日本海でズワイガニ漁が解禁 ズワイガニの未来は?
11月になり、日本海でズワイガニ漁が解禁となりました。日本海では200~500メートルほどの海底に分布していて、越前ガニ、松葉ガニなどとブランド化されていることでも有名です。脱皮を繰り返しながらの成長はゆっくりで、孵化から親ガニになるまで7〜8年程度かかると言われています。
2018年に日本海西部で漁獲されるズワイガニが、稚ガニの減少により、3年後に半分程度に減る可能性があるという調査結果がだされました(日本海区水産研究所・新潟市)。原因は特定出来ておらず。成長が遅いので、稚ガニが減ればその先の見通しは暗くなります。
自然環境による資源の増減は起こります。一方で日本のズワイガニの資源管理は、その他のズワイガニを漁獲しているロシア、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどの国々とは「根本的に」異なります。その結果、日本とその他の国々とでは、ズワイガニ資源量が異なることを解説しましょう。
ズワイガニのオスとメスでは、大きさも価格も全然違う
上の写真を見てください。左がズワイガニのオスで右がメスです。大きさも価格も全然違うことが分かりますね。スーパーで並んでいるのは、ほとんどが、丸のままではなく、オスの肩肉と足の部分がボイルされた輸入もの(下の写真)です。
2019年のズワイガニの輸入量は約2万㌧でロシアが1.1万㌧、カナダが5千㌧、米国が2千㌧、ノルウェーが1千㌧と続きます。日本の漁獲量は4千㌧。さらに、日本の水揚げ量はオスメス込みの数量なので、オスのズワイガニの比率は、輸入物のほぼ10分の1なのです。
日本だけがメスを水揚げしている
資源量が安定しているロシア・カナダ・米国・ノルウェーと日本のズワイガニの資源管理は、致命的に違います。
最大の違いはメスの水揚げの有無です。日本以外の国々では、メスの水揚げは認められません。深海にすむズワイガニですが、水揚げ後に海に戻しても元気に海底に戻ります。そしてメスは卵を産み子孫を残していきます。
11月の解禁時は、メスは体の中に卵を持っています。メスのズワイガニはセイコガニと呼ばれ、卵は珍重されます。水揚げ量は昨年までの日本海で水揚げデータをみると、半々どころかメスの水揚げ量が多いケースが少なくありません。メスは小さいので、尾数にしていたら相当の違いです。もし、これらのメスが産卵していたら資源量はどうなっていたのでしょうか?
日本のズワイガニの漁獲量推移を見てみる
日本の場合、中長期的に見ると水揚げ量が減少傾向している魚種がたくさんあります。そしてよく言われるのは、突然の減少です。しかしながら、そのほとんどは、突然などではなく、兆候が見られているのです。資源の増加量よりも、漁獲量の方が勝ってしまっていまい産卵できる親の量が減ってしまえばどうなるのか?
資源を減らすことなく獲り続けられる数量である最大持続生産量(MSY)での漁獲は、海の憲法と呼ばれる国連海洋法はもとより、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも含まれています。
ロシア(大西洋・バレンツ海)のズワイガニはなぜ急増しているのか?
上のグラフは、日本とロシア(大西洋・バレンツ海)におけるズワイガニの漁獲量推移です。ロシアは太平洋側でも約3万㌧のTAC(2020年)がありますが、太平洋の資源に加えて大西洋での資源を急増させています。日本のズワイガニには、減り続けることはあっても、このような大きく増加する気配は「全く」ありません。何が違うのでしょうか?
バレンツ海のズワイガニは1996年に発見されました。しかしすぐには漁獲を開始せず資源を育てました。バレンツ海は、マダラやシシャモを始め、ロシアとノルウェーの両国が資源管理をしています。ロシアは2011年・ノルウェーは2012年からと15年以上待って、徐々に資源を増やしながら漁獲を開始しています。
その結果、あっさりと日本のズワイガニの漁獲量を超えています。ロシアもノルウェーもズワイガニのメスを水揚げしません。メスを水揚げしてしまうのかどうかが、その後の資源量に大きな影響を与えていることは明確なのです。
バレンツ海のズワイガニ資源が増えて、漁獲量が増加しているのは偶然ではありません。もし日本で同じことが起きていたら、1996年の時点でこれ幸いと獲り続けてしまい、資源量がグラフのように増加していたことは決してなかったことでしょう。その後は水温の変化や外国が悪いというお決まりのパターンが起きていたことでしょう。これは漁業者が悪いのではなく、資源管理制度の問題なのです。
資源管理制度に起因する大問題
メスの漁獲していることに加えて、もう一つ大きな問題があります。それはTAC(漁獲可能量)と実際の漁獲量が一致していないこと。および個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)が機能していないことにあります。
TACと漁獲量はイコールになることは、ノルウェーサバやアラスカのスケトウダラを始め資源管理が機能している魚種であれば当たり前です。そうでないと、過剰漁獲が起きてしまいます。上のグラフは、日本のズワイガニの漁獲量とTAC(漁獲可能量)の推移です。TACが大きいことが分かります。
ちなみにロシアでは2019年より2年続けて漁獲枠(個別割当)を70%以上消化しなかった場合は、枠が没収されるという規定があります。
一方で、日本の場合は個別割当制度ではありません。またTAC自体が大きい。これでは、必然的に漁業者は、オスメス関係なく漁獲しますし、メスも海に放流しません。
これが、もしロシアなどと同様に個別割当制度が設定されていれば、価格が安く水揚げしたら資源にも悪いメスは海に戻して、大きくて価値が高いオスだけを持ち帰るようになるのは自明です。
資源管理の成功という結果が出ているロシア、米国、カナダ、ノルウェーから学び、資源量を回復させてサステナブルにするために、メスの漁獲を制限すること。そして漁獲枠を漁船・もしくは漁業者ごとに配分して、オスの水揚げのみにさせる制度が賢明ではないでしょうか?
メスの漁獲については、ロシアのように資源量が潤沢になった時点でどうすれば考えればよく、まず必要なのは資源量の回復ですね。