2周年御礼!「いいね!」「シェア」で4万5千回
我が国では水産資源に関して正しい情報が少なく、ほとんど有効な対策が取られていません。このため必然的に様々な魚が消え続けています。手遅れになる前に、社会に気付いて欲しいという想いから、「魚が消えていく本当の理由」というタイトルでブログを始めて丸2年が経過しました。
これまでに50記事を発信。「いいね!」「シェア」は累計で4万5千回を超えました。ありがとうございます。今回は、サケとイクラについて、誰も検証できていない視点から解説します。
サケの漁獲量が激減しているが、イクラを食べ続けてもよいものか?
子供から大人まで、日本人が大好きなイクラ。ところが、サケの漁獲量激減という報道が、毎年のように続いています。サケが減っているのに、その卵を食べ続けてしまってよいものなのでしょうか?
サケの漁獲量とイクラの生産量の関係
上のグラフは、日本のサケ類(少量のカラフトマス等含む)とイクラの生産量の推移を示しています。2013年2015年前後には、年間15万㌧前後あったサケの漁獲量(左軸)が、2019年〜2020年には5万㌧程度と、3分の1に激減しているのがわかります。それに合わせて、イクラの生産量(右軸)も同6~7千㌧から2~3千㌧と大きく減っていることが分かりますね。
輸入も含めたイクラの供給量はどうなっているのか?
上のイクラの供給量推移のグラフをご覧下さい。青の折れ線グラフが減り続ける国産原料でのイクラ生産量。オレンジが米国・ロシアを主体とした輸入品の合計です。また、グレーは国産と輸入品の総合計を示しています。減り続けている国産品を輸入品で補って来ていましたが、全体的に供給量は減少傾向であることがわかります。美味しい水産物の需要は世界で伸びていますので、買付競争により輸入環境は厳しくなって行きます。
他国も含めたサケの漁獲量はどうなっているのか?
2つグラフの内の上のグラフは、北太平洋におけるサケ類の漁獲量推移を示しています。イクラを供給しているのは、北太平洋(米国、ロシア、カナダ、日本)のサケ類です。このサケ類全体の漁獲量推移が、イクラ生産量に影響します。日本では不漁のニュースばかりですが、全体では減っていませんね。
それどころか漁獲量を見ると、米国は23万㌧(2021年)と近年3位の豊漁、ロシアでは53万㌧(2021年)と過去10年で2番目の大豊漁と報道されています。
一方日本は昨年(2020年)は、過去最低タイの6万㌧弱の大不漁でした。現在(10月)は、シーズン真っ最中ですが、今年だけでなく、来年以降も厳しいでしょう。ちなみに日本の2000年~2010年における平均漁獲量は23万㌧と、豊漁と言われる今年の米国の水揚げ量と同量でした。如何に独り負けしているかが分かるかと思います。
上の下のグラフは、サケ類の稚魚放流数を示しています。放流数はほぼ一定ですね。サケと言えば、採卵して放流した稚魚が生まれた川に帰ってくるというイメージをお持ちの方が多いかと思います。ところが実際には、稚魚放流と自然産卵の2パターンで回帰するのです。
サケの減少も含めて、日本では何かと魚が減ると、その原因を海水温上昇にする傾向があります。しかしながら、米国、ロシアも同じように影響を受けているはずなのに、漁獲量も資源量も減少傾向ではありません。なぜ日本の魚ばかり減るのでしょうか?
次に他にサケの減少に大きく影響していると考えられる原因について検証しましょう。
放流したサケと自然に産卵したサケの割合
上のグラフは、アラスカ(米国)でサケの商業漁獲における自然産卵と稚魚放流のサケの漁獲尾数と比率を示しています。緑色の棒グラフが自然産卵、黄色が放流によるものです。黒の折れ線グラフは、放流物の漁獲比率を表しています。
上の円グラフをご覧下さい。2018年は放流によるサケの漁獲比率は34%でした。放流を行いながらも、実際には回帰してくるサケの半分以上は自然産卵によるものであることが分かります。
自然環境は確かに変化しています。しかしながら、米国での調査結果の数に基づき、自然産卵によるサケの方が、稚魚放流のサケよりも環境への適応度が高いという仮説を立ててみましょう。すると、現在日本が行なっている採卵による稚魚放流よりも、資源回復のためには、採卵や漁獲量を減らし、自然に産卵するサケの量を増やした方が良いということにならないでしょうか?
さらに国際的な視点から俯瞰すると、資源量が少ないのに無理に採卵することが返って逆効果となり、結果として米国、ロシアと来遊量の差が拡大していることが想定されます。
日本のサケ放流は大丈夫か?
上のグラフをご覧ください。青の折れ線グラフが、日本のサケの稚魚放流尾数(右軸)で、棒グラフの合計が来遊数(左軸)となっています。
このグラフで気付いていただきたいことがあります。それは、来遊数が激減しているのに、稚魚放流数がほぼ横ばいという点です。これは放流を優先させる余り、自然産卵するサケの数を減らしている可能性が高いことを意味しています。
もともと自然産卵のサケの方が来遊率が高いのではないかと考えられています。また、サケの来遊数が少ないために、別の川で採卵された卵から生まれたサケが違う川に放流されてしまえば、遺伝子的な錯乱が起こってしまう恐れもあります。
かつて北海道のシロサケで、2011年〜2014年にかけて世界的な水産エコラベルであるMSC認証取得が目指されたことがあります。しかしながら途中で断念されています。
認証を得るためには、MSY(最大持続生産量)レベル維持のための産卵魚をエスケープさせることが必要であること、及び資源状態が悪い場合には回復のための手段として採卵(増殖)をほとんど行っていないことなど、克服せねばならない要件がありました。
その後、日本独自の水産エコラベルであるMEL認証は得たものの、肝心のサケの来遊量は激減してしまいました。
他国のサケの放流数と比較して分かること
上のグラフは、各国のサケの漁獲量と稚魚放流数を示しています。左下が日本です。赤の折れ線グラフが稚魚放流数ですが、15〜20億尾前後と、日本より漁獲量が多い米国、ロシアの5〜10億尾に比べ2〜3倍も稚魚放流が多いことが分かります。漁獲量と放流尾数の関係が乖離しているのは日本だけです。
放流尾数が多いのに、肝心のサケの漁獲量は、日本だけが激減してしまっているのです。
海水温上昇については、日本だけでなく、米国もロシアも影響を受けています。しかしながら、サケの漁獲量で激減を続けているのは我が国だけです。サステナビリティの面では、米国もロシアもMSC認証を取得、一方で日本は取れずに断念。結果を見るとサケが減ってしまい地域社会に暗い影を落としているのも日本だけです。
サケだけではありませんが、日本には世界で起こっている現実を俯瞰した水産資源管理が欠かせません。またイクラは、日本だけが消費しているわけではありません。これから他の水産物同様に、さらに買い負けが進行して行きます。
日本では資源の減少は、サケに限らず海水温の上昇が原因とされることが多いです。しかしながら、同じく海水温上昇の影響を受けている米国・ロシアでは豊漁というのが現実です。そこで国際的な視点からご理解いただきたいことがあります。それは、イクラを食べ続けるためには、サケの自然産卵を増やさせて、国内の資源回復を本気で行うことが急務なのではないかということです。