魚と経済 消費者に高く漁業者に安い魚

同じマイワシでもこれだけ違う

写真は共にマイワシで、上は5月に水揚げされた小さなイワシ(小羽もしくは中羽)、下は10月に水揚げされた脂がのったマイワシ(大羽)です。同じマイワシでも見た目で大きく違うだけでなく、美味しさも価値も全然違います。

魚は価格が高いというのが魚離れの理由の一つに上げられています。なぜ高くなっているのか?その構造を知っている消費者はほぼいないことでしょう。そしてその解決策は何か?

上のグラフをご覧ください。左が5月、右が11月に水揚げされたマイワシの脂肪分です。春には5%前後しかなかった脂肪分が、秋の終わりになると20~25%前後、もしくはそれ以上に脂がのって来ていることがわかります。

大きく脂がのったマイワシは、魚粉にして魚油を取りだす際の歩留まりが違いますし、大きく成長したマイワシほど、産む卵の量も多くなります。右のグラフをよく見ると大きいサイズ程、脂ののりもよいことがわかります。

大きくて脂がのったマイワシを獲った方が、経済的に漁業者だけでなく、加工する業者や、消費者にとっても得で有ることを、これから説明します。

マイワシの水揚げ大漁

銚子港でのマイワシの水揚げ

2021年7月現在、マイワシの大漁水揚げが太平洋沿岸で見られています。釧路から銚子にかけてこれから秋、そして冬にかけて資源量からして、水揚げ量がまとまることでしょう。2021年の資源量は約360万㌧、2020年は410万㌧でしたが十分な資源量です。釧路は例年10月末で終了です。しかし、その後も銚子を主体に水揚げ量が増加して行くことが予想されます。

ところが一日千㌧以上の水揚げ量があっても、店頭での販売が極端に安くなるわけではありません。なぜでしょうか?

消費者に高く漁業者に安い魚

マイワシの水揚げ サバも混じっている

店頭に並んでいる魚について、一般的に経済面で知られていないことがあります。それは、マイワシだけでなく、サバなど多くの魚種で、価値が低い小さな魚の中から、価値が高い大きな魚が選別されて店に並べられているということです。

その裏で、食用向け以外の魚の存在があります。マイワシは2019年に6割も丸のまま魚粉や養殖のエサ(非食用)に回されています。サバで4割です。ちなみにノルウェーではサバの水揚げはベイト用に極少量を非食用に向ける分がありますが、毎年ほぼ100%が食用に向けられています。サバを4割も非食用に!というのは、北欧の関係者にとっては非常にもったいない驚きの数字なのです。

非食用のやせたマイワシ

非食用の魚は、食用に比べて極端に安くなります。例えば水揚げ現場の写真(2021年6月16日)では、1,829㌧のマイワシが水揚げされ浜値は㌔103円~36円。その翌日は3,399㌧で同㌔67円~31円でした。

この安い方の30円前後の価格が、非食用向けの相場であり、その日の水揚げの大半を占めることが少なくありません。やや大きな魚が混じるロットには多少高値が付きますが、それでも同じ漁場で、全体的に漁獲サイズが小さい時は、特定の漁獲分だけ大きい魚ばかりというケースは稀です。

取扱業者は少しでも大き目の魚が混じるロットに、高めの価格で入札します。次にその中から大きな魚を選別して、付加価値を付けて高く販売します。残りの小さな魚(非食用などで安い)の分のロスを、大きな魚の分で取り戻すという手段が取られています。

次に銚子での6/16の水揚げで商売の仕組みを説明します。103円で入札したロットは、大きな魚をできるだけ高く売り、選別した小さなイワシ(㌔30円程度の価値)で販売するロスを補って販売しなければなりません。食用に向くのが4割であれば、残りの6割のロス分を、4割の魚に利益を上乗せしなければ商売にならないのです。

もし、サイズが大きくて脂がのったマイワシばかりであれば、例え㌔103円以上で入札しても、ロスする分がないので利益が出ます。一方で、漁業者側にすれば、入札価格が高くなるので儲かります。

つまり魚が大きければ、漁業者にとっては高く、加工業者や消費者に取っては安い水揚げとなるのです。なお、脂がのっていない時期では大きくても価値が高くないので、この限りではありません。

過剰漁獲が起こり資源も水産業も衰退するパターン

現在の日本で起きているのは、魚を見つければ、旬の有無やサイズの大小に関わらず漁獲しているケースが大半と言わざるを得ません。

このため、成長乱獲を起こしてしまうことで、資源が減少し、海には価値が低い魚ばかりになっています。日本は大西洋に比べて年齢が低いサバやクロマグロが多いのは、偶然ではなく、人災によるものなのです。それほど漁業の影響は大きいのです。

魚の価値が低いため、これを数量で補おうとするので、さらに乱獲が進んでしまいます。そして価値の低い魚の中から、少しでも大きい魚を選別して販売することで、その魚は高くなってしまいます。一方で全体の水揚げは価値が低い魚ばかりですので「漁業者に取って安く、消費者に取って高い」という「最悪の組み合わせ」となってしまうのです。

ノルウェーサバの水揚げと比較するとよくわかること

2020年に水揚げされたサバの魚価は、日本が㌔110円(38万㌧)に対してノルウェーは㌔170円(21万㌧)でした。一方でノルウェーからの輸入価格は㌔220円と、日本の魚価の倍でした。日本は、自国のサバを120円で輸出していますが、ノルウェーの利幅が㌔50円であるのに対して僅か㌔10円しかありません。なお、安いサバを買って輸出しているケースはありますが、ここではトータルの数量と金額で解説しています。

実は日本のサバで輸出に回る数量の大半は、アフリカや東南アジアといった市場価格が安いマーケット向けです。それらの大部分は、日本での食用に向かないサバなのです。輸入する国々は「価格が安い」から輸入しているだけというのが実態で、そこにはメイドイン・ジャパンで高品質といったブランドめいた要素はありません。大量に販売できるだけで、付加価値も利幅もほとんどないのです。

利幅がない分は、選別された少しでも大きくて品質が良いサバに利益を乗せて行くことになります。こうして、消費者にとって高いサバが供給されてしまうことになります。

ノルウェーの場合は、全部食用ですので損をして販売する分がありません。このため、輸出価格は付加価値が十分のっているため利益が出ています。漁船も、冷凍工場も毎年のように設備投資が進み近代化され続けています。そしてそのサバの最大の顧客は日本なのです。

マイワシは7年前後、サバは短くても10年は生きる魚です。それを幼魚・未成魚から狙いを定めてしまえば、大きく成長する機会も、たくさん卵を産む機会も奪ってしまいます。

天然の魚を成長させて、大きくなった魚を、価値が高い脂がのった時期にのみ漁獲する。そのための制度をしっかりさせることが重要なのです。

それは、漁業者や漁船に枠を分配して水揚げを管理してもらう制度。つまり価値が低い魚や旬ではない時期の魚を、漁業者に自ら避けさせる多くの国で効果が出ている個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ等)のことです。

2020年に施行された改正漁業法には個別割当制度の内、枠の譲渡ができないIQ制度(Individual Quota System)が含まれています。