2023年1月4日更新
2022年・年間生産量は過去最低を更新
農水省から2022年度の年間水揚量が発表されました。386万㌧と過去最低を更新しています。増加しているのは、これまで水揚げ量減少の原因とされてきたマイワシと資源管理の優等生であるホタテガイ位で、あとは、サンマを始め、軒並みと言って良いほど減少もしくは低位横ばいが鮮明となっています。
一方で、世界全体の水揚げ数量は増加傾向にあります。上のグラフは、世界全体と日本の水揚げ量を比較したものですが、両者の傾向が対照的であることが明確に分かります。
水産物の水揚げが減少した理由としてよく上がるのが、海水温の上昇によるというものです。確かに海水温の上昇は、エサになる動物性プランクトンの減少など資源状態に影響を与えます。これは農作物の出来高が、天候に左右されるのに似ています。環境要因が自然に与える影響は否定できません。
日本の海の周りだけ海水温が上昇しているのだろうか?
海水温がゆっくり上昇していることは事実です。ところで上のグラフは、左が日本やアラスカ(米国)を含む北太平洋。右がノルウェーやEUを含む北大西洋の海水温の変化を表しています。
実は海水温の上昇は魚が減って大きな社会問題となりつつある日本も、魚の資源管理が成功し、水産業も漁業も発展を続けるノルウェーやアラスカ(米国)でも、傾向は同じなのです。
世界全体の海水温の傾向は?
上の図は、南太平洋、南大西洋そしてインド洋も含めた海水温の傾向です。世界の海で比較すると、日本を含む北太平洋の海水温の上昇は、大差はないものの、ノルウェーを含む北大西洋や、南大西洋、そしてインド洋よりも、比較した場合上昇傾向は鈍いことがわかります。
日本が魚が減った理由に上げる海水温の上昇は、日本の周りの海だけに当てはまる特殊な現象ではないのです。
それなのに、なぜ日本の周りの魚は減ってしまうという特殊なことが起きているのでしょうか?同じく魚が減る原因として出てくるレジームシフトも、世界の海で日本の周りにだけ起きる現象ではありません。
さらに詳しく海水温の上昇と水産資源の関係を比較してみる
上の表は、北太平洋を日本と米国(アラスカ)側とに分けたもので、筆者が客観的な事実をもとにコメントしたものです。
・サバでは、日本はジャミ・ローソクと呼ばれる幼魚まで全部獲ってしまうため、同じく海水温の上昇の影響を受けている大西洋に比べ資源の状態はよくありません。ノルウェーなど北大西洋では、漁業者や漁船ごとに漁獲枠が割り振られているので、価値が低い幼魚は漁獲しません。
東日本大震災で一時的に漁獲圧力が減った名残で、太平洋側だけは現時点では何とか資源が持っているという状態です。
・マダラでは、よりはっきり傾向がわかります。同じく東日本大震災の影響で資源は一時的回復しましたが、すでにTAC(漁獲可能量)もなく、幼魚も獲ってしまうので資源は低位に戻ってしまいました。
・ニシンも、アラスカと北太平洋では資源状態も漁獲量も日本とはアラスカでは数倍(2020年・4万㌧程度)。北大西洋ではノルウェーだけで桁違い(同・50万㌧程度)と、日本(同・1万㌧程度)と漁獲量も資源量も大きく異なります。日本の場合はかつて50万㌧漁獲していた数量が1万㌧程度しかないにも拘わらず、これを資源量で「高位」と呼んでいます。
海水温の上昇に対する矛盾
水産資源管理が機能していないことを海水温の上昇に置き換えてしまうと辻褄が合わない現象が起きます。
イカナゴの資源が激減した理由が海水温だとすると、なぜ青森(陸奥湾)という水温が低い北の漁場で資源が崩壊した後に、伊勢湾、播磨灘、大阪湾、仙台湾、福島といった北と南が入り混じりながらイカナゴがいなくなってしまったのか?
なぜマイワシは寒冷な気候の方が増えやすいといわれている一方で、同じ北海道の道東沖で獲れていたサンマは海水温の上昇で激減しているのか?
サンマは、道東沖の暖水塊が来遊を阻害していると言われています。しかしその沖合の公海上でもサンマ資源が激減している理由は何か?
海水温の上昇は水産資源に影響を与えてしまいます。だからこそ予防的アプローチを行って水産資源をサステナブルにする努力が不可欠です。
ノルウェーを始めその恩恵を享受して漁業や水産業が発展を続ける国もあれば、残念ながら日本のように資源管理が機能していないことを海水温の上昇に責任転嫁して衰退してしまう国もあります。
6/4に水産庁の「不漁問題に関する検討会」の提言が出されました。サンマ・スルメイカ・サケの不漁の原因として温暖化が不漁の原因と明記されています。
どちらが、現在、そして将来にとってよいかはいうまでもありません。