迷走するサンマ国際会議  漁獲枠40%削減合意の意味?

細くて価格が高くなったサンマ 魚価が上昇して前年度より水揚金額は上昇。さらに漁獲が減り品質が劣るのに価格が上がれば、消費者離れが起きる恐れがある。

歴史的不漁が止まらないサンマ漁

2021年2/23〜25にかけてサンマを巡る国際会議NPFC( 北太平洋漁業委員会 )が開催されました。深刻なサンマ資源の減少に対し、科学的根拠に基づくTAC(漁獲可能量)と、それを国別に分配する国別TACが設定されるはずでしたが実現せず。

マスコミでは、サンマの漁獲枠を現行の40%削減で合意と報道。ところが、今年度そして来年度も、漁獲量の激減が続く2020年の倍以上(その分のサンマがいれば)獲っても問題ないのです。なので合意内容では資源管理への効果はありません。

激減が続くサンマの漁獲量。2020年は10万㌧を少し超えた程度でさらに減少した。「赤色」が日本の漁獲量。 NPFC

なぜそのようなことが起こるのか?まず初めに資源激減に関わらず、昨年(2020年)合意された全体の漁獲枠は、資源量減少が著しいというデータが出ているにもかかわらず55.6万㌧と獲り切れない巨大枠でした。次に今回(2021年)決まったという削減後の枠は、33.4万㌧。

2020年の実際の漁獲量は10万㌧を少し超えた程度。つまり枠は実際の漁獲量の4倍以上でした。

40%削減の計算根拠は、なぜか2020年でも2019年でもなく、激減前の2018年の44万㌧がベースになっています。これは2020年の水揚げ数量と比較すると3倍以上の数量です。

従って40%削減されても、昨年実績の倍以上の漁獲量を獲っても問題なし。それどころか日本のEEZ(ロシアも含む)に至っては、13.6万㌧!日本の漁獲量は2.9万㌧でしたので、5倍弱。また数字は出ているのに、2019年よりさらに減少した2020年の漁獲量をすぐに公表していないのも謎です。

各国とも、今回の合意内容であれば、実態はこれまで通りの獲り放題。そのサンマ資源が激減していることが共通している大問題なのですが、、、。

しかも有効期限は2年。今年さらに資源状態が悪くなっていたとしても、来年もそのままということになってしまいます。そして獲れなくなってから禁漁という最悪の自体に陥らねばよいのですが、、。(例)日本のイカナゴ、ハタハタなど。

サンマの資源量は危機的な水準を通り越している

サンマの資源は激減が続いている だから漁獲量が減少  NPFC

上のグラフは、資源調査に基づくサンマの資源量推移を表しています。これに、実際の漁獲量の推移を合わせると、傾向がほぼ一致していることが分かります。少なくても激減傾向は一目瞭然ですね。

SDGs(持続可能な開発目標)14.4で掲げられているMSY(最大持続可能量)が維持できる資源管理からは遠く離れており、水産資源管理が進んでいる北欧などでの水準からすれば、残念ながらすでに禁漁する水準ではないでしょうか?

北欧のシシャモのように禁漁しても復活する資源管理と異なり、公海を含めたTACに基づく管理が行われておらず、その間に中国、台湾と漁船を次々に建造されて、サンマ資源をあてにされてしまったことは、日本にとって最悪の結果です。

サンマ資源が10年ほど前までは持っていた理由

サバ、スケトウダラ を始め日本の資源が激減していく中で、サンマの減少速度は、中長期的に見ると比較的緩やかでした。これは、棒受けという光で集めてすくいとる漁法であったために、漁獲圧が低かったからです。日本は大中巻き網船によるサンマ漁を禁止しています。これはとても良い制度でした。

一網打尽となる大型巻き網(サバ)や、大型トロール船(スケトウダラ )で、サンマ漁を行なっていたら、2000年以前に資源量は激減していたことでしょう。

もっとも、大型巻き網や大型トロールが悪いのではありません。これらの漁法で大型船が操業しているノルウェー、米国、ロシアでの資源量は潤沢でサステナブルです。その違いは資源管理の違いなのです。

サンマ漁に新規参入した中国船、そして台湾船も漁法は同じ棒受け漁。日本をまねただけでしょうが、これらの国々、特に新しい中国船がサバ漁同様に、棒受け以外の漁法(巻き網、トロール)でサンマ漁を始めるとさらに枯渇に拍車がかかってしまう恐れがあります。

歴史は語る スケトウダラ の公海漁業の禁止

日本で漁獲されたスケトウダラ

乱獲に対し、公海の資源管理が断行された例があります。皮肉にもそれは、日本漁船が深く関係していたスケトウダラ漁でした。今日、米国とロシアの漁業は、スケトウダラの資源がサステナブルだから発展して来たといっても過言ではありません。

水産教育・研究機構

上図の緑の部分に、公海のスケトウダラの漁場が囲みで示されています。当時の日本漁船は、1977年の200海里漁業専管水域の設定で、アラスカ沖から排除され、新たな漁場が必要でした。そこで発見されたのがこの漁場(通称・ドーナッツホール)です。

新漁場には、200海里で締め出された日本漁船を主体に韓国、ポーランドなどの漁船が集結しました。しかし下の表で分かる通り、わずか5〜6年で資源は枯渇。

水産教育・研究機構

1994年以降は漁獲停止で合意しています。公海漁場は、米国やロシアのスケトウダラの漁場と近く、漁獲停止は公海漁場の近隣である、主に米国側の資源の持続性に良い影響を与えていると考えられます。

ちょうど、日本の海域からはみ出ているマサバマイワシの資源(またがり資源)を漁獲している中国船などの操業を止めさせたようなものです。

有利な取り決めが役に立つ機会は訪れるのか?

NPFC( 北太平洋漁業委員会 )で、日本に取って有利な取り決めがあります。それは、国連公海漁業協定上、EEZ内に漁場を持つことが幸いし、EEZ内の配分比率を全漁獲枠の4割とできていることです(若干漁獲しているロシア分含む)。

日本の漁獲比率は、2020年度の2割程度まで減少。最初の棒グラフで示された赤い部分は、かつて8割が日本の漁獲でした。これを考えれば遅すぎですが、それでも2割と4割の配分では大きな違いとも言えます。

しかしながら、この4割の配分維持には避けて通れない2つの関門があります。①このまま獲り続けて2年間も資源が持つのか?資源が無くなれば公海でのスケトウダラ漁の停止同様に配分に意味がなくなる。②真剣に枠を減らす配分の議論をする場合、もっとも実際の漁獲量と乖離している日本のザル枠と配分比率を各国が認めてくれるのか?

崖っぷちの魚種だらけの日本。その中でも日本人の理解と事実の乖離がもっとも大きい魚種の一つがサンマかも知れません。