将来が明るい漁業とは?


2020年は新型コロナが世界に影響した年でした。ところで漁業との関係はどうでしょうか?漁船や水産加工場などへの感染の影響はどうなのか?ファクトベースで見ていきましょう。

絶好調が続くノルウェー漁業

ノルウェーの大型巻き網船 デンマークに停泊中

まずはノルウェーの漁業についてです。サバニシンイカナゴ等を漁獲している青魚関係の水揚げ金額は、コロナの悪影響どころか過去最高金額。初めて10億クローネ(1,200億円)を超えて絶好調。魚を減らすことなく獲りつづける最大漁獲量(MSY=Maximum Sustainable Yield)に基づく漁業を続けています。

強さの秘訣は、豊富な資源がサステナブルに漁獲されているからに他なりません。そこには「大漁祈願」などという概念はありません。実際に漁獲できる量より、はるかに少ない漁獲枠が漁船ごとに設定されています。このため漁に行く前からシーズンごとの漁獲量が決まっていて、上述の主要魚種はもちろんのこと、その通りになるのです。

また、大量にいるシシャモ(カラフトシシャモ)が2019年から禁漁になっています。大量にいても獲らずに我慢しているのは、親魚量を20万㌧以上残すというルールが適用されているからです。しかし、すでに資源は回復傾向にあり、数年後には再び解禁されることになります。シシャモが加われば、さらに水揚げ金額の記録が更新されることでしょう。

主要魚種のマダラやニシンなども含め、漁業者が最も多い沿岸漁業ももちろんのこと、水産資源管理の成功による明るい未来が見えています。

アイスランド漁業の未来も明るい

ノルウェーだけではありません。アイスランドでも明るい未来が見えています。シシャモ漁はノルウェー同様に2018年から禁漁になっています。しかし、2022年には40万㌧(!)もの漁獲枠が発給される見通しです。

2021年ではなく、なぜ2022年なのか?それは、年齢ごとに資源管理されており、2022年に産卵する資源量が多いことが予め分かっているからなのです。

2021年も最低2万㌧枠が出ることに決まっていますが、これには今月と来月(1月~2月)にかけて資源調査が行われて資源状態に応じての追加枠発給が期待されています。

アイスランド海域での徹底したシシャモ資源調査(ノルウェー青物漁業協同組合HPより編集)

アイスランドのシシャモの資源管理は95%の確率で15万㌧の産卵親魚を残すことです。資源調査は、上図のように調査船と漁船により縦横無尽にアイスランド周辺海域が徹底的に調査され、科学的な調査結果に基づいて漁獲量のアドバイスが出されます。

北米(アラスカ)の漁業も明るい

すり身で11万トンやタラコで2万トン(2019年)輸入しているアラスカのスケトウダラ。その漁業の未来もとても明るいのです。2020年の漁獲量は、TAC(漁獲可能量)が143万㌧で、漁獲量は137万㌧。枠の消化率は96%でした。

2021年のTACは138万㌧です。そして暫定的に2022年のTACは140万㌧となっています。ノルウェーのサバやニシンなどと同じで、TACが資源の持続性を考えてかなり低く設定されているために、TACの通りの漁獲量となります。

ノルウェー、アイスランド、米国(アラスカ)を始め、水産資源管理に成功している国々では、当年だけでなく、その先の主要魚種の漁獲量も分かりかつ正確です。

「今年の漁に期待!」とか、「大漁祈願」などはなく、漁期の前に科学的な調査が行われます。そして漁獲枠が設定され、その通りに水揚げされて行くのです。漁業者は価値が低い幼魚の漁獲を避け、魚価が少しでも高くなるよう、水揚げを分散する戦略を取って行きます。

日本の漁業に未来はあるのか?

昨年12/1に施行された改正漁業法に基づき「国際的に見て遜色がない資源管理」されていかねばなりません。

国産のイカナゴ 

ところで昨年壊滅的だった仙台湾のイカナゴ(コウナゴ)では、操業前に20か所で調査して見つかったのは僅か1尾(キロでもトン)でした。しかしながら設定された漁獲枠は9,700㌧。そして水揚げ量は106キロ(トンではない)。果たしてこれは科学的根拠に基づく資源管理だったのでしょうか?

皮肉にも、ノルウェーの2019年のイカナゴ漁は、漁獲枠25万㌧に対して24.4万㌧の漁獲量(消化率98%)と絶好調でした。海水温の上昇による影響は、ノルウェーでもあります。しかし、結果は極めて対照的です。

スケトウダラについても、TACの設定をかなり慎重に行うことです。アラスカのようにMSC認証を持つサステナブルな資源状態とは大きく異なり、日本の資源はかなり傷んでしまっています。

スケトウダラ 日本海北部系群の漁獲推移 漁獲量が減った原因とされた韓国漁船の漁獲量はオレンジの量に過ぎなかった。(出典:水産研究・教育機構)

例として上のグラフを見て下さい。日本海北部系群の資源減少の原因は、オレンジ部分の韓国漁船の漁獲量のせいとされていました。しかし1999年に韓国漁船の撤退後は、資源が回復するどころかさらに激減。結局主な減少要因は、日本の水産資源管理の不備にあったのでした。

ファクトをベースに客観的に見ていくと、魚が減った本当の理由は海水温の上昇や海外のせいではなく、自国の水産資源管理に問題があったケースがほとんどであることがわかります。

もちろん、それらに原因がないとは言いません。しかしそうであれば予防的アプローチを取るべきなのです。

改正漁業法の施行に伴い国連海洋法やSDGsでも明記しているMSY(最大持続生産量)を取り入れたのは国際的に見て遜色がない資源管理への第一歩と言えます。

ただし、その実現可能性50%以上という設定数値の低さが気になるところです。50%では半々の確率「当たるも八卦当たらぬも八卦」。一方で、北欧や北米などでは、上述のシシャモを始め95%の実現性がベースになっています。

50%以上には95%も含みます。資源管理は結局は厳しく管理して資源を回復させている国々が勝者となっています。一方で緩い管理は乱獲が行われ易く、幼魚にまで手を出してしまい産卵する魚がいなくなってしまうという悪循環を生みます。国際的に見て、現状ではその後者の典型が、残念ながら我が国と言わざるを得ません。果たして中身と効果を伴う95%の内容にできるのでしょうか?

世界には、絶好調な漁業が多く存在しています。そしてその一部は日本に輸入されています。世界で水産物の消費は増え続けており、国際価格が上がり、希望する通りに輸入できなくなってきています。そうした現実に対応するためにも日本の魚資源を回復させることは、漁業だけでなく消費の面からも待ったなしなのです。

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