2022年7月20日更新
これってニシンが増えているの?
ニシンという魚をご存知でしょうか?その卵は「数の子」として正月には欠かせません。身の部分は、主に東北から北海道にかけて食べられています。もっとも、それらの大半は、卵は米国やカナダ、焼き物などで丸ごと食べる場合は、ノルウェーなどからの輸入物がほとんどです。
近年、ニシンの漁獲量が増えてきたとか、ニシンが産卵して精子で海が白くなる「群来」という現象がみられるようになってきたとか報道されています。
しかしながら、現在の漁獲量の増加をもって資源量が「高位・増加」といった評価は、大きな誤解を生んでしまいます。実際には、ほんの少しだけ回復の芽が出てきたかも知れない程度なのです。本来は、その芽を再び潰さないようにせねばなりません。
「資源復活」などとも言われていますが、4/22(2020年)現在獲れているニシンは産卵後で、オスメスこみの価格はキロで僅か¥25程度。食用向けは一部でミールやエサ向けの用途が多いそうです。
非食用向けにニシンを獲っている国は、日本くらいでしょう。日本が米国、カナダ、ロシア、ノルウェーなどから輸入しているニシンは、2021年は約2万㌧で平均キロ約¥180/kgでした。キロ¥25という魚価は、ニシンとしてはあり得ない安さなのです。まさに水産資源の無駄遣い。なんてもったいないことでしょうか。
水産資源管理に大きな問題がある日本のニシンについて、下記のグラフで実態を明らかにしていきましょう。
上のグラフは、北海道周辺におけるニシンの漁獲量の推移を表しています。今から100年程前は、年間で50万㌧もの漁獲量があったことがわかります。それに対して、それに比べれば、現在はほぼ無いに等しい漁獲量です。2021年で約1万㌧の漁獲量です。
グラフの中のさらに右上にあるグラフは、過去50年程度の漁獲量の推移を示しています。1980年後半に1年だけ7万㌧程度に増えていましたが、すぐにまた獲れなくなっています。近年は気持ち増加傾向のように見えますが、元の100年以上前からのグラフと比較すると、その増加量は微々たるものであることがわかります。
上の図は、北海道周辺のニシンの分布域と産卵場を示しています。ニシンは沿岸で産卵します。このため、大きくて広範囲に探し回れる漁船でなくても、沿岸で刺し網などを使って産卵に来る魚を狙って獲れば、漁獲はさほど難しくありません。
これは、秋田のハタハタなども同様で、産卵に来る魚を待ち構える漁業は、群れを探し回る漁業と比較して容易です。しかし、資源の持続性を考えずに漁を続けると、いつの間にか獲り過ぎで魚がいなくなってしまいます。
資源を持続的にしていくために、卵を産む魚をどれだけ残しながら漁業を続けていくかという考え方が、漁業先進国(北欧・北米・オセアニアなど)では基本中の基本です。
ニシンは、多獲性魚種。日本が増えたという漁獲量は、ノルウェーでのシーズン中の漁獲量としたら、僅か1~2日分程度しかありません。
水産資源管理に成功している、ノルウェー(約60万㌧・2021年)、アイスランド(約10万㌧2021年)そしてロシア(約50万㌧・2021年)などの漁獲量は、日本より桁違いに大きいのです。
これで資源量が高位・増加って? 小学生に聞いたらどう答えるだろうか!
2021年度のニシンの資源評価は高位・増加ということになっています。しかし、一番先にお見せした水揚げ量の推移をグラフで見て、小学生にこれが増えているのか?減っているのか?聞いて見たら何と答えるでしょうか?
過去20年以上前の獲れていたころの数量を対象外として、減った後のハードルが下がった水揚げ量に対して多いとか少ないとか評価しているようですが、これで正しい評価はできるのでしょうか?
漁業法の改正により「国際的に遜色がない資源管理」を行うことになりました。例え酷い結果でも、将来のために実態が分かる資源評価を行い危機的な状況を共有することが大切なはずです。
上のグラフを見てください。大西洋・北海のニシンの漁獲推移です。1970年代を堺にV字回復で資源も漁獲量も回復させて現在に至ります。日本で漁獲量が激減してしまった例は、1970年代に資源量が激減してしまった英国やオランダ(現EU)の資源管理に大きく影響を与えました。
ニシン資源量が激減してしまった際に、日本の北海道のニシンのようになっては大変だということになったそうです。そこで数年間実質的に禁漁を実施し、資源量を回復したという話を当時対応していた科学者に直接聞いたことがあります。
皮肉にも、EUが主に漁獲しているニシンはグラフの通り回復し、水産業に貢献し、重要な食糧となっています。
なぜ産卵期前後に獲ってしまうの?
上の写真は、春・産卵後のやせた日本のニシンは身が赤っぽく腹はペラペラで薄くなっています。下の写真は、脂がのった秋の時期に漁獲されたノルウェーニシンです。脂があり身は白っぽく、腹も厚くなっています。産卵期は共に春です。
ノルウェーでは春に産卵したニシンは、エサを食べて再び脂がのる秋まで漁獲しません。産卵後の魚は脂がなくなるのは、同じです。ところが漁船ごとに厳格な漁獲枠が決まっているので、価値が低い時期の魚は狙わないのです。
ニシンの卵は数の子・別名は黄色いダイヤ
日本人が好きな数の子は、黄色いダイヤとも呼ばれるニシンの卵です。そのほとんどは、米国・カナダ・ロシアといった国々からの輸入品です。これらの国々の資源量は、年度差はありますが潤沢です。
数の子だけでなく、タラコ(スケトウダラの卵)もそうですが、水産資源管理ができている国々は、卵を産む親をどれだけ残せばよいかを、科学的根拠に基づいて計算して漁獲枠を決定しています。
日本も批准している国連海洋法でも言及されていますが、各国は魚を減らさずにとり続ける最大量(MSY)をベースにした管理をしていかねばなりません。
MSYをベースにした水産資源管理は、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも明記されています。ちなみにその期限は2020年ですが、日本のほとんどの魚は残念ながらMSYに程遠い状態です。
一方で、日本の場合は「不漁だ」「豊漁だ」などと前年の漁獲量などに対して、マスコミが騒いでいるだけで、MSYなど関係もなく、科学的ではありません。一方で、肝心の漁獲枠(TAC)さえないという、漁業先進国ではおよそ考えられない管理となっています。
大西洋では、ノルウェーを始め乱獲を反省し、漁獲枠を設定して水産資源管理に成功しています。ノルウェーがニシンに漁獲枠を設定したのは1971年です。そして豊かな資源と未来を漁業と水産業に残しています。
日本は約50年遅れとなりますが、科学的根拠に基づく漁獲枠を、2018年12月に改正された漁業法に基づいて設定するタイミングなのです。国民が正しい水産資源管理に対する情報を持ち、それに基づいて世論が形成されて行くことを望みます。
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