サンマは輸入で代替できない理由

サンマではありません サンマは太平洋以外でいるのか?

日本の漁業と水産物の輸入

このサイトで何度もお伝えしていますが、日本では、水産資源管理の不備により、様々な魚種で資源が激減が続いています。2021年の漁獲量は417万㌧と記録が残る1956年以降で、過去最低となっています。資源自体が減っているので、今年こそは!と大漁祈願しても以前のように、獲れるようにはなりません。

日本で漁獲量が減った魚を、世界中の海から探して輸入する。そんな仕事に約30年携わりました。アジ、サバ、ニシン、シシャモ、サケ、マグロを始め、魚だけでなくエビ、イカ、タコなども含め、世界には似たような水産物がいます。

200海里漁業専管水域が1977年に設定され、その後1980年代をピークとして山から滑り落ちるように減り出した日本の漁獲量。その減った不足分を補うビジネスが買付でした。そして1985年のプラザ合意で円高が一気に進み、輸入量が一気に増加しました。

日本は1972年から1988年までの長期に渡り、世界最大の漁業国でした。それと前後して世界最大の水産物の輸入国でもありました。しかし今では漁業においては、中国を始め各国に抜かれ、輸入でも最大の輸入国から転落し、米国、中国などとの差が広がっています。

漁獲量(養殖物含む)でのかつてのJapan as No.1は、世界に例を見ない水産資源管理の大失敗により、世界と対照的に悪化が止まりません。PDCAを行い、これまでの言いたい放題で無責任な発言に歯止めをかけるよう、誰がどのような発言をして、実際はどうなっているのかの検証が必要です。

海外との比較も不可欠です。そうでないと、本当のことが言えるまともな研究者が育ちませんので。

世界には似た魚が多い輸入アジ

オランダ産のアジの開き 国産アジではないと見分けられますか?

日本の水産物が減るに伴い拡大した輸入ビジネス。それぞれにストーリーがあります。刺身やアジのタタキに使われるのは国産ですが、「アジの開き」の原料に代表されるのがアジの冷凍原料。

アジの開き用の原料探しは、1980年代に西アフリカのモーリタニア近郊の原料調達から始まりました。その後、オランダやアイルランド沖合のアジの方が脂がのっていることが分かり、開き原料として本格輸入が始まりました。

不思議なことに、日本の買付が始まったころ、同じ青物でもサバやニシンと異なり、アジは、欧州ではほとんど食用になっていませんでした。安い水産物を大量に輸入するナイジェリアなど、西アフリカ諸国向けが主力でしたが、ここに日本バイヤーからの注文が入りました。今考えれば、アフリカ諸国にとっては、迷惑な参入者だったと思います。

当時、価格が安いアジやサバを、はるか欧州から輸入するなどとは考えられませんでしたが、国内資源の減少と円高といった要因が輸入の背中を押す結果となりました。

オランダやアイルランドなどで漁獲されていたアジは、1990年時点では、ナイジェリアなどのアフリカ向けがトン当り400米ドル、日本向けが同600米ドル程度でした。それが国際相場の上昇で今では、アフリカ向けも含め、その3倍以上の価格になっています。かつては大きめのアジの開きや、脂がのったアジのフライが日本の市場へ、一枚100円程度で供給されていましたが、輸入価格の上昇で、100円での価格は小さいサイズを除き難しくなっています。

サバも似た魚が多い

ノルウェーサバ 国産サバではないと見分けられますか?

日本では、資源管理上マサバとゴマサバをひとまとめにされてしまっていますが別種です。日本では一般的にマサバの方が評価が高いですが、海外のマサバ(系)とゴマサバ(系)も同様です。

米国・カナダ・南米・アジアそして欧州と様々なサバを検品しました。細かったり、脂がのっていなかったり、身質が柔らかすぎたりと、サバ好きが多く、結局品質に厳しい日本に受け入れられたのはノルウェー産のマサバ系のサバでした(和名 ニシマサバ)。

今ではサバの定番といえば安定のノルウェーサバとなっています。しかしながら、1990年前後に日本のマサバの不漁で大量輸入が始まった際には、脂がのり過ぎている、缶詰で水煮にすると色がよくないなど、品質面で色々問題がありました。しかしながら、科学的根拠に基づく漁獲枠の設定と、漁船ごとの漁獲枠配分(IVQ)により、脂がのらない時期や価値が低い小サバを獲らない仕組みにより、今では日本のサバ市場を席巻するに至っています。

その他の水産物も似た魚が多い

アイスランドの赤魚 Hiroki Igarashi

アジとサバ以外でも、ニシン、シシャモ、サケ、マグロを始め、魚だけでなくエビ、イカ、タコなども含め日本に生息しているのと似た水産物は世界にたくさんいます。

ノルウェーやアイスランドから輸入しているアカウオやカラフトシシャモなど、太平洋でも大西洋でも漁獲されるのは、海がつながっているからなのでしょう。アカウオはアラスカで、カラフトシシャモはロシア(太平洋)。で漁獲されています。

サンマが輸入で代替できない理由

サンマは太平洋以外では見当たらない

ところで、日本で獲れる魚と似たような魚が、世界のあちらこちらにいる一方で、似た魚がいない魚種もあります。実はそれがサンマなのです。

中学の地図帳にスペインや南アフリカなどが、サンマの漁場として記されているのを見たことがあります。筆者は世界中の青魚を調べましたが、サンマは太平洋にしかいません。

もし極例外にいたとしても、極々少量です。世界中の青魚について話し合うPelagic Fish Forum(クローズド)でも、聞いたことがありません。世界と比較した日本の魚に関する情報は、学術論文も含めて、とにかく誤りが多いです。

獲れないなら、サンマを輸入すれば良いという考えがあるようです。しかし日本に輸入されているサンマは、日本の漁船と入り乱れて操業している漁船が獲った同じ資源のサンマです。

つまり、日本の漁船が獲っているサンマがいなくなってしまう事態というのは、中国や台湾といった国々の漁船もサンマが獲れなくなるということなのです。そして恐ろしいことに、肝心の漁獲枠は昨年の漁獲量の3倍!と大ザル。効果がある対策は、残念ながら全くうたれていないのです。

時間の経過とともに深刻度だけが増しているサンマ漁。何とかせねばなりませんね。