウェー漁船をノルウェーに呼び込むためにはアイスランドでの水揚げ価格より高い価格を漁船に提示する必要があります。
シシャモの買い付けに最も高い価格を提示するのは日本。ノルウェーは2021年度も、シシャモ漁は禁漁です。しかしアイスランド沖で漁獲されたシシャモがノルウェー産として日本に輸出されるので、アイスランド産と共に2019年からの禁漁でほぼ残っていなかったところに供給されることになるのです。
シシャモの価格
あまり気付かないかも知れませんが、シシャモ(カラフトシシャモ・子持ちシシャモ)の末端価格は上昇しています。2010年~2019年の末端価格の平均が100gで159円なのに対し、2020年(7月まで)は同203円と約3割上昇しています。1パック100円均一での販売といった安価での売り出しは減ったはずです。
日本のシシャモ
一方で日本のシシャモ漁。北海道での2020年の漁獲量は約300㌧と、記録が残る30年余りで最低。その原因はとなると「海水温の上昇などの海洋環境の変化が影響しているとみられる。」そうで、不漁の原因を詳しく分析するそうです。ところで、資源評価もTACもないままで良いのでしょうか?このスピード感で間に合うのか?
北欧のカラフトシシャモと種類は違うといっても、売り場ではシシャモとして並びます。しかし、供給があまりにも少ないために価格が高くなり、高級品となってきています。すでにシシャモといえば、供給量が圧倒的に多いカラフトシシャモが日本の市場を席巻。
ところで、その資源管理の方法は全然違います。日本の場合はシシャモにTAC(漁獲可能量)さえありません。毎年期待するのは大漁かもしれませんが、資源が減れば大漁どころか獲れなくなるのが現実です。いなくなってからの禁漁では遅いのです。
アイスランドでもノルウェーでも日本と同様に海水温が上昇する問題はあります。しかし、生物の多様性や環境の変化も加味した上で、厳格に管理しています。その違いで資源量と持続性(サステナビリティ)の差はどんどん開いてしまっているのです。
今年の漁はどうだろうか?大漁祈願!などという時代遅れの漁業は、アイスランドやノルウェーにはないのです。